日本人は押しに弱い。
前回学んだこと
食べることのありがたみ
小鹿亭に戻ると、カミラとエヴリーヌが談笑していた。
「あ、リョウタロウ、良く帰ったな!」
「お帰りなさい。ならず者達のこと、聞きました。ありがとうございました」
そう言うと、カミラは丁寧に頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「別に、気に入らなかったのは俺も一緒だし。それより、体は大丈夫なのか?」
「ええ、おかげさまで。あと、聞いたけど、リョウタロウさんって、お料理得意なんですよね?」
こいつ、余計なことを喋りやがって。
「ま、まあ。長いこと1人で生きてるから、それなりには」
「さあ、今晩は何を作ってくれるんだ?」
「食わせてもらう立場のくせに偉そうにするな。カミラが戻ってきたんだし、いいだろ」
すると、エヴリーヌは頬を膨らませて、「ブー」と言った。
「可愛くおねだりしても嫌だね。誰がお前なんかに……」
「あ! 可愛いと言ったな! なんだ、意外と素直じゃないか」
「カミラ……こいつぶん投げていいか?」
「普段、あんまり人とふざけあったりしないから。大目に見てください。いま、ご飯用意するね」
俺は、その日の晩はカミラのご飯を食べて、眠りについた。
異世界に来てから3回目の睡眠。まだ少し実感が湧かないと言うか、心のどこかで「夢であってほしい」と願っている自分がいる。
そんな事を考えていると、あっという間に眠りについてしまった。
翌朝、起きてから、同じように身支度をし、1階に降りると、何やら声が多い。
見てみると、エヴリーヌ、カミラの他に、金髪の美女が居た。誰かと思えば、昨日助けたディアナだ。
「あ、リョウタロウさん、おはようございます。こちらは……って知ってるか」
「えっと、あなたが、イバラ リョウタロウさんですか?」
昨日は気絶してたからあんまり気にしなかっけど、やっぱエルフって美人だな。
綺麗な金髪、すらりと伸びる体のライン、人形みたいな顔。現世の男性の誰もが憧れる女性だな。
しかし……わかってはいたが……デカいな。色々と……
「あ、あぁ。体は大丈夫なのか?」
「はい。お陰様で。本当にありがとうございました」
ディアナが頭を下げる。と、同時に色々揺れる。そりゃあもう地震のように……そりゃあ異世界だもんなぁ……こう言うこともあるか……落ち着け……これからも似たようなのに会うかもしれないからな……
「まあ、成り行きみたいなところもあったし、気にしなくて良いよ」
すると、ディアナは、頭を上げた。
「あの、お礼と言ってはなんなんですけど」
「あぁ、ブラスに奢って貰ってるから、それでいいよ」
「いえ、それとは別で……」
マジか、ブラス、奢るだけじゃ足りなかったのかな。まあ、仲間思いの良い奴だったからな……
「その、私が、しばらく、身の回りのお世話をさせて頂きたく思っています!」
んー、耳掃除してなかったか?俺。
「……いや、エルフのみんながキャラバンで待ってないのか?」
エルフ達は、エルフの集落と、ここら辺の集落や国を行き来して、物物交換で、様々なものを買って、交易しているらしい。
昨日ブラスから聞いた。
「みんなに、話を伝えたら、ブラスが「あいつ基本1人ぼっちみたいだから、社会勉強も兼ねて、行ってこい!」って」
ブラスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
やはり助けるべきでは無かったかぁ!?盗賊は盗賊らしく、漁夫の利でも狙っていれば良かったのかぁ!?あと、基本1人ぼっちって馬鹿にしてんだろ!いや、実際今は1人だけど!
「ふふ、リョウタロウも隅に置けないな!」
「次同じこと言ってみろ?3枚におろすぞ?」
しかし、どうしたものか……追い返すのも申し訳ない気がするし……
「わ、わかったけど、まずは友達からという方向で、よろしい?」
「は、はい!」
すると、ディアナは嬉しそうに笑った。
くっ、陰キャに美女の笑顔は眩しく、厳しい!
「と、とりあえず、俺ちょっと出かけてくるわ」
「あ、私も……」
「いや、ちょっと1人で出掛けさせて……あと、カミラ、もう1週間泊まるわ……」
そう言って、カミラに宿代を渡す。
「わかったよ。1週間追加ね!」
「うぅ……邪魔なのかな……」
そう悲しそうにするなよ。俺が悪いみたいじゃないか。
と、とにかく、1度何かで気分転換しよう。
そう考えて、俺はギルドに向かった。そこで、昨日のリザードマンに出会った。
「あ、おーい」
「あ、魚屋の」
「考えたんだが、一緒にいてもいいか?」
「そっちがいいなら、俺は全然オーケーさ」
今は特にな!身の回りにまともな奴が欲しかったんだ!今日になって、尚のことな!
「と、自己紹介がまだだったな。俺はフェリクスだ。フェリクス ジル。改めて、よろしくな」
「イバラ リョウタロウだ。魚屋の客としても、よろしく」
「早速なんだが、ちょっとしたクエストに行かないか?」
「もちろん。今ちょうどそういうのを望んでたところだ。」
それから、丸1日、フェリクスとクエストで体を動かした。
フェリクスは、大剣を扱う剣士で、リザードマン特有の鱗で、ちょっとの攻撃ではダメージが無い。
ゲームでいうところのタンク、敵の注意を引き、みんなの盾となる役だろう。
大剣を持っているわりには身軽で、いい動きをする。こう言う奴がパーティに1人いるとかなり違うんだよなぁ。ありがたい。
なにより、常識人という点が非常にありがたい。
アリスターに戻り、小鹿亭に誘ったが、フェリクスは、もうしばらくリザードマンの仲間と共に寝泊りするらしい。
たしかに、まだ名残惜しい部分があるのだろう。
しかし、俺としては速やかにこちらに来てほしい。
なぜかと言うと……
「それで、リョウタロウさんは、そのオークの頭を……」
「それは凄いな!料理だけでなく、冒険者としてもしっかりしているとは……」
「ねえ、その料理ってどれくらい美味しかったの?」
拝啓、現世にいる我が親友達よ。
俺は今、非常識な女3人に囲まれている。
出来るなら助けてくれ……
その晩、ディアナが俺の部屋を訪ねてきた。
「あのー、リョウタロウさん、その、一緒に……」
「いいから! 会って2日経ってない友達と一緒の部屋で寝ることないから! はい! 自分の部屋にもどる!」
ちょ、わりとマジで助けて……
いちいち悲しい顔するから、心が痛む……
次回、俺たち、パーティ?




