異世界の人は遠慮を知らない。
前回学んだこと
大豆ってスゲェし、ありがてぇ
翌朝になって、朝ごはんを作る。
メニューは、適当に、パンとスープ、そして野菜の炒め物を作った。
しかし、いざ自分で作るとなると、やっぱり和食が恋しい。豆腐の味噌汁が食べたい。
作り終わったタイミングでエヴリーヌが降りてきた。
「おはよー……」
「はよ食え」
そして俺を解放しろ……
食器を片付けて、身支度をする。
今日は試しにギルドでクエストの一つでも受けてみるのも良いかも知れないが、昨日のことから、もう少し体を慣らすことにしよう。
そう考え、外に出た。
そこまではいいのだ。
問題は当たり前のようにとなりにエヴリーヌがいることだ。
「なんで平然とついて来ようとしてる?」
「む? 良いではないか。昨日、共に戦った仲であろう?」
「うるさい。王族と一緒にお出かけなんて御免だね。何かあったらこの国追い出されかねないからな!」
「つまり、私の身を心配してくれているということだな! ふふ、態度とは裏腹に可愛いところがあるではないか」
俺の中で、こいつに対する殺意がルーを入れた直後のカレーのように煮え滾って来ている。
このまま行けば暗黒面に染まりそうな勢いだ。
「とにかく、付いてくるな。俺だって色々とやりたいことがあるんだから、邪魔するな」
軽く小突いた後、足早にギルドに向かった。
あんなのを放っておくこの国の王様への不信感が積もるばかりだ。
もし今選挙を行ったら間違いなく俺は今の王様以外に入れるね。
気分を変えるため、ギルドに行き、軽ーいクエストを探してみる。
クエストの貼られている掲示板は、ランク毎に分けられており、上に行くに連れて、数が減っている。
沢山あるクエストの中から、薬草の採取のクエストを見つけた。
森に行き、特定の薬草を持って来て欲しいという物だ。
報酬は少ないが、練習には持ってこいだろう。
受付にクエストの用紙を持って行き、クエストを受ける。
薬草の受け渡しもギルドが行なっており、その仲介手数料でギルドは儲けているわけだ。
こっちとしても、楽でいい。
早速、森へ行って薬草を取りに行き、体を動かしてみよう。
薬草は案外簡単に見つかった。
(運がいいのか? これくらいならクエスト出すまでもないだろう)
と、思ったのも束の間、体長1メートルほどの蛇に出くわし、仕方なく殺した。
出来れば穏便に済ませたかったが、向こうは腹ペコだったらしい。
昨日の鯛の匂いが体から滲み出ていたのかもしれない。
クエストを出した理由が意外な形で分かった。
薬草を見つけた後は、森で体を動かしてみた。
バク宙やらパルクールなんかの動きにまだ少し慣れないのだ。
こう、体重が軽くなる感じがして、少しこそばゆい。
あとは、ナイフの扱いを練習してみた。
現世で様々なゲームをプレイしたおかげか、その時のゲームキャラクターの動きを模すことで、それっぽく動ける。
例えるなら、昇◯拳の真似をするように相手の顎を殴る感じだろうか。
ゲームの知識も馬鹿にならないな。
ゲームにおいても、操作方法の確認と、自分の1番やりやすい設定にするのは大事だ。
現世ではPCのキーの振り分けなんかも、かなりの時間吟味した。
もっとも、どっかの誰かが、コーラなんか飲まなければ、こんなことにはなってないけどな!
どこからか、謝罪された気がしたが、面と向かってしない謝罪など、謝罪には入らない。
土下座というものは、土に座って初めて土下座なのだ。
本気で謝罪する気なら、今この場に出て来て、地べたに這いつくばって、謝罪しなければ、許さん。
少し待ってみたが、奴は現れない。
つまり、次会った時に、ぶん殴って良しということだな!
さて、アリスターを出て結構経ったし、戻るとしよう。
俺は、集めた薬草をポーチに入れ、歩き出した。
アリスターの周辺はまあまあ危険らしい。
どれくらい危険かと言うと、ポールさんを助けたところで、また誰かが襲われてるくらいだ。
相手はまたしてもゴブリン。
今度は数が多く、5匹だが、対応している人数も多い。
というか、人間じゃない。
長い耳、金の髪、揃いも揃って美形ばかり、これが世に言うエルフなのだろう。
しかし、俺の中のエルフは高潔で、「人間とかいう下等種族とは関わらないぜ」みたいなイメージがある。
しかし、だからといって見逃して横を通り過ぎるのも、気まずい。
仕方ない、やろう。
ナイフを抜き、エルフの部隊を援護する。
しかし、ここら辺はゴブリンの巣でもあるのか?
エルフ達は中々の手練れで、全滅させるのに5分と掛からなかった。
「助けてくれてありがとう」
「良かった。余計なお世話とか言われたらどうしようかと……」
「とんでもない。俺はブラスだ。よろしく」
そういうと、ブラスは手を出して来た。
この世界のエルフはかなり友好的らしい。
「リョウタロウだ。よろしく」
俺とブラスは握手を交わした。
しかし、こうも美形揃いだと、こう、自分が情けなくなるというか、変な気分になるな。
「大変だ!」
エルフの部隊の1人が叫んだ。
「ディアナが連れてかれた」
「分かった。半分を連れて、俺が助けてくる。みんなはここで待っていてくれ」
どうやら、女性が1人連れてかれたらしい。
正直放っておきたいが、そんなコミケに出てそうな薄い本の展開は個人的にはあまり好きではないし、放っておけば、後味が悪い。
「俺も行こう。乗り掛かった船だ」
「ありがとう。向こうに連れて行かれたらしい。行こう」
そうして、俺と、ブラスと、数人のエルフで、森を進んで行った。
その、ディアナという女性を追いかけた末、良いニュースと、悪いニュースがあった。
良いニュースは、5分と経たずに見つかったこと。
悪いニュースは、そこがゴブリン達の根城だったこと。
ゴブリンの数は十数匹、その奥に、一際大きな椅子に、でっかい二足歩行の豚が座っている。
「オークだ。ゴブリン達に悪知恵を吹き込んだのは奴だったのか」
ブラスが言う。
オークって、あのオークか……イメージよりデカいな。
こう、人間よりちょい大きいくらいを想像していたが、2メートル以上あるな。
目標のディアナは、少し離れたところに縛られて放置されている。
「ブラス、ゴブリンを任せた。俺があのデカブツの気を引く」
「大丈夫なのか?」
「こう見えてもフットワークには自信があるんでね」
そして、大規模な戦闘が始まった。
まず初めに、エルフ達の合体魔法で、ゴブリンの半数を倒すことが出来た。
俺はそのゴブリン達の隙間を縫うように走り抜け、オークと対峙した。
こうしてみると、やっぱりデカいな。
オークは、大きな棍棒を持っているが、腹についた贅肉のせいで、動きはゆっくりだ。
「やあ、豚さん」
「グォォォォォォ!」
オークが棍棒を振り下ろすが、あまりにもゆっくりで、簡単に避けることができる。
「もしかして怒っちゃった?」
俺はナイフを抜き、構える。
オークが棍棒を振りかぶった瞬間、俺はオークの股の間をスライディングでくぐり、背後を取った。
大きなものを支えるのにはそれなりの柱が必要だが、こいつにはそれがない。
俺はナイフでオークの膝の裏の腱を斬り裂いた。
オークは、文字通り、膝から崩れ落ちた。
俺はその巨体に飛び乗り、うなじにナイフを突き立てた。
正直、勝ったと思った。
しかし、贅肉はここでも仕事をした。
首回りの肉のせいで、ナイフが肝心なところまで届かなかったらしく、なんと、オークは起き上がった。
お陰で背中から振り下ろされた。
着地には成功したので、ダメージは無いが、正直焦った。
起き上がる段階で、既に、動きは先ほどよりも鈍く、苦しいのか、思考が止まっているのか、棍棒を捨て、突進して来た。
俺はそれを後ろにあったデカい椅子を踏み台にして、オークを飛び越えた。
オークはそのまま椅子に突っ込んだ。
着地したところにオークの棍棒が落ちていて、良いことを思いついた。
俺はその棍棒を、両手でなんとか持つ。
ステータスの俊敏パラメータは、速さに関わるもので、足の速さは勿論だ。
足が速いということは、つまり、脚力があるということだ。
俺はその棍棒を持ったまま、というより、棍棒に振り回されるように、跳躍し、倒れたオークの頭目掛けて、体全身を使って棍棒を振り下ろした。
「とぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
オークの頭はそのまま地面にめり込み、オークは動かなくなった。
ちょうどその頃、ゴブリン達も片付いたようで、エルフ達もホッとしていた。
俺はオークからナイフを回収し、ディアナと呼ばれた女性のもとに行った。
縛ってある縄をナイフで切ると、ブラス達がやって来た。
「リョウタロウは凄いな。あんなやつを倒すなんて」
「相手が馬鹿だからさ。もっと知能を持ったやつなら、こうもうまく行かないよ」
「ありがとうな。お陰でディアナも取り戻せた。せっかくだし、アリスターで飯でも食おう!」
あー、そこまではいいんだが……
「気持ちだけで良いよ。俺も良い経験になったし」
「遠慮するな! さ、行こうぜ!」
元陰キャにこの明るさは厳しいぜ……
しかし、この世界の人は、こっちが「結構です」と言ってるのに、よく押し切るよな。
次回、魚屋さんのトカゲさん




