確率は信用できない。
青い空、白い雲、飛び交う鳥たち、肌を撫でる風、そして沢山の木々。
俺は今、そんな牧歌的な風景の中にいる。
フィンランドとか、カナダとか、自然の多く残る国を探せば、似たようなところは見つかるかもしれない。
しかし、地球にいる人は皆、“ここ”にはたどり着けない。
何故なら、ここは“地球ではないから”、“地球とは違う、どこかの別世界なのだから”。
時は、かなり遡る
『さようならー』
挨拶を終え、教室にいた生徒たちは続々と帰り始める。俺の通う埼玉県立西高校の、ごくありふれた風景だ。
「おい、茨、この書類、職員室の私の机に持っていってくれー」
「えー、なんで俺なんですか?」
先生に呼び止められて、何故素直に手伝わないのかというと、他にも手の空いている奴が居るからだ。
俺だって暇じゃない。
その上、だいたいこういう場合、書類を運ぶだけでは済むはずがない。
「だって、出席番号1番だし……」
「そんな理由で選ばないで下さいよ、こっちは万年独り身のピーちゃんと違って、早く帰って4人分の夕飯の用意しなきゃならないんですから」
「ぐはぁ!」
俺の返答に、桃子先生、通称ピーちゃんが胸を抑えて崩れ落ちる。
何故ピーちゃんなのかと言うと、名前が桃子で、桃はピンクだから、ピーちゃんなのだ。
「あはは、涼太郎は相変わらず辛辣だね。先生、僕がやるので良いですよ」
「うぅ……私だって……私だってぇ……」
そう言ってピーちゃんの手伝いをし始めたのは、俺の親友の1人、戸波空成だ。
女子から絶対の人気を誇り、告白されたこともあるが、本人は極度に“鈍い”ため、告白の意味が分かってない。
こいつの思春期はいつ来るのだろうか。ある意味、俺の人生におけるトップ3に入る謎だ。
「そんなの手伝わなくても良いだろ?社会人なんだしー」
「そう言っても俺らの担任なんだから、やってやれば良いだろ」
そう言って掃除を仕切っているのは、これまた俺の親友の1人の風間翔、クラスの委員長で、生徒会もやってるみんなの頼れるリーダーだ。
一部の女子に人気があるが、告白されたことはない“らしい”。
それくらい明かしてくれてもいいのに。
「涼太郎ー、今晩ハンバーグ食べたーい。そのあと、ゲームの素材集め付き合ってー」
「ハンバーグはともかく、素材集めは分かったから俺の背中にのしかかるのやめろ」
「オッケー、んじゃ、委員会行ってくるわー、はぁ面倒くせ」
俺の背中から離れたひょうひょうとしたこいつも俺の親友の1人、白鳥湊人だ。
かなりマイペースだが、シューティングゲームの腕はプロ並みで、手先が恐ろしく器用だ。
「んじゃ、先帰ってるわー」
『はーい』
俺たち4人は幼なじみで同じアパートの4つ並んだ部屋に住んでいて、内2つは寝る部屋、1つは普段使う部屋、1つはゲーム部屋と、使い分けて共同生活を送っている。
実家は4人とも北海道だが、俺の親が、転勤で、こっちに来るときに、他3人も付いてきたって感じだ。
両親は、別のアパートで暮らしていて、普段は本当に4人だけの生活だ。
俺の実家は旅館で、俺は4人の料理当番なのだ。だから早く帰って仕込みをしたいし、足りない食材を確認に行きたいのだ。
今日は確か近くのスーパーが安かったはずだからな!
「うっわ、天気予報嘘つきやがった」
5分ほど経ち、突如降り始めた結構な強さの雨のせいで、俺の口から愚痴がこぼれる。
今朝の天気予報では、曇りで、雨の心配はないと言っていたのに……おのれ、あま◯つー!
今晩は、冷蔵庫にあるもので済ませるしか無さそうだし、全く、学校が徒歩圏内なのも考えものだな!
話は変わるが、みんなは、「天文学的確率」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。
あまりにも確率が低いときの例えとして使われる。
例えば、朝遅刻しそうな時に角を曲がったら、パンを咥えた美少女とぶつかって、そこから恋が始まる。なんてことは、まず起こらない。←パンを "加えた(追加した)" とはこれ如何に?
おっと、夢を壊してしまったなら申し訳ない。
しかし、朝遅刻する確率、通学路に直角の曲がり角がある確率、パンを咥えた女の子が同じタイミングで角に侵入する確率、その女の子が美少女の確率、そしてその美少女と恋が始まる確率、全てを引き当てる確率は、限りなくゼロに近い。← "加えた" 同上
しかし、ここで重要なのは、“ゼロに近い”のであって、ゼロでは無いことだ。
何を言いたいかというと、俺が、家に帰ってる途中に、真上から雷が落ちてきて、絶命する。← "雷が降る" とは言わないと思う
なんてことも、起こりうる訳で、今がまさにその時だった。
まあ、少なくとも、さっきの美少女の話よりは、確率は高かったかも知れないな。
次回、バ神様




