命と死
俺には相棒がいた。
相棒は生まれた時から一緒だった。
遊ぶ時も、飯を食う時も、夜寝る時も、ずっと一緒だった。
そのうち一緒にいるのが当たり前になって、それに何の違和感も抱かなかった。
ある日、嫌な奴に出会った。
俺は、ソイツのことが大嫌いだった。
ソイツは俺の大事な相棒が好きらしかった。
だからあの手この手で相棒を俺から奪おうとした。
ソイツが近付いてくるのが怖かった。
親や周りの大人もソイツに近付くのを止めた。俺も誰が近付くものかと思った。相棒を必死にソイツから遠ざけていると、いつの日かソイツは何処かに行ってしまった。たまに風の噂でソイツの話を聞くと、他人の相棒を誑かして回っては嫌われていると聞いた。
それから何十年も時が経った。俺は結婚して家庭を築き孫もできたが、相棒は相変わらず俺と一緒にいた。そして、奴に出会った。
俺の大切なものを奪うアイツ。
俺の大切なものが大好きなアイツ。
俺の大嫌いな、アイツ。
けれど、俺はソイツの顔を見た時に何故か嫌悪感は湧かなかった。むしろ逆に、子供の頃の懐かしい友人のように思えた。
初めて触るアイツの手は暖かかった。
改めて見るアイツの姿は美しかった。
あの日嫌いだったアイツは今、俺に安らぎを与えてくれる。
なんだ、思ってたよりいい奴じゃないか。
だから俺は大切な相棒をくれてやってもいいと思えた。
相棒に訊いてみた。アイツにお前をくれてやってもいいか、と。
相棒は何の抵抗もなく頷いた。思えば、相棒は少し前からソイツに会いたがっていたのかも知れない。そんな兆しは見えていた。相棒だもの。それくらいは分かる。
俺はそうか、と呟くとソイツに相棒を差し出した。
ソイツはゆっくりと頷き、俺と永遠の友になることを告げた。そして、俺を相棒から永遠に引き離した。