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プロローグ

「わかった、ならば戦争じゃな」少女は凛とした声で言い放った。


「はっはっは。世間知らずのお嬢サマは言う事が違いますなぁ」

「全くです。どうやら頭数の計算すらできないみたいですね」


小馬鹿にした物言いの男達。その様子に、少女はふんと鼻を鳴らす。


「人数の問題ではないわ。兵は量より質よ。雑魚よりも一軍の将がいればなんとでもなる。…………それとも、敗北するのが怖いかの?」

「ああ!?」

「……ふむ。どうやら少しは自信がある様子ですな。まあいいでしょう。その挑発、受け取らせて貰います。日程は後日お知らせさせて貰いますよ」


そう言うやいなや、男達の姿は霧のように消える。


「さてと……」


座っていた椅子から立ち上がると、手を叩く。その音に呼応するかのように,影が彼女の元に現れた。


「お呼びでしょうか、お嬢様」

「至急の件じゃ、ヒルデ」




「---戦争が始まるぞ」



***


その日はどんな日だったか。あまり覚えていない。なんでもない、とある一日だった。普通に朝起きて、普通にいつもの道で学校に行って、普通に授業を受けて、普通に友達と飯を食べて、普通に帰宅して。

覚えているのはその時、コンビニで夕飯を買う際うだるような暑さで思わず買うつもりもないアイスを買ってしまい、多少の後悔をしていた事だろうか。


「・・・・・・ん?」


いつも家に帰る道。橋の下を潜り抜けて、まっすぐ歩けば家に着く。はずだった。


「なんだぁ………?」


橋の下で何かが煌めいている。目を凝らしてみると、赤い玉のような物が弾んでいるのも見えた。

さらに人らしき影も見えるが……喧嘩だろうか?橋の下で喧嘩など、漫画やアニメの世界じゃあるまいし。

しかし、見て見ぬ振りというのも気が引ける……。どうしたらいいだろうか……


「やっぱり止めた方がいいよなってぶっっ!!」


止めに入ろうとした途端目の前に柔らかい物体が飛んできた。

なんだこれ・・・…物体がうりうりと顔の上で動く。


「くっ……ここまで魔力が下がっているとは……たかだが下級悪魔如きに苦戦とは我ながら笑うな」


気づいていないのか、物体が笑っている。笑うよりも早く退いて欲しい。


「………む。踏んでいたか。人間、すまんな」


やっと気づいたのか。物体が俺の顔から離れた。大きく息をする。

見るとそこには少女がいた。きちんと毎日のケアを欠かしてないのか、綺麗に整った銀髪。瞳は赤く、宝石のルビーのようだ。そしてどことなく雰囲気が。なぜだろう。人と違う。本能が告げている。


「………さて人間よ。突然だが、貴様に二つ選択肢がある。一つは我と契約し()()と戦うか。それとも逃げるか」


前言撤回。変な人だ。通報しよう。


「人間よ。なぜそのような目で見る?そのような余裕があるのはいいのだが、時と場合をわきまえた方がいいと思うぞ?」

「は?」


少女が指さした方を見ると。巨大な岩が目の前に迫ってきていた。しかし少女が刀を一振りすると岩は粉々に砕ける。


「目くらましのつもりかの?」

「ウォォォォォ!!!」


鈍い重低音。砕けた岩の影から少女と対面していた者が現れた。化物だと俺は感じた。橋の影で分かりづらかったが、肌の部分が茶色だ。口の部分であろう部分はニタニタと気味悪い笑みを浮かべ。そして目の部分にはぽっかりと空洞が開いている。


「おっと」


茶色の化物の手が捕まえようと伸びるが、少女は飛び上がり。


「お返しじゃ、な!」

「ウォォォッッッ!!!」


そしてそのまま、刀で手を切断した。しかし化物は怯まない。反対側の手で少女を捕えようと伸ばす。


「ふん、これだから知性が無いのは……。おい人間!」

「は、はい!」少女の声に思わず反射的に返事をしてしまった。


「―――逃げろ!!!」

「は!?ってうわあああっっっ!!!」


瞬間、俺の体は空にあった。―――化物の腕が、俺を掴んでいたからだ。

体の全身に激痛が走る。骨が悲鳴を上げている。喉から叫び声が出た。それでも力は緩まない。まるでモノのような扱い。痛みが走る体とは対照的に、頭が冷静に告げている。ああ、これで俺は死ぬんだと。


「ふ……ざけん……な…………」


嫌だ。嫌だ。嫌だ。まだやりたい事が山ほどある。ここで―――


「―――死んで……たまるかっ……!!!」


抗う。手を動かせ。足を動かせ。まだ体は動く。頭を働かせろ。無我夢中に。俺には何が出来る?

抵抗する俺に、化物はニタニタした顔をさらに歪ませる。ムカつく顔だ。

力がさらに増してきた。体の骨がますます悲鳴を上げる。その音に化物の顔がまた歪んだ。どのくらいの力で俺の骨が折れるのか楽しんでいるのだろうか。


「…………くっ……そが…………」

「よく言ったぞ。人間」


―――ズン。


「その言葉、我が聞き届けた」


ーーー怪物の顔に刀が刺さっていた。怒声にも似たような悲鳴が辺りに響く。


「人間。その刀を手に取れ。さすれば貴様の願いは叶う」


少女が凛とした声で放つ。まっすぐにこちらを見る赤い瞳。

叶う、か。ああ、そうか。分かった。俺は刀に手を伸ばす。化物はまだ悲鳴を上げていた。刺さっていない空洞の部分がこちらを見つめている感じがした。


「ぐ………う……っ……………!」


手が再び締め付けてきた。俺の動きを察知したのか。左手を伸ばす。ゴキン。鈍い音が聞こえた。痛みが増していく。足の部分が熱い。きっと折れたのだ。だが、足ならまだいい。手だ。手を伸ばせ。―――もう少しだ。希望を―――




「―――掴んだっ!!!」






「―――契約は成立した」


「我、ソロモン72柱が一柱、セーレの名の元に、汝を守護する」


意識が朦朧とする。何が起きた?見ると手には刀。目の前には両手を無くした化物。


「……ふん。緊急で契約したとはいえ、中々のモノじゃの」


化物が襲い掛かかってくる。その時を待ち望んでいたかのように、勝手に体が動いた。

足を切断した。今度は―――。両足を失い、体勢を崩した化物。すかさず刀で連撃。


「―――そこだ」


刀は怪物の首を取らえていた。暖かい液体が顔にかかる。


「見事。天晴れじゃ、人間」

「…………」

「ふむ、貴様、名は何という?」

「俺……は……」


目の前から綺麗な声がする。名前。俺の名前は。


「……古……野……優…………」


ぷつり。

ダメだ。意識が。意識が闇に飲まれていく。

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