とある主婦の話 その2
では、私の昔話を聞いてください。
アレは三十年以上も前の事ですね。
私は東北の日本海側の平野に住んでいるんですが、ある時期スキーが流行ったんですよ。
その当時は温暖化の始まる前でしたので、冬は毎日氷点下で雪の降らない日はありませんでした。
私は仕事が忙しかったので、私の妹夫婦が娘達にスキーを教えてくれたんですね。
そんな年も変わった二月も初め頃、車で一時間のスキー場へ娘達と同じ村に住む親戚の子供達を連れて行ったんですよ。
その日は放射冷却現象が起こって、ものすごく寒くて地面が凍りついて、スキーにはあまり向かなかったんですね。
それで娘達も一時間位居たんですが、寒すぎて早々に帰る事にしたんです。
その帰り道の事 ── 。
その道は緩いカーブがたくさんあったんですよ。反対車線の向こう側は山肌に土砂崩れ防止のコンクリートの壁で固められて居て、私の車の左側はトラック一台分の川が流れていたんです。
そして地面は雪がカチコチに凍ってました。
あるカーブに差し掛かったその時、ハンドルの重みが一切消えました。
とっさにブレーキを踏んだのですが、映画のカーアクションみたいにクルクルと回ってハンドルが効かない。
コンクリートの壁にぶつかる寸前に、道の曲がり具合がうまく作用してなんとか回避。本路に戻るかと思ったら、なんと目の前にトラックが!
夢中でブレーキを踏みつつハンドルを回したら、トラックは僅差ですれ違い、ようやくブレーキが効いて川に落ちる手前で止まりました。
助手席の次女は目を回していました……。
私もしばらく突っ伏して動けませんでした。
しかし、後ろの席にいた長女達は大興奮で「もう一回!」なんて言ったので、「絶対無理っ!」と半泣きで断りました。
それ以来スキーには行けません。
冬になると毎年思い出す出来事です。
何を隠そう、この助手席に乗っていた次女が私です。今でもあの日の事は忘れられず、スキーには行けませんし、冬の外出は怖いです。
この季節、雪国で煽り運転なんぞした日には大事故です。
そうでなくても皆さん、自動車に乗る時はシートベルトはしっかりと締め、運転手は安全運転を心がけてくださいねー。(祈)