ある田舎の会社員のお話
次は私でいいですか?
私が社会人三年目の頃のお話です。
私は自動車通勤なのですが、通勤途中にある村を通るんです。
そこは古い道路で車線は無く、辛うじて普通車がすれ違える幅で、しかもデコボコと段差のある道路だったんですね。
お年寄りも多い集落だったので、いつもそこは徐行して慎重に運転していたんです。
ある春の日の事 ── いつもの通り徐行してその村に入ったんです。
ふと何かおかしな気配がしてバックミラーを見たら、一匹の牛が車の後ろにピタッとついて来てたんですよ。
ありゃりゃ?方向同じなのかな?なんて呑気に前を向いて運転していたんですが、ちょっとしてまたミラーを見たら、まだついて来ている……。
もう少ししたら十字路だし曲がるかな?なんて思っていたんですが、ソレを過ぎてからミラーを見たら、まだいるんですよ……。
流石におかしくないか?と思い始めたんですね。
この先には主要道路があるだけで牧草地も牛舎もありませんから。
で、ふと思い至ったのが今運転しているその車。
免許を取って初めて買った車で、中古車だったんですが車高の低い『赤』の軽自動車だったんです ── そう、闘牛士が持つ布とおんなじ色── 。
えぇーーー!?まさか!?と思いミラーを除いた途端その牛と目が合いしばし離せなくなり、無言の圧力に負けて制限速度ぶっちぎりでかっ飛ばして逃げました。
………通行人と白バイがいなくて良かったですよ……。
一同「ホラー?」