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死装束が欲しいです  作者: 青桐
プロローグ
1/5

幽霊は何も持っていない

新作です。

楽しんでいただけたら嬉しく思います。

友達というものは都市伝説らしい。

俺の葬式には、友達1人すら来ていない。

生前のSNSの友達は14人。

SNSでしか連絡のとれない友達に、俺の死を知る術はない。複雑なパスワードを設定したスマホは、家族でもロックを解除できていないし。

枕元に立って教えることも考えたが、迷惑だろう。

なにせ服がない。

幽霊って白装束が標準装備だと思っていたけど、そんなことはなかった。せめて頭の白い三角の布があれば、大事な場所を隠せるが、それすらない。

まあ、色々言い訳をしているけど、なにより、認めがたい事実だが、葬式に呼べるほど仲の良い友達など存在しない。

目から水が滴り出そうだ。幽霊に涙は流せないようだが。

まあ、過ぎたことを気にしても心が痛いだけだ。孤高の男だったんだと思い込もう。

そんなことより、死んでから分かった意外な事実のほうが重要だ。おそらく父も母も妹も、霊感がある。

3人は俺が見えているみたいだ。

俺の姿が目に入ると、母も父も妹も目を逸らす。

俺の全裸に、どう見ても反応している。そして、やたらと俺の棺桶に服を入れていた。

そのうえ、話しかけると挙動がおかしくなる。俺が話しかけると同時に、誤魔化すみたいに家族3人の会話を始める。

ひたすら、俺が見えていることを認めない家族。

でも、幽霊として見えているからか、微妙な空気が家族の間に漂っている。

父が母に引きつった慈愛の笑顔を浮かべて、母を抱き寄せた。


「ママ、我慢しないで泣いてもいいんだよ」


母も同じように顔を引きつらせてながら、父を抱きしめる。


「英美の前で泣ける訳ないでしょ。ママなんだから。娘が泣いてないのに、泣くことなんてできないわ」


しばらく引きつった笑顔でお互いを慰めた後、母が妹に声をかけた。


「英美、悲しい時は泣いて乗り越えていくものなの。あなたは泣いていいのよ」


妹は両親と俺(霊体)に背を向けていた。


「私は大丈夫。お兄ちゃんがいないのは悲しいけど、泣かないよ。よく泣くお父さんが泣いてないのに、泣けないからね」


コソッと回り込むとやはり、微妙な顔をしていた。

マジで泣きたくなる。誰か1人でも泣いてほしい。確かに死んだ家族が全裸の幽霊として現れたら、微妙な気分かもしれないけど。

ていうか、みんな俺の姿見えているよね? いいんだよ、反応しても。

ちなみに、お坊さんにはまったく見えていないようだ。目の前で腰振りダンスをしても全く反応がなかった。

今は反省している。

そもそも、まさかこんなに早くあの世に、いやこの世に漂うことになるとは思ってもいなかった。つい、やけになってはっちゃけるのは許してほしい。

誰かに怒られることもなさそうだけど。どうやら、父さんや母さん、妹には、声は届かないようだし。やっぱり、何にも触れられないからかな。音は空気の振動だ。触れられない俺が、声を届けることはできないんだろう。

どうしてこうなったんだ。

現実逃避をしながら、なにが起きたかを思い出してみる。



10Tトラックの前では、男子大学生と自転車など原型すらとどめられない。

ぐちゃぐちゃになっている肉塊は俺だ。なぜか確信できた。

気がついたら、ペシャンコになった俺の体と自転車を見ていた。

その遺体を救急車が運んでいく。

運ばれた先に駆けつけた母が、最初に発した言葉は、幽霊になった俺に向けられていた。


「なんて格好をしているの。恥を知りなさい」


「お母さん、落ち着いてください。受け入れられないのはわかりますが、気をたしかに」


警察は母が現実を受け入れられないのだと思ったようだが、母はハッとした表情を浮かべていた。

すぐさま、「取り乱しました。間違いなく、息子です。まさか、こんな……」と言った。

確実に俺が見えていたと思うんだけど。

そうだよな。警察からお宅の息子さんが亡くなりました、って連絡きて、駆けつけた先で、息子が全裸でいたらそう言うよ、普通。

取り乱している母を見ながら思う。

何というか、思ったより幽霊がたくさんいて、目線の置き場に困る。

俺の遺体が運ばれていくのをずっと見ていたが、思ったよりうじゃうじゃ、町中に幽霊がいる。救急車の中にも5人いた。

全員全裸だ。

四文字熟語みたいだな。どうでもいいけど。

幽霊と生きている人を見分ける方法など知らなかったが、町中にいる全裸の人たちは幽霊だろう。あそこまで開けっぴろげに寝ている人間がいるとは思えない。確実に通報されているはずだ。もちろんそんなことはなく、服を着た人たちは皆スルーしている。幽霊と生きている人間を見分ける簡単な方法が、服を着ているか否かとは。


現実逃避をしてもしょうがない。

さて、これからのことを考えないと。

することもないし、ある意味で自由だ。

そうだ、ほとんどの人には見えていないんだから、ちょっと悪いことをしよう。

俺を振ったあの人を少し覗かせてもらおう。少しくらい、美味しいことがあっても許してもらえるはず。大学入って6ヶ月で死ぬって、それなりに不幸な方だ。これくらいのことは許される、と思いたい。

最後まで読んだいただきありがとうございました。


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