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俺が死んでも世界は回る  作者: もちもち物質
第六章:証明~show me your miracle~
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34話

 ジェットとワイルマンとシーラは、見張りを任されていた。

 リリアナ暗殺を目論んだ一派は今、アマーレンの地下牢に閉じ込められた挙句、睡眠薬によって眠りに就かされ、それを更に監視されている、という状態である。

「リリアナ、大丈夫かな」

「まあ、大丈夫でしょう。オーガス君も付いてるんだし」

 シーラがぼやけば、ワイルマンがにこにこと微笑んでシーラの頭を撫でた。

「ルーシエさんも居るもんね」

「そ、そ。大丈夫よ」

 リリアナの傍にオーガスが居るのと同様に、ロザリエと同席しているのは勇者ルーシエだ。何かあったとしても、対処は十分可能だろう。

「あとは、フェルミーネちゃんもどこかに居るんだろうし」

 そしてワイルマンがもう1つ安心していることには、フェルミーネの存在がある。

 かの女呪術師は、恐らくこのアマーレンのどこかにて、彼女なりに勇者ルーシエと聖女ロザリエの守護にあたっているものと思われる。アマーレンの結界は既にリリアナが補強した後であるので、結界ではなく、恐らく、より彼女達に近い所にフェルミーネもまた、控えているのだろう。

 微かに彼女の魔術の気配を感じて、ワイルマンはにこにこと頷いた。


「さて。リリアナちゃんの叔父さんがどうにかできれば、後はジェット君の悪魔だねえ」

「ああ。手間をかけるが」

 ワイルマンはにこにこと上機嫌そうにジェットを振り返る。

「今のところね、考えてるのが2つっくらいあって……」

 が、そこでワイルマンは言葉を途切れさせると、はっとした表情で上を見上げた。

 そこにあるのは石材の天井であるが……ワイルマンが見ているのは、その更に先。

「……こりゃとんでもないのが来たね?」

 リリアナ達が居るであろう、部屋である。




「……こっちも悪魔かい」

 リリアナは瞬時に張った結界を強化しつつ、苦々しい表情で舌打ちした。


 叔父の姿はそこになく、ただ、悪魔が居るばかり。

「ジェットと同じかい、こりゃ」

 おそらく悪魔は、今のジェット同様に叔父の体に巣食っていて……此度、叔父の呼びかけに応じて現れたのだろう。叔父の体を乗っ取る形で。

 何故こんなことを、と思わないでもない。だが、それを考えるのは後でいい。

 ……リリアナは咄嗟に、判断する。

 ここから大聖堂の裏手まで、どれくらいの距離か。

 今ここで戦った場合、どの程度の被害が出るか。

 それらと自分達の危険とを瞬時に天秤にかけたリリアナは、即座に天秤の釣り合いの取れる点を見つけ出し、動き出す。

 手にした聖王の杖を掲げ、結界を張る。結界は複雑な形を為して大聖堂の一部を覆った。それは即ち、大聖堂の裏手……ある程度の広さがあり、表からは見えない場所への道となる。

「さーてと、後はどうやってこいつを動かすか、だけど」

 リリアナは悪魔と化した叔父と相対し、ほんの1秒思案し……悪魔が自らに襲いかかってくるのを見てにっかりと笑った。

「餌は私で十分か。安上がりでいいねえ」

 どうやら敵の目的は、リリアナただ1人であるらしい。


 悪魔を結界で防いで凌ぐと、リリアナは声を張る。

「親父!ロザリエ!こいつを大聖堂の裏手まで移動させてから戦う!大聖堂の結界は頼むよ!勇者ルーシエと聖騎士の野郎はロザリエと親父を頼む!オーガスは……」

 が、悪魔はさらなる攻撃に出た。リリアナは言葉を途切れさせると、再び襲いかかってきた悪魔の攻撃を結界で半ば無理矢理防ぐ。

 無理のある魔術の行使によってよろめいたリリアナだったが、もう一度悪魔が襲いかかってくるより先に、オーガスがさっと横抱きにした。

「お、話が早いね!」

「はっ。お前の言いたいこと程度、そう考えずとも分かる」

 オーガスはそのまま、リリアナを攫うように走り出した。その後ろを、悪魔が追いかけてくる。

「以心伝心かぁ。照れるねえ」

「ほざけ。無駄口を叩いている場合か。私は今、お前のせいで両手が塞がっているのだぞ。あれを食い止めるのはお前の役目だ」

 オーガスはちらりと後ろを振り返ると、また前を向いて走り出す。

 悪魔は確実に追いかけてきていた。身構え、そして次の瞬間にはリリアナとオーガス目掛けて魔術が飛ぶ。

「わーってるっての。あんたに運ばせてる以上、その働きはきっちりさせてもらうさ」

 リリアナはにやりと笑うと、杖を握る手に力を込める。

「ってことで叔父上!しっかり付いてこいよ?」

 そして、魔術がぶつかりあって激しく干渉した。


 悪魔とリリアナの魔術のぶつかり合いは、それは見事なものだった。それが命を賭した戦いの中でなければ、魔術の干渉の美しさに目を奪われただろう。

 悪魔となっても叔父の魔力が残っていると見える。親しい魔力同士のぶつかり合いは、一風変わった干渉の具合を見せた。

「あはは、親父もロザリエも真面目に仕事してらあ」

 そしてそれら魔術の干渉が廊下の真ん中で起きても、大聖堂の建物自体には傷一つ付かなかった。ロザリエと聖王が補強した結界は、確実に大聖堂を守っているらしい。

「んじゃ、大聖堂の心配は要らねえとして……あとはあいつを裏まで引っ張ってった後、どうすっかだよなあ……」

 安堵したのも束の間、再び襲いかかってくる魔術を相殺しながら、リリアナは思案した。

 ……ひとまず大聖堂や民衆に被害が出ないよう、悪魔を大聖堂の裏手へ誘導することを優先したが、その実、どのように戦えばいいのかなど、まるで考えていなかったのである。

「考えなしに動いていたのか、お前は」

「いや、そうでもないぜ。今考えた」

 だが、オーガスに移動を任せ、自身は悪魔の相手に集中すればいい状況だ。この間に思考を巡らし、案を出すことはできた。

「一応、考えたのは2つっくらいあるんだけど……」

 リリアナはそう言うと、にやりと笑う。

「ま、ジェットに感謝だな」


 かくして、悪魔はリリアナを追って大聖堂の裏手まで導かれる。

 そこでオーガスに降ろされたリリアナは杖を構え、悪魔と向かい合った。

「さーて、叔父上。私を殺そうとしたこと、しっかり反省してもらうからな?」

 隣でオーガスもまた、剣を抜いて悪魔と対峙する。それを横目に、リリアナは勇ましく杖を振り上げた。




「……加勢に行った方がいいか、これは」

 地下牢では、遠くに戦いの気配を感じつつ、しかし動かない3人が居た。

「どうだろねえ。こいつらの所在を有耶無耶にするのが一番良くないし」

 ワイルマンの意見は至極尤もである。今回、わざわざリリアナが3人をここに残していった理由は、ここに捕らえている暗殺者達を逃がさない為なのだ。

 下手に動いて彼らを逃がしたり死なせたりしようものなら、本末転倒である。

「ボクは別に行かなくていいと思う。だって、リリアナとオーガスでしょ?ルーシエさんも居るんだし、平気だよ、きっと」

 シーラは悪魔というものの恐ろしさを今一つ理解できていない故に、気軽にそう発言する。だが、ジェットもワイルマンも頷いた。

「そうねー。ま、大丈夫かね。リリアナちゃんは特に、悪魔の対処なんてお手の物だろうし」

 悪魔が如何に恐ろしい相手であろうとも、リリアナとオーガスが組んでいて負けるとは思えない。そう考えたワイルマンは、にこにこと穏やかに笑うと杖を床に突いて、のんびりと魔術を編み始める。

「ってことで、儂の加勢はここからにしようかねえ」

「あっおじいちゃん狡い!」

「魔術師ってのは多かれ少なかれ皆狡いもんよー」

 ワイルマンが編み上げる魔術は、結界の一種である。

 魔力の気配から、大凡リリアナ達がどこで戦っているのか見当を付け、その近辺に結界を張っていく。

 遠隔で結界を張るなど、そうそうできることではないが、それができてしまうのがこの老魔術師である。やがてワイルマンは満足げに頷くと、杖を下ろした。

「よし」

「おじいちゃん、何したの?」

 にこにことしているワイルマンにシーラが尋ねると、ワイルマンはより一層笑みを深めながら、答えた。

「折角だから、魔術の練習。どうせジェット君の時にやるんだし、今の内に実験しとこうと思って」




 リリアナは、突如現れた魔術の気配を敏感に察知して、一瞬、警戒した。

 だが、それも一瞬の事。その魔術の気配が見知ったものであることを確かめると、ただにやりとしてそれを見過ごす。

「オーガス。これから魔法剣使う時は、ちょいと気を付けな。外したら自分が死にかねないよ」

「……一体何だ、これは」

 オーガスもまた、自分達を囲むように展開されていく魔術を見て、呆れたような顔をしていた。

 魔術の主がワイルマンであろうことは、オーガスにも既に分かっている。

「鏡、だね」

 そう。

 そこに現れたのは、鏡めいた結界であった。

 悪魔を中心にして現れた鏡の結界は、天から降り注ぐ陽光を集めて結界の中を明るく照らし上げる。

 ……その途端、悪魔の動きが鈍った。

「成程な。悪魔は聖なる陽の光を嫌う、と。その光を集めてしまえば、悪魔を弱らせることも可能だろうな」

「そういうことらしいぜ。あの爺さん、中々やってくれるよなあ。しかもこれ、魔術弾く奴だからね」

 けらけら笑いつつ、リリアナは杖を掲げたまま魔術を編み上げていく。

「……ってことで、オーガス。外すなよ?」

「はっ。お前こそな」

 リリアナの隣、オーガスもまた、魔法剣の為に意識を集中させ始める。

 やがて、悪魔は陽光に照らされ、不快そうに顔を顰め……そして。

「よっしゃ、じゃ、いくぜ!」

 リリアナの杖の先から光が迸る。

 その魔術は、いつもの光線ではない。激しくなく、ただ温かく柔らかく、それでいて厳かに悪魔を包むだけだ。

 だが、悪魔は明らかに狼狽した。そんな馬鹿な、とでも言いたげな様子であったが、オーガスがすかさず悪魔の脚を斬った為に、逃げることもできずにリリアナの魔術を受けることになる。

「……では。これより、てめえに祝福を授ける」

 リリアナは厳かにそう言って、にやりと笑う。その横でオーガスは2発目の魔法剣を準備しつつ、やはりにやりと笑った。

「これはてめえを清く正しい神の信徒として認める為の儀式だ。逃げずにしっかり受けるんだぞ?いいな?」

 悪魔は、まるで悪魔を見るかのような目でリリアナ達を見た。

 リリアナもオーガスも、下手な悪魔より悪魔的な笑みを浮かべて、悪魔を睥睨したのだった。


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