【魔法使いの校外学習】
秋という季節はあっという間に過ぎ去ろうとする。ラフィ達がアリアに入学してから半年以上経つ。しかしやはりこれも、魔法使いにとってはあっという間だ。しかし、魔法使いの彼、彼女達には校外学習というイベントが、毎学年毎に存在する。校外学習の詳細が配られるのだった。
「…北エクセアス旅行…エクセアス!エクセアスだよ!」
ラフィはメイジーに告げる。エクセアスはラフィとメイジーの生まれ育った地で、また自然が豊かであることでも有名だ。この学園アリアの浮かぶ大海”オーミドアス”はエクセアスの南にあり、またエクセアスの南にアリアの森が存在する。そして修学旅行の行き先は北エクセアスであり、ラフィが住んでいたところとは少し離れる。そも、アリシアの大陸は一つ一つが大きい為、基本どこに行こうと離れるのだが。兎も角ラフィは自身の住んでいた大陸へ旅行へ行くこと自体に気を高揚させていた。
「北、というと私が住んでいた方面だけど、何があったかしら?」
メイジーの問いに答えるかのように教師が行き先の説明を始める。
「はーい、北エクセアスにある、海遊館に行きますよー。」
「先生、空想生物はいますか?」
メイジーは即答ならぬ即問いをする。教師は「うーん」と言った後に答える。
「多分いるよぉ。」
メイジーは小さくガッツポーズを取る。そんなメイジーを見ながらラフィは苦笑いをする。
「メイジーって、空想生物の話になると本当にキャラ変わるよね…。」
ラフィだけでなく、教室の全員が小さな声で、そう呟く。
「な、なによ…空想生物、いいじゃない…」
教師が一番前で手を叩く。
「はーい、校外学習は皆知っての通り明日でーす。まぁ一泊二日だし修学旅行みたいなもんなんだけど。」
「え、じゃあ海遊館以外にどこへ行くんですか?」
「遊園地だね」
という調子で、1限が終わる。休憩時間の為メイジー、スノー、ミストラルはラフィの席の周りに集まる。
「楽しみだね!」
「えぇ。」
「ミストラル…怖いの、一緒に乗ろうね…」
「魔術でジェットコースターに工夫が為されてるらしいぞ?スノー。」
「ひぃ…」
ラフィはメイジーのテンションが先程より下がっていることに気付き、どうしたのかと問う。
「え?あ、あぁ、た、楽しみね。」
「やっぱり、噂のこと、まだ?」
「……まぁね。」
自分達を助けてくれた人達の内の魔法使いだからショックも大きいのだろう。故に当然他の魔法使い達はいつも通り、むしろ校外学習の話で持ちきりだ。
「私達で、見つけようね。潜伏者を。」
そこでミストラルが会話に混ざってくる。さすがに二人でこそこそと話していたら気になるのだろう。
「なーに話してるんだ?」
「えっ…とー、校外学習楽しみだなーって!」
ミストラルとスノーはポセイドンに襲われ気絶していたが為に、座の魔法使い達を見ていないのだ。
「気に…なる。」
「本当に校外学習の話よ。それで、二日目の昼ご飯は自分達で買わないといけないらしいけど、どうする?」
「それは勿論、この四人で食べよう!」
「そうだな!」
「うん…そう、だね。」
続けてメイジーは似たような質問をする。
「それから二日目は遊園地でお買い物も出来るらしいわよ?それも皆で?」
「勿論!」
「うん…あ、でも…いや、なんでも、ないよ。」
スノーが何かを言いかける。当然の如く、まずミストラルがその続きを聞こうとする。
「スノー、どうした…?私でも知らないスノーの秘密があったのか…?」
「…なんでも…ないよ…。」
メイジーはこそこそと言う。
「あれじゃない?彼氏とか…」
「スノーが?スノーが!?」
確かにスノーは小柄で、可愛らしい要素をしているが、人と関わるのが苦手なスノーに限ってそれはないだろうと、ラフィは否定をする。
「な、なに……なにも隠してないよ…」
そこで、ラフィは突然背後から声をかけられる。
「や、ラフィ。」
ラフィは振り返る。その姿は入学時や、ご飯を食べるときに毎度隣の席で見かける少女、アンだった。いつも三つ編みにしていた金髪の髪を今日はほどいているらしく、少し大人びて見える。
「アン!どうしたの?」
「いや、なんか楽しそうに会話してたから?」
メイジーは「楽しそう……?」と呟き、ミストラルはにししと笑いながらスノーの頭に手のひらを置く。そのスノーは何やらホッとした様子を見せる。
「アンも一緒にお話ししよう!」
「うーん、そうしたいのは山々だけれど、休み時間、もう終わるし?」
と、言われハッとし時計に目を見やると既に休憩時間も残り数十秒だ。長く話していたらしい。それに気付いた他の三人は自身の席に戻る。アンもラフィに手を振ると、遠く離れた前の方の席へ戻っていくのだった。
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…そして、校外学習の日が来た。校外学習というイベント、それは即ちそのまま校外で事を学びにいく、ということだが、内容に学習といえる様なものはあまりにもなく、修学旅行に近い。
「ねーメイジー、この新幹線、魔法車なのに、特に凄いこと起きないよ?」
「当然でしょ…魔法って別に便利なものじゃないし、基本的にこの世界のものは魔法で作られたものが多いから大体そんな名前が付いてるだけよ…。」
目的地へと車両は走る。現在は朝8時で生徒達は7時にほとんどが集会所に集まっていた。校外学習は基本的にルームメイトを班とし行動することになっている。しかし、当然会話は自由の為、それぞれ会話をしたい人物の元へと足で移動する。
「よっラフィ」
「アメイア!」
アメイアはぬっとラフィの座っている席の横から出てくる。車内を歩き回るのは勿論禁止であるが。
「こいつもいるよ。」
そういうとアメイアは隣を指差す。そのタイミングでこの位置に付いたのかアメイアの指差している位置に丁度ユウキが現れる。
「他に友達いないの?二人とも」
「あぁいるぜ。例えばアンとかな。」
「嘘つけよ…ユウキお前さっきアンにナンパして本気で殴られてたじゃん…」
そこで窓側の席に座るスノーが口を開く。
「…うるさい。」
そう言った彼女をユウキは見ると呟く。
「人形みたいで可愛いなぁ…」
その言葉を言い終わるギリギリでミストラルがユウキを肉を取り上い争う獣の睨む。いや、この場合は親が子を守る為に敵を睨むといった戦争を起こすのではないかという目だ。アメイアはそれに気付くとユウキに耳打ちする。
「逃げよう、やばいから逃げよう?」
「え、なんでって、ちょー!?」
アメイアはユウキを無理矢理引っ張って去っていく。ラフィも可愛いけどな、というアメイアの声が聞こえた様な気もするがラフィには完全に聞こえていなかった様だ。
「殴ってくるべき?」
「なにが?」
車両は進む。段々と目的地が見え見えてくると、生徒達は皆窓の外を見る。その窓の先には林と、とても大きな四角い建物が見えたのだった。
「あれが…?」
「そうみたいね。」
いよいよ、一年に一度の大イベントの始まりだ。そして目的地に到着すると生徒達は順番に降り、一人一人海遊館へと足を運ぶ。魔法使いの生徒達はその場を楽しみ、騒ぐものや、静かに観察するものなど、それぞれで自分の楽しみ方をしていた。それは当然ラフィ達も同様だった。
「ねーメイジー!これは!?これは空想生物!?」
「…それはイカよ。」
「イカ!」
メイジーは静かにこめかみを手で押さえると小さな声で呟く。
「騙されたわ…こんなところに空想生物がいるわけなんて…」
「メイジー!これ空想生物じゃねーの?」
しかめっ面をするメイジーをミストラルが呼びかける。メイジーは呆れた顔でその生物の名前を口にしようと、その生き物を目にする。
「これ…空想生物の…アラヌじゃない…」
それを見たメイジーは段々と顔がニヤついてくる。
「メイジー…こっちにも、なんかある…」
スノーが出口の先に指を指していた。
「スノー、そっちは何もないでしょ?」
そう言いながらメイジーは歩き出口の先を見るが、その先にあったのは大きな石像だった。
「なにこれ?」
「さあ?」
二人は生物の足元に説明板があるのに気がつくと説明板に近づき説明を音読していく。
「バビナス…?」
「空想生物…じゃない?みたいね…神話生物、らしいけど…。」
「絶滅したんだって。大昔の生き物…らしいよ…」
二人は、石像の顔を見上げる。その顔はおぞましく、イカの様にも、タコの様にも見える。
「なにこれ…」
こんなものが存在していたと思うとゾッとする。二人は目を見合わせるとその場を静かに去った。ラフィは二人に気付くとミストラルを呼ぶと、付いてくる。
「メイジー、スノー、どうしたのー?」
「なんでもないわよ。」
それから四人は売店へ行く。それぞれ所持金は少ないが、物が買えないほどでもなかった。
「イルカのぬいぐるみとかあるよ!」
ラフィは売店ではしゃぎだす。ミストラルはぬいぐるみに目を輝かせていた。
「かわいい、じゃないか。」
ミストラルはどうやらぬいぐるみが好きな様で、目を逸らしつつ、チラチラとラフィの持つイルカのぬいぐるみを見ている。スノーはそんなミストラルを見ながら微笑む。そしてメイジーは適当に選んだクッキーを手に持つ。店員が呪文を詠唱すると、合計金額が空中に浮かぶが、この文字は店員とメイジーにしか見えていないらしい。
「600円…」
メイジーは店員にお金を差し出す。メイジーは売店の出口を出る前に、ふと天井を見上げる。天井にはぬいぐるみが、魔術により浮いており、踊っている様にも見えた。メイジーは「ミストラル」と一声呼び、ミストラルがこちらを振り返ったのを確認すると天井へ指を指し、ミストラルが天井を見上げたのを確認し、改めて出口を出る。
「さて、先に電車に戻ろう」
そう呟きメイジーは、電車へ戻る。この校外学習に限り、魔法電車は貸切になっている。メイジーは先に戻り席に座る。すると小さな箱が手元に浮きながら来る。
「…?」
メイジーは首を傾げるが、すぐにそれがお弁当だということに気付く。
「もうそんな時間なのね。」
メイジーはお弁当箱を開けるのだった。
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電車は進む。次は一旦、生徒達で泊まるホテルへ向かう。電車の中で生徒達は買ったものの見せ合いや、見た生物について語り合ったりしている。メイジーはと言うと、買ったクッキーを合計でも半分ほどラフィに食べられていた。
「ねぇ?取りすぎじゃない?」
「そうかな?」
そんな会話をしながら電車は駅に着き停車する。
「ここかぁ、前半組は多分既にホテルについてるよね。」
「そうね。」
ラフィとメイジーとスノーとミストラル、そして何故かアメイアとユウキとアンの七人は並んでホテルへ歩く。教師達は先頭におり、安全を確保されている。
「なぁラフィ、何買ったんだ?」
「イカのぬいぐるみ」
「イルカじゃなくてイカなの?」
「アンは何を買ったの?」
「ネックレスよ。私の家は豪邸だからお金は沢山あるの。」
「自慢かな?」
ホテルへ着くと、教師にあらかじめ渡されていた部屋表の通りに部屋へ入る。当然、男二人とアンとは別れる。
「私達の部屋より広ーい!!」
「そう…だね。」
「広すぎるとなんか嫌じゃないか?」
四人はそれぞれの荷物を置く。
「そういえば、これから何するの?」
「いつも通りよ。でも、夜は外でバーベキューらしいわよ。」
「なんでも魔術の火で焼いた特性のものらしいぞ。」
「楽しみ…」
四人は雑談をしながら、時間を過ごすのだった。その他、それぞれはホテル内で買い物をしたりすることで時間を潰す。良い感じに時間を潰せると魔法使い達は大浴場へ足を踏み入れる。
「わーーーい!大浴場だー!」
「広い…わね」
大浴場とはいえ混浴ではない。当然彼女達は女風呂だ。
「ねぇ、ミストラル…人いっぱい…」
「あぁ、スノーは人が多いの苦手だったな…」
シャワーを浴びる。はしゃぐ人も多く、度々何かが宙を舞う。さすがのラフィもこのノリにはついていけないのか、微妙な顔をしていた。特に嫌そうな顔をしていたのは、ラフィの両脇にいるアンとメイジーだ。
「「うるさい」」
2人で同時にそう言うとさっさと身体を洗って人の少ない露天風呂へ行く。ラフィも急いで身体を洗うと2人についていくのだった。ラフィが外へ出ると、アンとメイジーの他に1人、先に露天風呂へ来ている魔法使いがいた。
「…ゼロ」
ラフィはその名を呼ぶ。
「銀髪の。」
ゼロもラフィの特徴である銀髪と呼び返す。アンとメイジーはここから見える絶景に目を奪われている。ラフィはゼロの隣に座る。
「お風呂、気持ちいいね。」
「…ふん。」
あくまでゼロは一歩距離を置く。ラフィはそれでも話しかけようとする。
「ねぇゼロ、友達になろうよ!」
沈黙。数秒間静まり返る。ゼロは一瞬悲しい顔をする。
「……嫌。貴女達みたいな底辺魔法使いと触れ合う気はこれっぽっちもない。」
「そっか…」
ラフィには少し理解できなかったが、彼女に嫌われていると感じた。ゼロはこの空気から逃げだそうと、その場を立つ。ラフィも釣られて立つが、とても追いかけようと思える空気ではなかった。ラフィはアンとメイジーのいる方を見る。するとそこには、とても美しい山があるのだった。
―――――――――――――――――
皆がお風呂に入り終わったらしく、皆それぞれ外に集まっていた。大自然に囲まれているのだろうが、既に暗く、焼肉を焼く為の魔術の炎だけが灯りのとやっていた。魔法使いの中には光を灯す呪文で暗闇を凌ぐものもいた。しかしラフィは、その場から離れ森の奥へ入っていた。
「暗ーい…ここはどこなんだろう…」
あまりに暗すぎて、仲間とはぐれてしまったのだ。ラフィは強がりではあるが、怖がりなので涙目で帰り道を探す。しかもラフィは光を灯す呪文の授業の時は熱で休んでいた為に覚えていなかった。
「光の魔術使えないし…どうしよう…」
静かに音を聞いてもよくよく周りを見ても帰り道は見当たらない。自分の今歩いている足元すら道ではなく草むらだ。連絡手段を取る魔術は高学年で習うもので、使えるはずもなく、ラフィは助けを呼びながら森を進む。
「おーーい…みんなー!…」
アリアの森の時は昼間だった上にほうきがあった。しかし今ラフィに使える魔術でここを切り抜けるのは難しかった。
「まさかはぐれちゃうとはなー…。どうしよう…朝になるまで待つしかないのかな…」
その時、声が聞こえた。人間の声ではない。何故かラフィは本能的に恐怖を感じる。
「この声は…まさか…」
それは声、正しく遠吠えだ。この森については特に話されてもいなかったし注意もされていなかったが為に危険性に気を配っていなかった。ラフィはその場に座り込む。
「このまま…食べられて終わっちゃうのかな…」
絶望に浸り、希望を捨てる。絶望の底なし沼だ。最後の希望として自身の着ているローブを漁る。出てくるのは小さな安物の杖や、筆箱などだけで、どれもこの場を切り抜けるには物足りなかった。ラフィは裏ポケットに手を忍ばせると、何かを掴む。
「ん……?これは…?」
取り出すと、それは、入学式の日に出会った少女に貰った緑の色をしたアイテム。確かこれは通信機として使えたはずだ。しかし、上級生はこの校外学習には着ていない。そもそもこの校外学習は1年生の場だ。
「…どうしたら…」
呼び出す方法もわからないし、呼び出せたところで意味がない。しかし、そこでラフィはこの魔具の元主の言葉を思い出す。
「そういえば、通信機としての使い方は本来の使い方とは違うって言ってたような……でもどうやって使うものなんだろう…」
唯一残された希望を握りしめる。そしてラフィは空に浮かぶ綺麗な月を見上げる。
「たす…けてよ…」
口から漏れたその言葉に同調するように、魔具は光を帯び出す。その綺麗な緑の光はラフィの胸を貫く。
「光……?」
ラフィは立ち上がり魔具をかかげる。すると光はラフィの後ろへ向かって続いていることに気が付く。
「これって…もしかして帰り道?」
再度、遠吠えが聞こえる。ラフィは一瞬怯むが、ハットを深く被ると光の示す方へ走り出す。
「こっちに……何か…!」
走り続けて10分ほど経っただろうか、習った回復魔術で上手くスタミナを保ち続けて走り続けるとその先に光が見える。
ラフィはその光に手を伸ばすのだった。