【魔法学校アリア(4)】
「はーい!今日は空想生物と触れ合う授業だよー!」
教師の声が飼育室に響く。空想生物の管理は基本的にここで行われる。
「メイジー、昨日は眠れなかったの?」
「ん?あぁ…あの青髪のせいでね…今日はいないみたいだけど。ラフィはぐっすり眠れた……ようね。」
「うん!ミストラルとスノーはどうだった?」
「あ?…あー、私はスノーと一緒に寝たからぐっすりを超えた眠りを堪能したぜ!」
「暑かった……」
ラフィは苦笑いで返す。メイジーも眼にクマができてる割には空想生物との触れ合いが楽しみの様だ。またしばらくラフィとメイジーは会話をする。
「昨日の宿題やった?ラフィ。明日提出の。」
「あー、昨日貰ったやつ?」
この学園では生徒達の授業日と休日がバラバラな為、習っていない部分の説明プリントと問題が宿題で出される。
二人はしばらくの会話を終えたあと前を向く。メイジーの目は今までで1番輝いている。空想生物が本当に好きなのだろう。教師は200人余りの生徒達に説明をする。
「今日触れ合う生物はトカゲよ。」
「は?」
生徒達は皆口を揃えて聞き返す。
「あー、まぁそう言った方がわかりやすいかな?って…」
そこで飼育室の端にいたのだろうアメイアが質問をする。
「アロン先生ー、トカゲって別に空想でもなんでも…いやそもそも実在するならなんで空想って言うんですか?」
「良い質問ね。こほん、今回皆に見てもらうのは羽根の生えたトカゲよ。名称はトトリゴン。変な名前だけど、あまり触られすぎるとストレスで死んじゃうから気をつけてね!…まぁ200人もいるし、順番は長くなるけど…」
空想生物担当なのであろう魔法操師、アロンが一度咳払いをするとアメイアの質問の後半に答える。
「で、何故空想生物なのか……それは……」
「それは…?」
授業に関係ない話をしていた魔法使い達も全て静まる。アロン先生が息を吸う音が聞こえると生徒の中にはぎゅっと拳を固く握る者も現れた。
「わかんないっ!」
アメイアはやれやれ、と言う顔をし、他の生徒達は笑うものや、真顔のものもいた。ラフィはメイジー、ミストラル、スノーの四人で呆れた顔をする。
「ま、まぁ面白かった…よね、メイジー!」
「え…あ、そ、そうね?」
「いや普通に面白かったよな!スノー?」
「全然」
アロン先生は別にウケ狙いで言ったわけではない為かこの空気にむっとする。
「ほーらほら、皆、トトリゴンと触れ合う…とはいっても、やっぱり人が多いから人数を制限しよう!…んじゃあ、20人ほど選ぶね!」
200人の生徒達は口々に自分が自分がと手を挙げる。特にメイジーの目はまさに飢えた獣のようだった。
「えーと、じゃあアメイアくん、さっき質問してくれたからねー、あとは…」
次々と生徒は選ばれていく。メイジーの目は段々と怖くなる。
「えーと、じゃあ最後にそこの…メイジーちゃん!」
メイジーは無言で片手を上に掲げたまま前へ出る。ラフィ、ミストラル、スノーはいつもと違うメイジーにかなり驚いていた。
「空想生物…そんなに可愛いのかな?」
「あぁー、生物によるがな。私は家に犬型の空想生物を飼ってたからなぁ。」
犬型の空想生物という言葉にスノーはビクッとする。
「スノー?大丈夫…?」
「だい…じょうぶ…」
「ん?あぁ、こいつ小さい頃、私のペットに噛まれ…」
スノーはその口を止めようとかなり身長差のあるミストラルをぽかぽかと叩く。ミストラルは身長が180、スノーは140。40センチも身長差がある二人を155センチほどのラフィは眺める。すると突然、彼女達の、いや生徒全員の元にビジョンが出現した。どうやら空想生物と魔法使い達の触れ合いを映像越しに見られるようだ。
「メイジーは最後だねー。」
「まぁ、最後に選ばれたからなぁ…」
「目…怖かった…」
しばらくするとメイジーの番が来る。映像だけでもわかるのはメイジーの鼻息が荒くなっているということだ。
「トトリゴンちゃん…おいで…おいで…」
そんな言葉も聞こえた。トトリゴンの姿が見えた。本当にトカゲに羽根が生えただけの姿でラフィ達は対して可愛いとも思わなかったが画面先のメイジーはトトリゴンをプロの手つきで愛でていた。
「あれは…完全な愛好家、だな。」
ミストラルのこの一言には誰もが頷くだろう…。
そして授業は終わりを迎え、普段通りお風呂に入り夕食を済ませると自分達の部屋で雑談をしたあとにベッドに入る。ラフィは眠る前に考える。ここに来る前、ここに来たあとのたった数日で自分はとても成長したな、と。恐らくそれは出会いがきっかけなのだろう。ラフィはこれまでまともに外に出たことがなかったのだ。
生まれ、そしてある程度育ち、しかしその時点で自身の父親が死に。何年も家にいたのだ。こうイキナリ解放されると一気に成長するものなのだろう。
ラフィは少ししか見たことがない父の顔を思い浮かべると涙が頬を伝うのを感じる。
「…ラフィ、起きてる?」
メイジーの声だ。
「起きてるよ、今の時間は?」
「2時、もう多分皆寝てる…ねぇ、ラフィ?貴女は、何になりたいの?」
「…何って…メイジーは?」
魔法使いは魔術、魔導の腕前を上げ、仕事に就くのが普通だ。しかし、階級を上げ魔法操師になる、という道もある。
「…私は…決めてない…わ。」
「そうなんだ…私は、第四魔法使いの座に入ろうと思う。」
「…あの座に?」
「うん、人間界へ行ってみたいな、って。人間さんに会って、おはなししてみたいなって。」
「ラフィらしいね。でも座は危険もあるのよ?」
「危険?」
「えぇ、目的はわからないけど、第四魔法使いの座に対抗するテロ組織があるのよ。第四魔法使いの座が幾ら強いとはいえ、彼ら彼女らは多くても四人、対してテロ組織の人数は十二人らしいわよ。」
「十二人!?それって、倒せるの!?」
「ラフィ、静かに。まぁ、魔法警察なんかも協力してるみたいだけど…何より怖いのが、その組織、この学校や、私達の進むべき先の学園の破壊を狙ってるって噂よ。」
「えっ、それって、実質この国を終わらせるってことじゃ…」
魔法学園のシステムを終わらせる。それは次の世代の魔法使い達を潰すこと、更にいえば自分達の命の危険もあるのだ。そこで、二人の会話を聞いていたのか、寝ているスノーを抱き枕にしているミストラルが小さな声で話す。
「うるさいぞ、二人とも。あと…私も聞いた噂なんだが、この学校にも潜伏してるその組織の連中がいるらしい。教師あたりだろうけどな。お前らもさっさと寝ろよ…」
「……うん。」
「そうね、いきなり話しかけてごめんねラフィ、お休み。」
彼女達は眠る。今日はラフィとスノーが休みだ。ラフィはスノーと仲良くなれるかな、と考えながら意識を遠ざけていくのだった。
そして、間もなく朝が来てしまう。二時まで起きていたせいで起きるのが遅かったのか、メイジーとミストラルは既に授業へ行っていた。スノーは朝食を食べ終え戻ったのか、部屋で私服姿になり白雪姫の本を読んでいるようだ。
「…おはよ、ラフィ。」
「おはよう、スノー。」
それだけの簡単な挨拶を済ませるとラフィは私服に着替える。寮や集会所をうろつく程度ならば私服でも構わないルールだからだ。ラフィはほとんど誰もいない集会所で朝食を食べると、集会所に立っている門番役の魔法操師に外出許可を取る。
「ね、外行ってもいいですか?」
「ん?えーと…君はラフィ・ドゥ・ペレファン、ね。良いよ、記録しとくから行っておいで。」
ラフィは「あ」と言い走ってスノーを引っ張ってくる。
「…え、ちょ…何…ラフィ。」
「いーからいーから!」
そして門番にスノーの外出許可も取る。
「スノー、私がほうきに乗せてるから、遊びに行こう!」
「どこへ…」
ラフィはスノーに門番に聞こえないよう小さな声で伝える。
「…アリアの森。」
ラフィはえへ、と笑うとスノーも少し呆れ顔のまま微笑むのだった。