【魔法学校アリア(2)】
ラフィとアンの二人は自身の部屋を探すが、まだ扉の一つも見えてこない。寮の廊下は赤いじゅうたんが引かれている。二人はしばらく廊下を歩くと階段があった。どうやら上の階が男子用、下の階が女子用の階層となっているようだ。二人は下の階へ降りていく。
「階段、長いね。」
「…そうねー。」
適当に会話をしているとあったいう間に階段を降りきったようだ。前には広い廊下があり、「大浴場こちら」の札がある。そして右には細い廊下が続いており、その先に扉が並んでいるのが見える。二人は細い廊下を進む。しばらく歩いた末にラフィは自分の名前が記された紙の貼ってある部屋を見つけた。どうやらアンとは別の部屋のようだ。また、紙を見た感じだと、部屋はそれぞれ4人部屋となっている。
「あー…アン、また後で。」
「うん、また。」
一言、に近い言葉を交わし、ラフィは部屋の扉を開け踏み込む。部屋はそこそこ広く、十分快適に暮らせるだろう。そして何より文句の一つも言わせないとでもいうかの様な部屋の綺麗さが目立つ。ラフィは思わず声が漏れる。
「これから…ここに…。」
部屋に誰かがいる気配こそ無かったが、何か声が聞こえる。どうやら部屋の隅にある二段ベッドの二段目から聞こえたようだ。ラフィは恐る恐るベッドに近付く。
「…誰か…いるの…?」
ゆっくり、一歩ずつ近付くと、近付いたことに気がついたのか声の主は再びラフィに向けて言葉を放つ。
「あんたが…ラフィってやつ?」
冷たい声音だ。ラフィは二段ベッドの梯子を登るとそこには寝転びながら本を読む、いや本で顔を隠す綺麗な金色の髪の少女がいた。ラフィは答える。
「うん!私がラフィ・ドゥ・ペレファン!…というか、なんでわかったの?」
「……別に、なんとなく。というかなんで登ってくるのよ。貴女のベッドはこの下、一段目よ。」
「え?…あ、ごめんね!」
ラフィは慌てて降りようとするが、足を滑らせ落ちてしまう…が、地に落ちた衝撃はないどころか自身の体がふわりと浮いていることに気付く。
「…怪我したら、どうすんのよ。」
「…す…すごい……もう、魔術を?」
少女は本に集中してるのか、もう答えない。ラフィは名前だけでも聞いておこうと考える。
「ね、ねぇ!名前は?」
「……メイジー。」
「え?」
ラフィは聞き返してからハッとする。怒らせただろうか、と。しかし、メイジーと名乗る少女は改めて名を口にする。
「メイジー・ブランシェット。よろしく。」
「…うん!よろしくね!」
ラフィは返事が返ってこないことを返事として受け取るとベッドのあるところとは真逆にある机へ向かう。机が4つ、対称に並んでいるところを見ると、恐らくそれぞれの机なのだろう。そしてラフィが気になったのが机にそれぞれ置いてある大きなハットである。まさに「魔法使い
ウィッチ
」と言わんばかりのものであった。机には名札の様なものが置いてあり、すぐに自分の机がどれかわかった。ラフィは真上から見て右上にある机に置いてあるハットを手に取る。ハットは他に2つあるが、あと一つはメイジーが取ったのだろう。ラフィはメイジーを除く他のメンバーがまだ来ていないことを確認する。
…ここでラフィはローブの内側が緑色に輝いていることに気がつく。正確にはローブの裏ポケット、入学式前に出会ったクロユリに貰った魔具だろう。ラフィが魔具を取り出すと魔具から声が聞こえる。
「あー、あー、聞こえますかー?ラフィちゃん?」
「クロユリさん!」
ラフィは興奮する。この魔具が通信機であると気付き、また魔具を使っているという自分に達成感の様な何かを感じたのだろう。
「それで、どうしたんですか?クロユリさん!」
「いやー、せっかくだから挨拶をしておこうとね!…んまぁ、この魔具本来の使い方じゃないけどね。えーと…そう、元気?」
「元気です!!」
クロユリはわざとらしく驚くと言葉を続ける。
「そう!なら良かった。ところで君達は何歳だったかな?」
「10歳です!」
クロユリは「うーん…」としばらく唸るとまた元気な声でラフィに会話を投げる。
「うん、まだまだ青いね!」
魔法使いとは人間とはまた別の生き物で寿命が200年もある。つまり10歳はまだ「幼い」のだろう。
「青い、とは言っても私も年齢感覚を理解しきってはいないんだけどね!…まぁ、魔法使いの年齢感覚なんて無理に覚える必要はないさ、生きていたらどんな生物も結局は死に至るものさ!」
「は、はい…?」
ラフィは目をぐるぐるとさせていた。もっとも、通信機の役目を果たしているだけの魔具ではお互いの顔を見ることはできないが。
「っと、そろそろ授業だ、切るね!またかけよう、ラフィちゃん!…あー、そうそう、あとその魔具はこれからきっと君の役に立つからね、大事に持っておくんだよ!」
その忠告を最後に通信は切断される。
「…私の…役に…。」
ラフィが呟くと同時に勢いよく部屋の扉が開けられる。それと共に少女が二人入ってくるのが見える。一人は赤髪で、もう一人は赤髪の後ろに隠れながら歩いてる為に姿がよくわからない。赤髪は部屋の扉を勢いよく閉めると、赤髪に隠れている少女が扉の音にビクッとする。赤髪はラフィを見つけるとニッと笑う。
「やーやー!私達の部屋はここかなぁ?ここだな!うん!」
「その…ミストラル、ここで…合ってるの…?」
ミストラル、そう呼ばれた赤髪の少女は大声ではっはっは、とは笑う。
「大丈夫さー!紙は貼ってあったから…な!!!…あ、私、ミストラル・バレーだ!よろしくな!」
「合ってるのかな…心配……」
「ほーら、スノー、お前も自己紹介するんだ!」
スノーはミストラルに無理矢理前に出される。その姿は誰が見ても見惚れてしまうほどに美しく、白い肌に黒いさらさらとしたパッツンと前髪の揃えられた髪が特徴で、見た感じ身長が180は超える赤髪とは正反対に140cmもないのではないかと思うほどの身長差があった。
「…スノー・ホワイト…と、申します…その…よろしく…」
ミストラルに一度呼ばれていた為わかっていたスノーという名前と共にホワイトという名前が明らかになる。ラフィは頭を一度下げてから挨拶を済ますと、部屋の奥からまた覇気のない声が聞こえる。
「メイジー・ブランシェット、よろしくー」
ミストラルとスノーはメイジーの声に驚いたのか、周りを見渡す。
ラフィはメンバーが揃ったことに少し感動を覚えると口角が自然と上がってしまう。それを隠そうとラフィは手に持ったままのハットを頭に被り顔を隠す。この部屋のメンバーはラフィ・ドゥ・ペレファン、メイジー・ブランシェット、ミストラル・バレー、スノー・ホワイトの四人で決定された。いよいよ学園生活が始まるのだと、ラフィはワクワクと高揚する気持ちを抑えようとするが、その努力は一つの事実に気付いたことにより意味をなくす。ラフィは改めて考える。そういえばメイジーの顔を見てないではないか、と。
「メイジー!」
返事にはあまり期待せず呼んでみると、すぐに返事が返ってくる。
「なに?」
ラフィは少し驚くが早速メイジーに頼みごとを告げる。
「顔みーせーて!」
「………なんで?」
ラフィはメイジーの反応が冷たいことに少し頬を膨らませてムッとする。
「なんで隠してるのー!」
スノーはポカン、としている。そのタイミングでミストラルが何か書類のようなものを4枚持って部屋の真ん中のテーブルの席に座ると言う。
「ねー、なんか紙が玄関に挟まってたぞー?」
ミストラルの言葉に反応し、ラフィとスノーはミストラルとその紙の元に集まる。そのうち一枚が宙へ浮きメイジーの元へ浮遊したまま移動する。スノーが一枚を持ち読み上げる。
「…明日からの1日…の予定表……かな。朝は…6時に起きて…7時に朝食…それから…」
続けてスノーは読み上げ続けるがラフィはその話を聞かず、というよりも紙の一部分に釘付けとなっていた。ラフィの目線は紙の1番下の行にあった。ラフィは呟く。
「…空想…生物…」
その言葉を聞いていたのか、未だベッドに寝転んだままのメイジーはラフィに説明する。
「…空想生物
ファンタジアーズ
ね。ま、貴女達が自分達の階級を正しい読み方のウィッチではなく、そのまま魔法使いと呼ぶように、ファンタジアーズと呼ぶものは少ない、わね…えと、空想生物っていうのはつまり人間界には存在しない生物のことを指し…」
ラフィは説明を始めるメイジーに驚く。確かにさっき出会ったばかりだし、それほど口も交わしてないが、それでもわかる。ここまで何かについて語るような子ではなかった、或いはないだろうと。しかし、その答えはすぐにラフィの頭に浮かぶ。
「…好きなの?空想生物。」
メイジーは「ゔ」と言葉とは形容し難い鳴き声をあげる。恐らく図星なのであろう。ラフィはニコッと笑う。
「ペット、可愛いもんね!」
メイジーは今まで以上の小さな声で何かボソボソと呟く。ラフィはその声を聞き取ろうと耳をすます。
「…その…別に…そんなんじゃないし…」
…と、どうやら否定をしているようだが、明らかに隠せてはいない。ラフィはそれを「かわいい」と感じたようだ。そしてまた空想生物に興味がわいたのだった。
唐突に、ラフィはルームメイトと仲良くなりたいと思う。ラフィは早速気になっていた質問を3人にする。
「ねぇ、皆はなんで魔術の学科を選んだの?」
その質問を聞くとミストラルはまたもニッと笑うと、こう答える。
「楽しいことが、待ってるからさ!」
「楽しいこと?」
ラフィは聞き返す。ミストラルは少し悩むそぶりを見せた後にラフィに返す。
「何が楽しいことかは…わかんないな!けど、こっちには何かがあるって第六感?が働いたのさ!」
「そう、なんだー…?」
ラフィは、いやスノーも理解できなかったようだ。ラフィとスノーの二人はしばらく首を傾げていたが、スノーはハッとし、質問に答える。
「私は…その…魔術で、人を幸せにできるって聞いたから…」
ラフィはそれは魔導でもできるのではないか、と質問をする。
「ほら、魔具だって…ほとんどは…魔術で作られたものだし…」
なるほど、とラフィは一瞬思いかけるが、それでは魔具を使う魔導を習う意味がないのではないか、と思い再度質問を重ねる。スノーは少しだけ優しい笑顔を見せてから答える。
「魔術はあくまで魔具をつくれるだけ…だよ、ラフィちゃん。魔具の扱いだけを極めるなら魔導を習わないと…」
そこでしっかりと納得する。なるほど、つまり魔術を習ったものが魔具を作り、その魔具を魔導を習ったものが魔具を扱う。…とするとクロユリの学科は魔術なのだろうか。つまり案外部屋が近い、なんてこともあるかもしれない。ラフィはそう思った。スノーは部屋の壁に掛けてある時計を見ると少し何かに驚いたのか声量を上げて話す。
「皆…そろそろ昼食の時間…集会所…行かなきゃ…」
するとミストラルは「よし!」と気合いを入れて席から立ち上がる。
「先に行ってるな!」
そういうとミストラルは部屋を出て行く。スノーはそれを追いかけるように玄関まで走るが、少しラフィの方を振り返ると、手を小さく振る。そしてそのまま玄関の扉を開けミストラルを追いかける。ラフィはメイジーに話しかける。
「…メイジー、行こっか?」
「……私は、後でいい。」
少しの間沈黙が生まれるが、しばらくするとラフィはメイジーに再び話しかける。
「行こうよー」
「…嫌。」
ラフィは「嫌」の理由がわからなかった。もしかすると自分は彼女に嫌われている、そうとも思うほどに混乱するが、メイジーはすぐにその答えとなる言葉を漏らす。
「恥ずかしい………から……。」
「え」
ラフィは言葉が出なくなる。この少女は恥ずかしい、そう言ったのだ。
「…大丈夫だよ!行こう?」
ラフィはここまでくると意地だ、というように激しく反撃するが、メイジーが動く様子はない。ラフィはしばらく粘ろうとするが、やはり諦めてしまったのか肩を落とし部屋を出る。玄関の扉を閉める直前にベッドから降りる音が聞こえたような気もするが、ラフィは気にせず集会所へ向かうのだった。
ラフィが集会所に行った時には既にごちそうは机に並んでおり、見るだけでお腹が空いてくる。そして見た感じ、男子も女子も、魔術も魔導も関係なくここに集まるものなのだと理解する。そして何より、部屋に入る時に一度分かれたアンと再び会える、そう思ったラフィは自身の席を見つけ、近付くと、案の定アンは既に席に座っていた。
「あら、ラフィ、元気でした?」
「うん、元気だよ!」
二人は笑顔でお互いを見る。そしてラフィは周りの人間が既に食べ始めているのを確認すると、手を合わせ「いただきます」と言うと、目の前のごちそうを口の中に放り込む。見た感じだと今食べたものは肉、なのだろう。そしてその肉は口に入れた途端に味を理解できる。なんの肉かはわからない、しかしこれは有無を言わさずの美味であり、高級なものであると。ラフィは次々と目の前のものを食していく。
「…美味しいね!」
とラフィはアンを見るがアンは食べ物を少しずつ小皿に取り、少しずつ食べていく。まさに礼儀の化身、誰もがそう思うほどの美しさだった。しかしラフィはそれに疑問を抱く。
「どうして、少しずつ食べるの?」
「…その方が、太りにくいし…こほん、美しいからよ。」
「そうなんだ?」
ラフィはそう言いながら周りを見渡す。すると後ろに見覚えのある少年の後ろ姿があった。
「…アメイア?」
「…ん?その声は…ラフィ!ラフィじゃないか!…後ろにいたのか!」
二人は再開を喜び握手を交わす。しかしすぐにアメイアは席を立ちあがる。
「おっと、ごめんラフィ、ボクは用事があるからそろそろ行かなきゃ。」
「あぁうん、ありがと、また会おう。」
二人は会話を終える。そしてアンもしばらくすると食べ終わり、席を立つ。
「ラフィ、私もやることがあるから先に戻ってるわね。」
アンは急ぎ足で集会場の右扉へ入っていく。皆忙しいんだな、とラフィは思う。ラフィも一息つき席を立つとゆっくり進みだす。
が、途中で人とぶつかってしまう。そこまで大きな衝撃ではなかったがラフィは必死になって謝る。
「わわ、ごめんなさい!」
ぶつかった相手は自分より身長の低い青い髪に炎の如く赤き眼を持った少女だ。少女は無言のまま去る。ラフィは少女の方を振り返るが、既にそこに少女はいなかった。
「…どこにいっちゃったんだろ。」
ラフィは再び歩き始め、自身、いや自分達の部屋へ帰る。そこには既に他の3人は揃っていた…いや、何かおかしい。メイジーだ、メイジーがベッドから降りている。更に言えば顔が見えている。ラフィはメイジーに近付く。
「メイジー!」
「来ないでよ。」
そう冷たく告げたメイジーの言葉はラフィの心に深く刺さるが、すぐにスノーがフォローに入る。
「ほら…メイジーさんは…私と同じ…恥ずかしがり屋なんです…よね?」
「…いや貴女ほどじゃないわよ。」
そう鋭いツッコミをするメイジー達の漫才を見てミストラルは言う。
「いやー、今日だけで皆とこんなに仲良くなれてよかった!よな!スノー!」
スノーは微笑む。ラフィは途中から進むのを止めていた足を一歩、前に踏み出す。
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…そして結局、あの後ラフィは特に今までとなんの変化もない、いや敢えて言うならば仲間達と共に普通の生活を1日送ることで終わった。ルームメイト、つまりメイジー、ミストラル、スノー、ラフィの四人だ。
彼女達は普通に夕食を食べ、皆で大浴場に入り、それぞれのベッドへ入ると電気を消す。目を瞑るラフィは入学式前のワクワクよりも強い気持ちを、明日からの授業に向ける。ラフィは眠れるまでの間、考える。
これからの9年間どれほど楽しいのか。ラフィはしばらく興奮する気持ちを抑えきれずに、中々眠れなかったが、やはりしばらくすると眠ってしまう。彼女達は、どんな夢を見たのだろうか、4人は少し微笑む程度の表情で眠っていた。
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彼女達は目を覚ます。どうやら既に朝のようだ。ミストラルだけはまだぐっすりと眠っていたがスノーが揺さぶり起こす。彼女達はルームにある洗面台を使い順番に顔を洗い歯を磨く。服を制服、ローブに着替えハットを被る。ハットには緑色のリボンがついており、自分達が1学年だということがよくわかる。
彼女達は寮の壁に貼ってある時間割を確認する。この学校ではクラスという概念はなく学科別に授業を受けるらしいが、休日と授業のある日は生徒によってバラバラなので生徒で部屋が詰まる、ということはない。時間割の通りだとラフィは今日、火曜日と明後日の木曜日が休みとなっている。他のメンバーも時間割を確認するが、どうやらラフィ以外は授業の様だ。とはいえ、先に全員で朝食だ。その後にメンバーとは一旦別れることになる。
「じゃ、ラフィ、私達は先に行ってくるからな!」
「行って……きますね…。」
ミストラルとスノーは挨拶を済ますと部屋を出て行く。ラフィはメイジーの方を見るが、メイジーも準備ができた様だ。
「…じゃ、ラフィ。私も行ってくるから。」
メイジーはラフィの隣をそのまま通過すると玄関の扉を開け出て行く。現在の時刻は6時30分。まだ朝食の時間まではまだ30分ある。そして授業自体は8時から。それならばその間に何か出会いを起こすことができるのではないか、とラフィは考える。
「うん…!良い友達ができるといいな!」
ラフィは一度伸びをすると同じく集会所に向かう。途中の廊下は扉が並びやはり少し不気味でしばらく歩くと大きな廊下が見える。そこのすぐ左にある階段で地上まで上がるともう集会所だ。ラフィはアンの隣に座る。
「おはよ、ラフィ。昨日はちゃんと眠れたかしら?」
「いや全然だよ、ま、時間割見てなかったから今日授業あると思ってたせいなんだけどね!」
「あら、ラフィは今日はお休みなの?」
「うん、だから今日は友達探しをするんだ!あと…学校探索?」
「まあ、素敵ね!でも怒られないようにね?特にエクサ先生は怒ると怖い上に、怒ってるって噂よ!」
「常に?」
二人は朝食を摂りながら会話を続ける。
「えぇ、エクサ先生っていうのは、確か魔導側の魔法操師らしいんだけどね?いっつもどこかを睨んでるんですって。まぁ…噂なんだけどね?お姉ちゃんに聞いたらわかるかも。」
「お姉ちゃんいるんだ…!」
そこで後ろに座っているアメイアと更にその隣に座るアメイアの友人と思わしき黒髪の少年が話に混ざってくる。
「エクサ先生、マジで怖いぜ、こいつさっき怒られたんだ。」
とアメイアは隣の少年に指を指す。
「はあ…部屋で暴れたのは俺じゃねぇっつってんのによ……ん?あんた、綺麗な銀髪してるな、珍しい。しかも長いから美しさが目立つな…あぁ、本当に綺麗だ。」
10歳とは思えないあからさまなナンパをしてくる少年の名をアメイアがラフィ達に伝える。
「こいつの名前はユウキ・トウジョウって言うんだ。ボク達もさっき知り合ったばかりだがな。」
そこでラフィは「トウジョウ」の名前に聞き覚えがあることに気付くとすぐにクロユリのものだと理解する。
「ねぇ、ユウキはお姉ちゃんとかいる?」
「え?あぁ、いるぞ。いっつも実験失敗で怒られて帰ってくるクソみたいな姉がな。」
「そうなんだ…」
その会話にアンが割り込む。
「てか、あんたさっきラフィをナンパ、したわよね!ぶっ飛ばすわよ?」
ラフィは首をかしげる。どうやらナンパという言葉を知らないようだ。
「ラフィは知らなくていいわ。ユウキとやら、謝りなさいよ?」
「あぁはいはい悪かったよごめんなさーい。」
ユウキは適当に答える。それにイラっときたのかアンは席を立ちユウキの胸ぐらを掴む。
「…んだよ。」
「………」
アンは無言で胸ぐらを乱暴に放すとユウキを睨みながらラフィに言う。
「じゃ、私は授業行ってくるから。」
ラフィは周りを見渡すが、気付けば半分の生徒が消えていた。恐らく授業に行ったのだろう。寮側とは別の、教室への扉の方を見ると最後尾にスノーとミストラルがいるのがわかる。そしてアンに釣られるようにユウキとアメイアも授業へ行く。どうやらこの場に知り合いは既にいないらしい。ラフィは友達作りをする前に学園アリアに入学してから出来た友達の情報を整理する。
まずはここに来る前出会ってから何かと縁のあるアメイア・イージス。茶髪の髪に茶色の瞳、一人称はボクだが男らしい性格をしている。
「彼とはこれからももっと仲良くなれそうだなぁ…」
その次に出会った上級生のクロユリ・トウジョウ。そしてその弟と思わしきユウキ・トウジョウ。ラフィはクロユリが落ちこぼれの如くユウキに扱われているのが気になった。
「…クロユリさん、良い人なんだけどなぁ…」
そして次に出会ったのが、この集会所で偶然隣になり縁が出来たアン・ミラー。金髪金眼で、長い髪を持ち、頭にはピンクのカチューシャをつけている。先程もナンパに対し怒りの感情を見せたところを見ると、常識的な人間かつ優しいのだろう。
「ナンパって…なんなんだろう?」
が、ラフィはナンパという単語すらそもそも知らないのである。そしてラフィが何より仲良くなりたいと思った相手はルームメイトだ。まずはメイジー、金色の髪、そして赤い色をした眼を持つ少女だ。寡黙だが、恐らく恥ずかしいだけ、なのかもしれない。そして赤髪で同じく赤い目をした身長180を超える少女、ミストラル・バレー。そして彼女と正反対に身長が低く、いつもミストラルと共にいるスノー・ホワイト。スノーの髪と目は白く、また彼女自身が感情豊かでありながら隠しているような寡黙ぶりなので、余計に美しさが目立つ。
そこでラフィは昨日ぶつかった少女のことを思い出す。彼女は自身の銀髪以上に珍しいであろう青い髪を持ち、それとは逆にミストラルやメイジーとはまた違った赤い眼を持った少女だった。彼女はどちらの学科だろう?彼女にもう一度会いたいと思ったが、ラフィは首を振ると独り言を呟く。
「もっと、色んな人と話さなきゃね!…まずは友達を沢山作らなきゃ…!」
ラフィは周りを見渡し、仲良くなれそうな人を探す。キョロキョロしているとラフィは話しかけられる。
「なーにしてるんだいっ!」
ラフィは驚いて後ろを振り返る。そこにはぶかぶかのローブを着た茶髪の身長低めの少年がいた。
「貴方は?」
「ぼくの名前はアーレ!アーレ・アースティンだよ!君は何を?」
「私はラフィ・ドゥ・ペレファン。ラフィとドゥが名前だけど皆はラフィって呼ぶよ。今は友達になれそうな人を探してるんだ!」
「じゃあボクと友達になろうよ!」
「いいよ!…ところで、名前…」
ラフィはその苗字が学園長のものと同じだということに気がつく。
「うん?あー…そうだね!ボクは確かにここの学園長の息子だね!だから色々知ってるよ!質問でもなんでも!」
ラフィはまず適当に一つ質問をしてみる。
「この学園はどれくらい広いの?」
「んーと、そうだねー、まず寮は魔導と魔術で分かれてて、女子が地下6階まで、男子が上さ。」
「6階?」
「あれ?知らない?この学校はあくまで魔法の基礎を習う場所、ここに6学年分…あー、つまりは6年通ったら次の学校に行けるんだ。とはいっても、実質二つしか進路はないけどね。」
「そういえばそんなことを聞いたような…」
「ふーむ。それで、教室は学年と学科で別れるよ。教室は一つ200人くらい入れるのかな?」
「広いね!?」
「うん、この学校はぼくのパパと第四魔法使いの座で作ったらしいからね!」
「…第四…なんて言ったの?」
「うーん、親の話はちゃーんと聞くべきだよ?第四魔法使いの座って言うのは、階級関係無しに、優れた人物4人で構成される部隊かな。彼らは人間界で悪さをする魔法使いに罰を与える人達さ。」
「第四魔法使いの座…。」
「ま、逆にそれに対抗する犯罪組織もあるらしいけど、どうせすぐに潰されるさ!」
「第四魔法使いの座に入ったら人間世界にいけるの!?」
「え、あぁ、まぁ…犯罪が起これば?…人間界に興味があるのかい?」
「うん!」
「…じゃあ、第四魔法使いの座を目指すといい。とはいえ、今の座が空くまでは入れないけどね。」
「頑張るよ!」
そう張り切るラフィにアーレは言う。
「じゃ、ぼくはそろそろ部屋に戻るよ。」
アーレはラフィに手を振る。ラフィは辺りを見渡すが、既に皆は自室に戻ったりしたようで、ほとんど集会所にはいなかった。
ラフィは「学校探索」をすることに決めているので、まずは集会所から学園本部に入ると、恐らくこの学園で1番広いであろう廊下にでる。天井にはシャンデリアがいくつも並んでおり、高級感が溢れている。
「…広い…というか凄い…。」
ラフィは壁に地図が貼ってあるのを見つける。このまま進むと教室があるようだ。しかしこの学園の広さなら全て回るのに7日はかかると思った。魔法使いの寿命ならば、7日程度ならあっという間…ではあるが、当然7日も歩き続ければ疲労する。ラフィは今全て回ることを諦めた。
「…まぁ、6年もここにいるし、いつか全部回れるかな…。」
「えーと…このまま少し行って最初の右扉の先に…庭?ふーむ…」
ラフィは庭へ向かうことにすると、歩みを進める。しばらく長い廊下を進むと地図通り右に扉が見えてくる。
「ここを開ければ…」
ラフィは扉をゆっくりと開ける。するとその先には、海に囲まれた緑の空間が広がっていた。ベンチもいくつかあるが既に人が座っている。リボンの色を見た感じ上級生だろうか。とにかくラフィは庭へ出るとまず大きく息を吸う。
「外…だぁ…。」
ラフィは庭の端まで走ると海に近付く。海の先の方を目を細めて見ようとするが、どうやら周りには本当に何もないようだ。ラフィは少し微笑む。
「よーしっ!がんばるぞーー!」
その声は、青い空に響いたのだった。