【魔法学校アリア(1)】
ラフィは目を覚ます。母のロージーは既に朝食を作ったのか朝食の良い匂いがする。ラフィは顔を洗い歯を磨くと、事前に配布されていたローブの様な制服に着替えると匂いの元へ走る。ロージーはラフィを見ると笑顔で言う。
「ご飯、食べちゃいなさい?」
「…うん!」
ラフィは席に座ると朝食ーースクランブルエッグとソーセージと千切りされたキャベツ、そして牛乳とパンを素早く食べる。
「ごちそうさまでした!」
「はーい。」
ロージーは食器をスポンジで洗いながらラフィに背を向けて言うが、ラフィはロージーに後ろから抱きつく。
「ママ、行ってきます。」
「…うん、頑張ってね、ラフィ。」
ラフィはしばらくするとロージーから離れ庭のほうきを手に取る。
「ほうき、頼んだよ。」
そして玄関に置いているカバンを背負いそのまま靴を履くと改めて大きな声で告げる。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」
二人の声は家中にこだまする。ラフィは玄関の扉を開け、ほうきにまたがると魔力をほうきに送る。
「マジック・ポイント・リリース!」
ラフィのほうきは綺麗に空へ舞う。恐らく、これまでで1番の成功だろう。ラフィはほうきを体ごと前に少し傾ける。するとほうきは自然と前に進む。しかし、それだけだと地面の方へ下がるだけなので魔力を送る調整をする。ほうきに魔力を加え少しずつ加速する。風の抵抗は強くなるがラフィは母に教わった簡易的な基礎魔術を唱える。
「エア・ウォール…!」
するとラフィとほうきの風の抵抗は薄まり、より速度は速くなる。ラフィはこれが楽しいのか、少しにや、と笑うと速度と高度を更に少しあげるとそのまま飛び続ける。しばらくするとラフィ達の住む街から離れ、森が見える。
「…アリアの森、かぁ…危険だから近付くなって昔から言われてたけど、いざ上を通るとどうってことないねー…」
独り言をぶつぶつ言っていると何人かのほうきに乗って同じように空を飛んでいる魔法使い達が見えてくる。魔法使い達の中から一人の同年齢ほどの茶髪の少年がラフィに近付くと話しかけてくる。
「…あれ?君もアリア学園の新入生?」
「うん!」
「じゃあボクと同じだね、ボクの名前はアメイア、アメイア・イージスだ、よろしく。」
そう言うアメイアは片手をラフィに伸ばしてくる。
「あー…私、ラフィ・ドゥ・ペレファン、えと…ほうきに乗ったまま片手はまだ離せないかなーって…」
「あぁ、そうか。いや仕方ないよ、ボク達の年齢でほうきに乗れるだけ凄いんだ。」
「そうなんだ…」
二人は並んで空を飛ぶ。またしばらくすると森を抜け、海が見える。そしてすぐに海の真ん中に学校があるのが見える。
「あれかな?アメイアくん。」
「そうだよ、でも今日行くのはあのでっかい方じゃあない。その隣の小さめの方さ。」
「…あれは?」
「あれは集会場さ、あそこで入学式を行うんだ。」
「…なるほど?」
二人、いや沢山の魔法使いが集会場に近づくが、そこで海の底に電車の様なものがあるのを確認する。
「…あれは、ほうきに乗れない人達の?」
「あぁ、そうさ、多分ね。だけどまぁほうきに乗れないのは悪いことじゃない。自転車に乗るか乗らないかの違いさ。」
そういうとアメイアは集会場の入り口の前でほうきから降りる。同様にラフィ含めた他の魔法使い達もほうきから降りる。そして全員次々と集会場に入っていく。
「…なんか、凄いね…」
そう驚くラフィに後ろから女性が話しかける。
「あら、銀髪の髪なんて珍しいわね!綺麗!」
ラフィは声の方を振り向くと、女性は同じ制服を着ている黒髪の女性だった。ラフィは制服の色が少し違うことに気がつく。
「私の制服は黒だけど、貴女のはどうして少し赤いの?」
そう質問するラフィを慌ててアメイアが止める。
「ばっかお前、この人は6年だぞ!?目上だぞ!?申し訳ありませんでした!」
そう頭を下げるアメイアに黒髪の女性は少し驚いた表情をすると口を開く。
「あー…いや大丈夫よ?そこまで硬くならなくても…あ、私はクロユリ・トウジョウって言うの、よろしくね?貴女の名前は?」
「え、あ、私の名前はラフィ・ドゥ・ペレファン…です。」
「ラフィ!可愛い名前!貴女、可愛いの塊ね!…で、そこの男の子は君の彼氏?」
そう言われラフィは少しポカンとする。
「…は?」
アメイアは首を振りクロユリに答える。
「違いますよ、さっき友達になったばかりで…」
わかってるよ、とクロユリは微笑むとローブの裏ポケットから何かを取り出すとラフィに渡す。
「これ、あげるね。いつか役に立つわ。それじゃ、私は教室に戻るから~。じゃねー!」
それだけ言うとクロユリは去ってしまう。ラフィは渡されたものを見る。それは宝石の様で、どこか歪んだ形をしていた。一つ穴が空いておりネックレスにもなりそうだ。恐らくこれは魔具なのだろう。そう思ったラフィにアメイアが焦った口調で話しかける。
「お、おいラフィ、もう皆席に座ってるぞ、お前も早く…」
そう言われハッとし、ラフィは慌てて魔具をポケットに入れてから集会場の中に入り、自分の名前の札が置いてある席を見つけると座る。
「ふぅー…」
一息ついたラフィに隣の席の金髪の少女が教師に怒られないよう小声でラフィに挨拶をする。
「ごきげんようラフィ?」
ラフィは少し驚くが名前を知っているのは札があったからだとすぐに気付く。ラフィは金髪の少女の札を見ると、そこにはアン・ミラーと書かれてある。
「えーと、ごきげん…よう、アン。」
「えぇ、仲良くしましょうね。」
アンはラフィに片手を差し出す。ラフィはその手を片手で握り、握手を交わす。しばらく手を繋ぐと、また手を離す。そこで集会場にゴホン、という咳が響くと生徒達は皆前を見た。前には少し年老いているが、お爺さんと言うには早すぎる程度の男性が立っていた。
「えーと…ではアリア学園の新入生の皆さん、初めまして、学園長のアラクレス・アースティンです。えー、今日は入学式ということで、皆さんにはまずこの学園の生徒証明となるものを渡したいと思います…えー、ゴホン、フライ…」
学園長は一度咳払いをし、詠唱すると校長の後ろにあったいくつもの箱から四角く黒いものが生徒達にそれぞれ一つずつ配られる。
「えー、その生徒証明書にアリアースと唱えるとー、皆さんの情報が浮かび上がるはずです…が、今はしないでいただけると。」
それでも何人かはアリアースと唱えているが学園長はそれを無視して話を続ける。
「えー、これから皆さんには学科を選択して頂き、それからは学科ごとに住む寮も分けていきますが…くれぐれも適当には決めないでくださいねー。」
ラフィはどこに選択を、と疑問を抱くが、いつの間にか手には一枚の紙と鉛筆を持っていた。他の生徒の興奮する声も聞こえる。ラフィは悩む。
「…魔術か、魔導か……魔導なら基本的に魔具の扱いを中心に習うんだっけ…あまり面白くなさそうだなぁ…」
後ろでアンの唸りが聞こえる。ラフィは紙に魔術と書くとアンの方を向く。
「あ…ラフィ?貴女はどっちにした?」
「魔術だよ、アンはどうするの?」
「うーん…ラフィと同じ魔術にしようかな…。魔導にしたら魔具の支給もあるらしいから迷うわ…」
「えっ、そうなの?」
ラフィは初めて聞いた事実に驚く。
「えぇ、この学園で魔導を選んだ時点で明日から一定の魔具の支給があるわ。ほうきとか…」
「うーん、でも私は魔術でいいや!」
「そう?じゃあ、私も魔術にしようかしら。」
アンは紙に魔術と書く。そしてしばらくすると手元から紙と鉛筆が消えると、学園長が話を始める。
「はい…そこまで。皆書き終わったみたいだからね。寮はこの集会場の地下にあるよ。えーと…そことそこから行けるね。」
そういうと学園長は集会場の入り口ではない別の二つの扉を指差す。
「あー説明だるいので別の先生に代わってもらいますねー…サライス先生ー」
そういうと美しい女性の教師が学園長に代わり前に立つと喋りだす。
「はい。サライス・ハーレです。よろしくお願いしますね。扉の右は魔術学科の生徒の寮、左の扉は魔導学科の生徒の寮へ続く道ですね。あとは…そうですね、改めて初めまして、ここでは皆さんに魔法の基礎を習って頂きますが、当然沢山の言葉や数字なども習って頂きます。」
生徒の半分が「えー」と声をあげる。サライス先生は続けて言う。
「ですが、魔法の勉強はきっと楽しいでしょう。是非、よろしくお願いします。」
生徒達は小さく拍手をする。アンは後ろで「それだけ?」と呟いている。サライス先生は息を吸い込むと更に続ける。
「では、入学式はこれで終わりです。学園のルールは生徒証明書に書かれていますのでよく読むように。では皆さんはそれぞれ、先程紙に書かれた学科の方の寮へ移動をお願いします。あらかじめ部屋割りはされており、玄関扉のすぐ隣に部屋のメンバーがそれぞれ書かれていますので、すぐわかると思います。では解散を。」
生徒達はそれぞれの寮へ入っていく。ラフィはアメイアがどちらの学科なのか気になったが、探しても見当たらなかった。
「…ふむ。」
ラフィはアンと共に右の扉へ入っていく。