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徹夜組と苦労人の一夜

「おい、遅いぞ。仕事は溜まってるんだ。急げ‼ 」

「……殿下……着替えで疲労困憊です。下がらせて下さい。ついでに昼間の衝撃で……」

「知らんな。おら、行くぞ。皆ありがとう。また明日よろしく頼む」


 ニッコリと女官達に微笑むと歩き出す。


「あぁ、ミィ。明日の準備を優先させる為に、先に寝てくれないか」

「えぇぇ~⁉エレメンティアさま~‼肉食獣がエレメンティアさまを‼」

「そんなのいないから、阿呆のサラじゃあるまいし、なぁ?カイル?仕事に励もうな?」

「……仕事、はい、頑張ります……その方がまし」


 目が虚空を彷徨う……女官アマゾネスたちは、何かしらカイルの心に衝撃を与えたらしい。


「それに……えぇ、忙しくて優先すべき書類の裁断が必要ですし、頑張ります」

「だそうだ。ミィは明日。私の準備を頼んだ」

「解りましたわ……細マッチョ、エレメンティアさまをよーくよーく見て下さいませね~‼よろしくて~⁉」

「細マッチョ?何だ?それは」


 首を傾げるエレメンティアに、ミィは、示す。


「痩せて見えるんですが筋肉があって、他の子達が筋肉好きですし、キャァァ~‼だそうですわ。たかがこの細マッチョごときで……」

「えぇぇ?筋肉か‼良いなぁ‼今度見せてくれ‼」

「はぁ?冗談は止めて下さい。殿下‼仕事ですよ仕事‼」

「筋肉……良いなぁ‼欲しいなぁ……」

「スートになりたいんですか?嫌ですよ。主がむさ苦しいおっさん‼」


 本気で嫌そうに顔をしかめる。

 同じようにミィも、


「エレメンティアさま~‼むさ苦しい普通マッチョよりも、タイムどのや、一応このヒョロマッチョで我慢して下さいませ~‼お願いですわ~‼」

「でも、剣の腕は全くない。役に立たないんだ」

「逆にその方が安心なので止めて下さい」


 カイルの一言に、ムッとする。


「何だとぉ?」

「何を勘違いしているのか解りませんが、武器はそれなりの実力に見あったものを持つべきです。スートは槍を持つのは遠方攻撃に強いからです。そして刀を身に帯びています。タイムは弓弩を扱います。それをお互いの邪魔にならないように動く為の訓練をしています。お互いがその実力を最大限に生かすことが貴方の役目で、邪魔をするのが仕事ではありません。よく考えて動いて下さい。それよりも指示を出すか、奥で守られて下さい。武器をほとんど持たない人間が武器をもって……おもちゃじゃないんですよ」


 カイルの真剣な一言に、エレメンティアは黙り込む。

 その通りである。

 エレメンティアは深窓のご令嬢である。


「解った……次から気を付ける。でも、最低限の身の守り方は……」

「明日、ミューゼリック様に伺うと良いと思いますよ。私は限度や加減が解りません。それに、アルドリー殿下に手を抜いたら瞬殺です」

「そんなに強いのか?殿下は」

「16になるまで、現在聖騎士試験中のカズール伯爵シエラシール卿に武術を叩き込まれたとか。それに、アルドリー殿下の祖父に当たる方は、グランディアの直系の皇帝です。70を越えていらっしゃるとご本人はおっしゃられていましたが、50代にも見えないお若い方でその方も刀を扱われますよ。剣と刀は武器でも扱いは違います。それを理解して扱う殿下はかなりの腕前です」

「……くぅぅ!オレも今から‼」

「だから無理ですって。スートやタイムに守られて下さい」


 ため息をつく。


「じゃぁ、お前はどうするんだよ‼」

「私は、接近戦に長けているので、最前線に立ちます。ここには失礼ですが、お粗末な騎士団とは名ばかりの虚栄心の強い、位の高い親の脛をかじる騎士がほとんどで、本来の職務は国王陛下や王族をお守りするのが常であるはずなのに日々の訓練もろくにせず、女官の皆さんのお仕事を邪魔する人が多いですからね……あぁ、いらっしゃいましたね」


 嫌がっている雑用の女官が首を振っているのを、壁に追い詰めている男に近づくと、


「ここは王太子殿下の棟に向かう渡り廊下ですが、その左肩の紋章ですと、クズレ部隊だった現在の紅竜騎士団に全てを任せて遊び呆けている南区域騎士団の方ではありませんか?何をされにこられたのですか?」

「うるさい‼寝とられ男‼こいつは俺の恋人だ‼」

「ち、違います‼」


 怯えながら必死に首を振る少女。


「……だそうじゃないか」

「うるさい‼俺の女なんだよ‼」

「……カイル。王太子の命令で、徹底的に絞めろ‼紅竜騎士団に預けても構わん‼」

「かしこまりました」


 カイルは片腕で男を締め上げると、エレメンティアは近づく。


「大丈夫か?……って、服が乱れている。ちょっと待ってくれ」


 マントをはずし女官にかけると、


「ミィ。この子をこちらに。お仕着せ一式や仕事について、女官長に伝えてくれないか」

「解りましたわ。いらっしゃいな」

「あ、ありがとうございます‼王太子殿下、カイルさま。私はセシリアと申します」


 深々と頭を下げると、ミィに連れられて去っていった。


「なっ!貴様ぁぁ‼」

「うるっさいわ‼馬鹿男が‼カイル。このまま行き、うちの騎士団の者に預けて、徹底的に絞めさせろ。なぁに、騎士団の人間なら、夜中武器を手に明日から重要な任務を帯びるうちの騎士たちの腕慣らし位はやってくれても構うまい。さぁ、行くか」


と奥に入っていくと、棚やベッドなどが運び出され、別の部屋に運ばれていく。


「……あれ?そういえば、今運ばれていく先の部屋は……」

「ん?運び出した部屋は奥が寝室、その横が書斎兼執務室、手前が居間だ。お前の部屋だな。持っていく先は、元々はあの馬鹿の騎士団の待機所だったが、嫌がる女官や、官吏見習いに入った可愛い少年を連れ込む場所になっていたので追い出したんだ。そこに紅竜騎士団のメンバーの待機室と、団長であるスートや副団長のタイムの執務室。そして、お前と私の部屋の間には、ミィの部屋と、私の部屋の隣で騎士団の真正面にはナイアとワーズの部屋と執務室になっている。さて、お荷物を、騎士団の部屋に送り込め‼」


 エレメンティアの命令に従い、入っていくと、


「どうした?カイル」


騎士たちが手分けして運び込む家具を、女官たちと相談しながら配置していたタイムは目を見開く。


「あぁ、タイム。ここの手前で女官の仕事を妨害していた騎士がいたので捕まえてきた。体力があるものがいれば、朝まで不休で訓練をしてやって欲しいとのご命令だ……もし無理なら……」

「いや。大丈夫だ。私がまだまだ余裕がある。お手合わせさせて戴くので、殿下。ご安心下さいませ」

「騎士団でも実力が折り紙つきのタイムの腕を見たいのだが、書類が積んでいる……残念だ。だが、今度見せてくれ。楽しみにしている」

「ありがたきお言葉にございます」


 タイムは微笑む。

 弟は美少年だが、タイムも美形の分類に当てはまる。

 その微笑みに周囲の女官は色めき立つ。

 その様子に、カイルは、


「タイム、本当にありがとう。よろしく頼む。殿下。夜は長いですよ。頑張りましょう」


 言いながら、送り出したのだった。

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