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腹黒カイルの宰相への道?

 ミィとの舌戦にも飽きたカイルは途中で別れ、王宮の会議室に向かう。

 次第に扉が大きく開かれた中からの怒鳴り声が響き、やれやれと首をすくめる。


「どうしてですか‼ 伯父上‼ 私が次の王です‼ 約束したではありませんか‼ 」


 元王太子サラの未練がましい声に、


「黙れ‼ 今日の会議の重要性も解らず‼ しかも、私の娘である妃を無視し、浮気か? 」

「それはエレメンティアが‼ 」

「失礼致します‼ 」


 ぶったぎるように、ハッキリとした声でカイルは中に入り込む。


「陛下‼ 王太子殿下より、陛下にこの書簡を早急に見て戴きたいとの事です‼ 」

「カ、カイル‼ もう、仕事をしているのか? 」

「はい‼ 」


 つかつかと入っていき、胸に手をおき、


「陛下。緊急の書簡です‼ 明日にもこちらにルーズリア国王陛下の代理として、ラルディーン公爵殿下がお越しにございます‼ 」

「な、何だと⁉ こんな急にか? 」

「いえ、実は……」


 チラッとサラの方を見て、困った顔をし、


「実は、もう10日前に届いた書簡にございます。王太子殿下にお伺いいたしますと、前王太子殿下だった方は全く職務をなされず、書類も放置され、仕方なく殿下が自らの居間を執務室になされて、書類や書簡をお一人で裁断なされていたと……。手が回らないとすぐに執務室に戻られ、職務に励まれておられる殿下に、私も凡才ではございますが、お助けしたいと殿下に託された書簡の中にございました。こちらにございます」

「カイル‼ すぐにこちらに‼ 」

「はっ! 」


 頭を下げて歩き出す。

 その途中には、乱れたままのなりで立っている元妻とその愛人を無表情と言うよりも、まだいるのかと呆れつつ近づき、


「失礼いたします。こちらは陛下にお見せするように、そして明日は殿下がお二人をもてなすので安心して欲しいとのことにございます。王太子としてこの国に、お父上であらせられる陛下に恥ずかしくないように、おもてなしをさせて戴くのでご安心下さいますようにとのお言葉でございます」


と伝言を伝えつつ差し出す。

その書簡を手に目を通した国王は、目を見開く。


「なんと‼ 一人でなど‼ 無理に決まっておる‼ 」

「いいえ、僭越ながら私が、殿下の側近として明日からの件をお手伝いさせて戴ければ思っております。そして、もしよろしければ数名の私の知人を王太子殿下の側近として、お仕えすることをお許し戴けませんでしょうか? 」

「数人? 誰だ? 」

「いえ、殿下に許可を戴いてからご報告させて戴ければと思います。よろしくお願いいたします。では、私は殿下の側近として、急いで戻らせて戴きます。陛下にはご安心戴ける、殿下のお姿をお見せできるかと思いますゆえ、ご安心下さいませ」


 深々と頭を下げると、書簡を受け取り後ろを向き歩き出す。

 途中、立ち尽くすサラとフィーラに慇懃に頭を下げてみせ、微笑む。


「お暇そうで何よりでございます。ご結婚の報告でしょうか? 殿下はお忙しく書類にサインをしつつ、私に仕事を教えて下さっておりますが……? 報告にお時間をかけるよりも、お忙しい辺境伯さまや大臣の方々の職務の邪魔だけは、やめられてはいかがかと思いますが? 」

「何っ? 」

「……それに、奥方でしたか? 」


 元妻に微笑みかける。


「『貞節をもった淑女』……よくご自分の事をそう申されておられましたね? 貞淑と淑女と言う言葉の意味をご存じでしたか? 」

「なっ! 」


 顔を怒りで赤くしている女に、首を傾げる。


「そう言えば、ご存知でないのですね? 貴方の着こなしは、この国のみならず他国でも目を覆うようなお姿ですよ。余りお伝えしたくありませんが、そちらの胸元が……それに、ご主人も頬に紅が……このような方が王太子殿下でなくて私は安堵しております。明日お客人をお迎えすることになっていたかと思うと、本当に陛下のみならず、国の恥‼ 私がお仕えする殿下が、殿下で本当にありがたく思っております‼ あぁ、話が過ぎました。この言葉は私の言葉ですので、ご容赦下さいませ」


 再び頭を下げて、去っていくカイルに、


「貴様‼ 私の事を誰だと思っているんだ‼ 誰か‼ あの者を‼ 」


 叫んだ甥に、国王は断じる。


「黙れ‼ サラ‼ 無能ぶりをさらすなら、さっさと城から出ていけ‼ それに、ジェームス‼ 私の命令に従えぬなら、城を出て離宮に行くが良い‼ 」

「あ、兄上‼ 」

「これ以上他国に恥を知られるようになっては、この国は滅ぶ‼ 国を滅ぼすか、王弟としてわが王太子を王位に導き、支えるかどちらかを選べ‼ 」


 国王ジェラードの二者択一は、厳しいものである。

 自分の息子に王位が転がり込む寸前で無くなり、そのままうだうだ言っていると離宮に閉じ込められる。

 離宮とはいってもその実、昔より国王に背いた親族や重鎮が幽閉された監獄も同然であり、寒い地域で石造りの建物。

 その上周囲には平原のみで、冬にはビュウビュウと風が吹く場所である。


 そのようなところに行きたくなどない。


「……解り……かしこまりました、陛下。私は、王太子殿下に忠誠を……」

「ち、父上まで‼ 私は‼ 」

「黙れ‼ サラ‼ 無能な王族など必要ない‼ ならばそなたとその妻が離宮に行くが良い‼ 大臣には養子と養女を迎えるように‼ 衛兵。サラを捕らえよ‼ 行け‼ 」

「はっ! 」


 国王の命令に衛兵は集まり、嫌がる元王太子とその愛人を引きずって去っていったのだった。




「これはこれは……カイルには良い方向にいってくれたわい」


 呟くのは、カイルを見いだした貴族、内政大臣のクリフトフである。


「元々、姫……いや、王太子殿下は昔から賢く有能な方だった」

「クリフトフさま、オディズ大臣が……」

「構わん」


 こそこそと耳打ちする隣の書記官をいなし、真っ青の顔のオディズをニヤニヤと見ている。


「これで、あやつの野心もポッキリだわい」


 他の大臣や重鎮が内心思っている言葉を告げたクリフトフに、周囲は当然内心で喝采をあげたのだった。

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