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国王陛下がわざわざご挨拶です。

「まずはご挨拶を……」

「いえ、お父様。後でご挨拶をとのことです」

「いや……ご迷惑ばかりでは申し訳ない。ここから通り抜け、エレメンティアの棟に向かうか……」


 呆気に取られる二人の前で、ちょいちょいっと指を動かすと、壁に寄り、石を一ヶ所押すとぼこっと入っていき隠し扉が開く。


「お、お父様?何で?」

「えっと……昔からあってね?うん」

「うんってお父様‼私の部屋ですよ⁉何で行けるんですか?」


 ちなみに、国王は結婚が遅く、待望の子供がエレメンティアである。

 小さい頃から国王の第一子として別棟に住まい、忙しい両親に代わり乳母に育てられていたのだが……。

 と、国王は、


「だってだな⁉表では国王国王と追いかけ回され、エレメンティアの顔が見れんじゃないか‼待望の可愛い可愛いエレメンティアを‼寝ているときでいいから見ていたい‼ではないか‼だから、わざわざここが私たちの部屋だから、行ける部屋にと思ったのだ‼」

「……普通の王の子供が住まう部屋ではなく、あの部屋と言うのは……」

「エレメンティアの顔を見る為だ‼うんうん……そなたは可愛い子だ‼」


カイルは遠い目をする。

 ここにも、親馬鹿がいた……。

 前に滞在した国の国王も変人だったが、馬鹿親だった……あ、親馬鹿だったである。


「陛下。急いで下さい。陛下がいないと大騒ぎになっては困ります」

「解った解った」


 そのままで行こうとする国王に、ランプに灯を点し、扉を閉ざすと国王親子の後ろをついていく。

 ちなみにランスも、スルッと身軽にすり抜けて入っている。

 ランプを国王に手渡し、その後を追いかける。


 単純な作りでない石造りの城の隠し通路は、ある程度の広さがある。

 そして……、


『空気が綺麗だ……』


ランスは呟く。


「風が流れているな。でも、この風は……」

「良く解るな。これは、定期的のこの城の周囲を走る風が吹く。その風が抜けるのだ」

「はぁ……あの怪音はこれでしたか……」

「ジェームスは知らぬよ。代々国王が伝えられるのだ」

「はぁ……これが化物城の謂れですか。良いことです」


 このレーンの城は、他国では魔物城とも呼ばれている。

 白い魔物がいるとも……それがこれだったのかと思ったのである。


「よし、到着」

「ちょ、お待ち下さい‼陛下」


 からくりを操作し、無造作に開けようとした国王の前に割り込んだ。


「……誰?」


 扉の向こうから響いてきた声に、頭を抱えたくなりそうになりながら、


「申し訳ございません。カイルです。すぐに姿を見せますので、剣だけはお下げ下さい」


と答え、すぐに姿を見せる。


「申し訳ございません。皆様。この国の王……ジェラード陛下でございます」


 現れたジェラードが、丁寧に頭を下げる。


「ようこそ、お越し戴いた。私がこの国の王ジェラード。ヴァーソロミューさま、ミューゼリック、お久しぶりです」

「おや、いい具合に年を重ねたじゃないか。リーはまだ20歳位だよ?」

「リーと一緒にしないで下さい、ヴァーロさま。リーはもう、年止まってるじゃないですか。私はそれなりですよ」


 けらけらと笑う二人に、周囲は硬直する。

 一人ため息をついたミューゼリックは答える。


「カイル、アイド、セディ、王太子殿下にデュアン。ジェラード陛下は、私の長兄のリスティルより3才年上で、共にこの大陸の大乱を収めた英雄のお一人だ。兄の親友でもある。で、兄同様……」

「あぁ、私も昔のリーのように自由にしたかったのだが、弟が……愚弟が国を滅ぼすと思って……もう嫌だ‼旅に出たい‼」

「た、旅‼」

「一応エレメンティアには黙っておったが、私はしばらく大戦後旅に出ておって、シェールドで騎士の位を得ておったのだ。王位も放棄しようと思っていたのだが、ジェームスが全く以て愚弟で……親父と母上が可愛がりすぎたのだな、遅くの子供で。いかぬと思い、戻って王位についたのだ。シェールドでは女王もおられるが、この地ではそなたも可哀想だろうと、一縷の望みを……」

「お父様‼そんな望みをサラに持つ方がおかしいです。きっぱり捨てて下さい‼私の一年を返して下さい‼」


 エレメンティアは訴えるが、その後ろで悲惨そうに、


「私の3年も……返して欲しいです……」

「可哀想に……」

「って、思ってないでしょ‼アーサー殿下‼」


食って掛かるカイルに、ジェラードは、


「あぁ、やはり、シェールドの双子の王太子殿下であられたか……兄殿下は、お祖父様に良く似ておられる」

「初めてお目にかかります。ジェラード陛下。私はアルドリーと申します。来春20歳になります」

「そうであられたか……本当に、そのお姿では余り外には出られませんな……それに……」

「初めてお目にかかります。私はアーサーと申します」

「おや?殿下は余り、現国王陛下にも似ていらっしゃいませんな?」

「母方の祖父に似ていると言われます。良く知ってらっしゃるのですね?」


アーサーと本名を名乗ったセディは、キョトンとする。

 すると楽しげに、


「小さい頃の陛下の教育係をしておりましたから。あの悪餓鬼、相変わらずのようで」

「えぇぇ‼アレクさんの?」

「父上とは……?」

「無理です。カズールのシエラシール卿に僕たち育てて貰ったので、シエラシール卿が父さんで、アレクさんか陛下と呼んでます」

「公では陛下で大丈夫ですし……それに私は余り表に出ないようにしています。住まいも別なので余り会いません」


アルドリー……アイドの言葉に、エレメンティアは、


「え?軟禁?」

「いえ、私はこの顔なので目立つんです。髪も切りたいのに切らせて貰えませんから余計に目立って……」

「まぁ……ブラックと言うよりも、夜の空……ブルーゴールドストーン?」

「ブルーゴールドストーン?どんな石ですか?」

「えっ?この辺りでは当たり前に出る石で……魔除けに持つんです。これです」


ピアスのみ身に付けていたエレメンティアは示す。


「失礼して近づきますね?」


 数歩近づき、じっくりと見たアイドは、思い出したようにテーブルの上に置いていたものを取ってきて戻ると差し出す。


「すみません。これ、この石は?」

「これは鉱山のくず石です。ただ固いだけで、他の石の質を下げるので、捨てているんです」

「えぇぇ‼本気ですか?これ、グランディアでは金剛石と言われて、最高強度の宝石ですよ⁉」

「はぁ?」


 キョトンとする周囲に、身に付けていた指輪を見せる。

 石には勿体ない程、違和感のある傷が着いていた。


「これは、ブルーサファイアです。金剛石の次に固い石です。金剛石は他の石の加工にも使えますし、金剛石のカットにもくず石で用いられます。この着いている石で、カットすれば小さくなるとはいえ、かなり純度の高い石ですから、良い値段しますよ⁉金剛石はシェールドではとれないんです」

「えぇぇ‼」

「鉱山の権利は?誰ですか?」

「はい……わ、私ですが……」


 恐る恐る手を上げるエレメンティア。

 アイドは、


「エレメンティアさま、私は次の王として、貴方と……この国と友好な関係を望みます。この金剛石のことは、調査をミューゼリックさまから頼むことになるかと思いますが、確認され次第取引をと思っています。よろしくお願いいたします」


と優雅に頭を下げた。


「へ、は、はい‼よろしくお願い致します‼私も共に調査に参加致します‼私の名義とはいえ、元は国のもの。国民に分配すべき財産です。ちゃんと管理を致します……その前に屑石と思い、今まで調べもせずに放置していた自らが情けないです……」


 項垂れるエレメンティアに、首を傾げ微笑む。


「貴女は頑張っていると思うよ?貴女は先程のサラと言う男よりも賢く、そして国を愛されている。それだけでも貴女は素晴らしい」

「あ、ありがとうございます‼」


 深々と頭を下げたエレメンティアは、長身の青年と目が合い、頬を赤く染めた。

 アイドは、化粧一つせずに絶世の美貌の持ち主である。

 珍しいその姿に、父王は、


「おやおや、エレメンティアは美的感覚がマトモらしい」

「陛下‼あの王太子殿下は、婚約者がいらっしゃるのですよ?」

「良いではないか。年の近いしかも賢い青年に憧れても、良いことだ」


カイルが窘めても、嬉しそうににこにことその様子を見つめていたのだった。

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