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王弟殿下を追い詰めることになりそうです。

 カイルはゆっくりと、国王の住居スペースに向かう。

 国王の妃は、5年前に流行病で亡くなった。

 この近辺ではまれな恋愛結婚だった為、妃を失った国王の悲しみは深く、その事もあり弟が何度も自分の息子と、エレメンティアをと言う意見を聞いてしまった……その後の事はご存じの通りである。


 カイルは形ばかり前に出る衛兵を見て、自分の方が多分強いなと思いつつ、


「申し訳ございません。早朝より、陛下にお話がございます。王太子殿下の代理で参りました」

「待て。その生き物は?」

「私が留学しておりました地の生き物で、私の相棒です」

「そのような生き物には……」


扉が開き、王冠は被っていないものの、国王が姿を見せる。


「カイルよ。一睡もしておらぬのではないか?それと客人のこと、よくよく頼んでおいたが大丈夫か?報告を」

「はっ‼この友人は私の相棒です。よろしいでしょうか?」

「構わぬ。逆にようこそ参られた……春の国の使者」


 国王の手招きに、室内に入る。

 執務室と小さいソファセットが置かれた部屋である。

 娘同様、朝から執務に励んでいるらしい。

 しかし、陛下付きの官吏がある程度チェックしているらしく、彼が命じたらしいお茶は女官がすぐに持ってきた。


「ありがとうございます」

「いや、構わぬ。それよりも、昨夜部隊が大騒ぎしていたと……」

「はい。前の王太子について豪遊し、職務に励まなかった部隊を、殿下が辞めさせました。代わりに、殿下付きにクズレ部隊を。忠誠心が強く、結束は固い部隊でございます。殿下が紅竜騎士団と名付けました」

「は?まぁ、あの阿呆よりもクズレ部隊と呼ばれる部隊は、強さはあるがかなり癖のある……」

「殿下には唯一無二の忠誠をと……そして経理会計のワーズと、内政……特に食料事情について研究するナイアを、殿下はお召しになられました」


 国王は目をぱちくりとさせる。


「そ、それはそれは癖の強い……大丈夫かな?」

「大丈夫かと。それよりも陛下。先程、副団長のタイムとワーズに向かって貰いましたが、王弟殿下の豪遊が目に余ります。こちらをご覧下さいませ」


 書類の束を差し出す。

 受け取った国王は紙をめくる度に青ざめ、わなわなと唇を震わせ、頬を引きつらせていく。


「こ、これは……何だ……」

「王弟殿下御夫妻と前の王太子殿下が豪遊し、陛下からお金は出ないと分かっておりますので、経理に送りつけたものでございます。それに……これを言うのは良くありませんが……」


 懐から出したものを差し出す。


「こちらは殿下が、王弟殿下が勝手に出そうとして阻止した文書で……余りにも酷いものでしたので殿下と相談し、まずは陛下にご相談をと……」

「嫌な……受けとりたくないのだが……」


と漏らしつつ再び受け取った国王は、目を通して、一瞬にして血の気がひいた。

 真っ青どころか蒼白になり、震える声で……。


「ほ、本当に、あの馬鹿が……?」

「本当です。陛下。王弟殿下と前の王太子殿下が、シェールドの秘宝をしかもこの文面でくれと言い放ったのでございます」

「そ、そんな……‼そ、そなたの後ろにいるのはナムグ……シェールドにしかいない生き物……」

「留学中に私の相棒としておりました、ランスと申します。先程、お客人がお越しになられました。その時に諦めて別れたのですが、あちらの王太子殿下が私の元にと……ランス。陛下にご挨拶を」


ランスは優雅に頭を下げる。


「ランスは私の相棒ですので、手続きは必要でしたが参りました。ですが、仮にもシェールドの国王陛下に対しての文面ではないと、王太子殿下は心を痛められ……」


 言いかけるとざわざわとした声と共に、


「お父様……いえ、陛下‼失礼いたします‼」


顔色を変え飛び込んでくるのは、エレメンティアである。


「陛下‼如何致しましょう‼」

「どうしたのだね?」

「陛下、これを‼」


 差し出されたのは、先程カイルが差し出した便箋と同じ……。


「これは……」

「それが、陛下‼この書簡が、実はシェールドの国王陛下の元に届いていたそうなのです‼陛下が無礼なと怒られているのを、ヴァーソロミューさまがまずは様子をと……」

「な、なな、何だって‼こんな……無礼な手紙を送りつけたのか?あいつは⁉」

「本当です‼陛下‼シェールドの国王陛下に対して、これは幾ら何でも礼儀に反します。大臣たちに来て頂いて相談を」

「そうだな……で、あいつは……」

「大丈夫です。タイムとワーズがしっかりと」


国王は嘆く。


「このような僻地の小国に、ルーズリアというこの大陸一発展している国の使者……しかもリスティル陛下の弟、ミューゼリック閣下がお越しだというのに……この国の恥を……」

「いえ、陛下」


 カイルは慰める。


「逆にこう思いましょう。ミューゼリックさまがお越しの時に、王弟殿下を断罪することで、きちんとした国を見せることになります。そして、陛下と殿下が一から国を建て直すことを宣言することにより、ルーズリアの援助を頂くのです。お金というよりも技術の援助です」

「技術の……しかし、この国には産業らしいものはない。観光にも向いてないし、冬は寒く夏は短い……」

「ですが、人々がおります‼それに羊がおり、毛織物も暖かいでしょう。地域や一族によって編み方や色の違いもあり、それを帽子やセーター、マフラーにして売るのです。お金になれば、国庫も潤い、国の為に政策を。そして、他にも産業となるものはないかと、ナイアも探しております。食料需要を向上させる為に……ですので陛下。諦めずに‼」

「……そうだな。恥は一瞬だが、ルーズリアに援助をして頂くと国の為になる。国の為の王だ。恥をかいたとて、将来この国の民の為になるのなら構わぬ‼エレメンティア、カイル。思う存分するがいい。そして、私も共に鍬を奮おう」


 国王の言葉にカイルは頼もしさを感じ、エレメンティアは父の優しさに涙したのだった。

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