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王太子殿下は少し抜けています。

 カイルは見つめる。


「改めまして、お客様をお迎えしておいてなんですが、先に謝罪させていただきます。申し訳ございません。実は……殿下にもお伝えできませんでしたが、実は迎賓館が、この国には現在ないのでございます」

「……あっ‼そうでした」


 エレメンティアは顔色を変える。

 そして情け無さそうな顔で頭を下げる。


「申し訳ございません。実は迎賓館は……」

「エレメンティア‼ 」


 尊大な態度で姿を見せるのは、けばけばしい衣装の夫婦。

 エレメンティアを守るようにスートとタイムが手前で立ちふさがる。


「申し訳ございませんが、王弟殿下。お客様をお迎えしております。お控えください」

「何を言う‼ 挨拶を……」

「叔父上‼ 申し訳ありませんが、お疲れのお客様を客間にご案内しております。後でご挨拶を」

「いや‼ その生き物は‼ 」

「殿下‼ 」


 カイルは厳しい声で言い放つ。


「殿下の豪遊により、財政は圧迫しております‼ その件についてお伺いできますか? 」

「なっ! この様なところで何を‼ 」

「妃殿下にもお伺い致します。迎賓館を自分の屋敷とされた理由は? 本日のお客様をお迎えすることができず、困っておりますが……」


 一歩進むカイルに、怯む夫婦。


「殿下? 陛下は浪費は止めるようにと殿下に何度も申されたとか。何故、それなのに、こちら側に殿下の豪遊の請求書が送られるのでしょう? では、殿下? その請求書がこちらにございますので、王太子殿下にお伝えして陛下の元に共に参りますか? 」

「そ、それは……」

「今から参りましょうか? 」

「し、失礼致しますわ‼ 貴方。参りましょう‼ 」

「逃げても請求書は後で陛下にお見せ致します。君。陛下の沙汰があるまで、ものを動かすなと、周囲に伝えてくれるだろうか? すぐに、ワーズ……王太子殿下の内政担当の者が行きますので、よろしくお願いします」


 後ろの数人は頷く。

 夫婦は、カイルの一睨みにすくんだようにそそくさと去っていく。


「全く……申し訳ございません。お客様……殿下。私は陛下に申し上げて参りますので失礼致します。タイム。ラーズに伝えておいてくれないか? 」


 カイルは歩き出すが、すぐに振り返り、


「ランス? 来ないのか? 行こう」

『あ、あぁ、行く‼ 』


 自らの乗獣を連れて去っていく。

 エレメンティアは、振り返ると頭を下げる。


「お客様に本当に申し訳ございません。お恥ずかしいところをお見せしました」

「いやいや。それ以上に、もっとすごいこと送ってきたから」


 ヴァーソロミューがバッグから出したものを差し出す。


「読んでも? 」

「はい。国王陛下は笑っていましたが、目が真剣でした……」

「……何てこと……」


 エレメンティアは頭を抱える。


「他のものは握りつぶしたのですが……申し訳ございません‼ 」

「いえいえ。本当は私の弟や父が来るはずだったのですが、忙しくて行ってこいと」

「ヴァー、ヴァーソロミューさまがですか? 」

「実家の仕事もおろそかに出来ないの」


 ウインクをするヴァーソロミューは竜族である。


「ご、ご実家って……」

「それよりもほらほら、デュアンリールもいるから行こうね? 」

「あ、そうでした。申し訳ございません」


 少々お疲れで目を擦っている少年を連れて行く。

 すると、二人の青年と一人の女官が控えていた。


「ようこそお越しくださいました。私はラーズと申します。そして、こちらがナイアです」

「ようこそお越しくださいました」

「こちらにございます。私は女官の代表、ミィと申します」

「ありがとう」


ミューゼリックはねぎらう。

基本的に眠れたら十分、ちなみに息子を大事にしてくれたらありがたいタイプである。


「どうぞ。古いところですが……」


エレメンティアが扉を開けると、暖かそうな部屋が現れる。

重厚な家具、そして親子で眠れそうな部屋……。


「隣と反対側にお部屋があるのですが、もうひとつないのです。ご準備致しますね?」

「いえ、大丈夫です。私たちは交互に休憩をとりますので」


マントの二人が首を振る。


「では、まず……」


ミューゼリックの一言で部屋にはいると、暖かい暖炉の前で暖まっている毛玉……。


「ミカ。寒かった?ぬくぬくしてくる?」


とデュアンリールは離すとてててっと走っていき兄弟や仲間に割り込んでいく。


「レイもケインも、ミュー兄さんとこのこも行っておいでよ」


アイドの声にナムグ達は駆け寄っていく。


「お茶か何かでも……」


ミィの声に、ヴァーソロミューは、


「ごめんね。デュアンリールさまにはホットミルクと私ともう一人はお茶とか駄目なんだ。白湯をお願い出来ますか?よろしくお願いします」

「かしこまりました」


ミィは微笑みつつ下がっていく。


「……本当に、お恥ずかしい……。ですが、この塔は私の住まいですので大丈夫かと思います。古い家具ですが……」

「いや、それは大丈夫ですが……」


古めかしいソファに案内されるものの、デュアンリールはミカたちの元に向かい遊んでいる。

エレメンティアは4人を座らせ、ワーズを見る。


「ワーズ。私はここにいる。後で話をしてもらえないか?その前にタイムと共に王弟殿下の元に、よろしく頼む」

「はい、解りました。では、お客様がた。失礼致します」


二人は頭を下げると出ていった。


「ナイア。話す内容があるのなら、殿下の横に、補佐を」


図鑑や地図を抱えていた青年は、テーブルに広げる。


「殿下。殿下のおっしゃる通り、土壌改良も必要ですがその準備期間に植えられる作物を探して見ました。殿下……こちらはいかがでしょうか?」

「……ふーん。これは……」

「この地域にある作物と同一亜種……いえ、こちらの方が亜種になるのだと思います。ですので、この苗と、こちらのものとを交配し、寒さに強い品種をと思っております。先程、ワーズ兄さん……ワーズどのに確認したところ、これは構わないとのことです。で、これはどうすればいいかとおっしゃってましたが……」


説明していく。

エレメンティアは、


「よし、畑ひとつを土壌改良をしよう。灰を作る……なにかを燃やさねば……」

「ストーップ‼」


アイドが声を挟む。


「土壌改良って言っても、酸性かアルカリ性かで変わるんだよ。中性にするには灰をとか……安易に土壌改良って言わない」

「えっ?」


ナイアはキョトンとする。


「ここを見て。この印はアルカリ性に適している。つまり酸性の養分を吸収する作物は実りにくいの。それに土が肥えていない。栄養が足りないから実りが少ない。栄養である堆肥を作ること」

「堆肥……」

「そう。堆肥。養分を溜めておくの。動物を家畜にする?この地域は」

「します。羊を……他には鶏に牛……馬もおります。」


ナイアの答えに、アイドは、


「じゃぁ、夏は放牧、冬は小屋のなかだね?」

「そうです」

「じゃぁ、その冬の間に敷く干し草や糞を溜めておくと発酵して堆肥になる。それを土に混ぜ込めば良い」

「えっと、実は、特に羊の糞は乾燥させてお風呂や洗濯用に用いられる燃料になるのですが……」

「残った干し草でも良い。それにここにはそうないと思うけど、枯れ葉や食べ残したもの、野菜などの余り物を入れて埋めておくと良い。堆肥になるんだ」

「そうなんですか?」

「そうなの。この地域には少し行くと広葉樹の森があるでしょう?そこの土はかなり肥えていると思うよ。葉っぱの栄養を堆肥に変えている生き物がいるはずだから」


その言葉に目を輝かせる。


「教えてくれませんか‼その生き物を‼で、こちらでも増やして……」

「暖かい日が当たるところだったら大丈夫だと思うけど……」


二人が話し合う姿を周囲は楽しげに聞き入っていた。

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