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王太子として重要な仕事が始まります。

 馬車を冷めた目で見送ったエレメンティアは、団長のスートに案内されていた客人に、優雅に頭を下げた。


「お見苦しい所をお見せしまして申し訳ありません。そして、お迎えもこちらで……大変失礼を致しました。私はこの国の王太子、エレメンティアと申します。ようこそ、お越し下さいました」

「いえ、こちらこそ、わざわざありがとうございます。私は、ルーズリア国王リスティルの弟、ラルディーン家当主ミューゼリックと申します。この子が息子のデュアンリールと申します。デュアンリール?」

「はい。王太子殿下、初めまして。デュアンリールです。この子はミカです」


 可愛らしい少年が、頬を赤くして挨拶する様は愛らしいうえに、エレメンティアも微笑む。


「デュアンリールくんにミカですね?私のことはティアと呼んで下さいね?」

「ティアさま。僕はデュアンって呼んで下さい。僕は一番上なので、お兄さまやお姉さまがいたらなぁって……」


 照れる少年のお願いにエレメンティアは、


「えぇ。私も兄弟がいたらと思っていたので嬉しいです。では、デュアン?ミカは寒そうではありませんか?ミューゼリックさま、そして皆様も、どうぞ中に……」


少年を連れていくと言う名目で、5人を案内する。


 石で作られた城は丈夫である、代わりに冷たい。

 その為、窓を小さくしたりして密閉度を高くし、部屋には暖炉が置かれている。

 その代わり普通廊下は薄暗く、寒々しい。

 しかし、分厚い絨毯を敷き、寒さが上がってこないようにしているらしい。

 そして……、


「ここは、暖かいんですね?」


キョロキョロとフードを被ったまま見上げているセディに、エレメンティアが、


「えぇ……実は、階段をしばらく上がって頂いたのは、こちらが二階になります。一階は調理場や、洗濯をしたりする場所で、こちらは冬になると外に干せませんから、干し場もあります。湯を沸かすので、その湯で暖められているのです」

「雪になると密封されて、危険になったりしないのですか?」

「実はこの廊下の所々に通風孔があります。人が怪我をしないように隅々……点々と灯るライトの下にあるのです。そこから風が行き来します」

「へぇー……すごい。こちらの知恵ですね」

「昔は本当にそういった事故も多かったのですが、修復を繰り返す度に、その点を重点的に。そして、下は仕事場で、この城に仕える人々の部屋は上の階になります。冬は雪で閉ざされ出入りが大変ですし、仕事と休みは別ですので」


答えている後でカイルは、ものはいいようだな……と考えていた。


 この国は疲弊し、国力も落ちている。

 実際、王弟が浪費しなければまだ何とか出来たのだが、王弟は兄王の窘めも聞くことなく贅沢三昧であり、国王はなくなく城で雇うはずの人件費を減らす羽目になった。

 その分、一人一人の仕事の負担は増えて大変なのだが、王弟はどこ吹く風と言いたげに浪費をやめようとしない。

 何度も叱責する国王だったが、最後には、


「もう、お前のぶんの予算はない‼」


と宣言した。

 それなのに、勝手に購入しては請求書を城に送ってくることに、国王も怒りを覚えていた。

 それを傍で見ていたエレメンティアもである。


「……おーい。カイル、聞いてる~?」


 髪の毛を引っ張られ、ハッとする。


「あ、申し訳ございません。ヴァーソロミューさま」

「いや、私はいいんだけど、滅茶苦茶怒ってるけどいいの?」

「えっ?」


 ぐうぅぅ……


と言う唸り声に、カイルは、


「わぁぁ‼ランス‼悪かった‼俺が悪かった‼無視してた訳じゃないんだ‼許してくれ‼」


とヴァーソロミューの横のナムグを抱き締める。


『もう知らん‼私を忘れるなんて‼帰る‼』


 プイッと顔を背けるナムグに、必死に訴える。


「忘れてない‼忘れてないから‼」

『……本当か?』

「本当本当‼だから許して‼」

『……毎日の散歩とブラッシングで許してやる』


 カイルは溜まりにたまった書類を思い出すが、頷く。


「ありがとう‼約束する‼」

「……カイル。お客人の前で……」


 エレメンティアの言葉に、ハッとし慌てて告げる。


「申し訳ございません。あの、私の乗獣のランスです。再会できたので……」

「カイルの乗獣……綺麗な毛並に瞳も美しい……」


 近づいてきたエレメンティアは、ランスの前に立つと微笑む。


「ようこそ、ラーンへ。私はエレメンティア。ランスどのと呼べばいいかな?」

『初めまして。王太子殿下。ランスと呼んで下さい。私はカイルの乗獣です』


 通訳をしようとしたカイルだが、エレメンティアは首を傾げる。


「ランス。一応カイルは私を支えてくれているけれど、忠誠と言うかそんなものじゃない。それに私は空を飛ぶランスを束縛しろと言うようなことはしないし、この国が落ち着いたらカイル達には自由にして欲しいと思っている。君と君の生まれた国に戻るもいいし、それはカイルの自由だ。私はこの国を支配すると言うつもりもない。私が望むのはこの国の平和と疲弊した国を、人々を安らげるように尽くすこと。私はこの国と共に生きる。この国の王の子として生まれてきた、生きてきたのだから、今までの分、それ以上を返すつもりだ。安定するまではカイルにいて欲しいと思うが、それからは」

『カイルが役に立たない?』

「いや、知っていると思うけれど、この国は狭い。不自由も多いだろう。スートやタイム……皆も本当ならこの国を見捨てて当然だ。それでも留まってくれている。ありがたいと……感謝してもしきれない。だから、この国が安定するまではいて欲しい。安定した頃には、それぞれ自由にと思う」


 しばらくエレメンティアを見つめていたランスは、ため息をつく。


『その顔で笑ってもダメだよ。ティアさま。貴女はカイルの主人なんだから、しっかりして‼……後でブラッシングしてよね?』

「ブラッシング?えぇぇ‼したい‼あ、あの小さい子達は……?」

『それはアイドに聞いて』

「アイドどのに?」


 淡いマントの青年を見ると、声が響く。


「私の国で生まれた乗獣の卵です。男の子と女の子がいます。成長すると子供が生まれるので、その辺りはカイルに聞いて下さい。一応、私の乗獣のレイ・ロ・ウの子供と、セディの乗獣の子供もいます」

「げっ‼やっぱりあの緋色と漆黒はそうだったのか……そんな国宝級の生き物を、むやみやたらに、何考えてんですか‼」


 カイルは突っ込むが、横でランスが告げる。


『カイル。向こうで妻が出産間近で、生まれて落ち着いたら来る。子供よろしく』

「子供‼ランスの嫁‼……息子が結婚して孫持ち……」

「お前離婚したばかりなのにな。やーいバツイ……」


 スートの呟きにタイムが肘で黙らせる。


「皆さん。行きましょうか。陛下はまだですので、お部屋にご案内いたします」


 タイムの一言で、スッと動き始めた一行だった。

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