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次期国王が必死になるのがわかる街の様子です。

 道を歩いていたら、良く解る。

 この国の様子は……。

 人々は物珍しげに出てきているが服装もくたびれ、家も修復の跡や、メインストリートだと言うのに倒壊寸前のものもある。

 でも、


「あの、スート団長」


アイドが問いかける。


「すみません。あの、所々にある、あのキラキラとした飾りは?」

「あぁ、この地域の御守の一種です。えと、鉱山があるのですが、そこで主要の鉱石を採った後の屑の中で固すぎて加工できない、でもキラキラしたものを嵌め込んでいます。これだとここの国はこれから冬ですので、雪が降り、家がどこか解らなくなった時に、目印として……」

「あの、見せて頂いても良いですか?」

「えぇ」


 近くの倒壊寸前の家から持ってきたスートは差し出す。

 さほど凝った作りではないものの、素朴な形をした木製の看板である。

 しかし、その簡単な看板の周囲に、ポツポツとキラキラとした石が嵌め込まれている。

 じっくりと見つめていたアイドは、身に付けていたブルーの石のついた指輪を抜き、その石で石を擦った。


「ゲッ!」


 スートは真っ青になる。

 こんなことをするとは思わなかったのである。


 しかし、アイドは気にもせず、指輪の石を見ると……呟いた。


「あぁ、やっぱり……」

「あ、あのっ!」

「あ、すみません。これをしばらくお借りできませんか?」

「それよりも、な、何を‼」

「それは、後でお話いたしますね」


 アイドは含みを持たせて告げると、指輪を隠し借りた飾りを見る。


「これは、シャベルですよね?形は……」

「家々によって違うんです。ここは俺の家でした。親父は道具の店をしてたんですよ。実務的なシャベルや鍬とか。近隣の村の鍛冶から注文と違ったとか、作りすぎたもの、弟子の練習したものを安く仕入れて売ってました。ある時、それを引き取りに行く時に、山賊か誰かに殺されました。母は小さい時に逝ってましたので……」


 苦笑する。


「これでも、昔はまだしっかりとしていて私は住んでいたんです。でも、ここを修理できなくて……で、友人のワーズの家に厄介に。ワーズの家があの斜め向かい、です」

「……」


 ミューゼリックとヴァーロが視線を見合わせる。

 そして、ヴァーロが声をかけた。


「ねえ?後でお話いいかな?」

「公ではなく?」

「私的私的」

「解りました」


 頷く。


 それからしばらく歩いていくと、所々にスートと同じ制服を着た青年達と街の人が楽しげに笑っているのが見えた。


「へぇ……スート団長の騎士団って街の人に慕われているんだね」


 セディの言葉に、微妙な顔でスートは答える。


「いえ、実は、ここには大きな騎士団と言うのはなく、部隊のようなものでしたが、ほとんどが貴族のボンボンの入るお飾りの部隊です。私は孤児で、他には身分の低い下級貴族の奴等とかはあぶれて、仕方なく倉庫のような所に押し込められた感じで、制服とかの配給もなく、他の部隊にバカにされて来ました。でも、私や副団長のタイムを始め皆は、給料は最低限貰っているし、制服はなくても仕事をしようと街を歩くようにして、喧嘩騒ぎや困ったことを手助けするようにして……。私たちは若いですし、この小さい街じゃ小さい頃から面倒を見て貰ったじいちゃんやおっちゃん、おばちゃんも多いですし。そうしたら時々、お礼に『余り物だけど食べていけ』とか、『これ、余ったから持っていきなよ』と野菜とか……」

「へぇ、でも、それはお礼で気持ちだから良いよね」

「皆さんに助けられたようなものです。それに、ある少年が時々やって来ては、色々と教えてくれと言うようになりました。何を?と聞くと、街の様子や孤児院のことを聞いてきて、何が活気がないのではないかとか心配したり、貴族が問題を起こしたと聞いている。被害を受けた家は大丈夫だろうか?そう言って……その後に情報をくれないかと言うことになりました。それが王太子殿下です」


 スートは微笑む。


「私は殿下を全く知りませんでした。遠くから見るだけでしたし。街での殿下は、大きな瞳をキラキラさせたお転婆な……やんちゃな少年でした。情報料とか、被害にあった家に何か贈ってくれとちょっとしたお金を貰いましたが、殿下は自分の身分を名乗りませんでしたし……私たちもどこの金持ちか知らないけれど、情報をくれないかと言うのは今の貴族にないなと……親しくなりました。で、昨日、カイルについてこいと言われて、会ったのが殿下で……長く伸ばして縛っていた髪はバサバサでぐちゃぐちゃでした。この国は……王女が王位につくのは今までなかったので……自分は男になると言ったそうです」

「でも、この国は、国王にはエレメンティア王女、少々どころか強欲の国王の弟にサラ元王太子。エレメンティア王女が男として王位についたら、次代が困るんじゃないのかなぁ?まぁ、王弟親子の台頭は私としても困るけどね」


 ヴァーロが口を挟む。


「エレメンティアさまに婿を迎えることが一番だと思いますが、私としては間接的に大国のバックアップがつく相手が有利だと思います」

「何で?」

「ここは本当に閉鎖的な国で、もし他国の王子殿下が婿に来たら、貴族たちが勢力争いをするでしょう。私も一応クリストフ大臣の養子として引き取られ、この地位におりますし……」

「まぁね、一気に改革や王太子殿下の婚姻を結ぶことで、乗っ取られると思う人も多いだろうね」

「なので、クッションを入れた存在をと、私は思っています。殿下が結婚を希望されているか……よりも次を考えてしまいます……」

「いやいや、それは普通だよ。お疲れ様」


 ヴァーロは慰める。


「まぁ、もうすぐかな?」

「はい。あっ!」


 タイミングが悪いと言うか、この城を追い出され離宮監獄に送られるサラとその愛人が、出迎えに出てきたエレメンティアにタイミング悪く鉢合わせし、大騒ぎしている。


「この、エレメンティア‼お前のせいで‼」

「俺はお前の見送りに来た訳じゃない。それにフィーラ。結婚おめでとうと言うと思ったか?」

「何よ‼夫にも愛されない『鉄の処女』‼」


 エレメンティアは眉を動かす。

『鉄の処女』とは、敵やスパイを拷問する時に用いられる器具である。

 女性の雛形のような中に押し込まれ、絞められて行くうちに、内部に無数に刺さったトゲと言うよりも針がじわじわと身体中を突き刺し、苦しみつつ死んでいく。


「失礼ですが、フィーラどの?」


 エレメンティアを庇うように一歩前に出てきたカイルが、冷然と、


「『鉄の処女』と言う言葉を良くご存じですね。でもどのようなものでしょう?」

「なっ‼この女のように、冷たく冷酷で夫に愛されない女の事よ‼」

「すみません。馬鹿ですね?いえ、馬鹿でしょう?」

「なっ?何よ‼お前」

「『鉄の処女』と言うのは、敵や罪を犯した者に罪を自白させる拷問具です。女性を模した形のその拷問具には、罪人が押し込まれ、じわりじわりと締めていくんですよ。その内側には無数のトゲ……絞められて行くうちに、トゲが全身に突き刺さり、痛みで動くとますます……血は内側から下に落ちていき、締め付けられる程痛みが増す。途中で顔に仮面を被せられますが、その内側にもトゲがあり……」


一旦口を閉ざし、にっこりと笑う。


「続きもありますが聞きたいですか?無知ほど恐ろしいものはありませんからね。しっかりと聞いて、離宮で暮らせる幸福に感謝して下さい」

「も、もういいわ‼」

「そうですか?ですが、貴女のように身分のない女性が、王太子殿下に対して口にすべき言葉ではありませんでしたね。しかも『鉄の処女』。王太子殿下に対して害意があると言うことで、捕まってもおかしくありませんよ?……タイム副団長?」


 控えていた青年が、嫌々口を開く。


「王太子殿下に対して害意があると言うことで、これから騎士団で尋問を受けて頂いてもいいのだが、それよりも、お客人がお待ちですのでとっとと行って下さい」


 しかも、タイムはしっしっと手を振る。


「き、貴様‼」


 詰め寄ろうとするサラの腕を掴みひねりあげると、馬車に投げ込む。


「で、奥方も同じようにしましょうか?」


 無表情のタイムの言葉に慌てて乗り込むと、扉が閉ざされ、ようやく馬車が出ていったのだった。

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