表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/257

戦国料理人大友鎮成うどんスペシャル畑からは作りませんがお椀は作ります

四国に来て、最初に聞いた洒落で未だ忘れないのが、


「空海。うどん食うかい?」


だったりする。

これを書く時に思い出して、某魔法少女のせいで、御坊様にうどんを食わせる槍使いの魔法少女が浮かんで吹いたのは内緒だ。

けど、あの営業宇宙人にも負ける気がしないんだよなぁ。

あの大師様は。

 四国を形容するならば、実は漢字四つで形容できる。



 国国

 国国



 見事に四国である。

 だが、これは四国の正しい姿ではない。



 山山

 山山



 これが正しい四国の姿である。

 それぐらい、四国というのは山が近い。

 その為に四国は古来から船での移動が中心となり、必然的に水軍衆が力を持つ事を意味していた。

 俺達の移動も当然の事ながら、船での移動となる。

 とはいえ、いきなり船で押しかけたら合戦になりかねない。

 その為に、まずは使者を派遣し、了解をもらってからの移動となる。


「何か、いっぱい船に荷を積んでいるのね」


 俺の隣で見ていた有明が首をかしげる。

 お使いイベントと聞いていたからこの荷の量が理解できないのだろう。


「ついでに、土佐で売りさばこうと思ってな。

 いい銭になるんだ」


 四国はその山だらけの土地から常に食料に苦しんでいた。

 その為、山で取れる木材を畿内や九州に売って、その銭で食料を買うという経済サイクルが成立している。

 同時に、土佐で食料を買うとえらく高くつく事を意味している。

 俺達の食い扶持もこっちで調達した方が安いのだ。


「ご主人!

 準備できたよ!!」


 井筒女之助が元気な声をあげる。

 なお、彼の声の先には石臼がおかれている。


「じゃあやるか。

 石臼を回して、小麦を粉にしてくれ」


 何をやっているかというと、うどんである。

 うどんが今の形になったのは実は江戸時代だったりする。

 とはいえ、四国に来てうどんを食べないのはあれなので、じゃあ作るかというそんなノリではじめたこのイベント。

 なお、三好家領国の讃岐はうどんの聖地なのだが、雨が少なく麦栽培が広がったという裏背景がある。

 この讃岐を中心に、ため池等の土木技術を伝えて今でも信仰されているのが、古のハイパーチート坊主。弘法大師空海である。

 さすがに畑から耕す事はしないが、せっかくなのでとお椀は作ったりする。

 なお、この余興に三好家ノリノリ。

 三好義賢は数寄者でもあったのを見事に忘れていた。

 うどんのお椀を作るときに趣味に走って漆器のいいやつを家臣に作らせている。

 この余興も三好家の皆様の協力によって進められているのだ。


「粉になったわ。

 八郎様」


 明月の言葉で俺は海水を薄めた桶を取り出す。

 柄杓で小麦粉にそれをかけて手でこねる。

 いくつかは丸めて、海産物ダシの味噌汁の中に入れる。

 いい匂いがすでに周囲に広がっている。

 同じように皆がやりだしたら次は第二段階だ。


「よし。

 みんな桶で足を洗ってくれ」


「足を洗う?

 またどうして?」


「こうするのさ」


 俺は丸まった小麦粉を足で踏む。

 こうする事でコシが出るのだ。

 おれのやり方を見て、皆が足で踏み出す。


「んっ」

「はぁ…っ……」

「よいしょ」

「これ楽しいね!

 ご主人!」


 さて、紳士諸君問題だ。

 チラリズムというのは、ひらひらにあると変態という名の紳士が看破したのだが、その動きは足を動かして着物が揺れる事で発生する。

 で、うちのスタイリッシュ痴女軍団を見てみよう。

 眼福である。

 きっと三好家の家臣達も同じ事を思っているのだろう。

 ちなみに、このチラリズムにおいて一番人気だったのが井筒女之助だったらしく、女達がガチ凹みしていたのも付け加えておく。

 少しは肌の露出がおとなしくなる事に期待しよう。

 皆で小麦粉を踏んでしばらく置く。

 で、その間を持たせるのが、先ほど練った団子で作った味噌汁なのだ。

 貝に小魚にワカメに蟹が入った海産物の団子汁。

 これが美味くない訳がない。


「うまいな」

「おいしい!」

「美味」

「いい味ですね」

「おかわりっ!!」


 大好評である。

 山が近いという事は、山の幸もあるという訳で、きのこや山菜なんかもこの味噌汁には入っている。

 この団子汁が大友汁として四国に広がったのは後の話。


「おかわり。

 お願いできますか?」


 高価な茶碗をそっと差し出す美女に俺は団子汁のおかわりを注ぐ。

 凛とした佇まいは明月と同じ武家の匂いがする。

 髪は伸ばしていないが、その静かな佇まいが男にほっとする安堵感を与える。

 そんな女……


「ご主人。ご主人」


 つんつんと井筒女之助が俺をつつくが、頬をむーっと膨らませている。

 嫉妬しているらしい。


「僕というのがありながら、男に手を出すなんて!」


 え?

 男??

 なお、女達は嫉妬する前に果心が伝えてたらしく、なんか生暖かい目で俺を見てやがる。


「あはは。

 騙すつもりは無かったんですが、この姿だと勝手に騙されてくれるので」


 ガン見して見るとたしかに胸はないが、それを打ち消すほどの大人の魅力が凛としてあった。

 これが男なのかと驚く俺に、彼はその名前を告げたのである。


「土佐国。

 岡豊城主。

 長宗我部元親と申します。

 以後お見知り置きを」


 え?

 何でそんな人物がこんな格好で、こんな場所で団子汁食べているの?




 練った小麦粉をうどんにするためには麺に、つまり伸ばして切らないといけない。

 このため、棒で練ったものを広げて練ったものを広げてゆく。

 この作業は思った以上に力が居るのだ。


「意外に難しいですな」


 柳生宗厳が汗を拭きながら練ったものを広げてゆく。

 その隣では長宗我部元親が同じように広げてゆくが、地味に器用である。

 なお、長宗我部元親という武将は結構騙し討ちや謀略で城を落とすチート武将なのだが、その手に祭りとか宴会等をよく使っていたという。

 凛としておちゃめさんで腹黒という属性持ちだったりする。

 で、この容姿。

 守ってあげたい系なのだ。

 まさに姫若子である。

 戦国大名になる器である。


「さてと。

 この広げたものを包丁で切って、茹でる。

 これに、葱をのせて醤油をぶっかけて……できあがりだ。

 うどんという」


 ずるずると音を立ててうどんを食う。

 これだ。

 醤油をかけたうどんに、さっきの味噌汁をぶっかける。

 うまい。

 俺の食い方を見て真似る一同。

 美味いものには会話はいらない。

 当たり前のように酒が振る舞われ、自然と宴会が始まっている。


「長宗我部殿は何故このような姿でこのような所に?」


 当たり前だが自然に湧いた質問に、長宗我部元親が苦笑する。

 後で知ったが、供の者はちゃんと居たらしい。十人ぐらい。


「信頼ある家臣が城を守っている。

 だが、畿内のことはどうしても誰かを派遣せねばならぬ。

 で、一番暇だったのがそれがしだったという事」


 その容姿に三好の侍達が酒に酔わせようと酒を注ぐが顔色ひとつ変えずに言ってのける。

 なお、土佐国は大酒飲みが多い事でも知られている。

 彼の言葉は裏で取るとこうなる。

 その昔、城を追われた長宗我部家は土佐一条家の支援もあって領地に返り咲く。

 その過程で、長宗我部家について長宗我部家を支えた家臣達に対して強く物が言えなくなってしまっている。

 その為か、土佐統一過程で多くの家に弟を始めとした一族を養子に出したりして家臣団をまとめざるを得なかったのだ。 


「それに、自分の嫁なのに、自分が見定めずにどうしようかと」


 かといって長宗我部元親は家臣の操り人形で終わる器ではなかった。

 それを俺は知っている。


「では、戻る時はそれがしの船団とともに戻ろうと?」


 少人数で阿波に乗り込んで、三好の重臣と軍勢を引き連れて帰国する。

 それは家臣団に長宗我部元親の見方を変えるものになるだろう。

 それを見切り、賭けたからこそ、彼はこうして賭けに勝った。

 多分、この姿も擬態なんだろうが、本人ノリノリである。

 言うつもりはないが。


「ええ。

 明日、正式に三好殿にご挨拶するのですが、こうして会えたのは天運というもの。

 どうか、それがしを土佐に送ってくだされ」




「土佐国。

 岡豊城主。

 長宗我部元親と申します。

 三好殿の好意に感謝します」


 翌日の阿波国勝瑞城。

 そこには見事な若武者の長宗我部元親が居た。

 俺も三好義賢も居並ぶ家臣たちもこの姿に唖然。

 見事に一本取られたと俺と三好義賢は苦笑するしか無かった。

 俺達と長宗我部元親を載せた船団は阿波国を出て、土佐に入る。

 その旅路は三日ほどだったが、一泊目は阿波国海部城。

 土佐との最前線であり、城主海部友光は三好元長の娘を妻とした三好家の一族扱いの家である。




「よくぞ参られた。

 大友殿に長宗我部殿。

 歓迎しますぞ」


 海部友光が長宗我部元親にちくりと一言。

 これも戦国の作法である。


「長宗我部殿も水臭いですぞ。

 来る時にも声をかけてくれれば歓待したものを」


 なお、海部家は次の停泊地である土佐国安芸家と同盟関係にあった。

 そして、安芸家は長宗我部家の勢力拡大を望んでいる訳がない。

 女装して隠れて来なかったら、追い返されていた可能性は高かっただろう。


「申し訳ござらぬ。

 この姿ゆえ、惑わせてしまうと配慮した次第で」


 凛とした美女がパワハラをさらりとかわす図がそこにあった。

 だが、男だ。

 俺達の派遣は人質であり、監視であると同時に、通行保証も兼ねている訳だ。

 これで海部家や安芸家が拒否したら三好家の面子が潰れる訳で。

 女装にもお家の存亡がかかる以上、女らしいのはある意味当然である。

 海部友光に微笑む長宗我部元親の背中には、彼を信じた長宗我部家家臣達を背負っているのだから。

 なお、この地は海部刀という刀の産地であり、俺と長宗我部元親に海部友光から刀を一振りずつ頂くことになった。

 サバイバルナイフのように背にノコギリがついているのが特徴で、素直に便利だなと関心したのは内緒だ。




 翌日。

 航海は何事も無く、室戸岬を通過。

 船を操る水夫達はなれていることもあって、この強風地帯を超えて土佐国に入ってゆく。

 

「よくぞ参られた。

 大友殿に長宗我部殿。

 歓迎しますぞ」


 土佐に入ると長宗我部元親の目が怖くなる。

 ここはもう舐められてはいけない自分の戦場なのだろう。

 その凛とした姿と笑顔は海部友光の時と変わっていないが、挨拶をした安芸国虎相手だと目が笑っていない。

 夜叉がそこに居た。

 なお、安芸国虎も同じような目が笑っていない笑顔を作っている。


「三好家の御一門格に当たる大友主計助殿を連れて参った次第。

 お揃いの刀を海部殿から頂いたのですよ」


 ちょ!

 それだとまるで付き合っているように聞こえなくもと思って、気づく。

 そうか。

 そう思わせる事が長宗我部元親の目的なのだ。

 俺の愛人と錯覚してくれたら、京に上がっている間長宗我部領を攻める馬鹿は居なくなる。

 それが衆道だろうがというか衆道だからこそ、長宗我部元親はお家のために、俺に体を売ろうとしたのだ。

 つまり、あの最初の出会いからこの為の仕込みか。

 恐るべし戦国時代。

 なお、女だけで満足しているので、彼の売り込みを天然でガン無視していたのに今気づく。

 こえー。

 戦国時代こえー。




 三日目。

 土佐国浦戸に上陸岡豊城に入場。

 三好家の旗と大友家の旗を並べた俺達と共に長宗我部元親は入場する。

 これで彼を舐める家臣は出てこなくなるだろう。


「殿!

 ごの老体に鞭打って諫言いたす所存!

 どうかこのような危ない事をしてはなりませぬぞ……!!」


 なお、長宗我部家の宿老吉田孝頼の説教に正座してマジ泣きしているのは見なかったことにする。

 武士の情けだ。




 長宗我部家の京への出立は着々と準備が進む。

 また、俺のもとには周辺の国人衆からの挨拶もやって来る。

 長宗我部家の権威はこの嫁取りで良い方向に上がろうとしていた。

 滞在三日後。

 予期しない訪問者がやってきた。


「御曹司!

 ああ。良かった!

 こちらにおられました!!

 御家を!

 博多を救ってくだされ!!!」


 何で居る柳川調信と声を出す前に渾身の土下座をかます柳川調信。

 その手には神屋紹策からの書状が握られていた。

 そこに書かれていたのはただ一言。



 毛利隆元。家臣により謀殺。

 瀬戸内水軍衆の証文を中心に不渡り発生。



 嵐が来る。

 俺はそれをはっきりと悟った。

長宗我部元親のイメージ。

某エルダーシスター


空海   くうかい

海部友光 かいふ ともみつ

安芸国虎 あき くにとら

吉田孝頼 よしだ たかより

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ