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岸和田城代の日々 その1

 三好家の覇権確立に絡んだ結果、俺は岸和田城代という名を得る事になった。

 もっとも、時々顔をだすだけで基本堺の仲屋乾通の屋敷に今でも滞在しているのだが。

 将に褒美が与えられたら、今度は将が兵に褒美を与えなければならない。

 岸和田城代という地位からそこの警護兵として土着させる事まで含めて、兵の褒美は多岐に渡った。

 まずは、手持ちの将兵を確認しよう。


 大友鎮成

  有明・明月・果心 歩き巫女     六

           馬廻     三十五 

 大鶴宗秋      浪人衆     約百

 一万田鑑実     豊後衆     約百

 吉弘鎮理      吉弘家郎党   三百


 合計             約五百四十


 あれだけの合戦の後だけあって、負傷して去る者や褒美を手に故郷に帰る者が出た結果である。

 畿内の大名のスカウトがまたあったが、今回は三好家の覇権が固まり俺がその三好家に厚遇されている事からずいぶん少なかった。

 残った連中は感状や褒美の銭を支払い、歩き巫女達の体を貪り士気を回復していた。

 また、戦場から流れてきた武器や防具を盗品市で買取り武装を強化している。


 大友鎮成・有明・明月・果心    騎乗

  馬廻              全員騎馬武者   馬上槍+弓装備 

  豊後衆・吉弘家郎党       一部徒歩武者化  長槍+弓装備

  浪人衆             胴丸支給     長槍装備


 この装備編成は先を見据えている。

 次の戦においておそらく浪人衆を雇って足軽や雑兵として使うから、下士官クラスを育成する必要があった。

 そして、徒歩武者に足軽組頭になってもらい、足軽隊や長槍隊を数隊編成する事になるだろう。 

 馬廻を全員騎馬武者化したのは、騎馬隊として使うのと、彼らを派遣して足軽組頭に送る為だ。

 まだ補充はしていないが、ここから足軽や雑兵を雇うから、最終的には千人規模の隊ができる事になるだろう。

 装備を予備含めて購入しても安く上がったのは、それだけ出物が多く出ているからに他ならない。

 何しろ一万近い死傷者が出た合戦なだけに出物は良質な奴が多く、放置しておいて次の戦に敵側に渡るのも面白くない。

 明智十兵衛が仕官した縁で織田家に流す事を考える。

 切り札は、雑賀・根来衆が戦場で落とした鉄砲だ。

 整備が必要な武器だけど盗品市の連中でそんな技術を持っている奴がいる訳も無く、相場より安値で叩き売られていた。

 迷う事無く全部買って、代わりに穀物の支払いOKと持ちかけてみよう。

 あの合戦を側で見ていた織田信長の事だ。

 騎馬も鉄砲も拡充に動くだろうし、その出物が割安で出るならば買うと俺は確信していた。  

 明智十兵衛や多胡辰敬が去ったので寂しいが、大友家最強と名高い吉弘家郎党が入ったので戦力的には多分上がっている。

 この兵は基本堺に待機して、俺が岸和田城に顔を出す時について行く形になる。

 これに、岸和田城にいる以下の将兵が加わる。


 荒木村重      摂津衆     三百

 島清興       大和門徒    五百

 篠原長房      阿波衆      千


 合計               千八百

 総合計          二千三百四十一


 その土地土地で性格みたいなものがあるので、まとまるとその特色が見えてくる。

 たとえば、豊後衆(吉弘家郎党も含む)と摂津衆だと違いが色々あって面白い。

 具体的には宗教。

 豊後衆は六郷満山を抱える国東半島があるせいか、天台宗が強かったりする。

 摂津衆は一向宗のお膝元だけあって、一向宗が多い。

 ついでに言うと、商都堺で雇った浪人衆には日蓮宗が多かったりする。

 当たり前だが、島清興の率いるのは興福寺門徒、つまり法相宗である。

 阿波衆は真言の島である四国にある事もあって真言宗と日蓮宗を信仰している者が多い。



 すげぇ面倒くさい。



 畿内ではこの手の争いはよく起こっており、それを三好長慶はうまくさばいていた。

 そのこつは理解はするが中立を維持するという点。

 つまり依怙贔屓は無しで、揉め事の仲裁は手を出した方が悪いときちんと決めている。

 深入りせずに理解する形と畿内最大の武力を持っていた事が、彼を客観的な調停者として多くの宗派から頼られることになったのだろう。

 それを俺も見習う事にする。


「宗派の争いは厳禁。

 揉めた場合は、手を出した方が悪い」


を徹底させる。

 そんな事を大鶴宗秋や篠原長房と話し合った後でふと気になった事があったので、奥に行ってその質問をぶつけてみた。

 有明、明月、果心の三人は医書の判子押しをしていたが、俺の質問にその手を止めた。


「ふと気になったが、お前ら何を信仰している?」


 本当に雑談としての疑問だったので、あまり深くは考えていない。

 けど、三人の出てきた答えには中々考えさせられるものがあった。


「私は一向宗よ。

 こんななりでも仏様が救ってくださると思っていたし、遊郭に居た時も折を見てお祈りに行っていたのよ」


 とは有明の言葉。

 彼女の境遇もそうだが、その思想ゆえに遊女などの層の支持も多かった。

 狂信的で無いのは、俺が居た事と思うのは自惚れだろうか。


「私は宗像の人間。

 ならば、祈るのは仏様でなくて、神様よ。

 神様も仏様も私を祟りからまったく救ってくれなかったけど」


 とは明月の言葉。

 宗教に対する不信が一番強いのが明月なのだが、人が何もすがらずに生きるのは難しい。

 ある意味、有明と同じく現世に、俺に縋っているとも言える。


「私も諏訪大社の巫女でしたので。

 それと、立川真言流をとたしか話しましたよね」


 とは果心の言葉。

 見事にバラバラである。

 で、そんな話を振った信仰の問題を三人に話すと三人共苦笑するしか無い。

 そのあたり女の方がある意味現実的という事なのだろう。


「揉めないように何か手を打たないの?」

「既に打ってはいるが、揉め事が出ない訳ではないからな。

 特に畿内は宗派ごとで揉め事が起こった歴史があるから、双方恨みが積もっている」


 この話はしておかないとその怨念が理解できないのでご容赦願いたい。

 それでも端折って説明すると、細川管領家の内紛に一向宗が介入し勝利に貢献するが、その動員を見せつけられた武家は今度は日蓮宗と手を組み一向宗を殲滅。

 今度はでかくなった日蓮宗を排除するために延暦寺と手を組んで日蓮宗を叩くという離れ業をやらかし、遺恨があちこちに発生していたのである。

 それらを見事に駆使したのが知る人ぞ知る梟雄、木沢長政。

 で、彼を討つために畿内に上がったのが三好長慶で、そんな彼の城を手に入れたのが松永久秀だったりする。

 人の縁というのは複雑怪奇で、絡み合わないと先に進めないらしい。

 

「もう少し九州から兵を連れてきた方が良いかもしれん」

「何か問題でもあったの?」


 俺のぼやきに三人を代表して有明が尋ねる。

 俺は頭をかきながら、その理由を告げた。


「さっきの話とも少し絡むが、ばらばらだからこそ、一万田鑑実はある程度まとまった集団を作りたいらしい」


 吉弘鎮理が新たに派遣されたことで、一万田鑑実が刺激を受けていたのである。

 一万田鑑実の手勢はこちらでの合戦で消耗していたのも大きく、その補充を一万田本家に頼むつもりなのだ。


「こっちの浪人は雇わないの?」

「もう少し時を置いてから雇う。

 夜盗や盗賊に堕ちる連中を見極めたい」


 明月の言葉に俺は少し考えて返事をする。

 大規模合戦で畿内の中枢が荒れ、そこに借り出された浪人や流れ者が夜盗になっているのは三好家でも把握しており、早急な対処が求められていた。

 だが、三好家は合戦の後始末に追われており、その対処に動くのにはもう少しの時間が必要だったのである。

 

「なるほど。

 浪人衆を雇って更に揉め事の種を入れたくは無いと」

「とはいえ、揉め事を消す一番手っ取り早い手段は、一緒に戦う事だろうからな。

 痛し痒しだ」


 果心の苦笑に俺もぼやきで返す。

 ある意味流れ者集団である俺達の軍勢は、まとまるためにも合戦を欲していたのである。

 

「盗賊か夜盗の一つ二つを潰すか」


 三人と話した結果、結局そこに行き着く。

 そうなると、また最初に戻って編成で頭をかかえる事になる訳だ。


「やるのはいいが、損害は出したくは無い。

 今回の戦は、鉄砲隊も無いし、騎馬隊も居ないからな」


 こう考えると、明智の鉄砲隊と三好の騎馬隊は手元に抱えていると安心感が違った。

 代わりに、大友家最強の吉弘鎮理の郎党がやってきたのだが、彼が俺の指示に従うかどうかが怪しいのだ。

 話してゆくうちにやらねばならぬ事が見えてきた。


「馬廻を増やすか。

 手を止めさせてすまなかった」


「気にしないで」


 去ろうとする俺に有明が声をかける。

 そんな当たり前の日常が楽しいと感じる俺がいた。


「馬廻を増やそうと思う。

 前と同じで、皆の推薦の元俺が見極めて判断する。

 数を百ぐらいまで増やすつもりだから、今回の募集は六十ぐらいになるだろうな」


 表に戻った俺の言葉に大鶴宗明、一万田鑑実、吉弘鎮理の三将はそれぞれ仕事の手を止める。

 根無し草である俺達だが、集団である以上揉め事厄介事は常に発生し、それを処理するのは上の仕事である。


「抜擢については構わぬのですが、我らの郎党からも送り込んでよろしいので?」


 あえて仕事口調で吉弘鎮理が尋ねる。

 馬廻というのは俺を守る最後の盾である。

 そこに己の手勢を送り込めるのならば、監視として来ただろう吉弘鎮理からすれば格好のチャンスにも見えなくも無い。


「構わんぞ。

 その分手勢が減るが、それはそっちでなんとかしてくれ。

 あと、近く手頃な盗賊なり夜盗を潰すからその準備を」


 俺の言葉に三将の顔が戦人のそれになるが、その意味を探ること無く俺はその場を後にした。

木沢長政 きざわ ながまさ

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