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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
畿内三好家出会い編 永禄五年(1562年) 春  大規模加筆修正済

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天下人双演

「お祭りをしましょう」


 何言ってんだという感じで俺が見ると、裸の有明はえへんとたわわな胸をそらす。


「この間の戦で多くの人が死んだでしょ。

 あちこちで葬儀をやっていると思うけど、辛気臭いのって苦手なのよね。

 だから派手にお祭りをしましょう」


 三好家と反三好勢力がぶつかった教興寺合戦で命を失った数は双方合わせて一万ぐらいと言われている。

 という事は、それだけの葬式が今畿内で行われている。

 葬式というのは生者の為に行われるものだ。

 死者に別れを告げて、残った者達が新たな関係を作るのが葬式だ。

 だから祭りをやって、関係を精算し新たな関係を作るのだ。


「けど、穢れとかどうします?」


 俺の横で裸で横になっているお色が有明の提案に口を挟む。

 死者が大量に出ているからこそその手の祝い事は避けるというのがこの時代の習慣だ。

 それを知らない有明ではない。


「だから、誰も知らない、何も意味がないお祭りをしましょう。

 死んだ者にお別れを、生きている者には笑顔を。

 そんなお祭りを勝手にしちゃいましょう」


 そんな事を言って有明は俺に抱きつく。

 抱きついた有明の体の暖かさと、かすかな震えで俺は何で有明がそんな事を言ったのか理解する。

 あの連続の戦で有明も怖かったのだと。

 やっと生を実感できたから、今更震えがやってきたのだと。

 それは二人を抱いている俺も同じだった。


「それもいいな。

 ただなんとなく舞って、ただなんとなく踊って、ただなんとなく騒ぐ。

 うん。悪くない」


 そんな事を言いながら、俺は二人の体を貪った。




 で、翌日。

 そんなたわけた祭りの用意を始める。

 仲屋乾通の屋敷を預かる大番頭を呼んで、欲しいものを注文する。

 その注文リストを見た大番頭はいくつかの品に首を傾げる。


「太鼓に鉦、笛、琵琶、雅楽鈴……

 何をしたいかは分かるのですが、こちらの品はどういう意味なのでしょうか?

 この下駄と平べったい大きな石とは?」


「まぁ、ただの婆娑羅遊びよ。

 大店の仲屋なら手に入らない事もないだろうが、銭はこちらで出そう」


 怪訝そうな目でこちらを見る大番頭だが、銭を支払う以上用意するのが商売人というものだ。

 表向きは納得したような顔で、大番頭は確認をとる。 


「一座を呼ぶつもりで?」


「そこまではいらぬよ。

 できる人間はそこそこ居るのでな。

 あくまで婆娑羅遊びだからこそ、こんな事を頼むのだ」


 俺自身はさほど音楽系の教養は無いが、博多で太夫まで上り詰めた有明や、宗像で祟り巫女をしていたお色は必然的にこのスキルを持っている。

 京に来て礼法を学んだ大鶴宗秋が公家との付き合いで必須であるこの手の音楽スキルを習得していない訳がなく、戦にも使う太鼓は当然一万田鑑実も触れていた。

 そして待つこと数日。

 来た物を手にとって、仲屋乾通の屋敷の庭でそれを眺める。


「なかなか良い石じゃないか」


「阿波から取り寄せました。

 元々は茶室用に取り寄せて、これを割って使うつもりだったのですが」


 大番頭の言葉にそこそこ風流が漂っているのもこの文化都市堺ならではである。

 そんな彼の懐も今は俺が売りさばいている医書でほくほくしているだろう。


「それは済まなかった。

 で、支払いだが……」


「既に三好様より頂いております。

 先の戦の費用分もです」


 さすが三好家。手が早い。

 久米田合戦の時よろしく簡単に受け取らないだろうと思って、先に片付けやがった。

 後で何だかの礼をする事にして、皆それぞれに楽器を持つ。


 有明は琵琶。

 お色は雅楽鈴。

 大鶴宗秋が鉦を持ち、一万田鑑実が笛を吹く。


「面白そうなことをしているではございませぬか」

「左様。

 我らも加えてくだされ」


 そう言ってやってきたのが明智十兵衛と多胡辰敬。

 明智十兵衛自前の笛を持ち、多胡辰敬は太鼓の鉢を手に取る。


「で、御曹司は何の楽器で?」

「これさ」


 大番頭の声に俺は足を指差す。

 用意してもらった下駄をしっかりと紐で結んで、平べったい大石の上に乗るとカランと乾いた音がする。

 その音が面白かったのか、有明が笑う。


「八郎が舞うの?」


「舞うまではできないよ。

 音をたてるのみさ。

 何か音を出してくれ。

 それに合わせて音を出そう」


 カランカランと音を立てれば、有明がぺぺペンペンペンと琵琶を鳴らす。

 リズムができれば他の人も乗せるのが楽で、シャンシャンシャンとお色が鈴を鳴らし、ドンドンドンと多胡辰敬が太鼓を叩き、カンカンと大鶴宗秋の鉦の音が響く。

 こうしてできた音に一万田鑑実と明智十兵衛が笛を吹けば、屋敷の外まで聞こえる音楽に町の住人が何事と塀越しにこちらを覗くが皆気にしない。

 一曲おわり壁の外からの喝采に手を振っていたら、見た顔を見つけ声をかけられる。


「何をしている?」


「見ての通り踊っている。

 そっちこそ何でここに居るんだ?」


 やっていたのは似非山笠囃子。

 明らかに畿内とは違うリズムの音に織田信長は興味深々だが、ここに来た目的は忘れていないらしい。


「例の本を受け取りに来た」


「ああ。

 表に回って店のものに言えば渡してくれるさ」


 それで話は終わりのはずだが、織田信長は去ろうとしない。

 で、じーっと俺を、というか俺の履いている下駄を眺めている。


「もしかしてやってみたいとか?」


「うむ」


 その南蛮衣装で神楽舞とかすれば映えるだろうよ。

 どうせ何も考えない祭りである。

 俺は手を叩いて織田信長を呼び寄せることにした。


「入ってこい。

 これは九州の踊りでな、やり方を教えてやる。

 その代わり、何か舞ってみせろ」


「敦盛でいいなら舞ってやる」


 生敦盛。

 織田信長の生敦盛である。

 何か音をと思ったが、その舞が綺麗で音を立てられない。

 織田信長の目は俗世では無く、演者として別の何かを、その舞は精緻かつ優雅で天上天下唯我独尊。


 ポン


 そんな完成されていた敦盛に堤太鼓の音が入る。

 まるで釈迦の手のように包む音に織田信長は気にする様子はないが、その世界はただ一人から周りに広がってゆく。


 ポン


 その舞に堤太鼓を入れた人物を見ようとして固まる。

 楽しそうに、そして興味深そうに三好長慶は織田信長の敦盛に音を入れる。

 織田信長は三好長慶をひと目見ただけで、その舞が微塵もゆらぎもしない。

 ああ。

 これは夢だ。

 こんなにも楽しくて、儚い白昼夢が現実な訳がない。

 もう少しだけ、夢なら覚めないでほしいと思った。




「三好殿。

 なぜこの場に?」


「色々と助けてもろうた礼がまだだったなと。

 するとこのような宴をやっているではないか。

 ならばと思ったまでよ」


 三好長慶はじっと織田信長の方を見る。

 織田信長もじっと三好長慶の方を見るが、三好長慶はそのまま視線を俺に移してこんな話をしだす。


「世はどこも戦続き。

 聞けば、美濃と尾張の境にある某の城が斎藤側に寝返るとか寝返らないとか。

 物騒なものよな」


 織田信長の顔色が変わる。

 多分三好長慶は織田信長の事を知った上であえてこの話を振った。

 暗殺阻止の礼なのだろうか?

 それとも、俺へちょっかいを出すのを牽制したのだろうか。


「待て」


 去ろうとする織田信長に声をかける。

 先程の舞の礼だ。

 これぐらいは言ってもかまわないだろう。


「三好殿が掴んだ噂、俺も船便で聞いている。

 織田下野守が戦準備をしているとかいないとか」


 織田下野守とは織田信清の事で、史実ではこの後謀反を起こす。

 これぐらいは教えてやってもいいだろう。

 織田信長は俺と三好長慶にそれぞれ礼をして、郎党を引き連れてこの場より立ち去っていった。


「見事な侍ぶりよ。

 どこの家か知らぬが」


 知っているのに三好長慶はわざととぼける。

 この後の六角攻めを考えると、背後を突ける一色こと斎藤家との関係は悪化させたくはないのだろう。


「本当でございますな。

 どこの家の者か知りませぬが。

 きっと名のある家の者なのでしょう」


 知っているのに俺もとぼける。

 彼が後の天下人になる事を隠して。


「で、戦の褒美、何が望みかな?」


 笑顔で三好長慶が問いかけ、俺がそれに笑顔で答える。

 三好長慶も織田信長もこの宴がどれほどの価値があるのかを知らない。


「この宴で十分でございますよ」

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