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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
畿内三好家出会い編 永禄五年(1562年) 春  大規模加筆修正済

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淀川渡河戦 前編

 摂津国尼崎。

 現在、三好軍の四国勢が陣を敷いているこの地に手勢を率いて上陸する羽目になったのは、こんな理由である。


「堺を出て行けと?」


 三宝にいっぱいの銀を盛って頭を下げる今井宗久は、汗まみれの顔を手ぬぐいで拭きながら続きを口にした。


「大友鎮成様には本当に申し訳なく。

 畠山勢の一部が貴方様を危険視しており、出て行かねば堺を焼くと脅して……」


 三好側への好意的中立を崩していない俺が堺にいるのを、畠山軍はよく思っていないらしい。

 彼らからすれば、俺が堺の浪人衆を率いて背後を突く可能性を恐れているのだ。

 北に三好軍後詰、東に飯盛山城、南東に松永久秀に包囲される形になっている畠山軍にとっては、西の確保の為ならば俺を三好側に走らせる方が良いと判断したという事なのだろう。

 そして、中立を謳っている商業都市堺の町衆も、双方合わせて十万の大軍がぶつかる大戦で畠山軍四万を背景にした恫喝に耐えられなかったという訳だ。

 町衆に頼んで、浪人衆大将にしてもらった事がこれで無駄になった。


「頭をお上げ下され。

 これまでの好意に感謝しております。

 迷惑をかけるつもりはないので、おとなしく尼崎に退去する事にしましょう」


 俺の退去要請でわかったことがある。

 俺みたいな人間すら追い払う必要がある。

 つまり、畠山軍の攻勢は近いという事だ。




 今井宗久が手配した船にて尼崎に到着。

 俺達が九州から乗ってきた船は、三好軍を四国から上陸させる商売に使用していたので、このあたりも畠山軍からすれば面白くなかったのだろう。

 完全武装の尼子と大友の旗印を見て、三好軍の兵達が騒ぐ。


「あの旗は何処だ?」

「知らぬのか!?

 久米田の戦で三好義賢様と安宅冬康様を守って殿を務めた大友鎮成様よ!」

「おおっ!

 九州の仁将と噂の高いあのお方か!!」

「堺より動かなかったのはどうしてか知らぬが、やはり我らの加勢に来てくれたか!

 これで勝利は間違いなしよの!!」


 なんか恐ろしく過大評価されている気がする。

 なお、久米田合戦には安宅冬康とその手勢が参加していたので、俺によって命を助けられたと感謝している将兵も多い。

 とりあえず、身ぐるみ剥がされて殺されるなんて事はなさそうだ。


「大鶴宗秋。

 使いを頼む。

 多胡辰敬と一万田鑑実は陣を立ててくれ。

 三好軍の邪魔にならぬように端でいいぞ」


「承知しました」

「……それを安宅殿が許してくれるのですかな?」


 黙った俺の命を受けた一万田鑑実といぶかしそうな声を出す多胡辰敬に俺は軽く手を振って二人を動かす。

 尼崎に集まっている軍勢は一万四千。

 その中に入るのは、寄せ集めの千しか居ないのだ。

 おとなしくするに限る。


「御曹司は、まだ己を過小評価しているような気がするのですが……」


 鉄砲隊を率いる明智十兵衛が俺に聞こえるように呟くが、俺は聞こえないふりをする。

 なお、三好軍のスカウトと契約交渉中だった彼は、俺が尼崎に追い出されて三好軍へ自動参戦する事が決まったのでそのまま俺の所に残る事に決めたという。

 いいのだろうか?


「とにかく、三好の邪魔をするつもりはないさ。

 荷駄運びの仕事でもしておとなしくするので、そう心がけてほしい」


 なお、俺のこの発言は戻ってきた大鶴宗秋によって撤回させられる羽目になった。


「よくおいでなさった!

 参陣歓迎いたしますぞ!!

 ささ。

 席を用意させる故、座って下され!!」


 あれ?

 何で俺は安宅冬康の本陣で、その軍議の席に参加しているんだ?

 大鶴宗秋に参陣の挨拶に出向かせたらこれである。

 どうしてくれようか。

 とはいえ、負けるとろくな事にはならないので、口だけは出しておこうか。


「邪魔にしかならぬと堺にておとなしくしているつもりでしたが、畠山に追い出されて参りました。

 我らすら邪魔に思うと畠山が感じているという事を考えるならば、戦は近いかと」


 その一言に安宅冬康をはじめとした諸将が唸る。

 双方合わせて十万なんて人数はそれだけの無駄飯食らいが集まっている事を意味している。

 『春に飢える』という言葉がある。

 秋に収穫し、冬にそれを食べた結果、種を植える春に飢えるという訳だ。

 それは、近年の不作で苦しんでいる畿内とて例外ではない。

 長く対陣する体力は三好家にも畠山家にもないのだ。


「皆の衆、今の話を聞いたな。

 我らは、これより鳥飼に軍を進めて、若様の陣へ合流する!!」


 若様とは三好家の次期後継者三好義興の事である。

 こうして、三好軍も決戦に向けて軍を進めるが、合流後の翌日に史実にはない想定外の事態が発生する。


「伝令!

 六角勢一万が山城国勝竜寺城を囲んでいるとの事!

 城主今村慶満殿が後詰を求めています!!」


 六角軍の横槍。

 末端の将兵はその報告に動揺する。

 これから畠山軍と戦わねばならないのに、その最中に六角軍が横槍を入れてきたらと考えたら恐怖するのもわからない訳ではない。


「大友鎮成様はおられるか!

 安宅殿と共に本陣に来てもらいたいとの事!!」


 いや、寡兵の外様を本陣に連れて行くのはどうかと思うのですが。

 一応抗議したのだが、安宅冬康はとりあうつもりは無かった。


「それがしと兄者の命の恩人を紹介するのに、何を遠慮なさるのか」


 するから。

 おもいっきりするから。

 所詮部外者なので、その運命共同体の中に入れないで欲しい。

 やばくなったら即座に逃げる気満々だからなんて言える訳もなく、三好家の若き後継者である三好義興とも面会する羽目に。


「三好筑前守義興と申す。

 叔父上達を助けていただいて感謝している。

 此度も三好に力を貸していただけるとか」


 今回の合戦の実質的総司令官が彼である。

 三好一族と重臣達勢揃いの中で俺も返答を返す。


「大友鎮成と申します。

 此度は幸先がよく、戦の勝利を早いですがお祝い申し上げる次第」


 周囲の一門・重臣達が『何を言っているんだこいつ』という顔をしている。

 集まっているのは六角軍の横槍についての協議だろうから機先を制して見たのだが、状況がまだ見えていないらしい。


「堺にて、三好長慶様と三好義賢様にこう申し上げ申した。

 『六角と畠山の二方向に敵を抱えた時点で負けているのです。せめて敵を絞りなされ』と」


「勝竜寺城を見捨てろとおっしゃるか!!」


 重臣の一人が立ち上がって怒鳴る。

 後で聞いたが、山城国人衆の旗頭である岩成友通だった。

 そういう異論が出るのは知っていたから、かつて立花山城で言った事を繰り替えす。


「十日。

 十日持ちこたえた後、城を明け渡すと伝えなされ。

 六角勢は、畠山への義理に出兵をしているに過ぎませぬ。

 どうせ畠山が攻めてくる以上、彼らの横槍を避ける事こそ重要」


 こういう時に数字を出すと信頼感が増すのは宗像攻めにて体験済みである。

 首脳部がここで動揺するのが最悪手なので、それさえ避けてしまえばどうとでもなる。


「六角軍は下手を打ち申した。

 横槍を入れるならば、我らが淀川を渡る時を叩くのが最上。

 勝竜寺城を攻めた事で、畠山との戦に直接関わるつもりがないと自ら晒してしまったが故に」


 重苦しかった皆の空気が変わる。

 この手のは相手に選択肢をあるかのようにアドバイスするのがポイントで、自然と会議を誘導してゆく。

 岩成友通が怪訝そうな目で俺に確認する。


「では、六角の事は捨て置けと?」


「今は。

 先に畠山勢四万との戦が待っており申す。

 勝ってしまえば、一万の兵ごとき踏み潰せるでしょうに」


 ここに集まった三好軍は四万五千。

 飯盛山城に一万の兵がいるから最低でも同数の押さえが必要になる。

 淀川渡河戦は四万五千対三万の戦いになるだろう。

 そして、ここで勝ってしまえば六角軍への後詰は簡単に抽出できるのだ。

 三好義興が笑顔で皆に言い聞かせるように言い放つ。


「ふむ。

 今趙雲との呼び名はたしかなものらしい。

 どうか、その智謀を此度の戦に役立ててくだされ。

 浪人衆をお任せするので、存分に武功を立てて下され。

 安宅殿。

 大友殿をお願い申す」


「畏まりました。

 こちらからも篠原長房をつけましょう」


 安宅冬康も追随するに及んで俺は発言を控えた。

 本人の意志確認なしかよ。おい。

 お目付けつきで一軍指揮確定ですか。

 なんだろう?

 この、回避をしているはずなのにどんどんと深みにハマってゆく泥沼感は。




 陣に帰る途中で声をかけられる。

 その声にある意味俺は納得した。


「お目見えお疲れ様でした。

 御曹司」


「妙に三好の受け入れの手際が良いと思ったが、お前の仕業か。

 果心」


 振り返るつもりもなく、俺は自陣に向かう。

 ついてくるらしく、果心の声が後ろから届く。


「あれだけの大種を戴いたお礼ですわ」


「しばらくは武功なしで色狂いの橙武者を演じるつもりだったんだぞ。

 どうしてくれるんだ」


 俺の物言いが面白かったのか、果心が楽しそうに笑う。

 周囲の足軽の視線が俺の後ろに行っているからまた凄い恰好なのだろう。

 これだけの大軍だから、その手の女達にとっても稼ぎ時なのだ。


「あら、女狂いならば私を雇ってしまえばいいじゃないですか。

 間者から閨まで何でも致しますわ」


「で、報酬は九州への逃亡って所か」


「さすがの武田の歩き巫女も九州まで足を運ぶのは骨が折れるでしょうし」


 会話そのものは不快ではないのだ。

 困ったことに。

 それが怖い。

 会話を楽しみながら、誘導されるがように。

 さっきの陣中での俺のように。


「淀川の渡。

 それを教えろ。

 そうしたら、お前を九州に逃がしてやる」


 そして、果心の方を振り向く。

 妖艶な歩き巫女がそこにいた。

 別の言葉で言うと、スタイリッシュ痴女がそこに居た。

 これを陣に連れて帰るのか。

 ちょっと早まった気がしないでもないが、ため息一つついて陣に戻ることにした。

 もちろん、有明とお色の機嫌が最悪になったのは言うまでもない。




「大友殿の陣はこちらか?」


 目付として俺の陣にやってきた篠原長房は三好義賢の懐刀として名高く、四国三好軍の副将である。

 挨拶の後、篠原長房は本題を切り出す。


「大友殿の為に馬を三十頭ばかり持ってまいりました。

 どうかお受け取りください」


 この時代の合戦では侍は郎党や足軽と組んで戦う。

 大体侍一人に家来の郎党二人、それにパートとして雇う足軽や雑兵が二人で一つのユニットを作り、それを騎馬武者が馬上から指揮する。

 大将の護衛兼予備兵力の事を『馬廻』というのは、これが由来である。

 俺たちは船で堺からやってきた事もあって、馬を連れていなかったのを知っての馬の提供である。


「ありがたいと言えばありがたいが、われらに馬を与えるより、もっと他の将に馬を与えれば良いでしょうに」


 俺の懸念を篠原長房は笑って払拭する。

 それは畿内を支配していた三好家の豊かさを示していた。


「ご心配なさるな。

 この戦において我らは馬を数千頭連れてきておるのでな。

 大友殿に少しぐらい渡しても、問題にはなりませぬぞ」


 三好家勢力圏に播磨国や丹波国がある事がこの馬の動員を可能にした。

 古来より馬の産地であるこれらの国を押さえていた事で、多くの馬を確保していたのである。

 馬というのは戦場に連れてくるまでに半数が使い物にならなくなる生き物で、合戦時には万一の予備として多めの馬を必ず連れてきていた。

 俺たちに渡される馬というのはそういう予備の馬なのだろう。

 戦場で働く騎馬武者の数はおそらく二千から三千で、三好軍総兵力四万五千の比率で考えると納得が行く数ではある。


「三好殿のお心遣いに感謝を。

 馬廻に馬を……」


 と、いいかけて言葉を途切れさせてしまう。

 考えてみれば、ゲームではあったのに現実では無かったある事に気づいたからだ。


「どうなされましたか?」


 篠原長房の怪訝そうな視線に気づいて、俺は慌てて言葉をつなげる。

 折角手に入った馬なのだから、一つ試してみようと思って。


「何、古の兵法を思い出しましてな。

 少し試してみようかと」




「ひぃぃ!来るな!くるなぁぁ!!」

「逃げるな!ただ立っておればいいといっただろうか!!!」

「無茶言うな!

 あんなのが突っ込んで来るのに立っていられるか!!」


 翌日。

 試したかった事を篠原長房経由で耳にした三好義興と安宅冬康は、その結果を見て衝撃を受ける。

 訓練として槍衾を構えて立たせていた百名ばかりの雑兵の隊列に、騎馬武者の集団三十騎を突っ込ませた結果である。

 騎馬の連中は本当に突っ込ませずに直前で回避するように言っておいたが、その手前で雑兵達士気が崩壊しバラバラに逃げ散ったのを見て皆を代表して篠原長房が俺に尋ねる。


「これが大友殿の言う『古の兵法』か?」

「然り。

 鎌倉の昔、源平が争った頃に良くあった光景だそうで」


 槍衾という対騎馬陣形で待ち構えていたのにも関わらず雑兵達が逃げ散ったのは、雑兵だから、つまりこの戦オンリーのパート戦力だからに他ならない。

 彼らは家に忠義がある訳でもないので自分の命が惜しい。

 そんな彼らに向けて、時速数十キロで突っ込んでくる馬の群れに突っ込まれるなら普通は避けるし逃げる。

 それが隊に伝染してめでたく士気崩壊という訳だ。


「大友殿にお尋ねしたいが、その古の兵法が今の世において用いられなくなったのはどうしてか?」


 三好義興の質問に、俺は騎馬武者達を眺めながら答える。

 今回の実験に付き合ってもらったのは、三好義興の馬廻、つまり三好家最精鋭の騎馬武者達だったのだから。

 彼らをまとめ上げて指揮するには一門を大将にする必要があると確信したので俺自身はこの実験で留めて、戦力化については見切りをつけていた。


「諸将には分かっている事ではあり申すが、騎馬のみだと足軽に囲まれて討ち取られます。

 それに対抗するために、騎馬に郎党や足軽をつけたのですが、それだと馬の速さに人がついてゆけない。

 それがこの兵法が廃れた理由の一つ」


 話しながら俺は視線を周囲に向ける。

 その視線の先に有る山や川を諸将が確認するのを見た上で続きを口にした。


「次にこの日の本は山や川が多く、この兵法の本来の使い方である馬の速さを用いて横や後ろから敵を突くがやりにくい。

 今のところ、日の本においてこれを成功させたのはそれがしは一人しか知りませぬ。

 一の谷の合戦で鵯越えを成し遂げた源義経公」


 俺が何を言わんとするのか、三将とも気づく。

 歴史に名の残す将達は頭も早い。


「ええ。

 この畿内ならば、この策は使えるのですよ」 


 数でまさる三好軍だが、紀伊国を領国にしている畠山家は雑賀衆や根来衆と契約している。

 それは、鉄砲保有において三好軍より畠山軍の方が多い事を意味する。

 真っ向から突っ込むと甚大な被害が出るこれらの鉄砲隊対策に、背後や側面から迂回攻撃ができる手が欲しかったというのがこの実験の趣旨である。


「大友殿。

 良ければこの策を進めてくださらぬか?」


「無理ですな」


 三好義興の懇願を一言のもとに切り捨てる。

 今度はその理由を語れば、彼らも納得はするだろう。


「このように騎馬の群れを一塊にして突っ込ませるには、三好家の騎馬武者でも上の者が必要。

 その上の者を従わせるには三好家の御一門が大将にならねば無理でしょう。

 いただいた馬を用いて物見に使い、お役に……」


「一門が大将ならば、この策は進められるのですな?」


 俺の口を遮ったのは安宅冬康の声。

 その声に並々ならぬ自信があったので、俺は頷かざるを得ない。

 そんな俺の頷きを確認した上で安宅冬康はその人物の名前をあげた。


「御大将。

 どうか、この騎馬大将に野口若狭守を推挙したく」


「おお!

 野口の叔父上がおったか!

 連れてまいれ!」


 野口若狭守?

 野口の叔父上?

 しばらく考え込み、知識の中からその名前を引っ張り出した時に、その本人が俺達の前に出てくる。

 印象が薄いが人の良さそうな笑みを俺に見せて、彼は自己紹介をする。


「野口若狭守冬長。

 お呼びにより参上いたしました」

8/4 加筆更新して分離

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