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名探偵と行く第四次世界大戦の武器調達

 双方十万が激突するだろう合戦が段々近づいている中、俺が何をしているかというと兵と武器調達に走り回っていた。

 極力傍観を望んでいるが、ああいう歩き巫女すら投入してきた以上、もはや巻き込まれる事は必然と判断したからだ。

 という訳で、珠光茶碗を担保に資金を用意した俺はまずは浪人たちを集める。

 これが思ったほど集まって六百人ほど募集が来たのには少しびっくりしたが、浪人たちに聞いてみると理由は簡単だった。


「何しろ大友殿は先の戦に勝ちましたからな。

 あの戦に参加していたのですよ。

 畠山側で」


 つまり、久米田合戦で負けたので、今度は勝ち馬だった俺に乗り換えたい連中だ。

 こいつらは久米田合戦が畠山軍の戦略的勝利で終わったのを良いことに、褒美をもらって契約解除して堺にとどまっていた訳でベテラン連中が多い。

 その分値段が高くてふっかけられたが、それを無視しても兵力の確保に動いた俺の判断は間違っていないと思う。


「ここに募集に来る侍で、大将が自らやってきたのは大友様しかおりませんからな。

 この大将ならば大丈夫だろうと」


 次は三好と反三好のどちらにつくか迷って明確に顔が見える俺に賭けた連中も、まだ使える範疇に入る。

 要するに、ギリギリまで見極めて最後に賭ける奴らだ。

 基本使える傭兵というのはこんなのばかりである。

 問題は、それ以外のこいつらだった。


「何か募集があって、皆が行っているからついてきたんだ。

 俺はこの戦で大将首をとって一旗あげるんだ!」


 チャンスは散々あったのに決断できずに、最後の募集と見た先の二者についてきた連中四百人ばかり。

 素人以下の田舎から出たお上りさんで、まず武装を持っていないからそこから用意しなければならない。


「という訳でお主らに最初の仕事だ。

 拳ぐらいの石を一人三十個拾って来い」


 前に出したら崩れる以上、後ろに置いて使うしかない。

 ならば、武器は投石しか考えなれなかった。

 拾ってきた連中の石の数を数えると平均で二十個ほど。

 つまり、平均十個分誰ががサボったか、拾う能力が無かったという事を意味している。


「次に浜に行って流木を拾って来い。

 己の腕より大きな奴だ。

 ある程度大きなものを拾ってきた奴には褒美を出すぞ」


 石を投げるだけで終るならば苦労は無いが、最低限の近接戦闘武器も用意してやる。

 絶賛値上がり中の刀や槍なんて上等な物ではなく、棍棒なのだが。

 あるのと無いのでは差がでるのが合戦というものである。


「お前らは川で平べったい石を探して来い。

 こういう奴だ。

 これを見つけたらやはり褒美を出すぞ」


 棍棒でも十分なのただが、もう少し良い装備をという事で、あまった連中に平べったい石を拾わせる。

 これを棍棒にくくりつけて石斧にするのだ。

 どこの石器時代だと言いたくなるが、その石器時代から延々と続く人殺しの歴史を考えると人類というのはさして進化していないなと苦笑するしかない。

 見つけた流木で作った棍棒が二百本で、そこから石斧になったのがおおよそ百本。

 残りは石を投げさせる以外は荷駄衆として荷物運びをさせるぐらいしか無いのだが、その荷物をくすねかねないから困る。 


「もう少しましな装備を用意しても良かったのでは?」


 石を拾いに堺の街から出てゆく彼らを街の門から眺めていると、控えていた大鶴宗秋が口を挟む。

 大鶴宗秋の言葉に俺は苦笑して彼らから視線をそらした。


「そのまともな武器で俺を殺しに来たらどうする?

 例の間者結局見つからなかっただろうが」


「にも関わらず、素性の知らぬ浪人達を雇うのですから御曹司も大概ですな」


 大鶴宗秋の呆れ声を無視すると、根負けした大鶴宗秋が話題を切り替える。

 彼には堺の町衆相手にある事を頼んでいたのだ。


「町衆の皆様は御曹司の提案に乗りましたぞ。

 町を守る浪人衆の大将に御曹司を加えると」


 堺は名目的には自治都市であり、町衆という商人達の自治によって運営されている。

 その為に彼らは町を守るための戦力を自前で用意しており、それがこの町の自治を守る一因になっていた。

 で、堺は間近に迫った三好家と反三好勢力の決戦に際して、どちらが勝ってもいいように中立を望んでおり、その中立政策の一環として俺を雇ったのだ。

 これで、堺は三好家には、


「三好殿に比較的近い大友殿が堺に居る。

 その気になれば、彼が敵の背後から襲うでしょうな」


という言い訳を、反三好勢力には、


「久米田合戦で武名をあげた大友殿を堺に囲って、次の決戦に出さぬようにしましたぞ」


という言い訳を用意できるという訳だ。

 それが通用するかどうかはまた別問題だろうが。


「まぁ、俺を殺すならばこの機を逃すまいよ。

 そういえば、面白い話があるが聞くか?」


 あえてそらした話を俺の方から差し出されて大鶴宗秋が食いつく。

 浪人たちから話を聞いて掴んだ糸を俺は口に出した。


「九州から連れてきた郎党が一人しか残らなかった話。

 あれに誘いをかけていた奴、どうも坊主らしい」


 俺の言葉に大鶴宗秋も眉をひそめる。

 大友家の誰かが犯人かと思っていたのだが、その間に坊主という別のファクターが入ってきたからだ。


「ここだと坊主でも色々あるからな。

 本願寺、南都寺院、根来寺、延暦寺、金剛峰寺、法華経……

 さて、何処の寺の者だと思う?」


「ちなみにその話を何処で?」


「雇った浪人連中からさ。

 かなりの高値で雇ったらしく、俺もと探したが姿は見えず。

 実に怪しいだろう?」


 これで合戦場で出会えるならまた話も聞けるだろうが、その可能性は低そうだと俺は判断していた。

 十万の人間が入り乱れる場所でそいつを探すのが困難極まるというのが一つ。

 もう一つが、謀略として俺の手元から彼らを離す事を目的にした場合、彼らが生きていない可能性があるからだ。

  

「御曹司。

 見つけましたよ。当たりです」


 苗字のせいかそのあたりもチートぶりを発揮してくれた明智十兵衛の声に俺達が振り向くと、彼が手に持っていた防具に見覚えがある。

 胴丸で、その真ん中に三本杉の家紋。

 大鶴宗秋が郎党に与えたものだ。


「盗品市の流れ物で見つけましたよ。

 もう少し待っていればばれなかったものを、合戦前だから値上がりしたのに目が眩んだんでしょうな。

 昨日持ってきたらしくて見てください。状態が良すぎる」


 名探偵明智十兵衛は軽く胴丸を叩いて説明を続ける。

 こちらの危惧が的中した瞬間である。


「で、何個出て来た?」


「五個ですね」


「そんな所だろうな。

 持ってきた相手は?」


「堺から北の村の住民だそうで。

 行き倒れた足軽を供養して欲しいという名目で流れの僧兵が彼らにお経をあげたとか」


 ここでも出てくる坊主の影。

 離れた連中でおそらく残りは反三好側に行ったのだろう。

 殺害場所が堺より北という事は、三好軍に合流するふりをして相手の気が緩んだ所を殺害という事か。

 そうなると疑問が残る。

 こいつらは三好側という文句に釣られて出ていって殺された。


「大鶴宗秋。

 何であれに声をかけなかったんだろうな?」


 俺の疑問の意味に気づいた大鶴宗秋が首をひねる。

 彼に問いかけても答えは出てこないだろうから、俺は独り言として浮かんだ疑問を整理する。


「あれが知っているなら、引き抜きなんて邪魔しただろうに」

  

「でしょうな。

 あれの後ろで糸を操っている者の名前を知らぬとは思えませんな」


 首をひねる俺と大鶴宗秋に口を挟む名探偵明智十兵衛。

 こういう時、地の知力の良さというのを見せつけられてへこむが今は置いておく。


「だとしたら、現実が答えを表しているかと。

 今の状況が間者の狙いなのでしょう」


「つまり、この状況が間者の狙い……か」


 俺が明智十兵衛の言葉を繰り返す。

 それの意味する所を考えると、その狙いは二つしか無い。


「つまり、俺の馬廻にその間者が望む者を送るためか、残った一人に疑念を持たせるためという訳だ」


「深く知らぬし、知りたくもないので、そのどちらかは御曹司と大鶴様におまかせしましょう」


 傭兵ゆえ深く知るつもりもない明智十兵衛があえて突き放す。

 ひとまず、考えても仕方ないので胴丸を回収して馬廻に渡すことにした。


「終わったみたいですな」


 大鶴宗秋も目の前の武器制作作業に視線を戻す。

 四百人もの素人に用意できた武器は、石斧と棍棒が百ずつ、残りは石でそれを配分する仕事が待っているからだ。

 これが実に酷かった。


「……」

「……」

「……」


 早い者勝ちのはずなのだが、棍棒や石斧持ちは前に出ることが求められるから出る人間が少ないのだ。

 ため息をついて棍棒や石斧持ちに少し銭をつけると言ったら、今度は殴り合いの奪い合いに。

 なお、翌日再度集めたら、そのほとんどが逃げていた。

 使える連中二百人を少し高い相場で雇えたと解釈しておこう。

 こいつらにまともな武装を渡さなくて本当に良かった。

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