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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

畿内三好家出会い編 永禄五年(1562年) 春  大規模加筆修正済

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戦国の世に名探偵は必要ない

 畿内に逃れてのんびりと暮らす……という夢が三好家の介入によってできそうもない昨今、俺達を待っていたのは畿内の流儀であった。
 つまり、忍者を始めとした間者働きである。

「曲者だ!
 出会え!!」

「御曹司はご無事か!?」

 刀を抜いたまま駆けつけた大鶴宗秋の顔を見て、裸だった俺は持っていた守り刀を下ろす。
 あられもない姿の有明は小太刀を、お色は薙刀を構えているが、大鶴宗秋はそれに気にする事もなく安堵の息を吐いた。

「安心しましたぞ。
 それがしの郎党が狼藉者を見つけていなかったらどうなっていたか……」

 今夜の狼藉者で既に三回目である。
 げんなりとした顔で俺は狼藉者での事を尋ねた。

「相手は分かるか?」

 ただ首を横に振る大鶴宗秋。
 背景にあるのは、久米田合戦で名を売ってしまった事による畿内諸大名の情報収集網に俺が上がってしまった事だ。
 三好義賢を助けた知らぬ将は誰だというのは、親三好派からは新たなコネとして、反三好派からは排除すべき敵として認知される。

「おちおち寝てもられないな」

 一度目二度目はわざわざ服を着て大鶴宗秋と話をしたが、三度目ともなるとさすがに面倒くさくなる。
 とはいえ、そのままする気も起きないので、対処の指示を出しながら有明とお色に着替えを持ってこさせる。
 間者働きというのは基本仕事の段階がある。
 まずは第一段階である情報収集。
 今行われている事で、世に言う忍者達の晴れ舞台である。
 第二段階が、調略準備。
 暗殺や破壊工作を行う場合、報復とその危険度から基本鉄砲玉にならざるを得ない。
 その為、その鉄砲玉を雇う必要がある。
 ここは調略を仕掛ける武将が雇う場合もあるし、忍者がそこまでお膳立てする場合もある。
 敵を寝返らせる場合は大体忍者が取り持つが、その保証は調略をしかけた武将が行うという感じ。
 で、第三段階が調略実行。
 鉄砲玉が成功しようが失敗しようが忍者には知ったことではない。
 陰に生きる間者の世界もこれだけの下準備が必要になるという訳だ。

「このまま放置するのは面白くないな」
「とりあえず一度話すことが大事かと」

 大鶴宗秋が示唆したこの場合の話すとは、大友家からの間者を意味する。
 今の間者が第一段階ならばまだ時間があるが、大友家からの間者だとなまじこちらの情報を知っているだけに、第二段階第三段階を簡単に実行できてしまう。
 かつて友が俺に刀を向けたように。
 これの対策は意外と簡単で、諜略を受けている事をばらしてしまうのだ。

「分かった。
 皆を集めてくれ」

「はっ」

 まだ月は高く空に輝いている。
 今夜は長くなりそうだ。



 しばらくして集まったのは、着物を来た有明とお色に大鶴宗秋と一万田鑑実、多胡辰敬に明智十兵衛。
 多胡辰敬に明智十兵衛は呼ばなくても良いのではと大鶴宗秋は言ったが、こういう席で仲間はずれにする事自体が調略にひっかかる穴になるので強引に俺が呼んだのだ。
 集まった一同はここ数日の間者働きについては察していたので、俺の言葉を皆静かに待つ。

「集まってもらったのは他でもない。
 最近、騒がしい間者働きの件についてだ。
 その事で皆と話す為にこうして集まってもらった」

 この手の話し合いの場合、どこまでの情報を開示するかが重要になる。
 情報共有した結果、敵に情報が漏れましたでは本末転倒だからだ。

「失礼ですが、相手は誰だかわかっているので?」

 この場にて一番何も知らない明智十兵衛が俺に質問をする。
 ある程度は知っているが、何処まで知っているか分からない多胡辰敬はじっとこちらの会話に耳を澄ませているのを確認しながら、俺は用意していた台詞を吐いた。

「正直わからん。
 あまりにも相手が多すぎる」

 お色に大鶴宗秋と一万田鑑実がぴくりと体を震わせる。
 俺の経歴を考えれば、九州がらみの相手が何か仕掛けてきたと考えられなくもないのだ。
 特に毛利元就とか。毛利元就とか。大事なので二回ほど言ってみる。

「考えられるのは、久米田合戦で目立った事だ。
 あれで、三好・反三好の連中が俺を知りに来たというのが一番妥当な所だろう」

 あえて表向きの言葉で状況を説明する。
 だが、その裏を見逃す明智十兵衛では無かった。

「では、妥当でない所は?」

 明智十兵衛ならば聞いてくるだろうなと思っていたので、実にわざとらしく間を作る。
 芝居かかった仕草で肩をすくめながら、俺は明智十兵衛をあえて突き放してみる。

「知らぬことの方が良いという言葉は金言だと思うが?」
「万一、鉄砲組に間者が接触して何か仕掛けた場合、手が打てませぬ。
 今のままなら、銭に転んで殿を討つ輩が出るかも知れませぬ」

 さすがに顔色を変えた大鶴宗秋と一万田鑑実を俺は目で制す。
 浪人衆は傭兵だからこそ、絶対の忠誠が期待できない。
 おまけに、鉄砲組は引く手あまたの技術職だから、俺の浪人衆の中で一番引き抜きが弱いという欠点があった。
 それをまとめている明智十兵衛の才能が分かるが、彼をもってしても間者が大金を持って鉄砲玉として鉄砲組の誰かを雇う可能性を否定できない事の裏返しであった。

「俺を討つだけで城をやるなんて誘いが出るかもな」
「つまり、そういう御方だと判断してよろしいので?」

 互いの言葉に潜む意図を感じ取り、それを誘導し、失言を導く。
 この会話すら既に合戦に等しい。
 畿内で流れる情報で、明智十兵衛あたりが知っている事をわざと口にする。

「九州の大友家が公方様の為に軍勢を堺に上げた。
 その大将は大友家の御一門で、毛利との戦に功績をあげ、三好家の窮地を助けた。
 それでいいじゃないか」

「では、一万田様や大鶴様より殿を撃てと命じられた時はお受けしてよろしいのですね?」
「貴様!
 何を言うか!!」

 立ち上がって刀を抜こうとした大鶴宗秋を俺は手で制す。
 一方の一万田鑑実は明智十兵衛を睨みつけるが動かない。
 さすが超一流のネームド武将。
 こっちの背景をあらかた察してあえて怒らせに来やがった。
 それの意味する事は一つしか無い。

「なるほどな。
 そういう話、既に来ていたか」

「はっ。
 殿および、ご両者には失礼を。
 五十貫にて殿を撃てという話が。
 お断りさせていただきましたが」

 敵の策が思った以上に早い。
 こっちの事を確実に知っている輩だ。
 なお、この時代の民衆なら一年遊んで暮らせるが、鉄砲という最新鋭武器を使っている明智十兵衛からすれば安い価格になってしまう。
 もちろん中抜きはされているだろうから、かかった費用は百貫から二百貫という所か。

「お屋形様は御曹司を討て等命じておりませぬぞ」

 一万田鑑実が殺気のこもった視線で明智十兵衛を睨みながら釈明する。
 俺はそれに苦笑で冗談として返す。

「だが、府内の誰かは俺が邪魔なのは俺も知っているさ」

 ここに集まってもらった目的である状況確認は達成された。
 実によろしくない結果ではあるが、手札を晒したほうが安全と俺は多胡辰敬と明智十兵衛に全部ばらす事にした。

「大友一門なのは間違いがないさ。
 その先の話があってな」

 ギロリと二人をわざと睨む。
 ここまで来たら後には引けんぞという脅しなのだが、多胡辰敬は俺の視線に笑顔で言いきる。

「御曹司の恩がなければ、我ら一族は滅んでおりました。
 今更裏切るなんてできませぬ!」

 あとは明智十兵衛だが、さすがネームド武将。
 こんな感じで取引を持ちかけてきたのだった。

「五十貫以上の価値があるお話でしたら」

 ある意味傭兵らしくて思わず笑ってしまう。
 明智十兵衛は暗に五十貫以上積まれたら漏らすとも言っているのだが、その言い草が明智十兵衛らしくて毒気を抜かれてしまった。

「まぁ、よくある話だよ。
 お屋形様のお子は俺が九州を出る時一人で幼く、一門は度重なる謀叛で俺しか残っていないってだけだ」

 ここに来て、よくある話だからこそ多胡辰敬と明智十兵衛の顔色が変わる。
 一門衆が必ず継承権を持っている訳ではないが、俺の説明ならば何かあったら確実にお鉢が回ってくると感づくだろう。
 顔色が変わっても、明智十兵衛はなんとか表面を取り繕って冗談を言う。

「良かった。
 五十貫では安すぎますな」



「どう思う?」
「あそこまで晒す必要があったので?」

 多胡辰敬と明智十兵衛が帰った後、俺は大鶴宗秋と一万田鑑実を残して月見を洒落込む。
 もちろん、肴は先程の会話だ。

「あったさ。
 流れることを前提に話したのだからな。
 むしろ流れてくれないと困る」

 煙管に煙草を詰めて火をつける。
 吸うつもりはないが、その煙を楽しむぐらいの余裕を作りたかったというのが本音だ。

「俺の機嫌を損ねるのは大友家の機嫌を損ねかねないという判断を馬鹿でなければするだろうよ。
 敵が一気に絞れる」

 堺における大友家の影響力はかなり大きい。
 というより南蛮交易を差配している仲屋乾通の影響力が大きいと言った方がいい。
 大友家を敵に回すのは仲屋乾通を敵に回すのと同じで、南蛮交易の利がもらえない事を意味する。

「それよりも、真面目な話をしよう。
 何で府内の連中が俺を殺しに来たかだ。
 それは、一万田鑑実の言葉を信じるならばお屋形様ではない」

 明智十兵衛に話を持ってきた間者は府内の誰かに繋がっていると俺は確信していた。
 あまりにも策が早すぎるからだ。
 おそらくは、大鶴宗秋と一万田鑑実の郎党の中に、府内の誰かと繋がっている者がいる。
 俺の低い声での質問に答えられたのは俺の監視としてついてきた一万田鑑実しか居ない。

「久米田合戦で名を売ってしまった事と、三好家との繋がりを持った事でしょうな。
 ですが、畿内では京に上り毛利との和議を幕府や朝廷に頼むのは府内でもお許しになられた事。
 三好様の取引で幕府の和議斡旋で合戦に出た事を考えれば、御曹司を討つきっかけにはなりにくいかと」

 そこに大鶴宗秋が口を挟む。
 ある程度の裏は彼の郎党から聞いているのだろう。

「同紋衆が御曹司を生かしておくのは、お屋形様に何かあった時の為。
 だからこそ、前は御曹司を狙わなかった」

「大鶴殿!
 その話まことか!?」

「一万田殿。
 後でお話しますから、今の間者について……」

「その一件が終わったと何故言いきれるのか!」

 ぽろりと漏らした過去の襲撃事件を知らなかったらしい一万田鑑実が大鶴宗秋に詰め寄る。
 終わった事ととりなしながら俺はある可能性に思い至る。

「あ。八郎。
 見て」

 それぞれの郎党への身元確認を命じて閨に戻ると、有明が障子を空けて備前焼の花入に菜の花を飾って待っていた。
 空に浮かぶ朧月夜に菜の花が淡く照らされている。

「八郎様が殿方と月見を楽しむなんて言ったので、私達も月見を楽しんでいたのですよ」

「……たまには雅な夜も悪くないな」

 取り繕って先程までの言葉を喉の奥に押しやる。
 俺がここで名を売る事を喜ばない存在、長寿丸の母親である奈多夫人とその兄で大友義鎮の寵臣として名をはせている田原親賢という可能性を。
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