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久米田合戦 前編

三好義賢……今は三好実休になっているのか……

この話では私が覚えている三好義賢で通すつもり。

「ねぇ。八郎。

 何で私達、こんな所にまで来て戦をしているのかな?」


「同感。

 わざわざ八郎殿が戦に出なくても良かったでしょうに」


 ツッコミをしてくれる有明とお色に俺は突っ込みたい。

 お前らこそ、何で堺で待ってくれなかったのかと。

 周囲の将兵の目が御陣女郎姿の有明と白拍子姿のお色に集中しているのですが。

 なお、俺の回りにいる兵の紋は平四つ目結、味方の兵の紋は三階菱に釘抜、敵の家紋は二つ引両。

 三好家と畠山家の畿内覇権争い真っ只中の合戦で、俺の目の前には久米田池が水をたたえていた。




 堺までの船旅は読み通り毛利の妨害もなくあっさりと進んだ。

 五隻の尼子船に俺達と一万田鑑実が乗る一隻の大友船は一週間ほどかけて堺に到着。

 仲屋乾通の堺の出店で厄介になろうと思ったら、速攻で拉致られた。

 拉致の実行犯は今井宗久。

 拉致の命令者は三好義賢。

 まあ、船旅の規模と目的は寄港先で隠さなかったから、先に三好にばれていたのは分からないではないが、こうも早く動くとは思わなかった。

 今井宗久の茶室の中で俺が持参した芦屋釜から出る湯気を眺めながら、俺はとりあえず名乗ることにする。


「一応、ここでは一介の浪人。

 菊池鎮成で通すつもりだったのだが」


 無駄な抵抗をしたが、やっぱりチートには効かなかった。

 三好義賢。三好政権を支えた戦国時代のチート武将の一人である。


「お戯れを。

 大友鎮成殿。

 一介の浪人が数百人もの浪人を連れて堺にやってくる事はありえないのです」


「率いているのは、多胡辰敬殿だ。

 俺は、爺と女連れのただの物見遊山だよ」


「では、これはいらないのですな?」


 三好義賢が俺の前に一通の書状を差し出す。

 そこに書かれている花押に俺は目眩をこらえて、差し出された茶で喉を潤すことにした。

 花押の主は将軍足利義輝。

 大友と毛利の和議仲介の書状である。

 お使いに来たと思ったら、お使いが終わっていた。

 どこから突っ込めばいいか分からないが、とりあえず思ったことを口にだすことにした。


「畠山と六角相手の戦、思った以上に苦戦している様子で」


 現在、京近くにて三好軍と六角軍が対陣し、和泉国岸和田城を畠山軍が包囲していた。

 三好義賢は岸和田城救援の為に畠山軍と対陣していたはずなのだが、大将が抜けだしてまで俺に会いに来る。

 しかも、俺のお使い目的を持ってきて恩を売ろうとしているのだから、どれだけ苦境にたっているか分からない訳がない。


「ええ。

 こうしてやってきた浪人たちを雇うぐらいに苦しんでいるので」


 ちっとも動揺しないどころか、あっさりと苦境を認めやがった。

 苦しい時に手を貸すからこそ、恩というのは高く売れる。

 とはいえ、俺が戦場に出る必要もつもりも全く無かったりする。


「ならば、その交渉は多胡殿とやってくれ。

 物見遊山ゆえ、のんびりとその書状を受け取りに京に行くさ」


 はじめてここで三好義賢の顔に困惑の色が浮かぶ。

 おそらくは、大友と毛利の和議を幕府に斡旋してもらうために来たという事前情報でこういうお膳立てを組んだのだろう。

 だから、本当はそんな事どうでもよく、俺自身が粛清をさける為に逃げ出したという事を知っているのは俺と有明とお色ぐらいしか居ない。

 こっちはそういう訳で、最初から断る気満々だったのだが、三好義賢は躊躇うこと無く俺に土下座してみせたのである。


「お願い申す。

 どうか三好に力を貸して下され」


 年齢にして倍近く離れているチート武将が、茶室というプライベート空間とはいえ、ただの若造の俺に頭を下げる。

 その覚悟と決意が俺には理解できない。


「頭をお上げ下され。

 ただの浪人にそこまで礼を尽くされても、何もできませぬぞ」


「ただの浪人が門司城の戦いにおいて初陣にて五つも城を落とせましょうか!

 此度の大友と毛利の和議を主導し、多胡殿を逃がした仁将と聞き及んでおりまする。

 その力をどうか三好に、兄者にお貸し下され!」


 なめていた。

 中央の情報収集能力を侮っていた。

 若干の過大評価はあるが、おおむね俺が何をしていたのかを把握していたからこそ、畠山に取られる前に抱き込みにかかった。

 堺を抱えていたとはいえ、その判断力と決断力に俺は舌を巻かざるを得ない。


「我ら三好家は守護大名大友家とは違い、管領家に弓引き下克上を起こしたことは紛れも無い事実。

 しかし、それも公方様を奉り応仁の乱より乱れたこの畿内を平穏にするため。

 それができるのは兄、三好長慶をおいて他にいないのです」


 三好義賢はまだ頭を下げたままだ。

 必要とされてる人を取り込むのに恥も外聞もなく頭を下げられる人間が強くない訳がない。


「それがしは、兄者の覇業を支えるため、親として慕っていた細川持隆殿を討ち申した。

 それは三好のため、兄者の為にございます。

 どうか、何卒……」


 そういえば、この人細川持隆を殺したのをずっと後悔していたらしいな。

 それでも兄を助け、三好の覇業を考えるのか。

 少しだけ、それは羨ましいと思った。

 どうせ売るのは三好と決めていたのだ。

 安めだろうが、これ以上腹のさぐり合いをするつもりもない。


「三好殿の下で働くつもりはありませんが、勝手働きはせねば皆を食わせる事ができませぬ」


 三好義賢が顔をあげる。

 それを見て、俺はため息をつきながら了承せざるを得なかったのである。


「勝ち馬に乗りましょう。

 三好殿が勝った後、勝手働きをさせてもらうがそれでよろしいか?」


 こうして、ついた早々に畿内大乱に巻き込まれる事になったのである。

 巻き込まれたのならばその準備をしなければならないがさすが三好義賢というか既に、



「九州の大友家が公方様の為に軍勢を堺に上げた」



という噂が盛大に広がっていた。

 仲屋乾通の堺屋敷に戻った俺は大鶴宗秋と多胡辰敬と一万田鑑実の三人にはめられたことを話して苦笑するしか無かったが、武功を取りに来たのは事実なので頭を切り替えて戦の準備をする。

 多胡辰敬が率いる尼子勢はそのまま彼の指揮下に置き、俺の旗本は一万田鑑実の郎党に任せることにする。

 更に、堺が抱える浪人衆を銭で雇い、大鶴宗秋の指揮下に置く事にする。

 その資金?

 神屋に押し付けましたが何か?

 請求書はそのまま神屋経由で大友に、おそらくは烏帽子親である高橋鑑種が支払うことになるだろう。

 こうして、千人ばかりの急造部隊を編成して三好軍に加勢するために堺より出陣したのである。

 なお、この急造部隊は本当に急造なので色々と足りていないものが多い。

 まずは武器。

 竹槍を持ってきているのならまだましな方で、何も持っていなくて一旗あげようという合戦初心者もかなり居たりする。

 で、彼らの武器を用意するには時間が足りないので、最終手段に出る事にする。

 手ぬぐいを支給し、それに石を包ませたのだ。

 打撃武器ことスリングなのだがこれが結構馬鹿にできない。

 次に防具だが、鎧兜なんて持たせる時間も銭もない。

 こっちはとにかく藁傘を用意して、傘印をつけて所属をはっきりさせる。

 逃げるならまだしも、寝返ることもあるのがこの手の連中である。

 あとは簡単な命令だけを与えてやるのが、この手の傭兵の使い方である。


「良いな!

 この旗が我らが御大将の旗よ!!

 この旗が戦が終わるまで倒れなかったら、我らの勝ちぞ!

 勝とうが負けようが銭を支払うことを約束するので励むが良い!」


 大鶴宗秋の大声の下で俺の旗である『片鷹羽片杏葉』が揺れる。

 合戦時において大将や武将がいる目印になるので、その旗持ちは剛の者が選ばれる事が多い。

 で、俺の旗を持っている侍だが鎧兜姿の上、口面までつけているガチ装備なのでいまいち顔がわからない。

 大鶴宗秋曰く、


「九州からついてきた者ですが、その武勇はそれがしが保証しましょう」


ということなので任せている。

 そんな彼らが役に立つのか?

 役に立ったのである。

 荷駄衆として、この合戦を左右する兵器を積んで。


 で、冒頭に戻る。

 堺においてゆくつもりだった二人は当然のようについてくる訳で、浪人衆の視線が実に痛い。

 早くも、


「戦より女を好む色狂い大将」


の名前を戴いてしまっている。

 まあ、合戦中はその手の事は禁止(ヤリ疲れて合戦に負けたら本末転倒の為)なのだが、それゆえの欲求を高める為に二人の衣装は男をそそる物になっている。

 これが狼藉に発展しなかったのは俺達が大友の旗を掲げているからで、『功績次第で仕官も考える』と飴をぶらさげた大鶴宗秋の人心掌握術に他ならない。

 戦場を眺めながら俺は呟く。


「しかし、さすが畿内。

 種子島の多いことで」


 三好軍は7000。これに俺達の1000が加わる。

 総大将は三好義賢で貝吹山城に本陣を置き、その下に篠原長房、三好康長、三好政康、三好盛政の諸将が陣を敷く。

 畠山軍は10000。

 総大将は畠山高政で、安見宗房、遊佐信教、湯川直光の三将が対陣している。

 岸和田城に篭っているのは、三好家の覇権を支えている名将安宅冬康で三好長慶の弟に当たる。

 既に囲まれて半年ほど経っているので、双方とも将兵に疲労が見えている。

 という事は、元気一杯な後詰である俺達の働きが勝敗を左右すると言ってもいいだろう。


「本陣の後ろに陣取れ。

 あくまで俺達は手伝いだ。

 目立つ必要はないさ」


 俺が覚えている限り、この戦いは三好義賢の討ち死にから総崩れになる三好家の敗北に終わる。

 それに巻き込まれるのはたまらないというのがあるし、変えるならば三好軍本陣を守るだけで良いという割り切りだったりする。

 それに、前に出て消耗するのはいやだ。

 九州でも鉄砲は大量使用されていたが、ここは堺と雑賀のお膝元という事もあって鉄砲保有率が尋常ではない。

 岸和田方面の三好軍の苦戦は、この鉄砲傭兵である根来衆を畠山軍が雇っているからだという。

 つまり、鉄砲をなんとかしないと我々の勝ち目はない。


「勝てるの?

 八郎?」


 心配そうな有明の声に、強気な声を出す俺。

 二人共負けた時の自害用に小太刀を身に着けているあたりその覚悟の程が伺える。

 なお、置いていったらこれで死ぬと脅されて負けたので色々と言いたいことがあるのだが黙っているのが男というものだろう。


「まあ、鉄砲にはいくつか弱点があるからな。

 そこを突くさ」


 俺の声に反応したらしい。

 浪人衆の鉄砲頭が俺の方を見て声をかける。


「御曹司。

 その弱点とやらは教えていただけるのでしょうか?」


 大鶴宗秋が無礼を叱ろうとしたのを俺が手で制す。

 机上の空論より実際に鉄砲で身を立てている人間に聞いてもらった方がよかろうという判断だ。


「いいさ。

 だが、話す前に名を聞いておこう」


「美濃国浪人。

 明智十兵衛にて候」


 あれ?

 何だかえらいビックネームが目の前にいるような気がするのですが……

今井宗久  (いまい そうきゅう)

三好義賢  (みよし よしかた)

足利義輝  (あしかが よしてる)

三好長慶  (みよし ながよし)

細川持隆  (ほそかわ もちたか)

篠原長房  (しのはら ながふさ)

三好康長  (みよし やすなが)

三好政康  (みよし まさやす)

三好盛政  (みよし もりまさ)

畠山高政  (はたけやま たかまさ)

安見宗房  (やすみ むねふさ)

遊佐信教  (ゆさ のぶのり)

湯川直光  (ゆかわ なおみつ)

安宅冬康  (あたぎ ふゆやす)

明智十兵衛 (あけち じゅうべい)


11/30

仲屋乾通絡みで少しだけ加筆


5/1

少し加筆

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拾え拾え!お買い得すぎる
[一言] 基綱ちゃんはまだ産まれてないかw
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