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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

八郎立志編 永禄二年(1559年) 秋  大規模加筆修正済

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チートとのお茶会 (小早川隆景編)

 大名間での合戦の場合、合戦の後こそが山場である。
 論功行賞や和議の交渉、費用の支払いと新領地の統治などなど。
 門司城合戦が自然休戦状態に入ったからこそ、その手の裏方は現在大いに働いていたのである。

「……」
「小早川隆景と申す。
 大友鎮成殿には一度お会いしたかった」

 どうしてこうなった?



 話を少しばかり戻そう。
 覚悟を決めた女達の修羅場合戦を猫城で行っていた時、麻生家の仲介を高橋鑑種の了解のもと神屋紹策に頼んだのである。
 で、それを毛利側が了解したとの報告が来るまでに一週間ほどかかり、芦屋にわずかの供回りを連れて小早川隆景がやってきていると柳川調信に告げられたのはつい先程。
 殺すか?
 そんな戦国チックな考えが浮かんでは消えるが、ここで小早川隆景を殺すメリットが見つからない。
 騙し討ちに近い形で彼を殺せば、それこそ毛利は本気で大友相手に戦を挑んでくるだろう。
 そして、先の戦いの後始末もついていない今、筑前や豊前の国人衆が動揺するのは目に見えている。
 何よりも、小早川隆景を殺した場合、その功績は俺のものになってしまい、堺行きなんて完全にぶっ飛んでしまう。
 ため息をついて気持ちを落ち着ける。
 芦屋釜で湯を沸かし、高麗茶碗で茶を入れて飲む。
 上手くもないが下手でもない茶にて心を落ち着けて、俺は柳川調信に尋ねる。

「で、彼が何しに芦屋にやってきたと?」

「宗像と麻生の件について御曹司と話がしたいそうで」

 毛利とおそらく大友もだが、この二家の大友側担当が俺であると勝手に思っているらしい。
 俺自身はさっさと逃げ出したい所なのだが、この二家が荒れて逃げ出すのと落ち着いて逃げ出すのでは京での待遇も変わってくる。
 取って食われる訳ではないだろうという事で、芦屋の商家を茶室を借りての対面となったのである。

「大友鎮成と申します。
 こちらが、宗像のお色姫、その隣が雄城の有明姫でございます」

 俺の挨拶と共に、俺の後ろに控えていた姫装束のお色と有明が頭を下げる。
 この二人を連れていったのも政治がらみだ。
 お色を抱いたことを示すことで宗像側の貢物を受け取ったというメッセージと、有明がいるので側室扱いであるという意味をこめて。
 それが分からない小早川隆景でもないだろう。

「ささやかではございますが、姫君たちにはこちらにて宴の席を用意してございます。
 よろしければ。
 ささ」

 神屋家の客人かつ、毛利家の使者でもある恵心が有明とお色を連れだそうとする。
 つまり、ここからは真面目な話という訳だ。
 俺はただ頷いて、二人が出てゆくのを見送る。
 芦屋釜が湯を立てるのであえて無作法を晒して茶を立てつつ口火をきることにした。

「毛利を柱石の一柱がそれがしのような若輩者に何用で?」
「まずは初陣をお祝い申し上げる。
 大友も良き一族が出て安泰よの」

 大内家での人質生活のせいか、きっちりと作法に則って小早川隆景も茶を立てる。
 戦国時代において毛利家を支え続けた両川の一人は格が違った。

「結局、門司でやられたのは鎮成殿のせいだというのは分かっておったので。
 顔を見ておこうかと」

 こういう事を見抜くからこっちからすれば神がかりと恐れたくもなる。
 門司合戦を門司という局地戦でなく大友と毛利という北部九州での盤上で見て、宗像を使って毛利の足を引っ張ったのが俺だと確信していたから顔を見に来たらしい。
 それは、毛利の謀略対象に俺が入ったことを意味している。

「それを申すならば、秋月への火付けは見事の一言。
 あれがなければ、もっと強気に押せたものを」

 内心の恐怖を隠しながら、精一杯虚勢を張る。
 淡々と茶を嗜む小早川隆景は俺の強がりを軽くいなしてみせた。

「まあ、門司での負けを取り戻せるほどでもなかったが。
 大友と毛利の和睦は、臼杵殿と高橋殿の仲介により、門司城は破却。
 九州は大友、中国は毛利という形で和議が整えられる模様で」

 何故それを俺に言うのだ?
 こっちは一門とはいえ、意思決定から外れている国人衆みたいな立ち位置でしかない。
 宗像や麻生、場合によっては秋月が絡むから、影響力があると踏んでいる俺を巻き込むつもりか?
 高麗茶椀に立てた茶を一気に飲み干すが、味など分かる訳がない。

「ほほう。
 こちらが京に行き、幕府や朝廷に和議を仲介するゆえ、そのあたりはまた豊後と安芸でやり取りすれば良い事」

「そうは行かぬ。
 今回来たのは、宗像と麻生と秋月の去就について相談する為」

 何?
 宗像と麻生はいい。
 何で秋月まで絡むのだ?
 戦っているのが、烏帽子親の高橋鑑種だからか?
 高橋鑑種が毛利と繋がっているから、俺も毛利に内応できると踏んでいるのか?
 俺の内心を知ってか知らずか分からないが、小早川隆景が続きを口にした。

「お色姫がつつがなく暮らせる為にも、これらの家の騒動を収める事が肝要。
 鎮成殿にも動いて戴いたらと」

 違う。
 逆だ。
 秋月が炎上しているから、その鎮火の為に宗像と麻生を巻き込んだと見るべきなんだ。
 秋月が燃え続けて宗像や麻生みたいな親毛利勢力が蜂起するのを毛利は恐れているんだ。
 ここが燃え続けていると小早川隆景が戻れず、格好のチャンスである尼子からの石見銀山奪還の足を引っ張りかねないから。
 毛利の視点は今は東に向いている。
 それを忘れないならば、この会談凌ぎきれる。

「つまり、毛利と大友と尼子の和議をそれがしに頼みたいと?」
「……」

 小早川隆景の言葉が固まった。
 よし。
 この方針で行く。

「お気遣いはご無用。
 九州の戦は九州にて。
 中国の戦もまた中国にて片付けるは筋」

 相手の嫌がることをしろ。
 ただし、それを善意のように見せるのが効果的。

「なるほど。
 おそらく、出雲と安芸の和議はまとまったのでしょうな。
 それはめでたい。
 差し出がましい事を申し上げ申した」
「……」

 こっちは、未来のことを知っている。
 そして、小早川隆景はそれを知らない。
 それは俺の最大のアドバンテージだ。
 門司城落城という形で歴史が変わっているが、まだ全体が狂いきるほど歴史は変わっていない。
 それに俺は賭けることにした。

「尼子は当主晴久殿がお隠れになって、早急に大勢を立て直したい様子。
 大友と同じく、互いに手を出さぬ事でまとめましたかな?」
「……」

 沈黙こそが正解である。
 下手なことを言ってボロを出すことを小早川隆景は恐れている。
 交渉の基本は相手を叩き潰すことではない。
 相手もこちらも互いに儲かるが最上なのだ。

「九州の安定の為に、雇い入れたい人がいるのです」

「ほう」

 黙っていた小早川隆景が声をだす。
 秋月がらみの条件という事で声を出したのだろうが、俺が出してきた名前は小早川隆景の想定外の名前だったのは間違いないだろう。

「多胡辰敬殿」

「は?」

 その声を聞いて、俺はこの会談を凌ぎきれた事を悟った。
 もちろん、本当に雇えるとは思わない。
 だが、こっちが毛利の石見攻略を把握している事を小早川隆景は確実に悟っただろう。
 尼子と毛利の和議の条件は尼子の石見への不干渉。
 要するに、石見を放棄して相互不干渉を求めたのだが、それは石見の尼子側国人衆と駐留していた尼子家武将を見捨てる事を意味していた。
 結果、尼子家からの援軍を絶たれた石見国人衆は毛利軍に各個撃破され、そのまま毛利軍は出雲に雪崩れ込む事になる。
 何でこんな馬鹿げた和議を尼子家が飲んだのかというと、石見銀山が超巨大収入源であるとはいえ、尼子領から見て外周部に当たるからだ。
 尼子家の本拠たる月山富田城は東出雲にあり、石見銀山よりも伯耆国が近いという地理的制約がある。
 更に、先の当主である尼子晴久が中央集権を進めて一族や国人衆を粛清した事が事態をややこしくしていた。
 尼子晴久の死去によって彼らの不満が爆発しかかっていたのである。
 その扇動にもちろん毛利元就が絡んでいるのは言うまでもない。
 で、多胡辰敬を始めとした石見駐屯の尼子家の武将達は尼子晴久からの信頼が厚い武将たちでもあった。
 切り捨てることに尼子義久にとってはそれほど痛くはなかったのだろう。

「先の戦で、豊前にそこそこ領地が空いておってな。
 秋月を確実に討伐する為に、彼らみたいな有望な将がいればと思っておった次第」

「多胡辰敬殿に仲介をするのであれば、秋月について何かの働きかけをすると?」

 毛利家のメリットは、有力武将が戦わずに退去する事。
 現状遅れている石見銀山奪還において、多胡辰敬は後詰を行える位置にいるのも大きい。
 彼の退去で、石見銀山の尼子軍は孤立化するのだ。

「それは、秋月次第ですな。
 彼らとていつまでも燃えるわけにはいかないでしょうて」

 あえて俺はとぼけた。
 ここまで抵抗が続いている秋月は最低でも秋月種実の首を取らないと収まらない。
 そして、毛利の戦が休戦状態の今ならば大友は全力で秋月を潰すことができる。
 まったく関係のない話なのに、毛利が石見を制圧する代わりに大友の秋月鎮圧を黙認しろという形で交渉のテーブルにのせたのだった。



 会談終了後、俺は即座にお屋形様こと大友義鎮と烏帽子親の高橋鑑種に早馬を送る。
 府内のお屋形様には、

「小早川隆景が接触。
 尼子と毛利が和議を結び、尼子は石見を放棄する様子。
 毛利制圧後、尼子家臣がこちらに流れてくる可能性あり。
 石見制圧後、毛利はこちらに向かうので、秋月の早急な鎮圧が必要」

と。
 高橋鑑種には、

「小早川隆景が接触。
 秋月が沈静化できねば、宗像と麻生に火をつけると脅される。
 『秋月鎮圧を急ぐべし』とお屋形様に早馬を送った」

と。
 小早川隆景をだしに使っての情報誘導である。
 もちろん、双方の書状を突き合わせれはバレるのだが、毛利に内通している高橋鑑種はそれをしないだろう。
 そして、俺が高橋鑑種を恨んでいる事は知っているが、俺が彼の毛利内通に気づいている事にはまだ気づいていない事を徹底的に利用した。
 事、ここに至って高橋鑑種が取れる手は、秋月を自らの手で鎮圧しこっそりと彼らを匿うしかない。
 茶番は終わりだというメッセージを俺ではなく、小早川隆景からつきつけられた事がとどめになったのだろう。
 この会談から一月もしないうちに、秋月種実が籠るらしい古処山城に火がつけられ一揆勢は姿を消した。
 秋月種実の死体は見つからなかったが、こうして秋月蜂起は大友家によって鎮圧された。
 なお、秋月領の大半はひとまずだが高橋鑑種の預かる事になり、彼は筑前領内にておよそ十五万石近い領土を持つ大名になりおおせたのである。



「御曹司!
 大変です!!」

 猫城の部屋に踏み込んできたのは柳川調信。
 彼が慌てるというのも珍しいなと思い、左右の有明とお色が襦袢をなおしているのを見ないことにして続きを促した。

「芦屋に客人が!
 多胡辰敬と名乗っており、小早川殿の勧告に従い城を明け渡し、御曹司にすがって一族を連れてやってきたと!
 御曹司!
 貴方何をして尼子家の重臣を引っ張って来たんですか!!」

 寝ぼけた頭でうっすらと思う。
 毛利元就は、毛利狐と大友家では罵倒されていたっけ。
 ならば、その子供小早川隆景も狐の子という訳だ。
 口からでまかせをきっちりと実現して、こっちに契約の履行を迫ってみせたのだから。
多胡辰敬 たこ ときたか
尼子義久 あまこ よしひさ

6/18
『チート』の文字を置き換え
9/20
タイトルだけ『チート』に戻す
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