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宗像鎮撫 その5

 宗像に向かう俺たちの軍勢を塞ぐ一揆勢の姿は無かった。

 とはいえ、散々襲われたり祟られたりしたので皆警戒だけはピリピリしているのだが。


「ここは変わっていないわね」


 妙見の滝を眺めながら、お色が懐かしそうに呟く。

 そんなお色に有明が笑って尋ねる。


「そういえば、ここで祈祷して出会ったのよね。

 願いは叶った?」


「ええ。

 叶ったわ」


 あの時お色はこの祟りの地から連れ出してと願ったのだ。

 それは叶い、畿内や四国を放浪し、またここに戻ってきた。

 今度は祟りを払うために。


「じゃあ、みんなお参りをしてくれ。

 祟りを払うためにはここの神様の加護は必要だからな」


 祟りというのは、因果が逆転しているのが特徴だ。

 『何か起こった』>>『祟りの仕業だ』というのが祟りの本質だ。

 という事は、この宗像通過で何も起こらなかったら、祟りが崩壊する。


「ちなみに、その祟り払いはどうするので?」


 果心が手を合わせた後にたずねてきたので俺も手を合わせて返事をした。

 祟りが払えたらちゃんとここに社を立てさせてもらおう。


「簡単なことさ。

 祟りじゃなくて戦を考えるのさ」


 木々の間から空を眺めると、西の空に雨雲が広がっていた。




「祟り姫じゃ!

 祟り姫が帰ってきたぞ!!

 あの姫を追い払わねばこの地はまた祟りが舞い降りるぞ!!!」


「祟りじゃ!

 祟り姫を連れてきた大友の大将を滅ぼせ!!」


 岳山城に入った俺たちを見て、宗像盆地の村々から一揆勢が集まる。

 そりゃあれだけ大々的に入城したのだから、ここで潰さないと祟りが陳腐化してしまう。

 夜の岳山城から集まる松明を眺めながら、俺は先に入城していた小野鎮幸がぼやく。


「集まってきますね」

「そうなるように仕向けたからな。

 城内は掌握したか?」

「ええ。

 こちらの兵しかこの城には入れておりませぬ。

 元から居た者達には暇を出しております」


 松明の集まりを見ると、その集まりが釣川に沿っているのが分かる。

 宗像家は先の彦山川合戦で将兵が消耗し、完全籠城を決め込む俺たちに祟りを行う兵力が圧倒的に足りない。

 これを確保するならば、祟りの実行者である河原者だけでは足りず、各村を扇動して一揆を起こさなければならない。

 

「で、どれぐらい集まりそうだ?」

「あの松明を見たら、数千は居そうですがね」


 ぽつりと雨が降り出す。

 これを俺たちは待っていた。

 雨が降らなかったら、芦屋から船で博多にというプランも考えたのだが、西の空を見て雨が降る方に賭けてその賭けに勝った。

 集まろうとした松明に変化が現れる。

 松明が消えたり離れたりしだしたのだ。


「扇動された連中が雨の中俺たちを襲うほど恐怖に縛られては居ないと」

「というより、これ以上男手を出したら畑仕事ができなくなるからでは無いかと」

「どっちでもいいさ。

 ここで残った連中こそが祟りの実行者さ」


 集まった松明が離れたり消えたりしながらも一つにまとまろうとしていた。

 それがこっちから丸見えだったりする。

 祟りの怖さは、身内が敵かもしれないという疑心暗鬼こそが最大の武器である。

 ならば対処は簡単だ。

 信頼できる連中を外から連れてくればいい。


「じゃあ、始めるか。

 法螺貝を鳴らしてくれ」


「はっ。

 法螺貝を鳴らせ!」


 小野鎮幸が叫ぶと近くで一つ法螺貝が鳴り、それに応じて遠くで近くで数多くの法螺貝が鳴る。

 集まって俺たちを襲おうとする松明が動揺するのが見えた。  


「用意してない訳ないだろうに。

 万一を考えて、こっちはこの城の飯と水すら飲んでいないんだぞ」


 芦屋で用意した兵糧丸を口に入れながら俺がぼやく。

 なお、腰についている竹筒の水は妙見の滝から汲んできたものを沸かした上で毒味まで済ませてある。

 夜襲をしかけるなんてのは、高い士気と練度を持つ最精鋭部隊でないとできない。

 そんな部隊がありがたい事に俺の手駒に居た事がこの夜襲を可能にした。

 吉弘鎮理率いる吉弘勢である。

 そんなガチ修羅勢を妙見の滝に残して、『出会う連中全部敵として斬り捨てろ』と命令しておいたのだ。

 祟りを潰すには、それ以上の恐怖で祟りを上書きするしか無い。

 

「備えよ!

 一揆勢がこの城にやってくるぞ!!」


「城内に一人も入れるな!

 吉弘勢が横槍を突くまで支えきるぞ!!」


 動揺した一揆勢の松明が減りながらもこの城に向かってきてこちら側も迎撃準備を整える。

 ここまで来てこの城を襲ってくる奴らは安心して敵認定できるのがありがたい。


「後は任せた。

 俺は奥に引っ込む」


「おまかせあれ!」


 小野鎮幸の声を聞いて俺は本丸の奥に引っ込む。

 その耳に鉄砲の轟音が轟く。

 雨が降っても、城内だと鉄砲が撃てるのも強みだ。

 警戒はするが負けるとは思えず、この鉄砲の音が止まったのはそれからしばらくした後だった。

 それは、この地の祟りが粉砕されたことを物語っていた。




『この者達、祟りを騙る毛利の間者……』


 翌日。

 討ち取った連中の首を晒して、全部の毛利のせいにでっち上げる。

 このあたり、前科がありまくる毛利元就の便利な事と言ったら。

 更に各村々に兵を派遣して、祟りが毛利の計略であると流布しつつ現実の兵を見せて村人達を畏怖させる。

 一方で、俺たちはそのまま宗像大社に入り参拝する。

 祟りを計略に改ざんしつつ、地場宗教勢力に加担して祟り鎮撫のストーリーを流布させる。


「聞いたか?

 宗像の祟り姫は妙見の滝の龍神様の加護を得て、祟りを解いてもらったらしいぞ!?」


「まことか!?」


「ああ。

 だから見ろよ!

 あの祟り姫が宗像大社に参る姿を!」


 祟りの一揆勢を叩き潰した以上、お色の宗像大社参りは政治的に祭り上げる必要があった。

 という訳で、御陣女郎達や有明達を着飾らせて花魁道中よろしくゆっくりと絢爛に宗像盆地を練り歩く。


「これで終わりますかな?」


「終わらんだろう。

 だが、しばらくは抑え込めるだろうな」


 大鶴宗秋の言葉に俺は苦笑しながら首を振る。

 華やかだからこそ、夜間に行われた一揆勢の殲滅が記憶から消えないだろう。

 大名は舐められるより恐れられる方が統治はしやすいのは事実だ。


「宗像家は大宮司職を残して潰す」


 俺の結論に大鶴宗秋がため息をつく。

 宗像家の存続を模索したのだが現状で候補者が殆どおらず、祟りの書き換えは一応したが宗像家の祟りが長く猛威を奮ったから最後の納得だけは宗像家の滅亡しかありえない。


「宗像大社に寄進して大宮司領にする。

 残りは全部没収して、お館様の采配に任せるさ」


 そこから先は臼杵鑑速の仕事だ。

 その意味を理解した大鶴宗秋が確認をとる。


「博多と立花領は頂かないので?」


「もらって烏帽子親よろしく謀反でも起こしたら意味が無いだろうよ。

 博多は絶対に頂かない」


 それだけは決定事項だ。

 猫城を奪還し、香春岳城をもらって、筑豊内部に領地を持ってという形で周りを納得させる。

 それで納得してくれるならいいのだが。


「それよりも、お屋形様は今何処だ?」


「日田を発ち、高良大社に寄るという話は来ていますが、そこから先の話は……」


 筑後一宮として地元の信仰あつい高良大社にお屋形様こと大友宗麟が寄るのは、地元への敬意を払うというのと対竜造寺家対策なのは間違いは無い。

 旧秋月領だった筑後川北岸を避けての進軍も、高良大社に寄る理由になるだろうか。

 芦屋に入ったことで、博多から海路でお屋形様の情報が入手できるようになったのもありがたかった。


「宗像はこれで収まりましょう。

 その先はどうなさいますか?」


 博多を目指すならば、立花領を通る必要がある。

 その先にあるのは立花山城。

 ここを抑えるという事は、博多を抑える事に繋がる。

 取らない以上、進撃しない事を意味する。


「海路で博多に入るさ」


 そこから先を俺はあえて考えなかった。

 大友宗麟とどう会うのか?

 高橋鑑種とどう会うのか?

 それを考えたくないのに、現実は否応なく俺たちに襲いかかろうとしてた。 

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