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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
八郎立志編 永禄二年(1559年) 春  大規模加筆修正済

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ラッキースケベなのにちっとも嬉しくないお姫様との出会い 4/17加筆修正

 男ならば一国一城の主に。


 転生前の記憶にも残る言い回しだが、感慨がないと言えば嘘になる。

 とはいえ、感動に打ち震えるという訳でもない。

 門司城に向けて立ち寄った猫城というのはそんな城で、そんな城が俺の物になったのである。

 屋敷建物だけ見れば、博多の神屋屋敷の方が立派なのは内緒である。

 有明と大鶴宗秋と柳川調信と薄田七左衛門、そして大鶴宗秋の紹介で雇うことになった小野鎮幸とその一族合わせて五十人程度の隊列を組んで博多より出発する。

 片鷹羽片杏葉の旗を風に揺らしながら、馬上より俺がぼやく。


「この騒動、ここまで大事になるとは思わなかった」

「あはは……ごめんね。八郎」

「それだけ御曹司が成し得た事が大きかったという事。

 誇りなされ」


 俺、有明、大鶴宗秋の順で三人共馬に乗っている。

 他にも足軽大将として指揮を取る小野鎮幸が馬にのっているが、残りは徒士である。

 有明を拐かす企みはばらまかれた銭と受け取った流れ者の数から博多商人達に激震が走り、臼杵鑑速、立花鑑載、高橋鑑種の博多周辺の三将が流れ者の取締りに動くまで大きくなっていた。

 俺達の猫城行きもその道中となる立花鑑載は領内の街道の取締りを徹底し、夜盗や山賊と戦い安全を確保したという報告が届いてからの出発である。


「まぁ、男どもが惚れるのがいい女だし、そんな女を手に入れるのは男冥利に尽きるというやつだ。

 捨て置け。捨て置け」


 他人事なので薄田七左衛門が茶化すが、それでは済まぬと大鶴宗秋の視線による抗議で口笛を吹いてごまかす。


「柳川調信。

 博多商人達が若旦那をかばっている可能性は?」


「無いとは言いませぬが、今の状況で御曹司に弓を向けるほど愚かだったらその家は潰れているでしょうな」


 柳川調信は立花山城までで城下町に避難していた一族の者を拾い、そこから博多に引き返して一族と共に海路芦屋に向かって猫城に入る事になっていた。

 俺たちが陸路で猫城を目指すのは、まだ宗像に毛利水軍が滞在しているのと、立花家・少弐家への挨拶と根回しのためだ。

 領地を得た少弐政興は領内を整備して力をつけて肥前復帰を諦めていないだろうし、その少弐家と隣接する立花家との間で領地に絡む揉め事を起こさないように釘を刺すのが俺のお仕事になる。


「少弐政興殿へ許斐岳城と名残城と冠山城とその周囲の領地の保有。

 飯盛山城は立花家への譲渡で、俺の猫城保有を認めるか。

 妥当な所じゃないか?」


 襲撃もなく立花山城に到着。

 立花山城に入っての挨拶と同時に、立花鑑載から提示された和議案を見て俺はそう言った。

 実質的に動いていたのは臼杵鑑速で現場担当が立花鑑載。

 俺はこの案に一切関わっていない。

 それでも俺に了承を求めるのは、俺がこの代理戦争の黒幕の一人だからだろう。

 宗像家は領地収入よりも、宗像大社と大社信仰からくる海上交易で富を得ている家だから、この領土譲渡でも致命傷には成り得ない。

 同時に、少弐家も対馬国宗家の後援があった為に、海上交易で利益を出したいだろう。

 双方同じ市場に殴りこむのだから諍いも出るが、それを飲みこめるだけの富がこの時期の博多にはあった。


「宗家からの船を受け入れる港でもあればいいのだが」


 俺のぼやきに立花鑑載が警戒の色を浮かべる。

 航海技術の発達していなかったこの時代、避難できる港というのは貴重だった。

 博多という巨大港のそばに、安心して避難できる港があるというのは、対馬宗家の悲願でもあった。

 そして、そんな寄港候補地として格好の場所にある場所を少弐政興は得る事ができた。

 津屋崎である。

 宮地岳神社の門前という位置づけもでき、後の世には製塩と酒造で財を成し、『津屋崎千軒』と讃えられる繁栄をする事になるこの場所はこの時期は漁村があるばかりだった。

 理由は簡単。

 領主だった宗像家は芦屋や釣川河口という港を抱えて、津屋崎を造る必要がなかったのである。


「そうなると、問題は二つか」


 一つ目。

 港町を造る銭を何処から引っ張ってくるか?

 博多商人達がこの街に銭を出すかだ。

 これをクリアしたとしても次の問題が足を引っ張る。

 二つ目。

 ライバルができた宗像家がこの街を攻めないか?

 ここを俺は読みきれずにいた。

 津屋崎は宗像家との最前線。

 しかも宗像水軍衆が真っ先に襲う場所にある。

 黙る立花鑑載を見て俺は三つ目の理由を悟らざるを得ない。

 博多港の権益を侵さないかどうかという事を。


「無理だな」


 あっさりと津屋崎港建設案を放棄すると、立花鑑載の顔に浮かんだ警戒の色が消える。

 勝ちはしたが、無理が通せる勝ちではない。

 それでもこの街を造る場合、少弐と宗像と立花の間で長い調整が必要になる。

 正直に言って、そこまで俺が関与するつもりは毛頭なかった。




 立花山城を出て立花領から少弐領に入ると戦の跡が見えるようになる。

 乱取りという略奪の跡や、田畑の被害などだ。

 その為、治安は悪く立花鑑載からの報告だと、討伐した夜盗や盗賊はこの少弐領を根城にしていた可能性が高いという。


「ようこそ来てくださった!

 歓迎しますぞ!!」


 復興の木槌の音が鳴り響く中、許斐岳城城門前まで少弐政興は俺達を出迎えた。

 冠山城と名残城はそのまま放棄するらしく、向こうの資材を回して本城たるこの城の修復に全力を注いでいた。

 治安の回復より拠点の整備が先なあたり、戦国時代というものがどういうものかを端的にあらわしている。

 夜盗や盗賊はよほどの事がないと滅ぼされないが、侍率いる軍勢相手だとあっさりと滅ぼされるのだ。

 ましてや、その侍の元領地を奪ったのだから、和議が成立したとはいえ一時でも気が抜けない。


「この城は要の城。

 守っていただけるならば、我らも後詰を出しましょう」


 隣接する領主は敵対する相手と友好関係を結ぶ相手を見極めないといけない。

 そして、俺の領地の隣は少弐政興になるのだから、彼とは友好関係を結ばないと攻められた時に詰みかねない。


(思った以上に、復興が早いな。

 どこにそんな銭があったんだ?)


 口に出さなかったことを見透かされたらしく、少弐政興は自らその種をバラした。

 それは、彼に手札があると俺に認識させる為だ。


「肥前の国衆が少なくない銭を出してくれましてな」


 つまり、それだけ竜造寺家の勢いが増しているという訳だ。

 彼についてはこれ以上は関わる必要はない。

 彼自身が復興への算段とその先の野心を持っているとわかったからだ。

 だから、彼にこの言葉を送って許斐岳城を後にしたのである。


「少弐殿の武運をお祈りしておりますぞ」




「待ってくれ。

 そっちではない」


「御曹司。

 猫城はこちらの道ですぞ」


 宗像盆地と遠賀川の間の山の中。

 道が別れる所で俺は隊列を止めて、進路変更を告げる。


「猫城に行く前に岡城に寄っておきたいのだ」


 岡城主瓜生貞延は豊後から派遣された大友家の将で、芦屋港と宗像家と麻生家の監視を任務としてこの反大友家風潮が強い筑前国海岸部で孤高を保っていた。

 猫城防衛には彼の協力が確実に必要になると踏んで、ここから芦屋に抜ける道を通って岡城に行こうという考えである。


「危険では?

 宗像領内に近すぎますぞ」


 大鶴宗秋の危惧も分かるのだが、俺はその危惧が杞憂である理由を話す。


「大丈夫だろう。

 今、俺が討たれれば大友は宗像を滅ぼすまで戦を止められなくなり、毛利の後詰は何時までたっても帰れない。

 それと猫城から宗像を攻める場合、この岡城に繋がる道が使えるかどうかで選択肢が変わる。

 攻められないと分かっている今のうちにこの道を見て歩いておきたい」


 地理を知っているのと知らないのでは、戦いに雲泥の差が出る。

 宗像戦が再発した時にそなえて、この岡城に繋がる道を通っておきたかったのだ。


「御曹司。

 宗像は手を出さないかもしれませんが、山賊や野盗は手をだすかもしれませんぞ」


 大鶴宗秋の指摘に俺は来た方向を振り向いて言う。

 自分の言葉なのだが、まだその中に迷いがあった。


「正直、襲われる可能性は高いと踏んでいた。

 狙うならば、ここだろうとな。

 だからこそ、最短の道は避けておきたいんだよ」


 思った以上に大規模な有明拐かし未遂の発覚以降、できるだけ行動を読ませないように振る舞う事を心がけている。

 それでも夜盗達に補足された時の為の保険を俺は忘れない。


「芦屋には柳川調信の一族の者が海路着いている手はずになっている。

 小野鎮幸。

 伝令を走らせて、彼らをこちらに連れてこい」


「承知いたしました」


 頭を下げて伝令を呼ぼうとする小野鎮幸とその一族に俺は声をかける。

 今は彼らに身を守ってもらわねばならないのだ。

 その労は労っておいて損はない。


「山賊ごとき追い払ってくれるのだろう?

 守ってくれよ」


「おまかせあれ!」


「八郎。

 俺も居るから安心しろ」


 山伏姿の薄田七左衛門も錫杖を鳴らしてアピールする。

 実は山賊兵に化けた宗像兵が襲うという事が一番恐ろしかったりするのだが、この人数を襲うならば確実に百人以上は必要になる。

 そして、百人以上の人間を集めると、確実に地元の領主の影がちらつくのだ。

 それを理由に宗像を黒と断罪できるので結果は変わらない。

 言わなかったが。


「八郎。

 そこまでして、寄る必要があるの?」


 有明の質問に俺は有明にも分かるように諭す。

 姫衣装も様になるが、移動時は動きやすいからと御陣女郎姿である。

 目のやり場に困るが寒くないのだろうかと聞いたら、笑えない答えが返ってきた。


「戦は農閑期にする傾向があるでしょ。

 という事は、冬に戦をする事が結構あるのよ。

 寒空の陣内で腰を振り続ければ、必然的に寒さに耐性がつくってものよ」 


 聞かなければ良かった。

 そんなトリビア。

 なお、そんな仕事だととにかく暖を取らないと死ぬので激しく濃厚にするのだとか。

 本当にどうでもいい話である。

 そんな彼女に分かりやすいたとえ話をする。

 

「仕事で近くを寄った旦那がそのまま家に帰らずに、お前に会いにと遊郭に遊びに来たらどうする?

 おまけに、お大尽だ」


「あー。なるほど。

 綺麗にしてがんばるわね」


 ぽんと手を叩く有明。

 サプライズは相手の想定を上回るか下回るからこそサプライズになりえるのだ。

 俺達の岡城訪問は好感度プラスになりこそすれマイナスにはならないし、少しの危険と手間をかけるにはリターンが大きいのだ。

 その言葉がブーメランとして俺に突き刺さる少し前のことである。


「妙見の滝?」


 道を確認するために尋ねた地元の猟師がその滝を名前を口にする。

 情報を買った銭払いの良い新しい領主の為に猟師が出したその滝は、地元の名所というか神秘スポットらしい。


「へぇ。

 妙見神社がそばにありましてな。

 竜神様が北斗七星に願いを届けるために登ってゆくという言い伝えで。

 ご利益があると、よく祈祷する者がおるんでさぁ」


 信心深い戦国の世。

 こういうスポットには足を運んでおくにこした事はない。

 ただでさえ、お隣の宗像では祟りが蔓延しているのだから。

 そんな訳で、寄り道して参拝に来たのだが、先客が居たらしい。


「うわぁ……」


 寒さに耐性のある有明が体を震わせる。

 冬に入りつつある今、小さな滝に何も身につけずに裸で祈願をする女性を見たら、エロいというより寒いと思うのは自然であろう。

 たとえそれが絶世の美女だったとしても。


「あれができるのは山伏でもそうはおらんぞ」


 薄田七左衛門も呆れるが、一心不乱に祈る姿はその美貌と相まって、凄みすら感じさせる。


「御曹司」


 大鶴宗秋が小声で俺を呼ぶ。

 彼の近くに行くと、下には滝の中で水に当たっている女性の着物が置かれていた。

 明らかに上質の着物である。


「何者です!」


 凛とする声が水音に負けじと響く。

 兵達が動こうとするのを手で制して、俺は名乗りをあげた。


「祈祷の邪魔をしてすまない。

 我が名は猫城主大友鎮成。

 この滝に祈祷に参った」


 それを聞いた女の顔が面白そうに微笑む。

 美人がそういう笑みを浮かべる時、怒りを表しているとは有明から後で聞いた話。


「そうか。

 貴方が私の旦那様になるのか」


 有明が俺を睨むが、俺には身に覚えがない。

 そんな俺達を気にせず、裸のままその美女は自己紹介をしたのだった。


「宗像氏貞の妹、お色。

 それとも、宗像の祟り姫と言った方がいいのかしら?

 少弐との和議の後で貴方様に差し出される予定の宗像の人質よ。

 どうぞよしなに」

ハーレムだよ。

八郎君には犬神佐兵衛なみのハーレムを作ってもらう予定。


え?

子供や孫?

……そりゃあ、戦国だし……(目を逸らしつつ)



瓜生貞延 うりう さだのぶ


4/15 秋月がらみの話を『元服と祝言』へ移動


4/17 冒頭部を『籠釣瓶柑子岳未遂』へ移動 加筆

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