分水嶺 その5 【地図あり】
「出陣!」
晴れた朝。
畑城から諏訪山城へ向けての出陣。
これではっきりと毛利軍と対峙する事になるのだが、こっちの出陣を察してか俺達の行く先から鬨の声が聞こえる。
早くも合戦が始まっているらしい。
俺達の軍勢の編成はこんな感じ。
大友鎮成直轄 有明・明月・果心・政千代・井筒女之助・柳生宗厳・石川五右衛門
佐伯鎮忠 馬廻 二百
由布惟信 戸次家郎党 百
多胡辰敬 多胡家郎党 千
上泉信綱 雑賀根来衆 千
朽網鑑康 朽網家郎党 五百
香月孝清 香月家郎党 二百
合計 三千
吉田興種の五百は強行軍だが、畑城ではなく諏訪山城に向かってもらうようにしている。
事、ここに至っては、疲労による戦力低下よりも時間の方が大事だからだ。
行軍してしばらくすると合戦の音が聞こえてくる。
鬨の声、陣太鼓に法螺貝、鉄砲の轟音などで合戦が起こっている事が分かるのだが、その規模までは分からない。
ただ、畑城と帆柱山城の間者を排除したので、戸次鑑連と連絡が取れるようになっていた。
「申し上げます!
秋月勢および菊池勢数百が彦山川を越えて我が方に襲い掛かっております!!
現在、木付様の手勢が迎え撃っております!!」
毛利軍の先陣は秋月勢と菊池勢か。
それぞれ数百の手勢で渡河攻撃をしかけたという事は、選択肢としては二つある。
一つは陽動。
この二つに敵を引き付けて、迂回して渡河攻撃するというやつだ。
もう一つは強行突破。
この二つを使い潰して、更なる攻撃で一気に陣を崩すという手だ。
どっちとも取れるのでこのあたりは難しい。
「戸次様より、『軍勢を再編する時間が無いので、個々に投入したい』との事です!」
「分かった。
そのあたりは好きにしてくれと返事をしておいてくれ」
「かしこまりました。
御免!」
ちらりと対岸を眺める。
遠賀川西岸に陣取っている小早川勢一万はまったく動く気配を見せていない。
遠賀川は大河で、昨日の雨で水嵩が増しているのもあるのだろうが、渡れないという事は無いのがこの川の特徴だ。
吉川勢が陣取っている場所は境口の渡しという渡し場で、船も多くあっただろうからだ。
吉川勢だけが戦闘に入っている形になっているが、この小早川勢の動きを警戒しないといけないので戸次勢も戦闘に参加できていない。
しばらく行軍していると、前方に一隊が待ち構えている。
見慣れた旗と顔が俺を待っていた。
「少しの間というのに懐かしく感じるな。大鶴宗秋」
「面目次第もございませぬ。
多くの兵を失ってしまいました。
八郎様の命を受けて戸次様に申し出てここでお待ちしておりました」
さっと見ると彼の率いる兵力が三百しか残っていない。
まぁ、吉川元春相手にこれだけ残ったかと褒めるべきだろうが、悔しさと諦めと羨望の入り混じった大鶴宗秋に俺は声をかけるのを躊躇らった。
「鹿子木鎮有の手勢を吉弘鎮理に預けて、戸次様の旗下につかせておきました。
吉川勢相手に崩れなかったあやつならば、殿が来るまで持ち堪えてくれると信じております」
「ああ。
あれはやってくれるだろうよ。
だが、大鶴宗秋よ。
悔しさが顔に出ているぞ」
日頃文人顔している大鶴宗秋も武人の心に火がついたらしいが、吉川元春相手に崩壊しなかった時点で俺的には大評価だったりする。
自慢できないが、俺が兵の指揮をして同じことができるとは思えないからだ。
「それは悔しいですとも。
はっきりとした差を見せ付けられたのですからな。
さすがは大友家中でも武名が通っている吉弘家。
かの者がおれば、戦は安心して任せられましょうぞ」
「だからと言って、お前の仕事が無くなった訳ではないぞ。
いつものように陣代を任せるから、この手勢で汚名を返上してみせよ」
寄せ集めの俺の軍勢の場合、どうしても兵の指揮を任せる人間が必要になる。
そうなると、うちの家老である大鶴宗秋しか居ない訳で、こうして引っ張ってきたという訳だ。
「お預かりします。
殿はいつものように後ろに?」
大鶴宗秋の声に、俺は山の方を見て返事をする。
この山の上に鷹取山城がある。
「いや。俺達は諏訪山城には入らず、鷹取山城に入る」
「鷹取山城……ですか?
またどうして?」
首をひねる大鶴宗秋に俺は懸念を伝えた。
大友家の構造的欠陥は未だ残っているからだ。
「俺が入って指揮系統が乱れるのを避けたいのが一つ。
今からだと途中で戦に入る形になるからな。
全部戸次殿に任せた方がやりやすいだろう」
俺の立ち位置が曖昧すぎるのだ。
周りの認識だと加判衆では無いけど一門衆として大友家継承資格があり、南予で大名やっている独立勢力に近いという感じなのだろう。
そんな背景もあって、将が命じても兵がそれを素直に聞くという事はありえない。
うちの場合はその過程が更に雑多なので、その命令を兵たちが納得する事が特に大事になる。
今まで円滑にその指揮に従っていたのは、俺の家でも宿老である大鶴宗秋が指揮しているというのが大きい。
戦の采配よりもまず命令をちゃんと受け入れるのかを心配するというのはこの時期の大名共通の悩みで、才能ある者を抜擢できずに一門や譜代が大将として出陣する理由の一つになっていた。
「八郎様。
それは杞憂にございますぞ。
我が主戸次鑑連がそのような愚かな事をするはすがありませぬ!」
控えていた由布惟信が俺の発言を聞いて抗議する。
それは分かっているのだが、その愚かにならない為のコストが馬鹿にならない事を俺は指摘する。
「由布殿のお言葉に異論は無い。
だが、その為にこうして俺の方に早馬を飛ばしているのは、はっきり言って無駄だろう?
俺が一歩退けば、そのあたり丸く収まるんだ」
こう返すと由布惟信の方も返す言葉がない。
合戦において命令伝達は早馬を始めとした伝令の存在が全てである。
俺の所にそれを割いているという事は、他の場所に振り向けられる余力が無くなる事を意味する。
由布惟信が沈黙という形で肯定するのを確認して、俺は続きを口にした。
「もう一つは、見ておきたいんだよ。
鷹取山城は、鷹取山の上に建てられた城。
戦場の全部が見渡せるからな。
……来ていない竜造寺勢を含めてな」
鷹取山の標高633メートル。
行き帰りを考えたら今日の合戦参加は不可能になる。
それでも、その一日を犠牲にしてでも、戦場を俯瞰できるチャンスを逃したくは無かった。
「申し上げます!
お味方優勢!
吉弘殿の横槍で敵を崩して、木付勢が敵を押し返して攻めかかっております」
戦場に近づいてきたが、見える場所では合戦は起こっていない。
戸次勢と小早川勢が遠賀川と彦山川合流点で睨み合っているからだ。
現在激戦を繰り広げている場所はそこから南東の彦山川の方なので、迂回しなければならない。
由布惟信が一礼して告げる。
「わかり申した。
八郎様。
一度ここでお別れしたいと思います。
改めて戦場でお会いしましょうぞ」
「ああ。
預けている手勢はそのまま使ってくれ。
対峙している状況で手勢を引き抜くのは、小早川勢に攻撃の隙をみせかねん。
連れてきた手勢のほとんどを木付殿に渡すと伝えてくれると助かる」
由布惟信は元々の手勢全て連れてきた訳ではないので、帰るのはその手勢と合流するためでも有る。
この時点で行わないとまずいのは、木付鎮秀の戦力強化だった。
現在の大友軍は俺が率いている手勢を除くとこんな感じ。
戸次鑑連 千二百
由布惟信 三百 合流後兵力
十時惟忠 三百
安東家忠 三百 諏訪山城守備
高野大膳 三百
小野鎮幸 五百
白井胤治 五百 小野鎮幸指揮
淡輪重利 五百 小野鎮幸指揮
曾根宣高 百 小野鎮幸指揮
吉弘鎮理 五百
大鶴鎮信 五百 吉弘鎮理指揮
城戸直盛 五百 吉弘鎮理指揮
鹿子木鎮有 二百 吉弘鎮理指揮
土居清良 五百 吉弘鎮理指揮
桜井武蔵 三百 土居清良指揮
六千五百
木付鎮秀 千五百
安心院公正 四百
時枝鎮継 四百
野仲鎮兼 四百
高田鎮孝 四百
古庄鎮光 四百
三千五百
志賀鑑隆 千 香春岳城
森鎮実 五百 鷹取山城
合計 一万千五百
数字に微妙なズレがあるが、戦場での脱走の他、伝達による数字の錯誤などでこうなる事は良くある。
ここまでの合戦で地味に消耗しているがよくぞここまで残ったと言わざるを得ない。
小早川勢への警戒から全力が出せない戸次勢に変わって、横槍などで木付勢を支援していたのがうちの手勢という訳だ。
指揮の差を見て吉川元春に突っ込まれて、大鶴宗秋が撃破されたあたりもこの流れである。
連れてきた手勢二千七百を足してやれば、木付勢は六千二百となり、吉川勢ともう一戦戦える程度の戦力になる。
ついでに曾根宣高の手勢が少ないので、こっちで引き取り上泉信綱の雑賀根来衆の指揮を半分受け持ってもらおう。
で、一方の毛利軍は旗印等で分かっているのが、こんな感じである。
小早川隆景 二千
内藤隆春 千
宍戸隆家 千
杉原盛重 千
坂元祐 千
財満忠久 五百
飯田隆朝 五百
仁保隆慰 五百
宗像氏貞 五百
麻生隆実 五百
河津隆家 五百
津島通顕 五百
? 五百
一万
吉川元春 二千
天野隆重 千
佐藤元正 千
粟屋元辰 五百
秋月種冬 五百
安武鑑政 五百
菊池則直 五百
島忠茂 五百
六千五百
清水宗治 五百 猫城
合計 一万七千
不気味な事この上ないのが小早川隆景の動きで、遠賀川西岸からまったく動かずに戦は吉川元春に任せている形になっている。
今まで大友軍がなんとか持ちこたえているのも、小早川勢が合戦に参加していない事が大きい。
で、そんな小早川勢の本陣の更に奥に、誰か分からぬ旗印すらつけていない隊が一つ。
ここは厳重な警備がなされているが、中には頬当をつけて誰か分からぬ将が指揮をとっているらしい。
間違いなく毛利元就はここにいる。
そして問題の竜造寺勢だが、『味方である』戸次鑑連に送った早馬にその兵力と将が記載されていた。
鍋島信生 二千
木下昌直 五百
百武賢兼 五百
江里口信常 五百
上瀧信重 五百
犬塚鎮家 五百
合計 四千五百
兵の殆どが英彦山僧兵によって占められ、将のみが竜造寺家騎馬隊によって構成されるという、俺の騎馬隊ドクトリンをきっちりと理解していた。
さすがチートと頭を抱える前に素直にあっぱれと言うしか無い。
だから、これから行われる合戦はすごく簡単な式なのだ。
小早川勢と吉川勢が同時攻撃を行ったら、大友軍は籠城するしか無い。
吉川勢と交戦中に鍋島勢が敵として横槍を入れてきたら、大友軍は確実に崩壊する。
吉川勢と交戦中に鍋島勢が味方として横槍を入れてきたら、吉川勢が崩壊する。
小早川勢と吉川勢が攻撃をしかけて鍋島勢が敵についたら、大友軍は籠城するしかない。
なるほど。
鍋島直茂が味方のふりをしているのも理があるというのが分かった。
彼が味方であるという希望がある以上、大友軍は決戦に出ざるを得ないからだ。
ここで鍋島直茂を敵として断罪すると、大友軍内部に居る動向の怪しい連中が一気に寝返りかねない。
「そうだ。
鷹取山城に登るとき、白井胤治と桜井武蔵に来るように伝えてくれ。
折角の軍配者が居るんだ。
意見を聞きたいとな」
「はーい」
俺の言葉に男の娘が駆けて行く。
相手が毛利元就なだけに、どこに罠があるか分からないので三人寄って文殊の知恵を出そうという訳だ。
多分、今までの人生においてここまで真剣に戦を考えた事は無いと思った。
鷹取山城への道は合戦をしている大友軍の後ろを回る為、士気を崩さぬように細心の注意を払う。
裏から逃げ出す『裏崩れ』や隣が崩れるのを見て崩れる『友崩れ』を避ける為だ。
まずは、木付陣に入り兵を引き渡す。
大々的にそれを宣伝して陣中の士気を上げるのだ。
しかる後、本陣だった諏訪山城に入り、安東家忠に挨拶をしておく。
合戦が終らずに夜になったら、陣に警戒の部隊を置いてここまで戻ってくるのだ。
その為か、寡兵でも士気が維持されつつ疲労も少なくなっている。
その際、安東家忠より気になる報告を聞く。
「鷹取山城への伝令が襲われているだと?」
「はっ。
すでに八人ほど襲われており、御身を大事になさって頂けたらと」
まぁ、鷹取山城から毛利軍は丸見えな以上、その情報を持っている伝令は優先的に潰すわな。
なまじ狙撃体験があるだけに、その一言で果心や井筒女之助ははっきりと顔に警戒の色を出す。
「即座に登るつもりだったが、さすがにそれは危ないか。
果心。
今居る俺の手勢を加えて一刻ぐらいで道の掃除できるか?」
「やります。
その為にも、八郎様はここから動かないで下さいませ」
太陽は中天に差し掛かっている。
そこから登って一刻、降りて一刻だろうから帰りは夜になるかならないかというところか。
かなりぎりぎりの時間である。
「わかった。
大鶴宗秋が連れてきた手勢を使え」
「はっ。
井筒女之助。石川五右衛門。
出ます。
柳生様は八郎様の御身を守ってくださいませ」
「承知」
果心たちが出てすぐに白井胤治と桜井武蔵がこっちにやってくる。
それぞれ、護衛にと百人程度の兵を連れてきたので、果心に預けて山狩りに使うことにする。
「待っている間に戦況を聞こう。
どうなっている?」
俺の言葉に答えたのは白井胤治だった。
こっちに来る際に戸次鑑連の陣に寄ったらしく、彼からの文も預かっている。
「入っている報告をまとめてみた所、我が方が押しているかと。
安心院隊・時枝隊・野中隊が川を渡って毛利勢の秋月隊・安武隊・菊池隊に攻めかかっており、高田隊と古庄隊も後詰に出すようです。
吉川勢の動きは鈍く、最初の攻撃をしくじってからは陣に篭ってこちらの攻撃を耐えております」
続いて桜井武蔵が口を開く。
「小早川勢も遠賀川西岸から動かず、合戦をただ眺めるのみ。
木付様は更なる攻撃を考えているらしく、戸次勢より兵の抽出を頼んでおりました。
戸次様は小早川勢を理由にそれを断ったみたいですが、殿の連れてきた兵の編入と攻撃続行を木付様にお命じになられました」
嫌な予感がする。
明らかに毛利軍の動きが不自然すぎるのだ。
まるで何かを待っているような。
多分竜造寺軍なんだろうが。
「今日の攻撃で木付殿は吉川勢を崩せると思うか?」
俺の言葉に二将は同時に言いきった。
「無理ですな。
吉川元春とその手勢は未だ士気高く、崩すのは至難の業かと」
「無理でしょう。
背後の竜造寺勢と小早川勢がいる限り、兵達は動揺します。
この二隊が動くだけで背後を心配するから、攻撃は続きませぬ」
その言葉に頷きながら、俺は安東家忠に話を振る。
「安東殿。聞いたとおりだ。
俺の意見として、戸次殿に伝えておいてくれ」
「かしこまりました。
本陣に伝令を出せ!」
伝令を呼びながら安東家忠は部屋から出て、こっちは城から合戦場を眺める。
その時、声が大きく聞こえた。
「何があった!」
たまらず叫ぶ俺に物見台の兵が状況を伝える。
「吉川勢逆襲に転じました!
我が方崩れております!!」
渡河して攻め疲れて、後詰めが来るという気の緩みを突いての逆襲。
さすが吉川元春は戦国有数の武将なだけ有る。
こうなると、情報伝達のレスポンスが悪い戦場ゆえ、こちらが状況を把握する前に崩壊が他の部隊に連鎖しかねない。
「お待ちくだされ!
今、殿が声を挟むのは悪手になりますぞ!!
どうぞご自重を!」
俺が己の部隊だけでも待機及び迎撃準備の予備命令を出そうかと拳を握った瞬間、白井胤治が即座に口をはさむ。
その声に畳み掛けるように桜井武蔵は理を以て俺に説く。
「たとえ苦しくても、今殿が命を出せば我らは戸次様の命と迷う事になり申します。
戸次様や木付様をどうか信じてくださいませ」
その言葉に説得力しか無かったので、俺は握った拳を解いた。
「分かった。
これ以上ここに居ると口を挟みたくなる。
山の麓まで移動するぞ」
鷹取山城の麓に到着した時、俺の回りにいるのは馬廻二百と大鶴宗秋指揮の三百、白井胤治と桜井武蔵がそれぞれ連れてきた百の兵で合計すると七百もある。
現状この七百を遊ばせるのはと思い、大鶴宗秋に預けて諏訪山城に返し、馬廻のみで鷹取山城目指して登山をする。
「思ったよりきつーい」
ついてくる有明がぼやくが、彼女はラバに揺られての登山である。
何でこんな所にラバがいるのかと言えば間接的には俺のせいで、山羊購入から始まった大陸産の家畜購入の一環らしい。
鷹取山城は山頂の城ゆえ麓の館との連絡に苦慮していたが、近くに俺の猫城があり、そこの奉行に博多商人との強いコネを持つ柳川調信が居た。
で、山羊とかに紛れて入ってきたこいつを買って使っているらしい。
明月と政千代も有明と同じく森家郎党に手綱を任せてラバに揺られている。
日はそろそろ傾きだしている。
山の中の森を抜けたと思ったら、尾根伝いにいくつかの郭と屋敷が見える。
この手の山城は、防衛の為に山頂部の木を切っている事が多い。
どうやら山頂までは登る必要はなさそうだ。
「あれが小早川勢、という事はあっちが戸次勢で、今押しているのが吉川勢か」
状況が一切わからなかった合戦は吉川勢の猛攻で川中まで戻されており、大友・毛利の両軍が彦山川の河原で殺し合いを続けていた。
そして、俺は南の方を見る。
居た。
竜造寺勢とおぼしき陣は、かなり大がかりな陣城を築いていた。
かなり遠くにあるのでよく見えないが、土塁を谷一面に設けて旗を立てているのが分かる。
「竜造寺勢の奴ら、あそこから動いていないのか?」
俺の質問にさっきまでラバの手綱を引いていた郎党が人の良い顔で答える。
「へぇ。
昼夜問わずあの陣を作っておりました。
おかげで、川の水がせき止められて村も困っており、合戦だけでも大変なのに……」
「ちょっと待て!
川の水がせき止められた?」
背筋が凍る。
それが何を意味するのか分かってしまったからだ。
山の麓の彦山川を見る。
ここからだと合戦ができるくらい水位が低い。
白井胤治と桜井武蔵も俺と同じく気づいて顔が真っ青になっている。
だが、その意味がわからない郎党は相変わらず人の良い笑顔で、俺達にとどめを刺す。
「へぇ。
あそこは彦山川の上流に当たりまして……」
「罠だ!!!」
俺の叫びは当然戦場に届く訳もなく、昨日から降った雨で水量の増した彦山川は竜造寺軍が急造した堤をついに崩して、濁流となって下流に向かってなだれ込む。
川幅を広げつつ一気に迫った濁流の奔流は大友・毛利両軍を関係なく押し流し、今日の合戦を終わらせるだけでなく、ここ数日間で最大の損失を大友軍と毛利軍にもたらしたのだった。
諏訪山城合戦 その三
大友軍 戸次鑑連・木付鎮秀・大友鎮成 一万四千五百
毛利軍 吉川元春・小早川隆景 一万七千
損害 (戦死・負傷・捕虜・行方不明含む)
大友軍 二千
毛利軍 二千
討死
内空閑鎮真・佐野親重・安心院公正・時枝鎮継 (大友軍)
坂田諸正・安武鑑政・島忠茂 (毛利軍)
私「水攻めなんて荒唐無稽通ると思っているのか!」
筑前国続風土記
「小金原合戦で若宮川塞き止めて戸次勢押し流しましたが何か?」
私「反対側じゃねーか!」
日田彦山線
「今年の北部九州豪雨で壊滅的打撃を受けて廃線の危機ですが何か?
当時の知的技能集団英彦山山伏に、隠蔽工作は毛利元就と小早川隆景と鍋島直茂のコラボだよ。やったね」
私「分かるか!んなもん!!!」
十時惟忠 ととき これただ
高野大膳 たかの だいぜん
内藤隆春 ないとう たかはる
宍戸隆家 ししど たかいえ
杉原盛重 すぎはら もりしげ
坂元祐 さか もとすけ
財満忠久 ざいま ただひさ
飯田隆朝 いいだ たかとも
仁保隆慰 にほ たかやす
天野隆重 あまの たかしげ
佐藤元正 さとう もとまさ
粟屋元辰 あわや もとたつ
秋月種冬 あきづき たねふゆ
安武鑑政 やすたけ あきまさ
島忠茂 しま ただしげ




