表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
豊芸死闘またの名を因果応報編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/257

分水嶺 その4

 畑城に到着した翌日の朝。

 その日は雨が降っていた。


「行軍は中止。

 帆柱山城からの軍勢を待つ」


 畑城での評定の場にて俺は宣言する。

 急ぎたい所だが、まずは行軍している兵が到着しないと何も出来ない。

 そういう意味では、小競り合いすら発生しにくくなるこの雨は恵みの雨ともいえた。


「諏訪山城及び鷹取山城との連絡がとれるように毛利側の間者の排除をしろ」


 俺の命令に果心がめずらしく首を横に振った。


「その命厳しいかと。

 毛利との間者働きで、こちらの間者が激しく消耗しております。

 これ以上は、御身を守る事すら難しくなります」


 考えてみれば英彦山と宇佐八幡宮が敵に回った時点で、地元国人衆を敵に回したようなものである。

 そんな中で、なんとかここまでこれただけでも感謝するべきだろう。


「分かった。

 残った連中にも今日は休みをやってくれ。

 あと温かい汁物の用意を頼む」


 俺の命に頷いたのはこの畑城城主の香月孝清である。

 彼からすれば身内が毛利に内通していた汚名を返上する必要もあって、声にも焦りが出ている。


「かしこまりました。

 よろしければ、間者働きも我らの手の者を走らせましょう」


「期待させてもらおう。

 よろしく頼む」


 今日の夜までに配置はこんな感じになる。


畑城滞在

 大友鎮成直轄  有明・明月・果心・政千代・井筒女之助・柳生宗厳・石川五右衛門

  佐伯鎮忠      馬廻      二百

  由布惟信      戸次家郎党    百

  多胡辰敬      多胡家郎党    千

  上泉信綱      雑賀根来衆    千

  朽網鑑康      朽網家郎党   五百

  香月孝清      香月家郎党   五百

  杉隆重


帆柱山城

  朽網鎮則      朽網家郎党   五百

  吉田興種      大内家残党   五百

  


園田浦城

  許斐氏則      許斐家郎党    百

  篠原長秀      小倉宿雑兵   三百


 合計               四千七百


 朽網鑑康の手勢の内半分は息子朽網鎮則に預けて帆柱山城に帰している。

 後から来る吉田興種が寝返った時の保険で、このあたりは戦国武将らしい。

 杉隆重は多胡辰敬の到着後に顔の確認をしてもらうが、本人確認がとれたら小倉経由で簑島城に帰してやるつもり。

 城主が居城に帰れば兵の再編もできるだろうから、戦力プラスになるのだ。

 間に合うかどうかは微妙な所だが。

 一方で園田浦城には篠原長秀指揮の雑兵が入っているので、猫城を狙うように見えているのがポイントだ。

 最初は猫城を狙うつもりだったのだが、その先に毛利元就が居ると分かって攻めるほど俺は武勇知略に優れていない。

 だが、この配置になる今日一日に毛利元就が何か仕掛けてこないかと不安にならなかったと言えば嘘になる。

 待つ時間がもどかしい。

 雨の行軍はそれだけでも濡れて体が冷えるから難しいのだ。

 帆柱山城から畑城まで、普通に行軍すればおよそ半日。

 受け入れも大事で、屋根のある場所で兵を休ませないと合戦前に消耗するから、香月家の郎党が畑城の空いた所に盾を使った屋根を作り出していた。

 寺や神社にも受け入れてもらうがそれでも足りず、足軽の多くは家の軒先や木陰で雨を凌ぐ事になる。


「申し上げます!

 帆柱山城より早馬が来ております!」


 とはいえ、移動続きと違って留まっているからこそこうして早馬の情報を受ける事ができる。

 移動中はそもそも何処に俺が居るのか分からないから、早馬そのものが出せないのだ。

 毛利の間者働きで情報が制限されている中、こうやって情報が受けられるのは素直にありがたい。


「博多の島井様よりの書状でございます」


 見るからに偉丈夫な早馬の武者が丁寧な仕草で書状を渡す。

 早馬が運んできたのは、博多の大友家御用商人の島井茂勝の書状だった。

 それを要約して皆の前で読み上げる。


「博多の方でも戦が起こったらしい。

 吉弘殿が勝ったそうだ」


 戦の内容は毛利側についた高祖城の原田親種相手に、吉弘鑑理が勝利した事が書かれていた。

 生の松原周辺で発生した合戦は激戦の末に吉弘勢が勝利し、原田勢は高祖山城に撤退した事が書かれていた。

 なお、俺と知り合いでもある原田親種が毛利側についた理由は糸島半島が欲しかったからで、前から居た臼杵家とも何度も戦火を交えている。

 で、臼杵家と同じ感じで大友家最強武闘派集団の吉弘家をぶん殴ったと。実に国人衆らしくて頭が痛い。

 話がそれたが、これは西から博多への道が開いた事を意味する。

 おそらく竜造寺と戦をしているふりをしている高橋鑑種は、こちらへの対処に追われるだろう。

 じりじりとだが、九州の毛利勢力が追い詰められている事が文面からでも伝わっている。

 戦術面で致命的な失敗をしなければ、大友の負けは無いと判断して良いだろう。

 問題は、その大友の勝利と俺の生存の両立なのだが。


「次に門司城の瓜生貞延殿より文でございます」


 あそこは現状守備隊を置いているだけだが、長門の兵が船を出して襲うだけでもこの状況が逆転するのだ。

 だが、それは無いだろうと俺は読んでいた。

 文を読んでそれを確信する。 


「対岸の且山城に毛利の兵が集まっているらしい。

 旗印から福原元俊や市川経好だそうだ」


 長門守護代として毛利家より長門統治を任されていた内藤隆春の旗がない理由は簡単だ。

 九州に上陸しているだろうからだ。

 この手の後詰めは前線に近い国の旗頭が出るのが慣例になっている。

 おそらく、現在対峙している毛利軍二万の兵のかなりの数が、内藤隆春と彼が指揮する長門国人衆で占められているはすだ。

 同時に長門からさらなる攻撃はできない事を意味する。

 出せる戦力を九州に上げているのと、旗頭たる内藤隆春無しで兵を出したら内藤隆春の権威が落ちてしまうからだ。

 だからこそ、残っていた宿老福原貞俊の息子福原元俊が出て来ているのだ。

 それの意味する所は一つだ。

 門司城への攻撃は無い。

 福原貞俊だったらやばかったが、彼は毛利義元の側を離れられなかったのだろう。

 

「こちらは、お蝶様よりの文でございます」


 簑島城に残っていたお蝶からの文を開けると、思わぬ朗報が書かれていた。

 本国豊後からの更なる増員である。


「お屋形様が動かれた。

 豊後にて動員が始まっているらしい。

 その先陣として、大内輝弘殿がこちらにやってくるみたいだ」


 門司城を落とした事によって周防長門が動揺しているのがわかって、大内輝弘が大友宗麟を動かしたのだろう。

 大友宗麟は大内輝弘を使い捨てるつもりなのだろうが、使い捨てるためにも本隊の出陣は必須となる。

 こちらだけでなく肥後に兵を派兵しているので大規模とは行かないが、本人出陣の為馬廻りと飾りである大内輝弘や軍師角隈石宗、臼杵鑑速を実質的な大将として利光鑑教や吉岡鎮興、柴田紹安、帆足鑑直、狭間鎮秀等の中堅所の将を動員するらしい。

 兵力はまだ読み切れないが数千規模と見た。

 情報伝達のラグを考えたらかなり決断が早いが、門司城の重要性を認識しているともとれる。

 

「で、こっちの方が本題だろうな。

 お屋形様出陣で豊前国国人衆が参陣を表明しているそうだ。

 彼らに城を任せて、こっちに出るらしい」


 既に参陣を表明しているのは、戸代山合戦の敗北で代替わりをした城井鎮房を中心に以下の通り。


 城井鎮房 城井谷城 五百

 安東長好 宝山城  三百

 中島房直 高家城  三百

 賀来成恒 大畑城  三百

 賀来惟重 宇留津城 三百

 櫛野茂晴 櫛野城  三百


 合計        二千


 城井鎮房は代替わりと先の敗戦での汚名返上の為。

 安東長好と中島房直は親大友家の家で近隣の反大友家国人衆の警戒をしていたのだが、お屋形様出陣で謀反を起こす馬鹿も居ないだろうとこっちにやって来たらしい。

 賀来成恒と賀来惟重は大神国人衆の一族で、佐伯惟教の紹介状を持ってきたらしい。

 こういう時に縁というのは繋がっているものだと不思議な感じがする。

 これらの兵が簑島城に到着するのを待って、俺との合流をと書かれてた最後の日付を確認する。

 二日前。

 早馬を駅伝方式で繋いでこの文を持ってきたのだろうが、これが意味する所は毛利側の間者の妨害が無くなったという事。

 それをどう考えるべきか、俺は専門家に尋ねる事にした。


「果心。

 早馬を妨害していた間者が減ったみたいだが、これをどうみる?」


「早馬が通った場所は門司奪還の意味を理解している所ばかり。

 この状況で毛利にお味方は少しきついのだろうと」


 門司城が大友の手に落ちた時点で毛利の戦略的敗北は決定している。

 たとえ大友後詰軍を撃破して香春岳城を落としても、交換レートでは香春岳城のSレアでは門司城のSSSレアには叶わない。

 そのあたりの変化に機微でないと国人衆は生き残れない。

 そんな事を考えていた俺に、果心は第二の可能性を提示する。


「もう一つの可能性として、こちらの間者を減らしても集めないといけない場所ができたと。

 でしたら、間違いなくここでしょう」


 大友毛利双方会わせて四万近い兵力がぶつかる合戦は、良くも悪くもその後の状況を決定的に変えかねない。

 こちらの勝利理由になっている門司城とて、この合戦に負けて城兵が寝返ったり降伏したら無に帰すのだ。

 それを恐れて、大友宗麟や大内輝弘は急いで出陣を決めたのだ。

 双方の勝利条件がこの時点で変更されている。

 大友軍は門司城に大内輝弘を入城させる事。

 毛利軍はそれまでに、大友後詰軍を叩いて門司城を奪還するか、豊前国人衆を扇動して謀反を誘発させて大内輝弘を入城させない事。

 まだ有利ではあるが、逆転は可能。

 その逆転手を考え出せるのが毛利元就という化物である。


「これらの文を写して、戸次殿の所へ届けよ」

「承知いたしました」


 果心に文を預けて、少し考える。

 結局、数日中に起こるだろう合戦が全てを決めるのは間違いがない。

 で、その重要なファクターである鍋島直茂の動向がまったく伝わらない。


「由布殿にお聞きしたい。

 戸次殿は、竜造寺から来ている将の事は知っているのか?」


 俺の質問に由布惟信があっさりと言い切る。


「はっ。

 あの時香春岳城は一刻を争う状況ゆえ、目をつぶり申した。

 『怪しい動きをしているが、その時は叩き潰せば良い』と」


 実に脳筋な回答だが、それができる武功を戸次鑑連は持っていたし、戸次家将兵もできる精鋭だった。

 俺達と合流すれば負けない読みはあった訳で、それは今現在証明し続けていた。

 由布惟信は更に話を続ける。


「毛利も状況が悪くなっている事は感じておりましょう。

 近く大規模な合戦が起こるのは必定かと」


 そこでふと気になった事を口にする。

 ここまでの状況分析で出てこなかった決定的な情報の事だ。


「で、その鍋島信生は何処に居るんだ?」


 そして皆が黙り込む。

 毛利元就が隠している最大の情報が多分これだ。

 周囲の間者が減った理由も、この情報隠ぺいに関わっているのだろう。


「このあたりを問うには戸次殿に問い合わせないといけないのだが、この城と諏訪山城との間の間者狩りは今から始めるから、届くのは明日か。

 もどかしいな……」


 俺のボヤキに控えていた早馬の武者が声を出す。


「恐れながら、その任それがしにおまかせ願えないでしょうか!」


 見れば若武者だが、佇まいから才覚が見て取れる一廉の侍に見える。

 折角なので、俺はその若武者に問いかけてみる。


「先程渡した文の順だが、何か意図があるのか?」


「はっ。

 この戦、詰まる所博多を誰が取るかにかかっており、まずは博多の情報を最初に。

 次に、門司城を我が方が持ち続ける事で毛利が干上がるので、門司の情報を次に。

 最後に、主計頭様にとって一番信頼できるだろうお蝶様の情報を最後に持ってきました」


 こいつできる。

 その意図もそうだが、情報を彼なりに選別し優劣をつけている所が実に良い。


「名前は?」


「大友家浪人衆が一人。

 野崎綱吉と申します」


 浪人衆という事は、俺が銭を出して大名直参の兵にした連中の一人か。

 使い捨てとして雇った連中だが、このまま使い捨てるのは惜しい。


「この早馬で戻ってこれたら、うちの侍として雇ってやる。 

 戸次殿の陣に行って文を渡してこう伝えよ。

 我らが手勢三千が畑城に滞在中。

 明日にも、そちらに行くとな」


「その言葉を楽しみにしておきましょう。

 では、準備をして参ります。御免!」


 野崎綱吉は毛利側の間者をくぐり抜けて、今日の夜遅く無事に戻ってきた。

 そして、欲しかった情報を俺にもたらしてくれたのである。


「戸次様からの言付けでございます。

 彦山僧兵を率いる竜造寺勢は、数日前より岩石城のふもとに陣取って動こうとしておりませぬ。

 大規模な陣城を造っているとの事だそうです」


 岩石城?

 鷹取山城から南に七里ほどの城で、現在の戦場から急いでも二日はかかる場所だ。

 そんな所で、鍋島直茂は何をしているんだ?

福原元俊 ふくばら もととし

市川経好 いちかわ つねよし

内藤隆春 ないとう たかはる

利光鑑教 としみつ あきのり

吉岡鎮興 よしおか しげおき

帆足鑑直 ほあし あきなお

狭間鎮秀 はざま しげひで

安東長好 あんどう ながよし

中島房直 なかじま ふさなお

賀来成恒 かく なりつね

賀来惟重 かく これしげ

櫛野茂晴 くしの しげはる

野崎綱吉 のさき つなよし

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ