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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

豊芸死闘またの名を因果応報編

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微睡みの府内 その2

 大大名ともなると、一門衆の俺でも謁見するのに一苦労である。
 その間、他の重臣達と会いながら根回しを進めてゆく。

「久しいな。
 九州への渡船で色々骨を折ってくれたそうで感謝する」

「こちらも八郎様の支援に色々助けられましたからな。
 その礼という事で」

 訪問した臼杵家の屋敷の奥、冒頭の挨拶を笑顔で交わしながら、臼杵鑑速は本題に入る。
 顔が真顔になっているあたり、彼は少なくてもこの微睡みの中で起きているのだろう。

「高橋殿討伐。
 博多に害無く進めることは可能で?」

「難しいな。
 立花山城に籠城されても、宝満城に籠城するにしても、足軽達が荒らしかねん。
 博多を占拠して守る者が必要になる」

 当然だが、商人達のオーダーである『博多の安全確保』は臼杵鑑速の耳にも届いている。
 その上で互いに情報確認をすればするほどろくな情報が出てこなかった。

「高橋殿は宝満城に篭っているらしい。
 立花山城は毛利からの城代に守らせて居るとか」

「多分小早川隆景か吉川元春だろう。
 こいつらが、毛利の後詰の大将だ」

 臼杵鑑速が高橋鑑種を『殿』づけで呼んでいる事をおれはあえて無視した。
 高橋鑑種には大友家に背く理由があったし、共に博多を守った縁がある。
 臼杵家は竜造寺家に城を奪われたのであって、高橋鑑種に奪われたのではないという政治スタンスの表明。
 それは場合によっては高橋鑑種を助けても良いというサインでもある。
 何のために?
 もちろん、俺の為にだ。
 そういう人情が臼杵鑑速にはあったからこそ、失脚した今でも重臣として期待されているのだろう。

「俺が取り返したい猫城だが、清水宗治という将が守っているらしい」

「門司城は帆柱山城で奮戦した麻生隆実を大将に、長野祐盛と貫親清の数千が篭っているそうです。
 宗像家も数千の兵を抱えながらも領内から動いておりませぬ」

 情報を整理すると、現状の毛利軍は二つに別れている。
 要衝門司城に篭っている部隊と、博多を占領している高橋鑑種と宗像家の領地だ。
 そして、立花山城に毛利軍の吉川元春か小早川隆景のどちらかが入り、もう片方が後詰軍として転戦するという感じだろう。
 俺が攻めようとしている猫城は、この宗像家占領地の最東端に当たる。

「義父上が近く加判衆から退く事を決意した。
 臼杵殿を後任に推すらしい」

 状況確認の後で行われた生々しい話に臼杵鑑速の顔が曇る。
 その先の事が分からないと加判衆返り咲きなんてできない。

「その功績は八郎様がお膳立てして頂けるので?」

「雑賀、根来、叡山僧兵を連れてきている。
 大将つきで貸してやっていいぞ」

「兵のみで結構。
 一族が多いのが臼杵家の強みにて、筑前の戦で大分減り申したがな」

 こういう所で遣い潰せるのが傭兵の強みである。
 俺自身は猫城奪還の方に力を注ぎたいので、この戦場の功績は臼杵鑑速と田原親宏に全部くれてやるつもりだった。
 兵の譲渡ついでに国東半島の唐芋畑を餌にした毛利水軍迎撃計画を話す。

「八郎様の策に感服いたしますが、海を押さえきれぬ以上毛利水軍に逃げられるかもしれませぬな。
 そして、残っている水軍衆の戦力ではこちらの方が分が悪い」

 臼杵鑑速の指摘に頷きながら、口を開こうとして言い淀む。
 策が無い訳ではないが、その策をとるいう事の意味が俺の口を重くする。

「策はあるが、あまり褒められたものではないと」

 こういう察しの良さに苦笑してごまかそうとする俺を、臼杵鑑速は真顔で見据えて告げる。
 その言葉に俺は返す言葉が見つからない。

「八郎様。
 負けて褒められて、何が残りましょうか?
 いや、何を八郎様に従う者達に渡せましょうか?」

 固まった俺に臼杵鑑速は更に言葉を追い討ちする。
 負けたから失脚した彼の言葉には、俺の言葉よりはるかに重みがあった。

「竜造寺に負け、高橋に裏切られ、臼杵の地にて復仇を誓うのは、それがしについてきた者たちの為。
 彼らの思いや、その屍が無意味だったとは八郎様にも言わせませぬぞ。
 汚名はそれがしが全て受けましょう。
 ですから、どうかその策をそれがしに授けてくださいませ」

 その言葉からあふれる高橋鑑種の裏切りに対する怒りと、俺に対する配慮が見えるからこそ俺は何も言い返せない。
 気づいたら顔から汗が浮き出て、手ぬぐいでそれをふかないと目が痛い。

「府内に来ている南蛮人に協力を求めるのだ。
 奴らが乗る南蛮船一隻で毛利の水軍を相手に戦える力がある」

「それを南蛮人たちが了承すると?」

「するさ。
 彼らが信じる神の布教を認めるのならばな」

 この毛利戦が終った後に派手に炸裂して大友家家臣団が真っ二つに割れる、キリスト教布教フラグ。
 だが、それを許容してでも毛利水軍の撃滅と臼杵鑑速の復帰は絶対に必要だった。

「万一、それで南蛮人たちが了承しない場合は?」

 臼杵鑑速は優秀だ。
 万一に備えて二の矢を求めるのだから。
 そして、俺がその二の矢を用意していると察しているのだから。
 だからこそ、俺も覚悟を決めて臼杵鑑速に二の矢を差し出す。

「南蛮人が買いに来る人を安く多く融通すると告げてやれ。
 吉岡老が村上水軍を諜略しているのは知っているな?
 吉岡老と話を絡めて、毛利領内から伊予経由で人を買い取る」

 からくりはこうだ。
 近年の飢饉と連続の戦で、毛利領は疲弊しているのは分かっている。
 そして、飢饉と経済的疲弊は最後の財産である人--奴隷--の価格を暴落させていた。
 一方、九州では俺の指示と唐芋もあった事で、疲弊していなかったから奴隷になる人間が少なく、その価格が上がっていたのである。
 つまり、毛利領であふれる奴隷をこっちに持ってくるだけでぼろ儲けが約束されている。
 さらに素敵な事に、九州を支配する大友家と西国の覇者毛利家は合戦中。
 おまけに、代理戦争だがちょうど戦が終わった伊予国というが中間地帯にあったりする訳だ。
 毛利領であふれる奴隷を村上水軍の協力で伊予国に集める。
 中予を支配する河野家は村上水軍の属する大名家で毛利家に従属しているとはいえ独立大名でその南に宇和島大友家があるのがポイント。
 陸路でも海路でも俺の領内に入れてしまえば、そのまま宇和海経由で臼杵に、府内に連れてこれる。
 悪魔的に素晴らしいのは、この二の矢は現在俺の領内で行われている、旧宇都宮領復興事業とリンクできるのだ。
 それだけでない。
 宇和海交易で臼杵鑑速にも利が入り、村上水軍買収工作をしている吉岡長増への支援になり、河野家・村上水軍というラインで外交チャンネルまで構築できるのだ。
 孤独を深めているだろう大友宗麟の大友宗麟のキリスト教傾倒具合が深ければ、彼に媚を売れるというおまけつき。
 もちろん、国東半島での戦いが有利になるから田原親宏も助かる。
 全て良い事ずくめなのだ。
 異国の地で使い捨てられる数万の命を見なければの話だが。

「すばらしき策でございます」

 聞き終わった臼杵鑑速は静かに頭を下げる。
 そしてそのまま言葉を続けた。

「先ほどの言葉は嘘偽りではございませぬぞ。
 今より、この策は全てそれがしの策として使わせて頂きますとも。
 その功績は八郎様の為に使うことをお約束いたします」

 顔を上げた臼杵鑑速は笑みを作って俺に諭す。
 俺が持ち得ない大人の顔がそこにあった。

「年をとると守るものが増えますが、しがらみをまた増えるというもの。
 八郎様。
 何を守るのか、今一度考えてくださいませ。
 大友家が守るものと八郎様が守るものが一致する限り、この臼杵鑑速は八郎様のお味方であり続け、八郎様をお守りしましょうぞ」

 その言葉に何を返したか俺は思い出せないぐらい早々と俺は臼杵家の屋敷を後にした。
 彼の覚悟が怖く、俺の未覚悟が情けなかった。



「やあ。守護殿」
「やめてくだされ。
 殿」

 帰宅後、待っていたのは急遽伊予半国守護に仕立て上げられた大内義胤だった。
 彼がこちらにやってくるという事自体が彼の立場の軽さを物語っている。

「言っただろう?
 城ぐらいはくれてやると。
 そちらの御仁は?」

 大内義胤が頷くと、横に控えていた将が挨拶をする。

「元周防国鞍掛山城主、杉隆泰が子、杉鎮頼と申します。
 西国に名を轟かせる名将に出会えて光栄の至り」

 俺は眉を潜めて警戒する。
 周防国の元城主の息子なんて普通に考えれば旧領回復の願いがあって当然なのだから。
 俺の警戒を察した大内義胤が笑ってその警戒を解く。

「ご安心なさってくだされ。
 それがしも杉鎮頼も周防・長門攻めに反対して外された口でしてな。
 こうして八郎様の所に転がり込めた次第」

「という事は、そういう動きがある訳だ。
 大内輝弘殿を使ってそれを企む御仁は誰だ?」

「加判衆の一人、木付鎮秀殿でございます」

 加判衆に抜擢された彼は、功績欲しさというより第二次姫島沖海戦の敗北によってこの逆侵攻を主張しているらしい。
 理由は簡単、彼の領地である木付城が田原親宏の領地の隣なのだ。
 国東半島で合戦が発生したら、田原親宏と共に領地が荒れる場所に彼は居たのである。

「この策を推している御方がもう一人。
 隠居なされた吉岡長増殿にて」

 ある意味史実がまだ発生している事に俺は安堵の息をつく。
 大内輝弘を使った毛利領逆上陸を主導したのは吉岡長増と言われているからだ。

「木付殿や吉岡殿にも博多商人達の嘆願は行っているのだろう。
 毛利領内の混乱があれば毛利の後詰は消え、大友の大軍に高橋鑑種は籠城せざるを得ない。
 一将に博多を守らせれば商人たちも喜ぶという所だろうな」

 そこまで言って俺は顎に手を当てて考え続ける。
 現状の兵力差だと、大友軍より毛利軍が多くなる事はありえない。
 だが、兵力差で勝てるほど毛利軍は弱くはない。
 そこが問題だった。

「来てくれたのだから少し今後の話をしよう。
 伊予半国守護を公方様より頂いているので、守護殿には伊予に入って頂きたい。
 約束通り、城も用意するぞ」

「いやですよ。面倒くさい。
 府内に来て思い知りましたが、それがしではなく体に流れる大内の血に皆が頭を下げているのがわかりますからね」

 俺の提案を心底いやそうな顔で大内義胤がぶった斬る。
 俺も同じだったなと思っていたのを察したらしく、大内義胤も俺と似たような顔をして苦笑する。

「そりゃあそれがしも男に生まれ、侍に生まれた以上、手柄を立てて城がほしいと思いますよ。
 だけど、あれは駄目です。
 皆、俺を見ていない。
 邪魔ならば大内輝弘殿に替えれば良いと顔に出ていますから」

 俺という言葉がぽろりと出るあたり、大内義胤の本音と見た。
 冷遇されても大内の名前を意識して育てられた大内輝弘と、離れた畿内で暮らした大内義胤の差はここにあったのだろう。
 大内義胤に伊予国半国守護が出たのは本当に幸運だった。
 傀儡を承知で、大内の名前に囚われている大内輝弘の執念で大内義胤が排除されかねない。

「どっちにしろ、ここに居てもやることはないだろう。
 伊予には行ってもらうぞ。お主らの命を守るためにもな」

 俺はそこまで言って、隣りにいた杉鎮頼の方を向く。
 大内義胤についている以上、彼がこっちの仕掛けなのは知っているのだろうが念のため確認をとる。

「杉殿。
 これは確認なのだが、こちらについても周防・長門には行かないぞ?」

「ええ。
 鞍掛山城が落ちた時、それがしは元服前でして。
 流れてここに世話になる内に郎党も一人去り、二人去り。
 戻りたい者はあらかた消え、今は大友家の臣として暮らしている次第。
 今、ここに居るのは杉の名前と大内様への目付という所。
 大内様と共に行く所存にて」

 俺と大鶴宗秋の関係みたいなものか。
 そこで疑問が湧いたので、それを口にした。
 出てきた名前もなんとなく想像はついていた。

「目付ね。
 ちなみに杉殿の上はどなたか?」

「聞かれると思うとおっしゃっていましたよ。
 角隈様は」
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