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スタイリッシュ痴女リカルパレード

 久しぶりの宇和島に帰ると街が変わっていた。

 あとで聞いた所によると、宇和島周辺には二千戸もの家が建ち、府内・臼杵に次ぐ大友家第三の都市に成長したという。

 毛利との戦に備えて、大規模城郭として完成した宇和島城は堀によって島城に変わり、俺達の船は城の船着き場に静かに到着した。 

 見渡すと、港に溢れる船からは荷が積まれ、降ろされ、真新しい土蔵に次々と運び込まれてゆく。

 街には活気が満ち溢れ、大陸風の異人だけでなく南蛮人の姿もちらほらと見える。

 完成した三層天守は山の上に威容を見せつけ、土塀と隅櫓には鉄砲用の銃眼が空けられ、既に対鉄砲を意識した城作りに変わっている事を見せつけていた。


「殿のお帰りじゃ!

 皆に知らせよ!!」


「殿が返ってきたぞ!」


 港の人々が騒ぎながら俺達は宇和島に上陸する。

 そこで待っていた男の顔を見て俺は意外そうな声をあげる。

 宇和島城代として俺を港まで出迎えたのは柳川調信だったからだ。


「おかえりなさいませ。殿」


「お前がこの城を預かっていたとはな。

 宇和島の街が栄えているのも納得がいった」


「猫城を毛利にくれてやりましたからね。

 香春岳城で暇を囲っていたそれがしに一万田殿が声をかけてくれたので、こうして手伝っている次第で。

 殿も大きくなられましたな」


 柳川調信の苦笑に俺はその背景を察してしまう。

 人が集まればできてしまう組織の定め。派閥争いを。


「一万田鑑実は大洲攻めで八幡浜から動けない。

 かと言って、外様の奉行衆に城を任せるのも面白くない。

 義父上に来てもらってそのあたりを調整したが、実務側で使える人間を確保したという所か」


「ええ。

 雄城殿は隠居という形で役にはつかず、代わりにそれがしが働いております。

 最古参の一人として誰もが一応聞く耳は持ってくれますからな」


 今の宇和島大友家は複数の出身母体からなる寄せ集め軍団である。

 まずは俺の旗揚げからついてきた古参に当たる、大鶴宗秋・柳川調信・小野鎮幸の三人。

 次に大友家が出身の一万田鑑実に吉弘鎮理、入田義実や雄城長房や佐伯鎮忠もここに入るだろう。

 背後に大友家がいる事もあって、権勢はここが一番のはずだ。

 で、完全外様である旧西園寺家の南方親安、法華津前延、竹林院実親、今城能定、土居清良、魚成親能、北之川通安。

 地元な上、一条家からこっちに戻った渡辺教忠が加わったので、数も影響力も大きくなっている。

 最後は外様で旧西園寺家以外の連中。

 島津勝久、島津忠康、白井胤治、鹿子木鎮有、内空閑鎮房、南条宗鑑、森長意。

 一条家から土居宗珊がやってきて、田中成政が将になったのでここに。

 柳生宗厳、上泉信綱、淡輪重利、火山神九郎、日向彦太郎、伝林坊頼慶、石川五右衛門あたりもここに入る。

 大物だったり一芸持ちだったり、本当に他所からやってきたりという雑多な連中をとりあえずまとめたという感じだ。

 こんなばらばらの連中をまとめるのは苦労するのだが、そのまとめ役の俺が居ない時に派閥対立なんて起こったら目も当てられない。

 その為に、わざわざ豊後から大友家元加判衆で有明の義父になっている雄城治景を招聘したのだが、これが図に当たった。

 大友家元加判衆という地雷原を渡りきった老獪武将であった雄城治景は、大友家出身武将が増長するのを窘めつつ旧西園寺家の将達の顔を立て、雑多な連中をうまく使ってついに毛利家がしかけただろう旧西園寺家の将の謀叛を起こさせなかった。

 一万田鑑実に浮いている柳川調信を引っ張ってくるように囁いたのも雄城治景だったらしい。

 その一方で俺の領地返上を使って時間を稼ぎ、大友家から来ていた高橋鑑種謀叛の連座をかわしきったのだから、足を向けて眠れない。

 本当に良い義父を持ったものである。

 一万田鑑実が宇和島から離れて大洲盆地へ侵攻できたのも、後方になる宇和島で騒ぎが起きなかったからにほかならない。


「しかしまぁ、増えましたな」


「俺も少しは反省しているのだ」


 柳川調信のジト目に俺も返す言葉が見つからないその原因は、畿内より連れ帰った遊女たちである。

 俺が帰ったことを知らしめるために、わざわざ城を出て宇和島の街を練り歩くのだ。

 帰還に合わせてお祭り騒ぎを作り、内外の目をごまかすつもりだったが、色々と趣味が混じってなかなかすごいことに。

 具体的に言うと、カーニバルのサンバ衣装。

 俺が肌色率の高い衣装が好きなのを知っていきついたのがこれである。我ながら見た時に己の業の深さに苦笑するしかなかったり。

 で、楼門の正門を開いて愉快にパレードが始まる。

 女たちはあられもない姿で笛と太鼓に合わせて練り歩き、男を捕まえたら営業開始ときたものだから商魂たくましい。

 なお、色々嫌がっていた政千代のスタイリッシュ尼のお披露目でもあり、羞恥心が実に男に受けたのは言うまでもない。

 ついでに一番の綺麗どころである有明や果心や小少将や明月は慣れたもので、堂々と色気を振りまいていながら、俺に常時媚を売るのだからすごいというかなんというか。

 あ。男の娘の受けが洒落にならない事になっているが見なかったことにしよう。

 そんな色気全開空間での内緒話は堂々と行われていた。


「臼杵殿が!?」


 小声とはいえ、さすがにまずいと思い俺は慌てて口を塞ぐ。

 ちらりとお蝶がこちらの方を見たが、後で問いただすつもりらしく視線をそらした。

 宇和島の街は、武家屋敷が城の中にあるので、基本的に商人の町である。

 神屋、島井、仲屋の出店がそれぞれ中心となって商人町を構成しており、替銭屋、交易所、たたら場、寺、神社が木戸の境目に配置されていた。

 この街のブレイクに繋がった山羊の取引所は城内に置かれており、柳川調信が来た事もあってか医書と薬草がそろい医者がいるここ宇和島には診療所まで作られている。

 街の真ん中に宿屋が集められ、その隣に賭場や遊郭、演舞場や能楽堂が建つ歓楽街も作られており、畿内から連れてきた遊女たちの就職場所を新たに用意しなければならないなと頭の隅に留めておく。 


「はっ。

 近く加判衆の座を退くと。

 高橋鑑種殿謀叛の最後の連座になるでしょうな」


 そんな俺の考えを知らない柳川調信は淡々と本題を口にする。

 臼杵鑑速は筑前国方分という、守護代格として筑前国を差配する立場にあった。

 だが、高橋鑑種の謀反によって筑前国のほとんどが毛利側に落ち、糸島半島の所領も失い一族郎党の多くが討ち取られた事で発言権を大きく失っていた。

 おまけに、俺を見るために畿内に上がった事で俺との縁がある事が意識されてしまい、下からの突き上げに加判衆もついに失脚に動かざるを得なかった。

 とはいえ、その才を惜しんだ大友宗麟によって直轄地臼杵の丹生島城の城代として再興の力を養う事を命じられ、それならばという事で高橋鑑種謀叛の連座辞任にして俺の粛清の身代わりになったらしい。

 一万田親実が腹を切り、臼杵鑑速が加判衆の座を追われ、俺が領地返上と伊予宇都宮領征服で粛清を免れた高橋鑑種謀叛の影響のなんとエグいことか。

 だが、これで高橋鑑種謀叛の後始末はほぼ終わった事になる。

 現役加判衆を失脚させた以上、残った人間で責任をとらせるとなると、あとは大名である大友宗麟の首しか残っていないからだ。


「で、次は誰になるのだ?」


 ちらちらとお蝶が聞き耳を立てているが気にしないことにする。

 このあたり女城主と妻と牝の三足のわらじをはいている彼女の苦労に苦笑するしかない。

 

「揉めています。

 次の戦の大将の一人になる御方と考えられているので」


 大友家の合戦は後方に大名が統括する本陣を置き、前線に加判衆が指揮する大将が合議して動く複数大将制をとっている。

 史実の門司合戦や今山合戦や耳川合戦はそれで見事に本陣と前線の連絡を欠いて負けたのだが、大名を危険に晒さないというメリットも有る。

 今回の戦いも大友宗麟本人は日田ぐらいで止まって、そこから先は加判衆の大将に任せる算段なのだろう。

 だからこそ、その大将になるべく水面下で凄まじい暗闘が繰り広げられていた。

 現在の加判衆のメンバーは、失脚予定の臼杵鑑速を除いて以下の五人である。



 志賀親守

 吉弘鑑理

 戸次鑑連

 田原親宏

 田北鑑重 


 

 俺がうろうろしている間に田北鑑生が隠居しその弟田北鑑重が継いだぐらいしか変わっていないが、柳川調信の口から候補者の名前が次々と出て来る。

 宇和島にも聞こえてくるぐらいだからかなりの暗闘が発生しているのだろう。


「府内で噂されているのは、木付鎮秀殿に清田鎮忠殿や志賀鑑隆殿や朽網鑑康殿。

 また、斎藤鎮実殿や田原親賢殿の名前も上がっており……」


「斎藤鎮実殿や田原親賢殿は無いでしょう。さすがに」


 あ、ついに我慢できなくなってお蝶がこっちに加わってきた。

 そのエロ衣装と真顔が実に萌えるのだが、真面目な話なので言わないでおこう。


「田原分家筋である田原親賢殿が加判衆に座るためには宗家である父田原親宏が退くことが必要かと。

 また、同紋衆で加判衆を独占したのに他紋衆に渡すとも思えませぬ。

 よって、斎藤鎮実殿も外れます」


 ここで一旦お蝶は言葉を止める。

 予想と同時に義父に当たる田原親宏への手紙あたりを考えているのだろう。

 その顔はとても凛々しい。首から上だけは。


「一族の本家が加判衆に座ったら、基本分家が同時に座るのは揉めるので避けられます。

 その理由で、戸次家分家の清田鎮忠殿と志賀本家の一つである志賀鑑隆殿も外れましょう。

 つまり、木付鎮秀殿で次期加判衆は決まりかと」


 お蝶の断言に柳川調信が食いつく。

 何かを察した顔で。


「つまり、揉めていると噂が流れているのは……」


 それを引き継いだ俺が美味しい所を言う。

 ドヤ顔で。


「内と外、特に毛利に揉めていると見せておきたいんだろうよ」


 引っかからない罠でもそれを張る事に意味がある事がある。

 選択肢が限られている毛利家はこの罠をどう見るのだろうか?

 まぁ、この馬鹿騒ぎのパレードは見逃してくれるといいのだが、多分ムリだろう。


『大友鎮成はうつけのふりをして府内の暗闘を避ける。

 そうなると彼の戦場は伊予の可能性が高い』


と考えてくれるなら儲け物なのだが。


「何難しい顔しているのよ。八郎」


 いつの間にか来ていた有明が背後から抱きついて笑う。

 衣装もエロいのだが、その笑みが穏やかなのは子を授かってからだと思う。

 そんな有明の笑顔が俺は好きなのだが言うのも恥ずかしいので秘密にしている。


「そんな顔していたか?俺?」


「ええ。

 もっと笑って。

 お蝶さんも。柳川殿も。

 難しいことも面倒なことも笑って、全部置いていきましょう」


 強くなったな。

 そんな事を思ったがその菩薩のような笑顔と、卑猥極まりない衣装のコントラストにたまらず吹き出してしまい、お蝶と柳川調信も釣られて笑ってしまう。


「なんだか馬鹿らしくなってきた」


「それでいいじゃない。

 今は、祭りを楽しみましょう」


 有明が俺の腕を組んで皆に手を振る。

 さらりと反対側の手はお蝶に組まれて同じように手を振っている。


「あの御方は誰だ?

 すごい太夫姿の女と武者姿の女に腕を組まれている奴?」


「言葉に気をつけろ!

 あの御方がこの城の主である大友主計頭様だ!!」


「あの謀叛の連座で領地を召し上げられかけて、首が飛びそうだった御方か?

 軍勢ではなく半裸の女どもを連れて帰ってきたと?」


「…………」

「…………」


 おい。そこの観客ども。

 何か喋れよ。

「スタイリッシュ尼とは何だろう?」と首を捻り、考えていたら某ソーシャルゲームの快楽天ビースト様のお姿を見る。


これだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!



なお、手に入りませんでしたorz


多分お蝶は牛若丸みたいな衣装なのだろう。

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