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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

天然チート爺vs量産型チート主編

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蕭何の勝利

 土佐国浦戸。
 今や、山羊と唐芋バブルに踊る南蛮交易の太平洋航路の中継地点として空前の繁栄を遂げており、新興戦国大名長宗我部家の本拠である。
 三好家と長宗我部家の手打が済んだ現在、この家は四国山地を越えて伊予国道後平野を目指して攻め込んでおり、河野家とその後詰に来ている毛利家と対峙していた。

「お元気そうで何より。
 お子も生まれたとかで、おめでとうございます」

「大名として貫禄がついたじゃないか」

 今回は正式な客としての滞在なので、浦戸城にて長宗我部元親と会う。
 なお、貫禄がついたのは間違いがなく、大名というより旅館の若女将と言った方が良いかもしれない。
 貫禄のためにつけている付け髭がこれが痛々しいことこの上なく……

「何か?」
「何も」

 散々言われ続けたのだろうなあ。
 勘の良い男の娘である。
 歓待に出された食事はこちらが教えた内政レシピにあった鯨肉の揚げ物と、鰹節を使った山菜蕎麦がメインである。
 豊作ではあった四国だが元の収穫が少ない土佐国では米は貴重品で、蕎麦粉をおいしく食べられる蕎麦は瞬く間にこの国に広がったのだった。

「で、今回こちらに来た用件は?」

「互いの戦線の確認という所だ。
 こっちは、大洲盆地を押さえたが道後平野に出るつもりはない。
 その上で、そちらの支援をと考えている。
 具体的には兵糧や物資の売却、荷駄の手配あたりだな」

 歓迎の宴が終った後の長宗我部元親の部屋。
 護衛として篠原長秀を一人連れての会談はこんな会話から始まった。

「まぁ、こっちは貴方が生きている限り毛利に寝返る選択肢は無いですからね。
 間違って戦場に出て死ぬなんて事はしないでくださいよ」

「善処するが、府内のお屋形様次第だな。それは」

 毛利元就の諜略の手は確実に伸びているのだが、地政学的にその選択肢が取れないからこそ安心して交渉が行える。
 仮に毛利に寝返っても、激怒した大友と三好に挟み撃ちにされて滅ぶ方が早いのだ。
 特に、四国の影響力確保の為に畿内を切り捨てた三好家は、長宗我部家が敵に回った場合確実に潰しに来る。
 それまでは、土佐を攻め取るより畿内に関与した方が利益が大きかったのだ。
 今では長宗我部元親の土佐統一と俺の内政レシピ伝授によって、移動コストを考えたら魅力的な餌に土佐国は化けている。
 そういう意味でも、今回ほど気楽に交渉が行える事はなかった。

「水島合戦で毛利包囲網の東側が崩れたというのに、ずいぶん暢気な物言いですね」

 じと目の長宗我部元親は次は四国に毛利軍の後詰が来るかとひやひやしているのだろう。
 山越えで送り込んだ長宗我部軍の兵力は二千ちょっとだからここから先の侵攻は河野家の弱体化と毛利軍の後詰が来ない事が絶対条件になる。

「まぁな。
 やっと毛利の底が見えたから、安堵しているんだよ」

「底?」

 長宗我部元親が首を傾げると俺は篠原長秀に頷いて、調べさせたそれを見せる。
 毛利家の家臣の某に与えられた褒美の所領を証明し、備中国の領地収入を借金の返済に充てるとした証文を。

「何で水島合戦の時に毛利本隊が動かなかったか?
 そもそも、どうして毛利は元々毛利に忠誠を尽くしていた三村家を亡ぼしたのか?
 その理由がこれさ。
 毛利家は勝ちすぎたのさ」

 九州で、中国で、毛利は空前の大勝利を収めた。
 それは良いが、勝ったら家臣に褒美をあげないと忠誠が維持できない。
 これに毛利家は四苦八苦していた。
 占領地の土地を褒美にあたえるという事は、その土地の国人衆の没落を意味し、その土地の国人衆の恨みを必ず買う。
 毛利家が亡ぼした大内家や尼子家の占領地から褒美を与えた結果、問田亀鶴丸の乱や尼子復興軍が発生したのはそれが理由である。
 それを鎮圧し、さらに反乱に加担した国人衆の領地を奪って家臣に分け与えても、根本の不信は取り除かれていない。
 ここで厄介なのが与える領地の事情で、九州に領地を与えると竜造寺隆信や高橋鑑種の陪臣という形になりかねない。
 トラブルが発生したときに本拠の安芸国が遠すぎ、地元有力者である彼らの裁きを地場国人衆が受け入れるからだ。
 直臣として毛利勝利の原動力を支えていた彼らにとって、土地はもらえるが陪臣になりますは我慢できるものではなかった。
 そんな彼らが欲した土地は安芸に近い周防国や長門国、石見国や出雲国なのだが、出雲国に領地をもらった連中は尼子復興軍にその土地を一時追われ、周防長門の連中は俺の鬼札である大内義胤の帰還に戦々恐々としていた。
 それでも戦は続き、毛利軍は勝ち続けた。
 戦争費用を勝利でごまかしてきたがそれも限界、いや、勝ったからこそ商人達がその利確に走ったのだ。
 だからこそ、神屋紹策は隠居してこれ以上の負担を断った。

「勝ちすぎた?
 普通武将や大名ならば夢見る言葉ではありませんか?」

 長宗我部元親は俺の盃に酒を注ぐ。
 それを適当にあおりながら、俺は上機嫌でそのからくりをばらす。

「自分の事を思い出してみろ。
 一条領を譲られて、安芸家を滅ぼして土佐を統一したはいいが、その苦労は倍以上に増えただろう?」

「何でそんな事知っているんですか?」

「そりゃ、俺は寺暮らしから一城の主、一国の主になって同じような苦労をしたからさ」

 嘘である。
 半分は事実だが、苦労の所は家臣に全部ぶん投げたのだ。
 それはおいしい所を家臣任せにするという事を意味し、直臣の数の減少による直轄兵力の低下に繋がる。
 新興戦国大名で、内外に脅威を抱える長宗我部元親にとって俺みたいにぶん投げる選択は行えず、パイの切り分けに苦労したのは察しがついていた。

「戦に勝つのはいいが、その後の支払いに苦労する。
 で、その支払いの為にまた戦をする。
 大名ってのは、その繰り返しさ。
 どうせお前が道後平野あたりを攻めたのもそんな理由だろう?」

 高橋鑑種謀叛の時に後詰を含め九州に居た毛利軍は七万近く居た。
 それが、水島合戦では毛利軍本隊は一万数千に、小早川隆景はわずか四千。
 現在尼子と死闘を繰り広げている吉川元春の軍勢一万を足しても三万届くかどうか。
 合戦に勝っているのにこの消耗はぼったくり価格で兵糧を買い続けた結果で、それだけの兵しか動かせなくなっているのだ。
 俺がそんな事を考えているとはしらずに、長宗我部元親は盃をあおって苦笑する。

「否定はしませんけどね。
 正直、貴方から頂いた銭の種でそこまでの苦労は背負わずに済んでいます。
 けど、侍の多くは土地を、城を欲しがるものなんですよ。
 何で貴方そんな土地と城に無頓着なんですか?」

 長宗我部元親の盃が空いたので俺が彼の盃に酒を注ぐ。
 土佐人らしく彼もまた酒が強いが付け髭がとれているのは気づいていないのか気にしていないのか。

「簡単な話さ。
 そんなものに俺は価値を認めてないからに決まっているだろう」

「……その発言だけで、多くの侍が敵にまわりますよ」

 ジト目の長宗我部元親の目が座る。
 戯言もこれぐらいでここからが本番という所なのだろう。 

「本当に道後平野いらないんですか?」

「ほしいのなら全部くれてやる。
 少なくとも、三秋峠と犬寄峠から北に出るつもりはないよ。
 正直な所、長浜すら取りたくないんだ」

 伊予灘に近づくという事は、毛利水軍の本拠地に近づくのと同義語である。
 長浜を押さえるのは旧宇都宮領が肱川流域に広がっているからで、その河口にあたる長浜を持つのと持たないのでは商業的な価値に歴然たる差が出てしまうのだ。
 そして、長浜防衛の為にある程度の緩衝地帯を用意しておかないと行けない訳で、それは海岸線をある程度押さえることを意味していた。

「で、そのお代として私は何を支払えばよろしいので?」

 適度に酔った振りをして品を作る長宗我部元親。
 それでも目は笑っていないのはさすがである。

「三好との渡りをつけてやる。
 予州河野家との挟撃なら、攻め込めるだろう。
 毛利の目をひきつけてくれさえすればいい」

「で、貴方は九州ですか。
 貴方のお屋形様に討たれませんか?」

 長宗我部元親の心配に俺は心から安堵のため息を漏らして言い切った。

「それは大丈夫さ。
 今の状況で俺を殺すほどお屋形様と同紋衆は愚かではない」

 なお、高橋鑑種の謀反によって筑前国一国をまるまる失った大友家も褒美の捻出に四苦八苦している。
 豊後一万田家の領地没収や、俺を粛清しようとした背景もそれをする事で家臣たちに褒美を渡すためなのだ。
 だが、その危機を神屋が救った。
 借金免除や賄賂というのは、この手の褒美の話でもあり、大友家の動員が開始されたという事は最低限の忠誠が期待できる褒美をばら撒けた事を意味している。
 おそらくは、先の報告にあった大洲盆地の旧宇都宮領がその褒美の原資になる。
 俺がこの地を得る事で、豊後国内の他紋衆あたりを引き抜いて直轄地にし、その直轄地を褒美として分けるという事なのだろう。 
 神屋からの明確な手打ちのサインは無碍にはできない。
 少なくとも、理不尽な報復は行えないだけの誠意は神屋は出してきた。
 この場では関係がないので、それを言うつもりはないが。

「毛利との戦を前に、内を心配しますか」

 呆れ顔の長宗我部元親だが、見ると篠原長秀も顔が引いている。
 これが権力の持つ闇なんだが、知らないというのは良いことだと気づくだろうか?

「此度の戦、突き詰めると『俺がお屋形様に討たれるか?』が全てなんだよ。
 言ったろう?
『毛利は勝ち過ぎた』って。
 適当に放置していたら、高橋鑑種謀叛の連座で俺の首は飛んでいた。
 だが、その前に毛利が大勝ちしたものだから、武将として俺を使わないといけなくなった」

 適度に酔ったせいだろう。
 普段見せないドヤ顔で俺は言いきる。

「それは毛利元就も感づいているだろうよ。
 だが、毛利包囲網で何よりも一番足りないものが無くなる前にケリをつけようとして、こうして無理をするハメになる」

「その足りない物とは何なのですか?」

 その声は篠原長秀が出したもので、本来なら無礼なのだが長宗我部元親も酒の席という事で咎めるつもりもないらしい。
 というか、長宗我部元親もその答えを知りたいのだろう。


「毛利元就の命さ」


 俺の声に静まる場。
 蝋燭から聞こえる燃える音がちりちりと聞こえてそこそこ風流である。
 手酌で酒を注ぎながら俺は続きを話す。

「あの爺がどこまで生きるか知らないが、五年十年先にピンピンしているとは考えられない。
 そして、国衆から成り上がった為に、毛利家は大友家をはじめとしてとにかく敵が多い。
 その敵誰もが彼の死後に攻め込もうと考えている訳で、毛利包囲網を作られた毛利元就はこれ幸いと敵を各個撃破しにかかった訳だ。
 ある程度は成功したが、さっきから言っているように『勝ち過ぎた』。
 九州の戦、勝つのは面倒だが負けることは多分無いよ」

 長宗我部元親のきょとんとした顔が俺の目の前にある。
 多分、水島合戦の大敗北から色々ピンチだろうななんて想定でこの場を考えていたのだろう。
 ところが、俺の口から出るのは楽観論ときた。
 という訳で、彼に証拠をつきつけてやろう。

「水島合戦で小早川隆景が率いた水軍の船はおよそ二百隻だったそうだ。
 昔、毛利躍進のきっかけとなった厳島合戦で動員したのは四百隻を越えている。
 後の二百隻、何処に消えたんだろうな?」

「っ!?」

 さすがチート。
 俺の言わんとした事に感づいたらしい。
 というわけで種明かしだ。
 史実では吉岡長増がやったらしいが、こっちでも多分していると踏んで俺はそれを口にした。

「大友家は、来る戦の前に村上水軍を買収して、毛利に与しない取り決めを結んでいる。
 村上水軍の主家筋に当たる河野家攻めは、その村上水軍が動けない言い訳という事さ」



 翌日。
 そこそこ飲んだせいで二日酔いで頭が痛い。
 で、酔い覚ましに水を飲んでいた時に佐伯水軍から臼杵鑑速名義で天草の騒乱の報告が飛び込んできた。
 その一報を聞いた俺は顔を青ざめる。
 天草が持つ地政学的要衝を理解していたからだ。
 だからこそ、その呟きを無意識に漏らしてしまう。

「まずい。
 今、あそこで騒動が発生したら、島津が介入するぞ」
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