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パジャマパーティーという名前のキャットファイト 【系図あり】

 宇和島城。

 本丸。

 奥。

 いつもならば女たちの嬌声が止むことがないその夜、女たちは一部屋に集まってじっと他の女たちの様子を窺っていた。

 それもこれも、この奥で女たちが嬌声をあげる相手である八郎からの唐突の子作りOK宣言が原因に他ならない。

 日本のこの時期の武家家庭というのは一夫多妻ではなく、一夫一妻多妾と言った方が正しい。

 奥は妻を頂点に全ての女の管理を任されているのだ。

 その為、こういう子作りなんてものが始まると血を見ないが陰湿極まる女の戦いが始まる。

 それを回避するための話し合いである。

 メンバーは以下の通り。


 奥の主で正妻である有明。

 第一妾だけど武家の姫出身で奥の差配をやっている明月。

 第二妾だけど三好の姫設定でくノ一のボスである果心。

 第三妾扱いでここにいる男の娘くノ一の井筒女之助。

 第四妾候補だけど、女武将として有明とさしで話ができる田原お蝶。

 第五妾候補だけど、内外の男を食べまくっている小少将。


 以上六人のパジャマパーティという名前のキャットファイトは、司会役の果心が有明に話をふる所から始まった。


「で、どうします?」


「どうしますって言われても……いきなりの事だし……」


 戸惑う有明にお蝶はさっさと言い放つ。


「私は問題なく抱かれて子供を孕むつもりですが。

 その方が皆様の為にもいいでしょうし」


「どういう事?」


 有明の質問にお蝶はあっさりと大友家の事情をバラす。

 その為に彼女は来ているのだ。


「おそらく遠くない内に、誰かを府内に常駐させろと命じてくるでしょう。

 ていの良い人質ですね。

 それに私は志願しようかと」


「ああ。

 そういう事ですか」


 元武家の姫だった明月が頷く。

 仮にも大名家の姫だった彼女には、大友家中枢の恐怖が手に取るように分かったからだ。


「今までと違って、今回の南予遠征は八郎様が自ら動いた戦いです。

 猫城や岸和田城と違って譲られた城ではなく奪った城です。

 愛着があると判断するでしょう。

 そこで子供を成すとなると……」


「この地に根付くと読む訳ですね。

 今まで根無し草だったと思われたのに、根付くのならば鎖をつけておくと」


 果心の言葉が正解と頷いて、お蝶が更に大友家の闇を暴露する。

 八郎が南予にいくつかの家を引き抜いたり新家を興した事で大友家内部のリストラを企んでいるのと同じように、大友家中枢はさらなるリストラを狙っていたのである。


「大友家は八郎様を中心に一門衆を再興しようと企んでいます。

 私はその為に来ましたし、これからもそういう目的で女が送られてくるでしょう」


 大友家は戦国大名への過程であまりにも一門を粛清しすぎた。

 それで大友宗家に権力が集中したのはいいが、宗家の血が途切れると担ぐ神輿が居なくなるという危険に直面していたのである。

 健康に不安がある大友宗麟とまだ幼い長寿丸、大友親家と呼ばれるだろう新九郎しか居ないのだ。

 万一の中継ぎとして八郎の出番はまだ多い。

 そして、田原家が八郎の所に嫁を送り子ができると、譜代衆である同紋衆ではなく宗家継承候補の一門衆に成り上がってしまう。

 継承序列だと宗家直系の長寿丸と新九郎の一位・二位は変わらない。

 だが、一門衆で見ると新家を興すには幼すぎるから、新九郎は一門衆序列二位として今は扱われていた。

 それに気づいた同紋衆だけでなく、他紋衆でもこの動きに便乗しようと企んでいた。 

 当たり前のようにいる男の娘が元気よく手をあげる。


「しつもーん!

 じゃあ、今まで大友なり三好なりはどうして人質を取らなかったの?」


 この質問に果心が答える。

 この当たりを答えられるかどうかでも彼女と男の娘の格が分かる。


「三好は取れなかったんですよ。

 八郎様の功績があまりにも大きすぎ、八郎様が何も欲しなかった故に」


 三好家にとって八郎があげた功績はあまりにも大きかった。

 大きすぎた。

 久米田合戦で殿を引き受けて三好義賢と安宅冬康の命を助け、淀川渡河戦では三好軍主力渡河まで畠山軍の猛攻を防ぎ、教興寺合戦では畠山軍崩壊のきっかけを作った。

 観音寺騒動では観音寺城をいち早く確保し、岸和田城籠城戦や若狭後詰等あげればキリがない。

 だが、それ以上に重大なのは彼が三好家を使って作り上げた経済的功績だ。

 琵琶湖淀川大坂湾の河川利権の構築者であり、それを幕府に置いたことで畿内一帯の揉め事を銭で解決して沈静化してみせた。

 毛利隆元の死から始まった瀬戸内海証文恐慌を未然に食い止めて、博多商人に多大な恩を売った。

 そして、三好長慶亡き後の問題すら指摘して三好政権の再編に寄与した。

 どうして人質がとれるだろうか?

 お蝶がなんとなく手を叩く。

 そして果心に言い放った。


「なんとなく思っていたが、お主三好の血を引いてないな」


「それはお互い様でしょう。

 田原の姫君。

 いや、大友の姫君と申し上げましょうか?」


 互いの視線が交差する。

 その視線に殺気がこもるが、だからといって手を出すわけではない。

 互いにこいつは同類だという確認をしただけである。


「やっぱり調べておったか。

 大名家の闇ともなれば色々あるものよ。

 今の私は田原の姫。

 それ以上でもそれ以下でもないわ」


「それは私も同じ事。

 三好家に問い合わせても、三好亜相様の養女としか出てきませぬよ」


 こうして互いの休戦協定が結ばれた。

 それが更なる墓穴掘りに繋がることをお蝶はまだ気づいていない。


「けど、お蝶姫未通女でしょ?

 色々やっておかないと痛いしきついよ」


 何でお前が言う男の娘という突っ込みをする人間がその場にはいない。

 だが、男の娘の指摘に未通女はたじろぐ。


「そ、そうなのか?

 横で見て凄いとは思っていたが……」


「だって、八郎様。

 間違いなく女殺しだよ」


 だからどうしてお前が言う男の娘と以下略。

 してくれないからじっと見ていたので、そりゃ彼の凄さが分かったのだろう。

 だからしてくれアピールしているのにしてくれないからある意味不幸と言うかなんというか。


「だって、私を博多一の太夫に押し上げたの八郎よ」


「え?」

「え?」

「え?」

「ああ」

「やっぱり」


 有明の暴露に姫三人は唖然とし、くノ一二人は手を叩いて納得する。

 で、元太夫は懐かしそうにその手管を語る。


「八郎が私を買ってくれた時は抱かれるというより学ぶ方が多かったかな。

 あれの咥え方、男を喜ばす鳴き方、言葉遣いから、抱かれ方まで。

 それがなかったら……私は身受けされる前に消えていたでしょうね」


 元姫の没落は客を引き付ける要素ではあるが、それが継続して引き付けるものではない。

 そして、客が取れない下っ端遊女は使い捨てられるのが目に見えていた。

 八郎はそれを知っていたから、彼女を買った時に徹底的に遊女として鍛えた。

 それがなかったら彼女は博多でも名が通った太夫に最短で上りきったりしない。

 そんな八郎に未通女のお蝶が挑むのだ。

 結末は明らかだった。


「だから、がんばれ」


 有明がお蝶の肩をぽんと叩く。

 叩かれたお蝶の顔は真っ青だったのは言うまでもない。


「いや、それは無理だと……」

「だから、みんなが教えてあげるわよ」


 なお、彼女は一月ばかり乱交中に女達に責められて堕とされた果てに貫かれた事を先に記しておこう。

 見事なくっころ即堕ち2コマだったという。

 話がそれた。

 そんな暗闘を横目に明月も選択をする。


「私は子供はいいわ」


「どうして?」


 何も考えずに問いかける僕っ娘に明月が寂しそうに微笑む。


「私の家、祟り騒動で色々あってね。

 憑かれちゃったのよ」


 ざっと退いてしまう小少将とお蝶。

 この時代、憑かれるという事の意味をその退いた距離が示していた。


「まぁ、そんな訳で八郎様に救い出してもらってこの名前をもらったの。

 血を残してその子が祟って八郎様に害なんてあたえたらなんて思うと怖くて……」


 目に涙をためながら明月が言い切る。

 それは彼女なりの感謝と覚悟なのだろう。


「それに出来たら八郎が使う穴が減るでしょ。

 私ぐらい空けておかないと取られそうだし」


「……ちっ」


 実にわざとらしく舌打ちする男の娘。

 なお、この時代本気でホモの痴情のもつれからの刃傷沙汰が多い。

 しかも男の娘だから身体能力はそこそこあるので、戦場に連れていけるのだが実は結構でかい。

 女子達は仲良くしながらもこの男の娘を受け入れてはいるが、


「なんで八郎は彼を食べないのだろう?」


と疑問に思っているなんてとうの八郎は知る由もない。

 なお八郎の回答はこうだろう。


「食べる余裕をおまえら与えてくれたか?おい」


「果心さんはどうするの?」


 有明が果心に話を振る。

 果心も既に決めていたのか、選択に迷いはなかった。


「問題なければ産もうと思っています。

 亡き三好義賢様との約束でもあるので」


 大友家と三好家の血縁政策には八郎の存在だけでなく双方にメリットがあった。

 地方でも屈指の血族である大友家の血は畿内の名族を黙らせるだけのものがあったし、三好家の畿内の政治力・経済力は大友家に富として還元されることが八郎を通じてわかったからである。

 八郎の子を三好家、特に揉めていた阿波三好家に入れて将来の安定化を狙おうとしていたのである。

 細川真之の暴走によって全てが水の泡になったが。


「私はどっちでもいいわ。

 正直父親知らずで構わないし」


 あっけらかんと言ってのけたのが小少将。

 その艶やかさは男の精なのだろう。

 果心が魔の色気ならば、小少将は牝の色気である。

 で、ここに来るまでというか既に彼女は色に狂っていた。

 正常に見えるが、あくまでそれが仮面でしか無いのを女たちも小少将自身も自覚していたのである。


「私は男が居ないと生きていけないし、男の肌がないと夜眠れないわ。

 もう嫌なの。

 家とか侍とかうんざり」


 それは狂った彼女のまごうことなき本音。

 抱かれた夫が抱いた愛人に殺され、夫と愛人の間に生まれた子供が敵味方に別れて殺し合いをしている現実に彼女は色に溺れて逃げたのだ。

 現在、彼女の子どもたちである細川真之と三好長治が阿波で激しく争っており、十河存保は安宅冬康が侵攻準備をしている阿波に逃げ、篠原自遁との間に産んだ子はどうなったか知ることもできない。

 だからこそ彼女は堕ちた。

 それは有明が堕ちかかった未来でもある。


「三人が孕んで穴が足りなくなったら使って頂戴。

 いらなくなったら捨てて構わないわ。

 外れに小屋でも建ててくれれば、そこで男拾って使われるから」


 スタイリッシュ痴女というよりオールタイム痴女である。

 で、こんなのも穴不足を考える明月と果心が見逃す訳がない。


「順に孕んで足りなくなった時に使いましょう」

「後腐れなく捨てられるのが強みです。

 飼っておいて損はありません」


 男の娘が異議を唱える。

 もちろん、オールタイム痴女が入れば己に回る分が無くなるという下心からだ。


「えー!

 これ飼う必要があるの?」


「空いた穴に同紋衆や他紋衆の姫が送られた場合、閨の争いが一気に合戦に広がりますよ。

 それでよろしいので?」


 その先駆けであるお蝶の声が実に淡々としている。

 もちろん、その先行利益を享受するために他家の姫の送り込みを警戒しているからに他ならない。

 みんなの覚悟と言うか決断が一通り揃った所で、果心が有明に質問を振る。


「で、有明様は結局どうしたいの?」


 彼女の決断が閨での地位だけでなく、大友家にも影響を与えるなんて彼女は考えず、ただ自然にその声が出た。 

 その答えを聞いて、皆が笑う。

 それを知っていたのは女の勘なのだろう。




「……私は、八郎の子、産みたいかな」

挿絵(By みてみん)

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