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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
南予戦役編 永禄九年(1566年) 夏

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南予戦役 その5 【地図あり】

 飯森城を落とした俺達はあえて萩森城を視野に入れながら、城を修理して数日滞在する。

 理由は簡単。

 毛利の動きを読む為だ。

 この城の北側にある喜木津は佐田岬半島付け根北側にあり、半島を迂回せずに八幡浜を陸路で喜木津まで行けばショートカットできるというメリットがあった。

 その為古くから寄港地として栄えていたのである。

 毛利の水軍能力を考えたら、ここに直接兵力を陸揚げすることも可能だった。

 だが、その心配も杞憂に終わった。


「大洲地蔵岳城の宇都宮豊綱殿が抵抗しているらしく」


 調べていた果心の報告に俺はニヤリと笑う。

 大洲盆地を支配する宇都宮家の当主宇都宮豊綱は西園寺家と河野家に挟まれながら独立領主としての地位を未だ保持していた。

 西園寺家は河野一族の河野通賢を通じて河野家へ支援を要請しており、伊予守護として南予の動乱を鎮めるという理由から介入を画策していた。

 だが、そのロジックを宇都宮豊綱は拒否する。


「そもそも、河野家が守護の勤めができぬからこのような事態になっているのだろう!

 しかも、河野と言いながらその実態は毛利ではないか!!

 南予を大友と毛利の大大名の草刈り場にするつもりか!!!」


 まったくもって正論なのだが、宇都宮豊綱がここまで強気なのも実は理由がある。

 一条兼定の正室が宇都宮豊綱の娘なのだった。

 史実だと大友宗麟の娘を娶って彼女とは離縁する事になるのだが、大友家の外交方針の変化でこの縁は未だ途切れていない。

 天ヶ森合戦での一条軍の大敗に動揺したのだろうが、それ以上に俺が素早く佐田岬半島を押さえるとは思っていなかったに違いない。

 そして彼には、もう一つ強気に出ないといけない理由があった。


「萩森城の宇都宮房綱との仲が良くない?」

「はっ。

 よくある話ですが」


 果心の報告も淡々としている。

 仮にも独立勢力である宇都宮家の次男が、敵対する西園寺十五将に入っている意味を考えれば必然的にそうなる。

 戦国時代というのは長男がすんなりと家督を継げるような時代ではない。

 宇都宮豊綱が家督を相続した時、宇都宮房綱は父親である宇都宮清綱に従って萩森城に入り、彼の死後そのまま城主になったそうだ。

 で、そんな状況で宇都宮房綱の野心に火を着けた男が居た。

 西園寺実充という。

 宇都宮房綱の寝返り。

 それが今まで続く宇都宮家と西園寺家の確執の分かりやすい始まりである。

 他にもいろいろあるが、住人も納得する分かりやすい理由というのは、戦において実に利用しやすいのだ。

 それを利用している間は。


「大鶴宗秋。

 宇都宮豊綱に文を出せ。

 八幡浜をくれるのならば、宇都宮への後詰を約束しよう。

 宇都宮房綱の首を手土産にしても構わないとな」


 あくまで領地が建前で、メインは宇都宮房綱の首である。

 家中の家督が安定するのならば、これで宇都宮豊綱が乗るだろうと俺には確信があった。


「はっ」


 大鶴宗秋が出てゆくと入れ違いに小野鎮幸が入ってくる。

 武者姿で息も荒いから物見でもしてきたのかもしれんと考えていたら、彼の口が開く。


「殿。

 水軍衆からの知らせだ。

 敵が動いた。

 西園寺公広率いる数百がこっちに向かっているそうだ」


 四国において制海権を押さえるというのは移動の制約だけでなく、行動が丸見えになる事を意味する。

 待ち望んだ報告に俺は楽しそうな笑みを浮かべた。


「そうだよなぁ。

 こっちに来るよなぁ。

 俺が居るんだからなぁ」


「宇都宮房綱の手勢と合流されるのも面倒だ。

 さっさと萩森城を落としてしまいましょう」


 その進言を俺は首を横にふる。

 わざわざ決戦なんてするつもりはない。


「何で敵が迫っているのに戦わねばならんのだ?

 この城を放棄して長崎城まで退くぞ」


「何であんな小城……っ!」


 小野鎮幸も馬鹿では無い。

 その意味に気づいたからだ。

 無傷で長崎城や中尾城を得た意味を。


「八郎様が大兵を率いて八幡浜まで出れば、西園寺はいやでもこちらに出向いてくる。

 大友一門で名が通っている八郎様の討死には西園寺や毛利にとってこの戦を終わらせる魅力的な物に見えるでしょうから。

 で、彼らはその集めた兵をこの佐田岬半島につぎ込む。

 守るのに適して大兵の意味が無いこの半島に……」


 真顔ですげぇと感心するお蝶。

 彼女は城主、つまり武将としてここにいるからこういう形で軍議に参加しているのだが、スタイリッシュ女武者なのでシュールなことこの上ない。

 笑ったらいけない軍議を常時開催している笑顔のたえない明るい家です。


「で、ここに引きつけておけば南はがら空きだ。

 吉弘鎮理や朽網鑑康や十河重存がそれを見逃すと思うか?」


「殿はこれを狙っておられたので?」


「まさか。

 だが、敵が出てきたら逃げることは最初から考えていた。

 だからこそ、最初に日振島海戦で西園寺水軍を潰したのはものすごく大きいんだ。

 安心して逃げることができるからな」


 一同を見渡す。

 衝撃を受けてはいるが、勝ち筋が見えているので皆の士気は高い。


「日振島にいる雄城長房の手勢を南に送り、一万田鑑実がその後に入れ。

 西園寺家が佐田岬半島で消耗するようなら、そのまま八幡浜に乗り込んで城を奪ってもらう重大な任務だ。

 残りの連中は長崎城に退く準備をしろ」

 

「おまかせあれ」

「はっ」


 一万田鑑実と小野鎮幸が去ると後はお蝶が残る。

 立ち上がった俺にお蝶が寄り添う。


「しないぞ」

「誘いませんとも。

 ですが、私の初めてを捧げるにふさわしいと確信した次第で」

「え?」

「え?」


 二人の間に微妙な空気が流れる。

 というか、この気まずい空気はどうしてくれようか?

 とりあえず、頑張って俺は言葉を吐き出す。


「その格好で未通女なのか?」

「仕方ないじゃないですか!

 八郎様の噂を考えたら、こうでもしないと抱いていただけぬと!!」


「……」

「……」


 いやちょっと待て。

 というかどんな噂が流れているんだ?俺?


「……」

「……ちなみにどんな噂が?」


 聞きたくはなかったが、俺が確認すると出てきたのは見事な好色一代男ぶりだった。


「戦の最中にも女を抱いて指揮をして三好家を勝利に導いたとか」

「それやったら確実に負けるよな」

「女達を戦場に連れて行って、あられもない姿を晒しているとか」

「否定はしないが、あれはやつらが好き好んでしていることだ」

「もし戦に負けた時は、股を開いてその間に八郎様を逃がすとか」

「ちょっと待て。

 それは聞いていない」


「……」

「……」


 何故か額から汗が出る俺とお蝶。

 なんかお蝶の方は『やっちまった』という顔がありありと出ているが知ったことではない。


「言え」

「……畠山軍四万を相手に、有明様と明月様はいざとなったら股を開いて逃がすつもりだったという崇高な決意を果心様よりお聞きしました。

 なお、その際に井筒女之助様が『八郎様と共に逃げて、その際に結ばれるんだ』と」


 居たはずの果心に問いただそうとしたらさすがくノ一姿が見えない。

 よし。

 あいつらは説教確定。




 飯森城放棄から数日後。

 西園寺軍が飯森城を奪回するがその際に見慣れない旗を物見に出た井筒女之助が確認する。


「『折敷に角三文字紋』と『丸に上の字』の旗を見たよ。

 兵力も二千届いているんじゃないかな?」


 説教しようが基本脳内色事だらけの井筒女之助は何事もなかったかのようにいつもと変わらずに報告する。

 『折敷に角三文字紋』は河野家の、『丸に上の字』は村上水軍の旗印。

 恐れていた喜木津からのダイレクトアタックである。

 こちらは長崎城に俺と馬廻衆の五百で篭もり、大鶴宗秋の千が中尾城で睨みを効かせている。

 俺に降伏した得能通明、井上重房、二宮新助への警戒だがおれは作戦そのものをあっさりとバラした上で、迷惑料として彼らに銭を付け届ける。


『本命は南で、いざとなったら我々も撤退する。

 その時は遠慮なく西園寺家に城を開いて構わない』


 ここまで堂々と手を明かすと、籠城中の内応もしにくくなる。

 人は『裏切るな』と脅すより『裏切っても構わない』と接した方が裏切りにくいのだ。

 なお、俺が長崎城に居るのは、近くの亀ヶ池に水軍衆を待機させていざとなったら日振島に脱出する為だったりする。

 そして、西園寺軍も俺の狙いに気づく。


「水軍衆より文が!

 吉弘鎮理殿が天ヶ森城を落としたとの事!!

 天ヶ森城主津島通顕は城を捨てて逃げ出したそうです!!!」


「朽網鑑康殿が亀が淵城を落としたとの事!

 亀が淵城主西園寺宣久は城を枕に討死にしたとの事!!」


「十河重存様が法華津本城を開城させたとの事!

 城主法華津前延は人質を出して従属するとの事です!!」


 沿岸部の諸城制圧の報告が次々に入る。

 唯一の後詰戦力をこちらに向けた状況で、南に集めていた大友軍は四千近く。

 もちろん、これらの城々を落とす過程で少なからぬ損害を出しているが、西園寺軍が引き返してきても十分に戦える戦力は未だ保持している。

 何よりも法華津本城を落としたのがかなり大きい。

 西園寺家の本拠である黒瀬城が視野に入るからだ。

 それが分かったのだろう。

 西園寺軍は長崎城を囲むことすらせずに飯森城すら捨てた。


「……宇都宮豊綱が動いたんだろうよ」


 西園寺家の崩壊を確信した宇都宮豊綱が背後から殴りかかったのだろう。

 それを察した西園寺軍は俺と宇都宮豊綱に挟まれる事を嫌って撤退。

 大友側が海上優勢を確保している宇和海沿岸に陸上兵力を入れる事を嫌った河野家は支援を打ち切り、村上水軍と共に喜木津から撤退。

 日振島の一万田鑑実が宇和島に上陸した時、萩森城の宇都宮房綱は城を捨てて逃げ出した後だった。

 大勝利である。




 ……ここまでは。




 そこからの空前の巻き返しを、謀神毛利元就の長い手の怖さを俺はいやでも思い知ることになる。

挿絵(By みてみん)





一人頭一万ちょっと。

一人で七万六千を相手にする○○波さんの偉大さに頭が上がらない。



宇都宮房綱と宇都宮豊綱の設定はこっちのオリジナル。


西園寺宣久 さいおんじ のぶひさ

宇都宮清綱 うつのみや きよつな

河野通賢  こうの みちかた

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