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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

南予戦役編 永禄九年(1566年) 夏

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女城主田原お蝶

「お蝶と申します。
 八郎様。
 どうぞよしなに」

 さて、この目の前の姫君からの挨拶を皮切りに舌戦の火蓋が切られる。
 外堀は埋まっている気がするが、無抵抗は舐められるので精一杯足掻くとしよう。

「大友主計助鎮成だ。
 いつもならばただの浪人菊池鎮成と言って逃げる所だが、本題にはいろう。
 御用は何用で?」

 こちらの台詞から少しだけ間をとった彼女はゆっくりと手を叩く。
 このしぐさでは天然なのか計算なのか俺にはまだ分からない。

「まあ。失礼を。
 挨拶の台詞を忘れて飛ばしてしまいましたわ。
 では改めて」

 その台詞が出た時、俺ははっきりと確信した。
 あ。これ、天然で計算できる一番たちの悪いやつだと。

「豊後国国東郡飯塚城城主。田原お蝶と申します。
 どうぞよしなに」

 女城主。
 戦国の世では珍しい部類に入るが、それが認められないという訳でもない。
 史実で有名なのは立花誾千代だろうが、それを許可したのは大友義鎮というのをすっかり忘れていた。
 家の姫だったらまだ家の当主を相手にすればという逃げが打てる。
 だが、こうやって城持ち当主、つまり一家を興した上で会いに来られたら、下手打てば合戦である。
 これで、男女の色恋話から城主間の生臭い話に舞台がスライドする。

「まぁ、城は大洪水で壊れて修理もしていないですがね」

「それはお気の毒に。
 修理の銭をお出ししましょうか?」

 つまり、俺に逃げられない為にボロ城にわざわざ家を興したと。
 そんな内心を悟らせずに修理資金提供という話に誘導して、お引き取りを狙う。
 これで帰ってくれるのならば城一つの修理費用など安いものである。
 だが、この姫様はどうも俺の想像の上を右斜め上に飛んでくる。

「そちらは構いませぬ。
 此度、こちらにお伺いしたのは、南予攻めにおいて我ら浦部衆を戦陣に加えていただきたく。
 浦部衆を代表して参りました」

 浦部衆。
 豊後国水軍衆の一つで臼杵をはじめとした豊後南部の水軍衆とは別の、国東半島を根城にした豊後北部を中心にした水軍衆である。
 地理的要員から必然的に瀬戸内交易に関与しているので、大内や今の毛利との繋がりも深い。
 潜在的な敵みたいなものを抱え込むというのはなかなか良い気分ではない。
 とはいえ、浦部衆が戦に参加するというのは大友水軍全力出撃となり、西園寺家から制海権を確実に奪える事を意味する。

「北を空にして大丈夫なのか?」

「大丈夫でしょうとも。
 毛利は尼子攻めに忙しく、伊予の河野の後詰で手一杯。
 そもそも、手が足りぬならば、御曹司を肥前まで送りませぬとも」

 で、頭も良い。
 的確に毛利の意図を把握してやがる。
 瀬戸内海において最大最強と名高い毛利水軍だが、その内実は毛利水軍と村上水軍を中核とした瀬戸内海各地の水軍衆の集合体である。
 そして、この時代の水軍衆は周囲に停泊地となる拠点がないと、全戦力を全力で出撃させることができない欠点が存在していた。
 地図を持っている人は豊後と伊予の間、豊後水道と呼ばれる佐賀関半島と佐多岬半島に着目してほしい。
 毛利水軍の勢力圏の限界がこの豊後水道なのだ。
 毛利家は大内家を継承したために商都博多や周防長門の拠点や水軍衆が利用できる。
 だが、それはこれらを守らねばならぬという裏返しでもある。
 現在行われている南予の戦の場合、西園寺家を助けるために豊後水道を突破するなら大友水軍の全力を相手にしなければならず、じゃあ助けたからといってそのリターンはというと割にあわないのが目に見えている。
 むしろ、大友家を本気にさせた場合俺という駒を使って三好や幕府を動かしかねず、そうなったら詰めろな尼子が息を吹き返しかねない。 

「こちらを。
 手土産にございまする」

 見せつけるように懐から証文を取り出して差し出す。
 うむ。その胸は奥で戦えるもの……げふんげふん。
 差し出された証文を見ると、毛利家の裏書がある瀬戸内水軍の証文だった。
 額はそこそこの額だ。

「必要ならこちらで引き取っても良いが。
 土佐でそのような事をしていたからな」

「それはありがたいのですが、よく見ていただきたく」

 お蝶の言葉に俺は証文を確認する。
 それで、かの姫の言わんとする事がわかった。
 振り出したのはついこの間。
 そして、彼女が引き取った割引率が毛利隆元死後の混乱時に近づいていた。
 それの意味する事は一つしかない。

「なるほどな。
 そうかそうか……ふふふ……」

 俺の顔を見ていた大鶴宗秋が引いている気がするが気にしないでおこう。
 毛利元就がこんな回りくどい手を用いた訳がやっと分かった。
 毛利家は、長きに渡る尼子戦の戦費で与信枠が尽きつつあるという事に。
 戦争とは基本的に最大の消費行為である。
 勝とうが負けようが戦費は必ず発生するのだ。
 石見銀山と瀬戸内交易という商業利権を持ってしても、数年単位で数万の大軍を動員するという戦費に毛利家が悲鳴をあげていた。
 これで門司合戦に勝ち、毛利隆元が存命ならば話が違っていただろう。
 だが、それがない以上、毛利家は高利回りで証文を発行し続けなければならなかったのである。
 そして、西国の金融市場にえらく顔が利く俺を敵に回したら、その証文発行すらできなくなる。
 俺の肥前行きというのは、毛利元就渾身かつ苦肉の策だった訳だ。

 ……なに。このばけもの。

「ごほん」

 実にわざとらしい咳をして思考を現実に戻す。
 毛利の心配をしなくていいのならば、いくつかの懸念事項は考えなくて良くなるからだ。

「浦部衆の参戦はありがたいが、いくら出すつもりなのだ?
 既に佐伯水軍と若林水軍衆をはじめ安宅船二隻、関船二十隻、小早船百隻を出す手筈だが?」

「それに安宅船一隻、関船十隻、小早船五十隻。
 府内からの荷を運ぶために、弁才船を十隻出しましょう」

 ガチだ。
 出撃可能な戦力を全部出してきやがった。
 こちらの表情がおかしかったのか彼女は楽しそうに笑う。

「何か失礼でも?」

「いえ。
 臼杵様より聞いていたのですが、八郎様は本当に人の恩を気にしないのですね。
 八郎様が土佐で証文を買い漁ったおかげで、一番助かったのは我ら浦部衆なのですよ」

 あ。
 そういう事か。
 あの時、毛利絡みの証文を一番多く抱えていたのは地理的にこの浦部衆である。
 それを救済した結果としての彼女がいるという訳だ。
 情けは人のためならず。
 問題は、その情けに見える核地雷がくっついている事なのだが。

「何。
 俺の好きでやった事だ。
 感謝は受けるが、そこまで恩を感じなくてよい。
 とはいえ、参陣は歓迎しよう」

「ありがたく存じます。
 わたくしも浦部衆船大将として、御曹司に勝利を……」

「ちょっとまて」

「……はい?」

 何か問題でもみたいに首を傾けるお蝶。
 いやいやいや。
 大問題だろうが。
 後になって気づいたが、この瞬間俺はお蝶の罠にはまった。

「ですが、浦部衆は我ら田原家を大将にして動くのが決められておりまする。
 我が父田原親宏が加判衆として府内を離れられない以上、娘であるわたくしが出るのは必定かと」

 悔しいが筋は通っている。
 加判衆についた田原親宏が参陣すると、俺と田原親宏の間で指揮権の奪い合いなんて事態も発生しかねない。
 で、ここで代わりの田原一族を出せなんて言おうものならば、田原親賢あたりが出てきて修羅場確定である。
 彼女を外して浦部衆が期待通りに動くかどうかも怪しい。

「……」

「沈黙は問題がないと受け取ってよろしいので?
 では」

 まるで公家の姫のようなおしとやかさで、彼女は頭を下げてこの部屋を出てゆく。
 しばらくは誰も口を開かなかった。

「あれ?
 あの姫様、ご主人の奥に入りに来たんじゃないの?」

 こういう時に空気を読まない男の娘がありがたい。
 軽く頭をふって俺は己の敗北を口に出した。

「だろうよ。
 で、その奥に入るに武功を持ってときたもんだ。
 この戦、あの姫に振り回されるだろうな」

 この俺の言葉は見事なまでに的中する。
 とてもいやな事に。
女城主=女騎士=くっころ

なお、オリ設定の嵐だが、史実だと彼女秋月種実の嫁になったんだぜ……
秋月と田原の繋がりは結構ミステリー
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