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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

南予戦役編 永禄九年(1566年) 夏

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対毛利戦作戦会議と僕っ娘の月見

「また随分でかくなったものだな……」

 久しぶりに帰ってきた猫城を見た俺の第一声である。
 武家屋敷や町家まで囲んだ三の丸の存在が、元の出城から領主の居城への変貌を見せつけている。
 案内した柳川調信と入田義実も俺の声に嬉しさを隠さない。

「田畑も広がっているな」
「戦がありませんでしたからな。
 民に開墾を勧めさせました」

 これだけの大きさになったから、猫城の周囲にも街ができている。
 宿場・両替商・土蔵等が建っているが、そのほとんどが芦屋の商家の出店である。
 ここが儲かるからというより、芦屋で何かあった時の保険としてここに店を出しているのだろう。
 そういう意味で、商人たちの危険感知の嗅覚は鋭い。

「村々に早めに収穫できる作物にするように指示を出しておけ」

 柳川調信と入田義実だけでなく、ついてきた多胡辰敬も真顔に戻る。
 俺がこの城に戻った理由はただ一つ。
 いずれ始まるだろう、対毛利戦におけるこの城の立ち位置を決めるためにあったのだから。

 猫城本丸の大広間に集まったのは以下の面子である。
 俺、有明・明月・果心・井筒女之助の奥連中。
 田中久兵衛と馬廻の小野鎮幸に、今回ついてきた田原新七郎と多胡辰敬。
 柳川調信と入田義実の猫城守将組に、遅れて筑前に入った一万田鑑実。
 そして領地替えで正式に猫城城代につく大鶴鎮信である。
 気づいてみれば、結構な大所帯になったものだ。

「さて、集まってもらったのは他でもない。
 尼子が風前の灯となった今、いずれ起こるであろう毛利の博多攻めに関してだ。
 で、その際に間違いなく俺はこの城に居ない。
 だからこそ、ここで方針を決めておきたいと思う」

 和泉国守護就任を前提にした話し合いの為、俺の発言に口を挟む者は居ない。
 まあ、俺の知っている歴史では立花鑑載と高橋鑑種が毛利家に内応して謀反を起こすことを知っているのだが、それを口に出しても理解はされないだろう。

「毛利が博多を狙う場合、どうしても陸に上がって攻める拠点が必要になる。
 先の門司城合戦で門司城が破却された為、毛利は新たな拠点を探さねばならない。
 だとすれば、宗像家と麻生家の親毛利家国衆の支援を受けやすく、港町である芦屋が第一候補だろう」

 広間中央に置かれた地図の芦屋に俺は指を指す。
 そして、その指をそのまま猫城まで持ってゆく。
 猫城までおよそ三里、前世知識で言う所の約十二キロという所だ。

「芦屋の前にある筑前岡城主瓜生貞延殿は抵抗するだろうが、毛利の大軍を前には支えきれぬだろう。
 柳川調信。
 瓜生貞延殿に話をして、毛利の大軍が襲ってきたら一族郎党この城で受け入れると伝えておけ」

「承知」

 守り切れない城へ後詰を出すことを放棄して、その城の手勢をこの城の守備兵に使う。
 三の丸ができた今、この城は二千ばかり兵が詰めても大丈夫になっている。
 というか、千以下だと三の丸を放棄しなければ守れず、拡張した三の丸の意味がなくなってしまう。

「それで、毛利の大軍をこの城で迎え撃つと?」

 入田義実の言葉に俺は首を横に振った。

「ここで城を枕に討死なんてしてくれるなよ。
 一月抵抗して、それ以後に使者が来たら開城して構わん」

「御曹司!
 我らではこの城は守りきれぬとおっしゃるのか!」

 入田義実の怒り顔に俺は言葉で冷水をぶっかける。
 頭のなかに地図があり、明確に戦略と戦術が定義できるかどうかで行動に大きな差が出る。
 先の肥前大乱で、俺が見失ってできなかった事だ。

「違う。
 この城は毛利に落とされなければならんのだよ。
 ちょうどいい。
 田原新七郎。
 毛利の狙いはどこだ?」

 いきなり名指しされた田原新七郎だが、頭は悪く無い。
 一同の視線にめげずにがんばって声をだす。

「は、博多」

「そうだ。
 そして、博多を攻める為に芦屋に拠点を築くだろう。
 だから猫城は邪魔で攻めざるを得ない。
 ここまではいいな?」

 言えないよなぁ。
 博多が毛利軍によって落ちることを前提に戦略を立てているなんて。

「毛利の狙いは博多だ。
 宗像領を通って博多を目指す事になるが、猫城を使える状態で落とした場合必ず奴らはここに守将と守備兵を入れる。
 最低でも二千。
 それだけの将兵が合戦場たる博多から外れるんだ」

 皆の驚いた顔に少しだけドヤ顔を見せる俺。
 一説によるとこの博多を巡る大友と毛利の戦いでの動員は大友軍三万五千に対して毛利軍は四万。
 城一つくれてやる事で、二千の将兵を主戦場から排除するのだから、悪くはない取引だ。
 一万田鑑実が顎に手をあてて唸る。

「なるほど。
 御曹司が日田に繋ぎの城を築かせて田原殿を城主に推したのはこれが理由ですか」

 一万田鑑実は分かったみたいだが、田原新七郎はまだ分からないらしい。
 で、確認という形で田中久兵衛が田原新七郎に教えてやる。

「海は毛利のものである以上、豊前から筑前に向かうのは背後をいつ毛利水軍に襲われるかという危険が伴います。
 ですが日田から博多を目指す場合、筑後国人衆の支援のもと筑後川の水運が使えると」

 俺はにやりと笑って話を元に戻す。
 で、多胡辰敬の振り向く。

「多胡殿の任務は重大ですぞ。
 毛利は必ず水軍衆を使って豊前を荒らしに来るでしょう。
 それを抑えて、豊前松山城の南へ毛利を入れさせないようにしてくだされ」

「おまかせあれ」

 豊前がおちついている事が、今回の戦いの絶対条件だ。
 ここが荒れて大友軍が豊後から兵を送ったら、さっきの俺と同じく主戦線から大友軍の兵が減る事を意味するのだから。
 そして、豊前松山城が無事という事は、豊前中部まで大友軍の連絡線が繋がったままになるという事。
 だからこそ、次の命令が意味を持つ。

「開城したら手勢を率いて香春岳城に向かえ。
 その地に留まって、猫城の毛利軍を挑発し続けよ。
 嫌がらせは構わぬが決して合戦をしてはならぬぞ」

 俺の言葉に大鶴鎮信が頭を下げる。
 おそらく城代初仕事が城の放棄と継戦能力の維持なんて前代未聞だろう。

「わかり申した。
 香春岳城の志賀殿に城代就任の挨拶に赴く際に話をつけておきます」

「で、殿。
 俺たちはどこの合戦に出向くので?」

 小野鎮幸の催促に俺は苦笑して次の戦場を告げる。

「四国、南予。
 西園寺攻めだ」

「一条軍は山手の長宗我部・安芸勢と海手の一条本隊に分かれて伊予に侵攻し、山手は河後森城主渡辺教忠殿の内応で河後森城を落としたは良いが、大森城主の土居清良の激しい抵抗にあってそこから先に進めず。
 海手は常盤城の勧修寺基詮を降したものの、亀が淵城まで向かうのに手間取っており……」

 一万田鑑実が府内で掴んだ南予の戦の情報を伝える。
 この手の情報収集の為に遅れたというのが理由の一つだった。
 俺が一万田鑑実に確認する。

「今回の一条軍の大将は誰だ?」

「一条家御一門衆の津野定勝殿にて。
 一条兼定殿は中村御所にて指揮を」

 うわぁ。
 つまり、総大将の出陣じゃないという訳ですね。
 まあ歴史に残る一条兼定の能力ならば出ないほうがましとも言えるが。
 寝返った渡辺教忠は元々一条房家の孫で、渡辺家に養子に行った為一条家側への寝返りはある意味分からないではない。
 だが、山深い四国の山道を通っての合戦など、少数でいくらでも抵抗できるから山手にそもそも兵を向かわせた事自体が悪手である。
 海手は海手で迫る山に海岸だからこれも進軍しにくく、兵を率いるなら絶対に水軍衆が必要になる。
 つまり、海手の進撃速度の遅さは西園寺領周辺の制海権を確保できていない事の裏返しでもある。

「大友の支援はどうなっている?」

 動いていない大友の支援を確認した俺に返ってくるのはブーメラン。
 一万田鑑実はあっさりとそれを俺に告げた。

「殿が『伊予切り取り次第』を得ているので控えておりますが何か?」

 ああ。そういう訳か……って、違う。そうじゃない。
 本来南予攻めは対毛利の第二戦線という扱いで計画されたものだった。
 だが、俺が『伊予切り取り次第』を得てしまってから、『俺が功績と領地を得る』戦いに大友家中は誤解してしまっている。
 だからこそ、現在の一条軍の苦戦を喜びこそすれ、まずいと感じていないのだ。
 尼子滅亡のカウントダウンが近づく今、この第二戦線があるのと無いのでは大きな影響が出る。
 それをここで言っても仕方がないのだが。

「では、俺が府内に戻ってからの伊予攻めの陣立ては聞いているのか?」

「はっ。
 佐伯水軍と若林水軍衆をはじめ安宅船二隻、関船二十隻、小早船百隻を用い、殿の手勢を滞り無く運ぶ手はずは整っております」

 ガチだ。
 というか、なんでその水軍を即座に西園寺水軍にぶつけない。
 理由は、それだと一条の手柄になってタダ働きになるから。
 わかっていたけどさぁ。

「どっちにしろ府内に戻ってからだ。
 火山神九郎の船をすべて連れてゆく。
 神屋との取り決めで増えた船は、博多に残した日田親永と共に柳川調信が差配せよ」

「はっ」

 柳川調信が平伏したのを見て一万田鑑実がかるく咳き込みをする。
 彼が遅れた本当の理由を一万田鑑実は口にした。

「殿に縁談が来ております。
 それで府内は蜂の巣をつついたような騒ぎになっており……」

 有明達がこの場にいるのはこれが理由である。
 俺は有明を正室であると公言しているが、有明には子供が居ない。
 だからこそ、子供ができれば側室でも次世代で大逆転が狙えるので、側室でも構わないという声も結構あるのだ。

「で、何処だ。
 府内を大騒ぎにした縁談の相手というのは?」

 冗談ぽく俺は聞き返したのだが、返ってきた相手の名前にさすがの俺も絶句せざるを得なかった。

「……加判衆の田原親宏殿の長女お蝶殿にて」

 散々大友宗家から警戒され続けても国東半島一帯に強大な権勢を誇っていた田原家宗家。
 そこが跡継ぎ娘を差し出してきたというのだ。
 蜂の巣をつついたような騒ぎになる訳だ。

「もちろん、おれは有明を正室からおろすつもりはないぞ」

「それも承知の上。
 側室でも構わぬ。
 お子は田原が引き取っても良いとまで」

 ここまでするか田原親宏。
 なお、最盛期の田原家の石高は十五万石を超え、弱体化で衰えたとはいえ今でも数万石相当の大身である。
 劇薬である俺に、劇薬の田原一族。
 見事なまでの混ぜるな危険である。

「私はいいよ。
 八郎の好きにして」

 あっさりと手を振って有明は一万田鑑実に許可をだす。
 奥というのは正室を頂点にした女性社会だ。
 そのため、ボスの有明という頂点の下、明月・果心と序列が決まっている。
 その有明がいいと言った以上、これ以上俺に言う言葉も無い。

「……わかった。
 とりあえず、府内で田原殿と会おう」



 その夜。
 女達相手に乱れ終わって水を飲みに行く所で月を見上げる僕っ娘を見かける。

「あ。
 ご主人。
 お疲れ様。
 この後、僕を使うの?」

「阿呆。
 既に絞り取られているよ」

 僕っ娘の隣に腰掛ける。
 僕っ娘もいつもの軽口を言わずに、立ったまま月をただ見上げていた。

「尼子、持たなかったかぁ……」

 この月を月山富田城の将兵も見ているはずだ。
 毛利軍の重包囲下で飢えと渇きに苦しみながら。

「ご主人を責めているつもりはないよ。
 ただ、僕がもう少しご主人の寵愛を得られたら何か変わったのかなって思っただけ」

「……難しいだろうな」

 尼子を助けるには畿内で幕府に働きかけるぐらいしかできない。
 それでも間接支援に留まるが、毛利元就はその間接支援すらさせずに俺を九州の地に追い払った。

「たとえば、お前の体に俺が溺れたとしよう。
 で、それでお前が尼子を助けてと言ったとしても、俺は今以上にできなかっただろうな」

「どうして?」

 まるで男女の会話だが、男同士である。
 僕っ娘は完全に女にしか見えないが。

「だってお前、尼子への忠義ってそんなに考えてないだろう?」

 核心を突く俺の言葉に、僕っ娘はただ困ったような笑みを浮かべて笑った。
 俺の隣に座ってさりげなくしなれかかる。

「いつ分かったの?」

「自己紹介の時から。
 使える間者を苦戦中に畿内にまで送ったりはしないもんだ。
 心にもない言葉に人は動かされないよ」

 間者の仕事はいくらでもあるのだ。
 ましてや本土決戦中の尼子家において、偵察や後方撹乱や伝令役ができる彼らを畿内に送れる訳がない。
 この僕っ娘の仕事は俺への取次、それしか求められていなかった事がすべてを物語っていた。

「僕はこれでもそこそこ優秀な忍びなんだよ」

 わざとらしく怒るが、それは今までのつきあいでなんとなくわかっていた。
 つまりそれでも埋めきれないデメリットがあるという事だ。
 それもなんとなく察しがついていた。

「男に狂わなければ……か?」

「あはは。
 それ言ったっけ?」

「都の五条大橋のあたりで客を取って『牛若丸』の名前がつく時点でわかるわ。
 お前、俺が畿内に来てからしばらく肉欲に溺れきって仕事忘れていたな?」

 俺の指摘に実にわざとらしく口笛を吹く僕っ娘。
 ばればれである。

「実は、結構この暮らし気に入ってるんだ。
 そりゃあこんな世の中だし、いろいろあるけど、こうやってご主人と話をして有明様や明月様や果心様と面白おかしく暮らすのもいいなって」

 この僕っ娘がもう少し上の忍だったら忠義とか掟とか別のものに縛られていただろう。
 だが、この僕っ娘が最初に呼んだご主人が俺だった。
 それがこの僕っ娘を変えた。

「怖いんだ」

 ぽつりと僕っ娘が体を震わせる。

「僕は男だから、ご主人の子供を孕めない。
 もし、先の縁談で来る人がご主人の子を孕んだ時、この楽しい時間が壊れるのが怖いんだ」

 側室がらみと世継ぎはお家争いの元である。
 それに直接的に何も関与できない井筒女之助だからこそ、失うのを恐れている。
 なんとなく、こいつがなんで俺の元から離れないか分かった気がした。

「変わらんよ」

 だから俺は僕っ娘の頭を撫でてやる。

「変わっても、お前は俺の側にいるんだろう?
 俺は拾った物は大事にする男なんだ」

 顔が明るくなる僕っ子。
 これで次の台詞が出てこなければ、こいつも可愛いのだが。

「ほんとう?
 じゃあ、僕を使ってよ♪」

 もちろん。丁重にお断りした。
 散々じゃらしながら。



「のぞき見とはあまりいい趣味じゃないぞ」
「だって、衆道が嫌いな女子はいないし」

 閨の前。
 俺が声をかけると、隠れていた有明が姿を見せる。
 有明は有明で肉欲の果てからここに戻ってきた身なので、井筒女之助となんとなく仲が良いのもわかる。

「抱いてあげればいいのに。
 私たちは文句は言わないわよ」

 有明の言葉に俺は苦笑しつつ気づく。
 有明達にとって、あの僕っ娘は既に奥の一員なのだという事に。

「三人で死にかかっているのに、四人に増えるんだぞ。
 府内の縁談が決まれば五人だ。
 俺を殺す気か?」

「あの縁談、それで断るのでしょう?」

 真顔で俺の前に近寄る有明。
 襦袢姿が艶めかしいが、そんな事を思う状況でもない。

「八郎の子供がほしい。
 けど、八郎に置いて行かれるのはいやなの。
 私のためにも、子供を作ってくれない?」

 俺は言葉に詰まる。
 九州だと対毛利最前線の上、大友一門として謀反の旗印にいつ担がれるか分からない。
 和泉国は和泉国で、三好と織田のガチバトルにいつ巻き込まれるかわからないだけでなく、石山本願寺のお膝元で石山戦争が勃発したら確実に巻き込まれる。
 何より問題なのは、今回の件みたいに九州に畿内にと転戦する為に、長いこと留守にする事が決まっている。
 有明の不安と覚悟に何も言えず、とりあえず俺は口づけして誤魔化すことにした。

「もぉ。
 男の人は困ったら体で誤魔化すんだら……
 いいわよ。
 今は、誤魔化されてあげるわ……」

 有明はその誤魔化しの為に朝まで腰を振ったので、えらく高くついたと朝日の中眠る裸の有明を見つつ俺も眠るために目を閉じた。
渡辺教忠  わたなべ のりただ
土居清良  どい きよよし
勧修寺基詮 かじゅうじ もとあき
津野定勝  つの さだかつ
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