日常と平穏
第一章 日常と平穏
11月15日 am0:03
俺、大束 時也[おおつか ときや]は、この国でも有数の大きな駅近くにある、ゲームセンターの三階で、音ゲーをプレイしていた。
ちなみに、俺は今15歳だ。
本当は、この時間だと、18歳以上しか入れない時間なのだが、俺とあと一人。
休憩中の俺の目の前で、ベールサウンドforⅡという名前の音ゲーをプレイしている女子。
一氏 沙奈[ひとうじ さな]は、来店が許されていた。
中3の大切なこの時期に…!
と、思う人もいるだろうが、生憎、俺と沙奈は高校受験をする必要がない。
する必要がない理由?細かいこたぁいいんだよ!
それに、俺がこれを語っている時点で後になれば分かってくるだろうし…。
さて、話を戻すと、俺達が入店できている理由は、ただ単に、このゲーセンの運営自体がおかしいからである。
運営がおかしい。とはどういうことかというと、ここのゲーセンの1階にある、ロビーに設置された、
音ゲー総合ランキングを見ればわかる。
俺と沙奈は、平日の昼間を除いて、ランキング首位と二位を常時独占している。
つまり、ここの運営がおかしいというのは、音ゲーの総合ランキングが10位以内の人は、年齢に関係なく、どの時間帯でも入れる。
ということだった。
そして、その滅茶苦茶なシステムを利用して、こんな真夜中に入店しているのが、俺と沙奈であった。
「…と。」
そう言って、一つ息を吐く沙奈。
ベールサウンドforⅡの画面には、クリアーの文字が表示されていた。
くるりと、赤紫と茶色が混ざったような長髪を翻しながら、こちらを向く。
「…あれ、時也。プレイしてなかったの?」
すぐ後ろの屋内用ベンチに座っていたというのに気がつかなかったのか。
「あぁ。疲れたからな。ちょっとやりすぎた。」
11時くらいにプレイをした時に、難しい曲を立て続けにやりすぎて指がつった。とか絶対に言えない。
「ふーん。ま、いいや。あ、そうそう。時也、あんたこの曲、クリアーできる?」
俺の心の中など知る由もない沙奈は、ピッと細い指でリザルト画面をさしながら、俺に問う。
「あぁ、それ?ディフィカルティーは?」
沙奈を避けつつ、画面を覗き込むが、肝心な知りたいところがわからない。
「ハード。レベル10。」
それを察したのか、沙奈が音ゲー台の前から、華奢な体を横に移動させる。
「この曲でしょ?クリアーしてる。確かフルコンだったはず。」
曲のアイコンを見て、俺はその曲の最高得点と、ランクを、記憶の引き出しから引っ張りだす。
あれは嬉しかったなぁ。なにせ初めてフルコンボしたのだから。
「え!じゃあ、ちょっとやってみてくれない?サビの部分がどうしても叩けなくてね。
リズムさえわかったら、できるはずだから。」
ぱぁ!と目を輝かせていう沙奈。
その顔は、身長と相まって、とても純粋に見えた。
「ちょっと待て!時間を気にしろよ。」
俺は、中学校の制服の、ズボンのポケットから、大分使い古した黒いスマホを取り出す。
カチ。と電源を入れて、画面に表示された無機質な、文字盤を見た。
画面の上部に表示された時計には、11月15日 am0:10 と、記されていた。
「…12時10分。
時間だ。」
俺は、沙奈に無情に告げる。
すると、沙奈はあからさまにシュンとして、「あ~あ。」と、天を仰いだ。
「ま、いいじゃないか。明日もこればいいんだし。」
そう言いながら、俺はベンチから腰を上げる。
「さて、と。」
いつの間にか、アンプの形をしたショルダーバッグを、肩から下げた沙奈の顔は、もうすっかりモード切り替えがされていた。
「…行きますか。」
「あぁ。」
焦げ茶色のコートを、ブレザーの上から羽織り、懐に入っている物を、そっとコートの上から指でなぞる。
俺と沙奈は、暖かい風が吹くゲーセンを出た。
さて行こう。
向かう場所は家じゃあない。
死んでも彼岸すらいけない者たちに、今宵も鉄槌を打ちに。
「完全殺戮[パーフェクトシック]の始まりだ。」
俺たちは、人を殺す。