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九十三話

青年もとい谷中は超能力管理局特別執行官の四月一日(わたぬき)紫藤(しどう)に護衛されながら車で警察署に移動していた。特別執行官は自己判断でギフトの発現を国から許可された存在であり、社会の混乱を招く犯罪を犯したギフトホルダーを逮捕する権限を有している。不審者に自宅がバレたことで谷中は事件が終息するまでは家に帰る事が難しくなった。そしてバイト先であるコンビニには暫く休む旨を伝えていた。開店休業の状態であるために何とか許可は得られたが、政府から日当が保障されていなければ貯金が殆んどない谷中は生活苦となるところであった。


谷中が二人を信用したのはギフトホルダーにとって特別執行官は天敵であると同時に力強い味方だからだ。超能力開発幼年学校では将来の仕事の一つとして紹介されており特別執行官の数はそう多くはない。殆んどが元特殊部隊の隊員だとされており、なりたくても簡単に就ける仕事ではないのだ。


「四月一日さん。俺は能力を発表するつもりはありませんよ。底辺のギフトホルダーにとってギフトは恩恵ではなく、呪いみたいなものですから」


「谷中くん。レベルが低くても使い方によっては良くも悪くもなるのがギフトだよ」


ギフト適性検査を受けてギフトホルダーに認定されるがその能力は不安定な物だ。幼くして強力な力を持っているからといって成長した際にも維持できるかは別問題である。杉崎の様にギフト適性検査で陰性となっていた者が大人になって突然、力に目覚めることもある。中・高生を過ぎてからギフトに目覚める者は希少で、ギフトを悪用しないために政府機関に登録の義務を課しているが後天的にギフトに目覚めたギフトホルダーはギフトを悪用して犯罪行為に走る事が多いのだ。


「超能力管理局所属のサイコメトラーが此方に向かっている。ここは武装した警察官もいる。警護体制は万全だ」


高レベルギフトホルダーを保護するほどではないが確かに警察署にいればある程度の安全は保証されるだろう。目の前にいる紫藤のギフトは分からないが、少なくとも自衛するだけの能力はあるはずだ。それに事態はまだ大まかにしか把握出来ていないが政府が保護するということは少女を誘拐した犯人は日本の治安を損なう重大事件に関わっているのだろう。


「出来る範囲での協力はしますよ。不本意ながら低レベルでしかないので政府所属のギフトホルダーに抵えるとは思えませんし」


「賢明な判断だ。関係部署との連絡をとる。少し席を外させてもらう」


そう言って四月一日は自動販売機で購入した珈琲を置いて部屋を出た。


――――


与党は思わぬ抵抗に時間をとられたが、内閣不信任案を否決させた。そして牛タン戦術・牛歩戦術を封じ込める為に議長権限によって時間制限を設けた。十分に議論されて法を制定させるべきなのは中曽根も承知していた。時限法である特措法ではないのは、日本は明確にウロボロスと敵対しており、第二の中国を生まない為である。武力によって外国との問題を解決しないという憲法の一文は有効だったが、侵略されてまで無抵抗であることを示している訳ではない。自衛隊が日本を自衛するための戦力である事は事実だが、積極的自衛権の行使までを否定していない。


戦争に使用されなかっただけで自衛隊は優れた武器・人員を擁した軍隊である。アメリカとの積極的な軍事演習は周囲の国に対しての示威行為であり、中国・ロシアに対して変な気を起こさせないために必要不可欠だったのだ。離島奪還を目的とする訓練もその一環であり、竹島も想定事案として作戦が立案されていた。中曽根としては有事に対する備えでしかなかったが実際に使用する時が来るとは思っていなかった。だが、攻められたからには徹底的に叩くしかない。外交で解決出来ないことを歯痒く思いながら防衛出動に対して承認を得る議案を議論する。


「中曽根総理大臣」


朝霧(あさぎり)衆議院議長は与党に属する国会議員であった。


「我々は中国という脅威に晒されています。日本は決して自衛権の行使を放棄している訳ではありません。日本は過去の過ちを繰り返す事は出来ませんが戦わない訳にはいかないのです」


国家の独立を守るのは国を指導する者の役目である。質問に立つのは第一野党の党首の泉堂だ。


「中曽根総理に質問致します。自衛隊の損害はどの位の規模なのでしょうか。そして国民の生活を脅かす戦争を推し進める総理の心境をお聞きしたい」


「自衛隊への損害は軽微であり、中国の日本に対する攻撃を誠に遺憾に思っております」


泉堂は持ち時間をぎりぎりまで使って質問を終えた。野党の議員ですら防衛出動はいたしかねないことだとは理解していた。しかし、政治的な理由で与党の要求をただ呑むこともまたできなかったのだ。戦争へ歩んでいくこととなる日本は世界に対して最善は尽くしたとアピールする必要があり、事実上の開戦状態ではあるが、邦人の保護や大使館職員などを避難させるのには時間が必要だった。


「ここで防衛出動をしないということは有り得ません。国を守る軍はこの時の為に辛い訓練をし、高い兵器を所持しているのですから」


防衛する意思がないのなら自衛隊は必要ない。戦争のない世界。それは確かに理想的ではあるが今回の場合は、自宅に強盗に入った犯人が家人を傷付けたのは大人しく金品を渡さないからであり、それに対して検察が起訴することもなく、裁判所が被害者が悪く怪我をした犯人に賠償するようにと言うようなものだ。国の独立を守る為には戦わなくてはならないときがあり、既に外交で解決できる段階を越えていた。圧倒的賛成によって防衛出動は承認されたが、自衛権の行使の範囲については議論が必要である事を中曽根も認めていた。


政界で強い発言力を持つ一之瀬製薬の会長は楓の祖父であり、楓も表向きはそこに所属する研究員である。一之瀬製薬は今回の戦争で負傷した兵士・民間人を問わず格安で治療薬を提供することを既に源三を通じて中曽根へと伝えていた。日本の五指に入る一之瀬製薬がその意向を伝えたのは患者がいなくては薬は必要なく、傷付いた人にこそ薬が必要であったからだ。数多くの特許を取得しており、世界規模のシェアを有している会長が断言したからこそ可能なことだった。利益の還元は様々な形で行われており、食糧支援や技術支援だったりする。


一之瀬は財界の重鎮たちへの根回しを行っていた。財界と政界は密接な関係にあり、議員の支持基盤でもある。当選できなければただの人になる議員はよほどの事がないかぎりは意向を無視する事は出来ない。そのよほどの事が起きているにも関わらず責任逃れともいえる行動に出る議員もいたが、平時に優秀でも非常時にも優秀だとは限らず逆も然りである。


中曽根は国の将来を憂いていたが、まずは国難を乗り越えなくては心配するだけ無駄であり、解決した後に就任した総理大臣に任せるしかなかった。停戦してから直ぐに辞職する事は難しいだろうが、何時までも中曽根が議員を務めている訳にもいかない。次の世代の事は若いリーダーによってより良い世界へと導かれなくてはならないのだから。先が見えてきたことで中曽根は疲れていてもそこまで我慢すれば良いと考え老体に鞭をいれるのであった。


――――


南北境界線を乗り越える姿があった。韓国は日本に対する特殊作戦で手薄になっており、北の特殊部隊が侵入してきている事に気付いていなかった。北の装備は脆弱で設置型GIDの配備すらままならない。ギフトホルダーも殆んどおらず、保有している隕石の数も少ない。アジアの最貧国と呼ばれるだけあって一部の特権階級以外の生活は悲惨で天候によって大量の餓死者が生まれるのだ。当然、国連もその状況を看過していた訳ではない。食糧支援をしても一部の人間にしか届かないのだ。脱北者も増えてはいるが受け入れる下地がないために国にとって有益だと判断されない限りは強制送還になるのは今も変わらない。


対して韓国は国民皆兵制度を維持していた。隣接した国に敵性国家があるのだから仕方がない措置とは言えたが、身体的免除や政治家の子息は金で兵役を免れるなどの問題は大きく、軍の上層部と政治家が腐敗していた為に国民が支払った税が有効活用されているとは言い難い状況に国民の不満は溜まるばかりであった。


そんな韓国軍兵士の士気は低かった。北朝鮮軍に防衛線が突破出来るはずがないという油断もあっただろう。どこからともなく現れた銃弾によって監視にあたっていた兵士は一人また一人と倒れていった。設置型GIDを無効化できる個人携帯CGIDはウロボロスから北朝鮮に貸与された物だ。数分であれば韓国軍兵士の目を誤魔化す事が可能で銃弾に倒れた兵士も銃弾をテレポートした北朝鮮軍兵士によって殺害されていたのだ。


北朝鮮軍兵士は元より生還しようとは思っていなかった。軍の上層部はこの特殊作戦に参加した兵の家族に対して生活を保障しており、韓国に損害を与えさえすれば良いのだ。もし韓国の大統領を暗殺する事が出来れば家族の安全は確保されたも同然であり、命を捨てる価値はあると考えていた。永きに渡る独裁政権であったが、全ての国民が総書記を尊敬している訳ではない。寧ろ一部の肥え太った者たちのせいで多くの人が貧困に喘いでいるのだ。しかし、亡命は困難で希望はない。そうであれば、現実的に考えて行動するしか無かったのだ。国を裏切れば待っているのは報復だけだったのも無関係ではないだろう。


防衛線を突破した兵士達は韓国人になりすまして行動する事になる。元は同じ朝鮮民族であり、比較的に栄養状態の良い兵士が選抜されている。偽装さえ見抜かれなければ首都に容易に近付けるだろうと予想されていた。韓国人は訓練された兵士ではあるが、銃火器がなければ兵士として動く事は出来ない。武器と指揮系統の確立があって初めて軍と言えるのだ。事態に気付いた韓国政府も国民に注意を促したが犯人は発見されていなかった。状況から考えて北朝鮮によるものだと韓国政府は判断したが国内で動かせる戦力は限られており、タイミングが悪いとしか言えなかった。


竹島に戦力を派遣したことで防備が薄くなっており、竹島に駐留していたアーマーは奪取した物を除いて戦闘不能になっていたのだ。中国との秘密協定は表に出来るものではなく、北朝鮮を国連で批難することすら難しい状況であった。日本は中韓の二ヵ国を相手にしなくてはならず質では勝っていても量で劣る軍はやり方によっては制圧が可能だと考えられていたのだ。既に中国艦隊は一部が無効化されていることはこの時の韓国政府は把握していなかった。そして韓国政府は中国と北朝鮮の裏にウロボロスが暗躍していることを一切知らされていなかった。甘言によって行動してしまった韓国の浅はかさを指摘する後の歴史学者もいたが、大きな転換期にあった事を否定するものはおらず各国が自重していれば戦争は起きなかったと考える者が多かった。


日中戦争は日米対中韓へとなり引いてはならない。世界大戦へと世界を突き進める事になるのだが、陣営を決めかねた国は多い。ロシアは米国を叩く絶好の機会だったが、戦争によってアメリカが疲弊し国力を落とすのであれば参戦しなくても十分な成果が得られる。アメリカ以上に厄介な存在になりつつある日本を起こすのは得策でないとロシアは考えていたのだ。眠れる獅子であるのならば永遠に眠って貰えば良いのだ火中の栗は中国に拾わせれば良い。国力が落ちていても中国が先進国である事実が無くなる訳ではないのだ。傍観に徹する事もまたロシアが世界の覇権を握る為に必要なことなのだ。そこを理解していなかったからこそ中国は没落する事になり他のアジアの国々に労働者市場を奪われる事になったのだ。


北朝鮮の特殊部隊は隠密行動をとりながら確実に首都にある大統領府へと近づいていった。韓国政府も対応していたが、軍の腐敗はひどくまともに動く戦闘機は六割をきっていた。故障した戦闘機を解体して他の部品として使用していたためで士気の低い軍はいざというときに役に立たない。そもそも北朝鮮が軍事境界線を突破すること自体が韓国政府にとっては想定外なことだったのだ。徴兵制を採用していたからこそ何とか軍としての体裁を維持できていたと言える。ウロボロスの思惑に踊らされる韓国政府は実に滑稽であった。


――――


対馬基地からスクランブル発進した自衛隊機は竹島の制空権の確保と対馬上空の防衛の任に就いていた。竹島駐屯地を襲撃した敵勢力はこの時点では韓国であるという情報を日本は得ていなかったが、通常の領空侵犯に対応するために出撃は必要不可欠だった。日本は中国・韓国・エデンの三ヵ国を相手にしなくてはならなかったが、ロシアを相手にするよりかは楽であり、住民の避難誘導には多くの警察官があたっていた。輸送機では移動速度が遅すぎる為に大河は戦闘機を操縦して移動していた。パイロット資格を持つ大河からしてみれば当然であり、部下の反対を押し切っての行動だった。


「状況の報告を頼む」


飛行隊長機であり、指揮をするのに問題がないだけの性能を有していたが機密を無線で垂れ流しにする訳には行かない。相応の防衛策はとられていたが無線盗聴マニアは突拍子もないスキルと機材を所有していたりするために対馬駐屯地に到着してから詳細を再度、報告させる事になっていた。対馬基地ではなく対馬駐屯地にしたのは大河が陸自に所属しており、空自の領分を侵さないためであった。


「領空権の確保には成功していますが、対空兵器による攻撃に晒されております。アーマーも奪取されており隊内に内通者がいた事は明白となっています」


輸送機に乗せた空挺部隊を下がらせた現場指揮官の判断は間違いでは無かった。ヘリから隊員を降下させる為には空中に留まる必要があり、竹島駐屯地に配備されていた兵器で攻撃されては人的被害は馬鹿に出来ないからだ。国民の血税で賄われているとはいえ機械や兵器であったら取り返しはきく。批判に晒されても金で解決出来るならまだましな方だ。隊員の安否が確認できていない状態で竹島駐屯地に対しての対地攻撃が採用される事はなく、地上部隊による奪還作戦が立案され実行に移されるのは当然のことだった。いざとなれば民間人のいない竹島駐屯地は物量による殲滅作戦をとる事になるだろうがそれは敗北を意味していたので陸自としてはなんとしても避けたかったのだ。


自衛隊員も国民であり税金を支払っている。公務員だからと下に見て権利を主張する一般市民もいるがそれは間違いだ。高額な兵器を運用することで軍儒会社が儲かり、破壊された土地を修復するために建設業が儲かるかも知れないが、その消費が広く公平に分配されなければ意味がない。有限である資源を無作為に消費できないのも文明を甘受してきた現代人が原始時代で生き残る事は不可能であるからだ。


「分かった。現地にいる隊員には監視任務に就くように命令し、動きがあり次第報告させろ」


最新型の戦闘機でも迂濶に接近すれば撃墜される可能性は零ではなかった。大河はウイングマークを取得していたが、正規の隊員に比べれば搭乗時間は短い。有事が起きない限りは大河が編隊の指揮を執る事はまずなく優先的に派遣されるべきは空自パイロットであるからだ。同様の理由でアーマーの基本操作は出来るが長時間の戦闘はアーマーパイロットに任せる方が効率的である。対馬駐屯地からアーマーの輸送も準備している。アーマーの特殊部隊であるヤマタノオロチ程の練度が無くても少数の部隊なら制圧は可能だと大河は考えていた。


――――


古関達の計画は第一段階を無事にクリアしたと言ったところだ。竹島駐屯地内を制圧するためには司令部とアーマー部隊さえ抑えてしまえばそう難しい事ではない。同じ司令部に所属する者として無線連絡は筒抜けの状態であり、仲間を失って竹島防衛部隊の士気は落ちているだろう。奪還計画が立案され、行動に移されるのにはまだ猶予があるだろう。部隊を載せていたであろう輸送機も対空兵器を見て距離をとったからだ。アーマー部隊の一員として奪還計画の一部は知らされていた。


上陸するために海戦を行うにしても戦車ではアーマーに対抗出来ず、各個撃破の的になる可能性が高いからだ。相当の戦力を注ぎ込み駐屯地の爆撃も厭わない覚悟を見せるだろう。爆撃機を日本は有していないために対地攻撃装備を搭載した戦闘機による飽和攻撃となるであろうが地上の人間にとって脅威であることは否定できない。既に韓国軍が増援に向かっている筈だが、無線連絡はない。祖父と父のコネで連絡しているが、韓国軍も馬鹿では無いために援軍を送る重要性を理解していない筈はないとは考えていたが予想は外れていた。


――――


「時間との勝負だ」


北朝鮮特殊部隊の指揮官は部下達をそう言って送りだした。彼等は囮であり、韓国政府の気を引くために市内でテロを起こして混乱させる事を目的としていた。韓国政府も馬鹿ではないために対応策が練られていると考えていたが韓国政府の動きは鈍く各所で爆発と共に生物兵器が拡散された。生物兵器は貧者の兵器と呼ばれており、核兵器に注目がいきがちな北朝鮮も開発に力を注いでいた。バイオハザードに対応する為には専門のNBC部隊が必要になり、混乱に陥った韓国国民は知らないうちに北朝鮮の軍事行動を後押ししていた。


ここに至ってようやく重い腰を上げる事になった韓国軍だったが二面作戦となったことで有効な策があるはずもなく韓国は混乱の最中にあった。

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