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九十話

日米による事前会談に加えてロシアを含めた三ヵ国によって会議は進められていたが、ロシアの回答は芳しいものではなかった。確定されていない情報によって自国民がテロリスト扱いされているというのがロシアの主張だ。


「バラノフ大使。貴国民であるイワンコフ容疑者が少女を誘拐したのは現場に残された証拠からも明らかであり、彼は警察官に対して発砲し負傷させている。未確認情報ではあるが彼は傭兵としてウロボロスに雇われている可能性があります」


「未確認情報を確定情報の様に発言されるのは止めて頂きたい。犯罪者として拘束するのは容認するがテロリスト扱いするのは断じて拒否する。これはロシア政府としての見解です」


自国民が世界最悪のテロリスト集団ウロボロスの一員であるということは大国として認める事は出来ない。それが例え事実だったとしても変わらない。


「国連決議によってエデンの国籍を持つ者に制限がかかるのは仕方がないことだが、自国民を守るのは政府の役割である。そして日本とは犯罪者引き渡し条約を締結していない。自治権に関して口を出すわけではないが不当な権利の行使から国民を守るのは国の義務であるとも考えています」


バラノフはまだイワンコフがロシア大使館によって保護されている事を知らない。警察・自衛隊は懸命の捜索を行っていたが人のやる事には限界があった。そして自衛隊の高官と政府高官などの一部の人間に開示されている予知は変動したのではないかと考えられていた。


「ロシアも世界の現状を憂慮している。だが、国益に敵うものでなければ協力は難しい」


北方四島の住民は徐々に日本に帰化していったが、ロシアは当初、軍事拠点の撤退には反対だった。返還にあたって領海が変化するのは受け入れたがEEZについては共同管理するエリアを確保することで自国の利益を守ろうとしたのだ。日本政府としては領土問題に決着をつける良い機会であり、そして政治的な成果を欲しがらない政治家はおらず利害が一致したが、国土防衛に課題を残す結果となった。


防空識別圏が重なる部分については慎重にならざるおえなくなった。各国が独自に設定する防空識別圏は自衛の為に必要なことであっても軍事的な緊張を生む。日本は過去、ロシア軍の爆撃機の本土上空の通過を許しており、それは日本が爆撃を受けていたかも知れない可能性を示唆しているのだから当然だ。防衛白書で毎年発表されるスクランブル発進数では断トツでロシアが多く、中国、韓国と続いており、日本政府は対話で解決しようと努力してはいるが、簡単には解決しない長期課題となっている。


「今回、日本政府としては北方領土に住むロシア人を日本人と同等に保護する事を決定しております。また、北方領土に対してのロシア軍の軍事行動を許容しておりません。ロシアに帰国する事は止めませんが、ロシア人の救出に関しては日本政府は譲歩するつもりは今のところありません」


「そこですよ。在日アメリカ人については日本政府は協力的で在日米軍の軍事行動の制限は我がロシアより少ない。そこに我が大統領は憂慮しています。日本とロシアの友好の転換期でもあるのです」


「我がアメリカと日本の軍事協力にはロシアより深い歴史がある。確かに日本は戦争の過ちを犯した。そして世界にも珍しい平和憲法は日本人に深く浸透している。超伝導コアシステムについての技術提供がないことは同盟国として遺憾に思いますが、日露の安全保障条約の締結に乗り気ではなかったのは貴国だったと記憶しておりますが」


日本は集団的自衛権の行使に慎重的な立場だが日本国土が攻撃に晒された時に頼りにするのは米軍である事は間違いないだろう。邦人救出の為に自衛隊を派遣する事はあっても他国の国土防衛のために自衛隊が派遣される事はまず無いだろう。人道支援を名目に後方支援は行うだろうが、武器・弾薬の提供についても慎重にならざるおえない。


テロリストが建国を宣言したのはウロボロスが初めてではない。宗教や様々な対立によってイスラム教徒は過激派と呼ばれる者たちによって宗教・対テロ戦争をアメリカ主導で強いられる事になった。自国の権益の確保の為に軍を派遣するアメリカを疎ましく思う国も多いが、アメリカやロシア等の軍事大国によって世界の軍事バランスが保たれているのだ。民主主義が本当にその国のためになったのかは疑問が残るが、アメリカによって保たれている秩序があるのもまた事実であった。


――――


「拘束した容疑者は供述したか」


新田は警視庁の管理官として静岡へと派遣されていた。容疑者とするか捕虜とするかは政治的な配慮が必要であり、尋問は警察が行い、自衛官が立ち会うこととなった。サイコメトラーによる精神探索が行われたが、強固な電子精神プロテクトがかけられており、尋問は難航していた。


「今、手配出来るサイコメトラーでは歯が立たないようです」


「超能力管理局は何と言っている」


「現在、混乱しており、派遣には時間を要すると回答を受けています」


拙速でも今は時間が惜しいというのが新田の判断だった。防衛出動が決定された事により、自衛隊も警察権を行使出来る状態になった。しかし、非常時の連携はしていても防衛出動が決定された際には個別で動く事になる。官僚の縄張り意識は有事でも強く簡単には事は進まないのだ。派遣された自衛官は高木の部下であり、自衛隊がそれだけこの容疑者を重視している証左となっている。しかし、重大事件の容疑者とはいえ人権は守られるべきであり、非常事態を理由に人権を無視するのは警察官としての倫理観が許さない。サイコメトラーによる捜査も人権侵害だと騒がれているくらいなのだ。短慮でこれ以上の信用失墜は許されない。


警察庁のトップである上木田が何を考えているのかは新田には理解できなかった。法律の壁がイワンコフ逮捕の障害になる可能性を考えれば自衛隊に協力を要請する際に交流制度を利用するのは政治的な配慮であるのはまだ分かる。だが、派遣された自衛官に対して非協力的であった。警察の初動捜査は遅れ検問が引かれたのも通報があってから時間が経ちすぎていた。何より警察官が容疑者に銃を奪われる失態を犯し未だに確保出来ていないのである。


上木田の下では能力よりも忠誠心で出世が決まることが多かった。破天荒な男ではあるが、明石を閑職である資料整理に回して良い訳がなかった。サミットの会場に日本が選ばれた時には警備計画を立てた一人として細部まで目を光らせて補佐でしかなかったが、現場で軽犯罪者を逮捕している実績を持っていた。上司に好かれるタイプではなかったが後輩からは慕われていた。白虎入隊試験を通過して今では分隊長になっているのも明石が有能である事を示している。


それに比べて新田は未だ階級は警視であった。警視庁では課長・理事官に次ぐ管理官ではあったが、六年以上の足踏みは出世争いからの脱落を意味していた。新田は昔より出世欲はなくなっていた。確かに男として責任のある立場になり、警察のキャリア官僚になったからには警視総監や警察庁長官を目指すのは当たり前のことだったが、それ以上に国民の生活を守るという重要性を知ったのであった。


警察の信用を失墜させるきっかけとなったテロ事件だが、政治に傾きつつあった警察組織を本来の現場主義の治安組織へと転換する好機ともなったのだ。そして新田には上木田という膿を出しきらないといけなく、それは急務となっていた。監視社会ではあるが他人に興味がある人間は少なくなっていた。そんな現代人が何かあった際に一番頼れる他人が警察官でありそうでなければならない。


本来であれば新田の階級では知らされない情報は多いが、源三や大河の警察組織での協力者である新田は頻繁にではないが、滝本を通じて連絡をとり情報を得ていた。SPは要人である源三の護衛が任務ではあるが諜報員でもある。大臣達は誰と面会したかをSPの業務日誌により警察に把握され、政治取引に使用されたりする為に直接の接触は上木田派を刺激するために避ける事になっていた。進展しない事に焦りを感じてはいたが焦っても事態は好転しない。新田はじれったく思いながらも職務に集中する事にした。


――――


対馬駐屯地


「韓国の動きが活発になりつつあります」


慌てて報告したのは海自の二尉であり、陸自と海自の連絡員であった。対馬は長崎に属する島であり、韓国との交流が深い事で知られていたが重要文化財の窃盗事件を発端に日本と韓国の関係は悪化していた。韓国とは中国と同様に領土問題・歴史問題を抱えていた。韓国では日本の音楽を禁止していた時代があり、韓国起源説は日本の反感を買っていたが韓流スターが日本に来日するなど文化的な交流は存在していた。


竹島は日本の領土として正式に編入され、観測所などが建造されたが防衛に関しては無力に近かった。戦略的な価値は低く、漁業などの水産資源の確保の為に必要であり、EEZを主張するための領土問題であったからだ。名前だけの駐屯地が整備され、海上の警戒にあたる海自や海保との中継地でしかない。人が住みやすい環境ではなく民間人の移住も禁止されていた為に任務に就く政府関係者以外には無関心な土地だった。


「竹島駐屯地も活発化を受けて警備の増強を進言しています」


歴史的な背景と防衛戦力が少ないことで戦略的な価値はないが韓国にとっては戦術的な価値はあるだろう。韓国政府からしてみれば不当に奪われた領土を奪還したというだけで実績となる。海上の警戒にあたる海保に小型船が近付いている事にはまだ対馬駐屯地は気付いていなかった。


――――


海保に所属する訓練生達もが実戦に投入されていた。指導教官の監視の下で航海訓練を行っていたが潜水士の訓練生を除けば経験の浅い海上保安官しかいない。海上保安官も逮捕権を有してはいるが基本的には日本の領海上で起きた事件に関してだけであり装備も海自に比べると火力は弱い。


「左舷より小型船が接近して来ています」


「警告を行え」


「こちらは海上保安庁である。貴船は本船に異常接近している転進されたし。繰り返す・・・」


接近していた船は停船したが、横付けして巡視船に乗り込んできた。所属不明の敵はアサルトライフルを所持しており、保安官に対して躊躇することなく発砲した。


「こちら巡視船でじま。所属不明の敵勢力によって攻撃を受けている。海自に対しての応援を要請する」


「状況は」


「抗戦はしているが敵はアサルトライフルを所持していて何時まで持つかは不明。船種は分からないが漁船に偽装している。護衛艦なら対処は可能だと考えられる」


そこで通信が途絶えた。巡視船には火が付けられており、負傷者も多くいる事が予想され、直に特殊救難隊への出動要請が為された。羽田特殊救難基地に所属する彼等は海上救助のスペシャリストだ。海保だけの戦力で不審船を制圧できるかは分からないが自衛隊も防衛出動しており、要救護者の治療は海保が責任を持って行うのが筋だと考えたからだ。


「不審船の情報は」


「自力で脱出した保安官が防水カメラで撮影した写真があります」


船自体の見た目は漁船と変わらないが、不審船がこの船だけとは限らない。露払いをした後に軍艦が通る可能性は低くなく、不審船の進路上には竹島駐屯地があった。厳重体制によって海上の戦力は増えていたが陸上の戦力は低い。民間人が住んでいないことから被害は最小限に抑えられるだろうが自衛官も公務員である前に一人の国民であることを忘れてはならない。


「竹島駐屯地に空自の応援を要請する」


護衛艦を先行させる事になるだろうが、旧き良き時代の特殊部隊SFGp【特殊作戦群】の出動を要請を決定した。GIDさえ起動できれば中国軍のギフトホルダーを弱体化させる事が可能で同レベルの技術水準しかない韓国軍でも対応は可能だった。仮想敵国としてロシアも想定の範囲内であったがロシアが日本に対してあからさまに軍事行動を取る可能性は低いとの考えであり統幕によって救援要請は受理された。


――――


竹島駐屯地で警備を行っていた三曹は予定にない部隊が展開していることを発見し、上官を通じて駐屯地司令に対して警戒を促した。


「予定にない部隊が接近しています。対応は如何なさいますか」


駐屯地司令は一佐であり規模も百人いるかというくらいの小規模であった。


「応戦する。アーマーを出せ」


「司令。アーマーは現在三機のみ運用可能です」


アーマーは人間を標的にするのには大き過ぎたが、竹島駐屯地にはパーワドスーツ部隊は配備されていなかった。駐屯地が襲撃された時には可能な限り防衛を行い、不可能であれば撤退後に奪還作戦がとられる規定になっていた。竹島駐屯地は対馬駐屯地・基地から応援が来るまでの間のみ敵の攻撃を凌げば良く、部隊が最小限しか配備されていないのも地理的に対馬駐屯地から離れていない為である。


「発進準備よし」


コックピットに搭乗しているのは五体しかないアーマーの指揮官である一尉だ。火器は陸戦標準装備であり、対戦車・対ヘリ仕様である。ノーマルのパイロットの場合は高速機動する戦闘機を捉える事は難しい。三次元的な動きをする戦闘機を撃墜するロックオンシステムがEMCやフレアによって阻害され易くなる為であり、電子戦に気をとられて攻撃を受けやすくなるからである。


「敵勢力の戦力は不明。各機、前面に展開する地上部隊にのみ火力を集中させよ」


「「了解」」


航空機に関しては高射隊が対応する事になっていた。貴重なアーマー部隊を失う訳にはいかず竹島駐屯地はミサイル防衛の前線地となるからである。


駐屯地司令は防衛出動が陸幕から通達された際に夜勤を担当した隊以外を緊急召集して対応していた。駐屯地には一機のみ哨戒機が待機していたが、発進準備中であった。


――――


巡視船を制圧し、士気を上げた韓国特殊部隊は竹島まで接近していた。中国国家主席によって韓国大統領に伝えられた作戦であり、囮にされる可能性を秘めていたが、韓国にとって奪われた領土を奪還する好機であった事には間違いない。それがウロボロスの意図した事であったとしてもだ。


「隊長。情報通り防備は薄い様です」


「橋頭保を築き、応援部隊の到着を待つ」


混乱状態となった日本ならば韓国軍でも十分に占領が可能だというのが韓国政府の予測であり、いくら日本でも中国と韓国の二面作戦を維持できるだけの戦力はないというのが見解だった。


「対戦車弾。用意。後は合図を待つだけだ」


混乱に乗じて送り込んだ諜報員が役に立つ時が迫っていた。

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