表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/99

八十八話

「クーデターです」


国営放送によって軍部パレードを見ていた王国家主席は秘書官の言葉に狼狽を隠せなかった。


「何だと。軍の不穏分子は徹底的に潰しただろう」


「粛清に反対したものも多くいました。日中海戦の原因となった軍人が降格や除隊処分で済んだのに対して首謀者の多くが処刑されましたので」


「日本に損害を与えた彼等は英雄だぞ。国逆者共と同列には語れん」


秘書官の答えは冷たい鉄の塊で銃口からは煙が上がっていた。秘書官も農都事変で多くの知り合いの命を失った一人だった。都市部にも金に困った者は幾らでもいる。戸籍を買い上げ黒孩子では無くなったが組織の力がなければ自分も権力者の欲望のせいで殺されていたかもしれないのだ。


「仇はとったよ。蘭姉さん」


後は軍部に引き渡して首を晒すことでこの革命は成功するのだ。無能な政治家に搾取され続けるのであれば、それが例え犯罪者であったとしても有能な者の下で暮らしたいと考える者は多い。日本の下に入るくらいであれば死を選ぶと勇ましい事を言っている人も実際に死が迫れば無様にも這い蹲って命乞いをするのだ。


ウロボロスとしては戸籍を持たない黒孩子は色々と使い道がある。直ぐに殺す事も不可能ではなかったが、下等なノーマルと交わした約束だろうとウロボロスは遵守する。無能な党上層部にクラウンを通じて干渉していたが王国家主席は既に用済みであり目障りになっている日本に損害を与えるのには絶好の機会であった。


「ここは約束通りウロボロスに任せるとするか」


男は一瞬で部屋からテレポートした。


――――


防衛出動を国会に認めされる為に召集の準備をしていた中曽根だったが、中国艦隊による自衛隊への攻撃を受けて直に防衛出動を発令した。国連大使である兵藤には日本の主張を国連の安保理にてしてもらうこととなり、草案を秘書に作成させていた。領海にて自衛隊を攻撃するということは中国が日本に対して侵略行為をしたということであり、中曽根はホットラインで王国家主席との会談を持つ道を模索していたが応答はなかった。


「日本の領海・領空に侵入した中国については交戦規定に従い防衛行動を許可する。主要都市にはいつでも派遣出来る様に出動要請を頼む」


先の不審船が中国軍兵士を乗せていたかはわからない。だがもし本当に上陸を許してしまっているのであれば国民の生命と財産が危機に晒される。


「不審船が上陸された地域には警察と連携して捜索にあたれ。この一分一秒で運命が変わると思って行動するんだ」


嘉村の幕僚長としての責任は重大であった。ウロボロスとの対決の道を選びノーマルとギフトホルダーの共存を目指しているのに戦争の引き金となる矛盾。本当は活躍しない方が良い自衛官が活躍せざるおえない状況になってしまったのは中曽根の決断によるものが大きいが、自衛官は有事の際に行動できる様にしてきた訓練が戦争が身近なものになってしまったのは自衛隊のトップである嘉村には不満だった。そして指揮官は孤独だった。


部下が任務の最中に死亡した際には遺族に罵られると知りながらも弔問するしかなかった。航空機の進化によって訓練中や任務中の死亡事故は減ったが戦闘パイロットを経験した嘉村の同期は数名亡くなっている。今回の戦闘でどれ程の民間人・自衛官が亡くなるかは分からない。その数を少しでも減らし、その死を遺族が心から追悼できる様にするのが嘉村の役割だった。


「宇宙空間対応型護衛艦緋神(ひしん)のお披露目の良い機会なのかも知れない」


緋神はオリジナル超伝導コアを使用した陸・海・空・宇宙対応のマルチバトルシップ(MBS)だった。世界初の試みであり、アーマーの空母として運用を予定されていた。エネルギーは無尽蔵に生成でき、酸素の問題も解決している。超伝導コアにも使用されている特殊合金の防御殻を持ち実弾とレーザー攻撃兵器を搭載していた。速度は音速を超え光速の域に達しようとしていた。宇宙に進出する第一歩が火星の移住計画だ。敵性知的生命体に遭遇した際に武力によって退けられるようにと設計されていたがどこまで有効なのかは設計を担当した科学者にも分からなかった。しかし、地球においては最新技術が使用されており、一隻で世界を変革する可能性が緋神には秘められていた。


「緋神には念のために衛星戦略兵器の捜索に当たってもらう。問題は緋神の指揮官が誰になるかだ」


宇宙戦闘艦の運用など誰もしたことがない。優秀な人材を多く抱えている自衛隊でも不測の事態に対応できる指揮官は少ない。大河は既にギフトホルダーを統括する立場として手一杯で海野も領海に接近する艦隊の指揮を雄三に任せ他の領海に接近する艦隊がないか目を光らせている。空自も中国機に対してのスクランブル発進で手一杯だ。中国機との戦闘で死者は出ていなかったがどこも対応に追われている。


宇宙軍の創立はなされておらず、適格な指揮官がいないことは今後、増えていくであろうMBSの数を考慮して内示が出る予定だった。戦術も実戦を得ていない机上の空論だった。軌道エレベータが完成すれば巨大な構造物を守る為に必要となり日本は独自に開発を行う予定だったのだ。莫大な建造費はかかるが技術提供による特許料で十分に賄われると計算されており、人員と資材のターミナルとなるだけでなく人類にとって大きな一歩となる。米軍に日米安全保障協定に従って要請を出したいところだったが米国も味方とは限らない。


「私が指揮を執ろう」


軍事の素人である蓮田(はすだ)防衛大臣が名乗り出たが要職に就いていても虎の子である緋神を無能に任せられるほど余裕はない。


「蓮田君には他に任せたい事がある。人選は嘉村君に一任する」


――――


種子島宇宙センターの一画に陣取る才能研究機関の職員と防衛省高官は口論をしていた。


「緋神は訓練航行を終えてデータを解析中の試験艦です。武装があるとはいえ戦闘に耐えられるものではありません」


「中曽根総理の指示なのだ。臨時指揮官となった神保空将補も来ている。最新型のヤマトゼロ式は艦載出来ないがヤマトプロトタイプでも十分にその威力を発揮してくれるというのが総理の判断だ」


「宇宙空間では少しの損傷が命取りとなるんですよ。船みたいにダメージコントロールをして戦闘続行とはいかないんです」


幾重にも施された安全対策だが、気密を保つのは難しい。宇宙では物体は直進し続け、地球周辺には多くの人工衛星が旋回している。もし航行が不可能となり、機密保持の為に超伝導コアを地球に向けて射出しなくてはならなくなった際には数度の進入角の違いで地上の何処に落ちるか分からず、また日本の所有する軌道エレベータまで持ち込める確信はない。


コピーされた超伝導コアすら日本は外国に技術提供していない。特許申請をするという事は特許内容の公示を伴う為に行っておらず、防諜対策にも万全を期してきた。日本が国難を迎えようとしているのは誰もが感じていた事だ。常任理事国入りをしてアジアの大国として責務を果たしてきた誇りもある。技術力はあるが資源に乏しく戦争をした過去もある。平和を甘受してきたからこそ日本は平和を護る担い手としての責任があるのだ。


「芹沢博士。これは閣議決定です。博士の意見もわかりますが、日本にはそう多くの猶予は残されていないのです」


緋神は護衛艦をそのまま宇宙空間に対応させる為に超伝導コアを載せられ、武装をしていた。主砲は戦艦クラスとは言いがたいがミサイル発射菅が八基あり、主砲はレールガン方式が採られており副砲がレーザー方式だった。本来であれば目立たない様に迷彩を施すべきなのだか船体は緋色に染め上げられていた。芹沢曰く赤は古くから続く男のロマンなのだという。


一隻しか無いために当分の間は地球で運用されていく予定であり、日本の次期主力となる護衛艦で諸外国に対して程ほどの脅威であることが求められるのだ。赤色は人類にとって警戒色である。トマトが食用になる前には毒があると思われていたという歴史もあり信号に使われているのもその為である。


「現状では軌道エレベータを使用して宇宙に上げるしかない。マスドライバーについては構想そのものは遥か昔からあるが安全性に技術的な不安が残り実用性に欠く」


宇宙に資材を搬送するのにスペースシャトルをいちいち使用していたらそのコストは膨大なものになる。燃料費は馬鹿に出来ず初速をリニア形式で得て宇宙まで続く軌道エレベータを利用すればそのコストは十分の一以下になるだろう。運送業界を見れば分かるだろうが宅配であれば午前中にインターネットで購入した物が午後に届く時代になり速く安くが当たり前となっても地上から宇宙へと搬送するコストは高いのだ。そのコストは必然的に使用者の購入代金に反映される。流通が発達していなかった時代には香辛料の値段が同じ金の重さだと言われたこともある。


コストが下がれば人類は宇宙へと進出しやすくなるだろう。テラフォーミングする技術はないが広い宇宙で地球に似た惑星は何れ発見されるだろう。それが敵対的な知的生物との遭遇だとしても増えすぎた人口を支える地球の資源は有限であり、中東の石油が枯渇し始めている様にそう遠くない時代に宇宙へと進出する必要があるのだ。本来であれば高性能な宇宙探索船として運用される予定だった緋神が戦争の為に使用されるのは芹沢からしてみれば不本意でしかなかったが、もし日米が推進している火星移住計画が成功すれば隔離政策と批難を受けようがノーマルとギフトホルダーの諸問題の解決に向けて時間的な余裕が出来る筈なのだ。


元々ヤマタノオロチは宇宙での戦闘を考慮にいれたアーマー部隊である。重力という制限がなければ宇宙戦艦より遥かに機動性が高く、高火力を持つアーマーは地上での運用はデータ収集の意味合いが強い。アーマーを運用するにあたってバランス制御システムや操縦者(パイロット)の安全性、装備や機体の開発など最新技術が必要となり戦車や戦闘機に代わるべく各国の威信をかけて行われてきた。日本での開発は防衛省と才能研究機関、民間会社の技術者と共同で行われ満足のいく結果が出せていると言えた。


核心的な技術提供は出来ないが、共同開発という形で諸国に対して技術開示を行っていた日本だったが超伝導コアは例外であり、緋神も通常のエンジンシステムでは効率が悪すぎる為にエンジンを除けば日本の独自技術の塊であると言えた。


「芹沢博士。貴方は日本政府主導の下で様々な研究を許可されていたはずだ。緋神は元々、宇宙探索船であるというのは否定出来ない事実だ。だが、現状がそれを許さない。我々は出来る事をするしかないのだ。そして緋神にはそれを成すだけの力があると考えている」


簡易的なものだとは言え日本が所有する軌道エレベータには莫大な研究開発費がかかっている。本来であれば日本はあまり軌道エレベータを建設するのに適した土地であるとは言い難い。物体にかかる重力は地球の自転が影響し、地上は一Gであるが地面を境にして同等の力がかかるということである。瞬間旋回重力は数G~十数Gであり戦闘機のパイロットは下半身に血が集まる為に時には意識を失うこともあるくらいには重力は馬鹿に出来ない物理法則である。宇宙まで伸ばせる可能性があるカーボンナノチューブ。素材の発見から実用化には多くの時間を必要とした。超伝導コアは間違いなく場違いの工芸品(オーパーツ)と呼ばれる画期的な技術だ。


「博士が反対しても閣議決定を覆す事はできません。軌道エレベータ防衛の予行演習だと思って頂くしかないです」


助手も芹沢に諦めた様に告げる。超伝導コアは各国が躍起になって研究しているシステムでありそれがウロボロスや他国に渡るのは悪夢でしかない。芹沢などの開発責任者にはオリジナルであると説明されていたが他の研究員には知らされておらず、超伝導コアシステムの概要についても日本国籍を持ち帰化した日本人には情報を与えないという徹底ぶりだった。中曽根は秘匿されているオリジナルの超伝導コアを動力とした兵器を製造することが最も守るのに適している方法だと考えておりそれは間違いではなかった形になる。


一部の研究者に一部の政府関係者。製造方法については二重、三重もの防諜対策がなされていた。現在、種子島センターのJAXA職員は退避命令が出ており、機密を守る為に公安課の職員が目を光らせている。


「芹沢博士。緋神の起動準備に入って下さい。機関員への指示をお願いします」


伝え終わった自衛隊幹部は芹沢が納得していない事を承知しつつも国防の為の必要悪であると自身を納得させた。中曽根による防衛出動命令が下り全自衛官が緊張していた。戦場を体験した事のある自衛官は何処か不敵に。若い自衛官ほど浮き足だっていたが隊内のまとめ役である先任軍曹によって落ち着かせられていた。


「電圧値。稼働領域を維持。各員は直に持ち場につけ」


芹沢は機関長と共にエンジンの調子を監視していた。宇宙での船外活動は危険が伴い繊細な超伝導コアは知識のある人の手によってしか修理は難しい。開発元である才能研究機関へと出向し、秘密保持契約をした防衛省職員しか概要を知らされておらず臨時艦長となった神保にすら詳細は知らされていない。


「推進力は緋神の物を使用します。機密保持の為に機関員以外は機密室への立ち入りは一切禁止されており、護衛には広島支部ヤタガラス小隊長、三島小隊がその任に就きます」


神保は副官の説明に満足そうに頷いた。宇宙軍設立の内示が下った際に神保は指揮官候補として訓練を受けていた。戦闘機のパイロットであった神保は宇宙への馴致訓練が少なく済み、緋神に乗艦する隊員の多くは空自の出身である。


「固定軸に異常ありません」


「こちら緋神コントロール。発進準備完了。発進許可願います」


「大崎管制。了解した。健闘を祈る」


緋神は推進力を得て軌道エレベータを駆け上がって行く。数々の実験を行い。小型スペースシャトルの運用を行ってはいるが頻度は高くなく、事故は報告されていないが危険がある。シャトルに単独大気圏突入能力を義務つけているのは少なくとも人員は無事に生還させる為である。自衛隊は絶対はないと知りつつも絶対を目指す組織であって自衛隊不要説を出す政治家や評論家を生まない為の防衛策であった。


世界初となる超伝導コア搭載型宇宙戦艦が宇宙へと旅だったが、その先行きは不透明だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ