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八十七話

「総理。領海に展開した艦隊が中国海軍と交戦状態に入りました」


国会の承認を経てから防衛出動命令を下そうと考えていた中曽根だったが、直ぐに防衛出動命令を発令した。


「統合幕僚本部は直に増援部隊を送ってくれ。倉橋君。中国への対応を頼む」


源三の仕事は各国との折衝であり、外交は経済・政治・軍事と多岐に渡る。中国との開戦は予想外の事であり、対中防衛の基本計画は出来ていたが実行に移されるとは考えていなかった。


嘉村(きむら)統合幕僚長。防衛計画に従って行動を頼む」


日本と中国は開戦の宣言なく交戦状態へと陥った。日本は直に国際裁判所への提起を行うつもりだったが、実際には時間がかかりそれまでに日本は自衛権の行使を行わなくてはならない。中国船籍に対する臨検の実施、航空機に対してもスクランブル発進がかけられる。特に主要都市上を飛行する機に対しては状況によっては撃墜しなくてはならない状況だ。


日本としては盟友であるアメリカにも応援を要請したかったがロシアの出方によっては第三次世界大戦の引き金となり得る。国連は力を失い、先進国に対して後進国が数にものを言わせて陳情する場となり下がっていたが、日本は国連に所属する常任理事国である。安全保障会議を召集する権利を有しており、中国が日本に対して侵略行為を行ったという事実が重要なのである。各国の思惑は舞台を日本から国連へと変え日本は対応を誤れば国際社会の中で孤立する事となるだろう。日本の考えとしては宣戦なき侵略であり、領海に対しての不法侵入と発砲に対応しただけであったが、事態はそう簡単でなかった事を知るのはもう少し先の事である。


――――


近藤三佐率いる航空部隊は中国機を迎撃していた。昴による電子的な援護があるために例えロックオンされても撃墜される可能性は低いが、それはミサイルに対してであり機関銃の掃射を受ければ被弾した箇所によっては航行は不可能となるだろう。


「こちら一番機。接近してきた機のみを狙え。艦隊は海自に任せるんだ」


「「了解」」


空自戦闘機はまだ一機も撃墜されていない。護衛艦も高威力なミサイルを使用しておらず、レーザーによる非殺傷兵器の使用に留めていた。レーザーを照射する事によって敵艦隊の人員を無効化しようと考えたのだ。最新兵器である戦闘艦は精密機器の塊であり、一定の効果はあると判断された。自衛権の行使ではあるが敵国の被害も少ない方が良いのである。局所的に起きた【戦闘】であって【戦争】でないと逃げ場を与える事もまた重要だった。


「全周波数で呼び掛けていますが応答ありません」


「呼び掛け続けろ。領海に侵入してきた艦のみを攻撃対象とし、戦闘不能にするに留めよ」


先の日中海戦の様に暴走した中国軍部による作戦行動とも言い切れない。文民統制のされていない軍など外悪でしかないが、中国が再三に渡る警告を無視しているのであれば灸を据えなくてはならない。経済封鎖は勿論のこと国連での紛糾は避けられないだろう。核を使用するほど短慮でないと思いたいが、今の中国は何をしでかすか分からない。


「ミサイル来ます」


僚艦とリンクする事によって全ての艦のプライオリティは雄三にある。管制射撃システムへと干渉し最も効率の良い迎撃法を選択する。ミサイル護衛艦は砲雷科に命令しミサイル発射準備を済ませている。現場指揮官の雄三は自艦隊に対する損害を許容する訳にはいかない。対艦戦闘機・対艦ヘリに対して威嚇射撃をし有効射程圏内へと侵入した場合のみ撃墜を許可していた。高速挺による救助活動は戦闘が終了するまでは不可能であり、救難隊の出動要請も行ってはいるが本土の防衛を薄くする訳にもいかずどちらにしろ中曽根が決断するまでは雄三は現状維持に努めるしかなかった。


「艦・飛行編隊ともに接近してきます」


戦闘が開始されてからまだ十分と経っていなかったが雄三のなかでは既に体感で一時間以上が経っている様に感じていた。長くても三十分以上の戦闘は日本が引けない以上は不可能だった。ギフトは万能ではない。雄三の電脳も例外なく使用には脳に負担がかかるのだ。通常であれば複数の情報処理に特化したギフトホルダーが必要で一人で艦隊を制御している雄三の方が異常であると言えた。


「万が一があってはならない。各艦の砲撃担当官にはロックされたもののみの発射だけを許可しろ」


「しかし艦長。このままではじり貧です。補助システムの使用を進言します」


AGDSシステムと呼ばれるその補助システムには人工知能が使用されている。人間に限りなく近いとされているが与えられた条件の中からしか判断は出来ない。多くの情報を与えられ人を部分的に超越している機械であっても今のところは閃きは人間に許された特権であった。人工知能の発達によって単純作業は人から機械へととってかえられたがまだ人にしか出来ないことも多いのだ。


新しい発明は確かに生活を豊かにするものであったが弊害がない訳ではない。新エネルギーとして期待されている超伝導コアを流用した発電システムや軌道エレベータに設置される予定の太陽光発電システムだったが、未だ世界の発電の主流は原子力発電と火力発電である。上記のシステムが流通すれば危険を伴う原子力発電は中止され、大気汚染を伴う火力発電も燃料の問題によって数年から十数年をかけて交換されていくだろう。


そうすれば二つの事業に従事していた者は職を失う事になるだろう。発電した電気を各家庭に送電するインフラは無くなる事はないだろうが、多くの利便性と引き換えに不幸になる人間がでる事は避けられない。大概の場合は新たな需要が生まれる事でバランスはとられるが仕事を奪われた人間からしてみれば知った事ではない。災害現場での救出や危険な作業を機械に代行させる事ができるのは良かったが、機械はあくまでも機械でしかないのだ。


アイザック・アシモフが提唱したロボット三原則は全人工知能に組み込まれることとなったが、機械がいつどの様にして自我を獲得するかは分からない。機械による犯罪は起きておらず現在の用途も限定的である。定型があるものに対しては強いが機械に応用性を求めるのは間違っており、完全な独立型の人工知能が搭載された戦闘機の開発計画が頓挫した理由である。電脳のギフトを持っているからこそ雄三は人工知能に対して否定的であり機械の判断に頼るのではなく、人が決断して行動に移すべきだと考えていた。


「補助システムは使用しない。十分後に戦闘を停止させなかった場合、潜水艦による魚雷攻撃を敢行する。警告を出せ」


「中国艦隊に告ぐ。直に戦闘行動を停止せよ。十分後までに戦闘を停止させない場合、一斉攻撃を行う。繰り返す・・・」


雄三は幕僚本部に向けて再三の命令の確認を行っていたが、返ってくるのは防戦に徹しよのみであり、戦闘に一刻の猶予もないと言うのに上層部は決断できないでいた。中曽根による防衛出動が決定され援軍が当該領域へと駆けつけてはいるが、現状では航空戦力しか到着していない。核の存在は確認されていないがあると思って行動するのが有事に備える自衛官に求められる資質である。


中国軍の航空機は自衛隊機によって撃墜され海上には機体の破片が散乱している。中国のステルス技術は遅れており、油断する訳にはいかないが潜水艦の脅威は低い。ソナーで発見ができるくらいにはモーター音が煩く、完全に静止している場合には空気と食料の問題が常に付きまとい中国を常に監視衛星で警戒しているために幾重にも張り巡らされた警戒網を突破するのは至難の技であったからだ。


「艦長。時間です」


雄三は予め確認してあった艦隊の位置情報と現在の位置情報に差異がないかを確認した。軍艦が被弾した場合、ダメージコントロールが行われるが操舵に必要な舵とプロペラを狙う物で魚雷の威力も故意に落としてある。動けなくなり大破判定を受けた船が攻撃してくるのであれば今度こそ沈めるという意思表示である。


「発射」


「発射十二、命中九です。三隻行動停止。小破です」


「砲術長。ミサイル発射準備」


「了解」


空対空ミサイルを積んだ戦闘機は空に上がり艦上を旋回している。対艦装備を積んだ戦闘機は発艦準備を終えており、後は命令が下り次第戦闘可能だった。ギフトホルダーによる飛行隊は戦闘機の能力を十全に発揮しており、GIDによる妨害電波も遮断していた。雄三としては中国軍の兵士が可哀想であった。世界有数の軍隊となった自衛隊に満足のいく兵器なしに特攻をするしかない。艦に少しでも損害を与えようとした中国軍は戦闘機をぶつけようとしていたが空に上がっている戦闘機と艦砲による迎撃で無惨な姿を晒していた。


「現在位置を確認。民間船に被害が出ない様に海保に要請」


「戦闘開始直後から要請はしております」


領海十二海里は国家主権の及ぶ海域であり、排他的経済水域(EEZ)は二百海里に渡る優先権を主張出来る海域であった。海自が領海手前に艦隊を配置しなかったのは軍船には非武装という条件でEEZ内の航行が許可されており、日本の領海に侵入した中国軍に対する自衛権の行使だというのは重要なことだったからだ。しかし雄三は忘れていた。艦隊が当該領域に到着するまではGPSによって運航がされていた事に。その後、三角測量法によって位置情報がずれている事を確認したが大まかな位置は分かっても海に明確な印がある訳ではないことに。


護衛艦隊を後退させ観測したGPSのずれを考慮はしていたが、領海とEEZは異なるものだ。中国軍の発砲は許容されるものではないが、国際司法裁判所の判断によっては日本は立場を悪くする。国連安全保障理事会において簡単に拒否権を発動して良いと言うものではないのだ。国連での発言力が無くなれば日本は世界で孤立する。農作物の収穫量は増え食料自給率は改善したが日本の土地は狭くアメリカみたいに輸出出来るほど食料が余っている訳ではないのだ。


「中国艦隊、沈黙しました」


「対艦ミサイルをロックオン状態で維持。戦闘が再開されたら空母に向けて発射せよ」


海自艦隊の損害は軽微だったが自衛隊機三機とミサイル護衛艦に中国艦隊の艦砲が命中した為にパイロットの緊急脱出と護衛艦のダメージコントロールが行われていた。小型高速挺でパイロットの回収は完了し、機体の回収作業へと移っている。


「こちら日本国海上自衛隊の木野一等特佐である。貴艦隊の指揮官は応答されたし」


「中国人民解放軍の王偉だ。貴国に対して謝罪と賠償を要求する」


「こちらは貴艦隊からの攻撃があった為に応戦したまでだ。寧ろ無用な攻撃をしなかった事に対して感謝してほしいくらいだ」


王偉は自国の軍隊がここまで歯が立たないとは思っていなかったが、自衛隊艦隊を引き付けるという役割は果たした。中国政府の要求は日本に攻め込める様に領海に艦隊を展開することであり、日本に対してプレッシャーを与えることだ。王偉は軍上層部から秘密裏に受けた特殊作戦の成功を信じて疑っていなかった。


――――


「海自の損害は軽微です。既に中国艦隊は沈黙しており、戦闘は停止しております」


「中国艦隊の被害は」


「空母に搭載された戦闘機十五を撃墜。大破三。中破五。無傷な艦はほぼないとの事です」


中曽根は中国で軍事クーデターでも起きたのかと疑っていた。余りにもお粗末すぎる結果だったからだ。日中関係を悪化させないように努力してきた中曽根であったが中国に対して経済制裁を決議しなくてはならない事態へと陥るだろう。アメリカやロシアからしてみても中国が大人しいのは都合が良い。拒否権を発動してもアメリカと日本は独自に制裁を加えロシアも静観することになるだろう。中国は最早、アジアの癌でしかなかった。そして中国では本当に軍事クーデターが発生していたのである。


――――


農都事変によって指導者を失った農村部の人々は臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の思いで生活をしていた。党上層部によって締め付けは強くなり、そこには人権を認められていない奴隷の姿があった。中国は九世紀前にバブルが弾け恐慌に陥った経緯がある。高騰した土地の価値は暴落し幾つもの企業が倒産し、多くの自殺者が出た。国民の怒りは政府に向かったために対外政策で乗りきろうとしたが、日本の反応は冷淡だった。


一人っ子政策により中国国籍を持つ者と戸籍を持たない黒孩子(ヘイハイズ)との間に抗争もあったという。中国社会の闇を支配する黒孩子は中国三大巨頭の一人となっており、日本国籍を取得させた中国人を使って世界中で犯罪をさせていたのだ。中国の思想教育を受けなかった男にとって自分に利益があるのであれば日本だって利用する。


中国軍部で権力を握った同志を動かせば党上層部は日本と事を構える訳にはいかないために必死に火消しへと奔走する事になる。予想は的中し国家主席の王は狼狽えることしか出来ない。ここからが正念場であって中国の実権を握る為には負けられない戦いが待っている。その為に日中海戦によって出世の道を断たれた兵士達を買収したのだから当然だ。


根強く不穏分子を国内に放置することの危険性を説いた高官には娘を誘拐して指を送ったら沈黙した。不正の横行している中国国内では金がものを言う。エデンが建国された後もウロボロスは中国へ浸透作戦を実行していたし、不満が爆発した結果が農都事変であった。隠密で事を進めるのが重要だ。都市部の権力者達は反逆者を粛清したと思い込んでいる。農村部にギフトを与えたのも黒孩子の集団であり非合法を生業とする中国マフィア【黒龍】が意図的に流した物である。各国に貸与していたパンダは今では外交のカードにはなりえない。密輸されたパンダが各地で繁殖し生態系を狂わせていたからだ。


日本との対立を煽るのは中国を支配しやすくするためであり、その為には多少の犠牲は許容範囲内だと考えていた。小黒虎と呼ばれる男は黒龍のナンバー二であり、影の支援者として大国が居た。


「小黒虎様。アーマー部隊も軍事パレードに紛れ込ませています。それに今は軍部の暴走でそれどころではないでしょう」


「ここまでしてくれたのは助かるがお前達の見返りは何なんだ」


「世界の混乱ですわ」


男を魅了してやまないその姿に小黒虎は寒気がした。

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