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五話

林檎捜索の指揮を執るのは要である。学園内の軍事に関する権利は彼に委譲されていた。表向きは教師で実際に超能力開発幼年学校でも教鞭をとっていたが、大志の入学とともに自衛隊を離れたのは目の負傷もあったが大河が望んだことでもある。ダブルホルダーとして現役で活躍している大河には大志に自分以上の才能が眠っていることに早くから気付いていた。楓も自身の研究室で精密検査を受けさせた。


楓の研究室はギフト分野において先進国の中でもトップクラスであり、国として税金を投入しているだけの設備はある。超能力幼年学校に入学する資格を得るのは簡易検査を受けた子供の中から特定の反応を持つものを選別し精密検査を行った後に入学を許可されるものとなる。


林檎がいなくなったのは大志が関係している可能性はある。しかし監督生をしている林檎は自衛隊の将来の佐官になる可能性を秘めておりその関係でいなくなった可能性もある。可能性は幾らでもあるがとにかく話を聞かなければならない人物がいる。妹である苺だ。苺は姉が居なくなったことによって困惑した様子であった。親しくしていた生徒にも聞き込みを行ったが注目すべき情報はなかった。


苺を呼んで話を聞いても無駄な気もしない要だが警備責任者としての責務でもある。担任でもあるため話を聞くことは不自然ではないが、大志はある程度の状況を把握しているだろう。寧ろ精神感応系は苺には効き辛く要らぬ警戒心を抱かせることになりかねない。


呼び出されている苺は不安を抱えていた大志に励まされてものの気分は晴れない。本当に姉は突然いなくなった。学校の外に自分から出て行った訳でもないらしい。学校の入り口は一つしかなく警備員が常駐している。要の個室に呼び出された苺は入室することにする。


「失礼します」


部屋に入ると椅子と机以外殆どない本当に何もない部屋だった。


「よく来たね。分かっているかもしれないがお姉さんである林檎さんが行方不明となっている。知っていることがあれば教えてほしい」


元軍人らしいストレートな物言いに少し気後れする苺。自分でさえ良く分からないのだ。生徒が突然いなくなるケースは今までなく子供でしかない林檎が警備の目を盗んで外出できる訳もなく他国の侵入に気付かないほど警備に穴はないはずだと苺は考えている。監視は何も人だけでは無いのだから。


「正直なにが起きたのか分かりません。姉とは昨日の夕方に保健医の杉崎先生に会うと言ったきりですし、距離が離れすぎているせいかテレパスも通じる距離にはいないみたいです」


要は監視カメラの映像から最後にあったのは杉崎だと確認しており、【サイコメトラー】のギフトを持つ警備隊員により確認済みだ。ごまかせる可能性はなくはないがそれなりに高位のホルダーなので信ぴょう性は高い。同じ精神感応系であれば術者の実力次第で可能ではあるが限りなく低いだろう。


要は少し苺と話をして退出を促した。最初に疑ったのは誘拐ではなく自主的に失踪することだが林檎の人間関係は良好だった。次に疑ったのは杉崎だ。最後に会った人物こそが杉崎でありその直後に消息不明になったからだ。


要は杉崎の事を特殊なギフトホルダーということは承知していたが能力を知っている訳ではない。ヤタガラスに所属するサイコメトラーの能力を信頼しているだけである。医官に過ぎない杉崎が超能力開発幼年学校の警備を単独で突破できるわけがなくできるとしたら同じヤタガラスに所属するものか他の四獣に所属するものだろう。


自衛隊と警察・海上保安庁・消防の中は悪くはない。自衛隊士官学校を卒業した者の中からでもそれぞれの幹部として入庁するものもいるし人員の交流もある。軍事力を正式に持つことが憲法改正によって可能になったことで自衛隊のできることは幅広くなった。中国やロシアといった領海・領空侵犯にも厳しい態度をとれるようになった。


国民も今までの弱腰外交ではなく地下資源を自国で賄えるようになったことから大国として周辺国を威嚇することも必要なことだと考えていた。中国も対日政策の舵取りを余儀なくされた。人口が世界で一番多く今までのように国内の問題による不満を日本にぶつけるような露骨な政策はとれなくなった。安い労働力は確かに魅力的ではあったが粗悪品が多く労働市場としての価値は低下の一途を辿っていたのだ。ロシアも天然ガスを配給することで発言力を保ってきていたが今の主流は太陽光発電であり、地下からメタルハイドレートを採掘する技術が発達したことで需要が落ち込んだことによってギフトホルダー部隊を各国に派遣することで発言力を保とうとした。


米国も同様に発言力を保とうとしたが秘密裏に行っていたはずのギフトホルダーに対しての人体実験が白日のもとに晒されることにより、軍事力はともかく発言力の低下を招いた。先進国の中でギフトホルダーの育成に力を入れている日本は、強化系、操作系、精神感応系、特異系と種類を問わず研究をしてきた。成果としては申し分ないが他国がそれを看過しているかというとそれもまた政治的な理由から否定せざるおえないだろう。


日本はあくまでも独立を守れれば良いと考えている。日本の変化は外敵(黒船)が訪れたことにより始まり、今回も北極に落ちた隕石という外的要因から変わってきている。日本の学者は二九〇〇年代に地球外生命体の示唆を未だにしていた。既に火星移住計画が実行され火星に人が住めるように環境を数百年かけて変化させてきた。大国主導による火星移住計画は現在でも計画は進んでおりまだ人が住める環境にない。


国外の問題もあるが国内にも少なくない問題はある。ギフトホルダーを新人類だとして旧人類と分けようとする人類学者や才能として与えられるギフトを持たない一般の人々がギフトホルダーを排斥する行動に出始めた。団体の名前を【旭会】といい厄介な人物も所属している。


もともと日本では天皇を一時期、現人神として崇めていた時期があった。二十世紀には天皇は象徴であり国政には関わることはない。それは現在も変わらない。天皇は国際儀礼上は王より上で日本人以外にも尊ばれる存在ではあるが実権は有していない。旭会が今回の事件に関わっている可能性は高くはないものの全くあり得ないという状況でもないので要は元上司である大河に連絡を入れる。


「もしもし、要です。学校で緊急事態が起きました。行方不明になった生徒の名前は木野林檎で大志のパートナーを務めている次席の生徒です。行方不明から既に三時間以上の時間が経っており、校内に居ないことは確認済みです」


簡潔な報告に大河は原因を探ろうとするが要が言ってこないということは普段から真面目な生徒なのだろう。


「警戒レベルはいくつになっている?」


侵入者が出た時点で警戒レベル一、侵入者が国内の者でギフトホルダーとは関係なさそうな時点で二となる。今回のケースは国内外の所属が不明でギフトホルダーによる犯行の可能性が高い警戒レベル三に該当する。


「既に警戒レベル三を発令。才能保持者保護法の特記事項に基づいて周囲の空自基地・陸自駐屯地には救援を要請しています。」


ヤタガラスの一部隊員も今では超能力開発幼年学校に駐留しているがそれはあくまでも大志を護るためである。内閣総理大臣の署名が必要とされるトリプルホルダーの保護のため要を除いて二名が派遣されている。


才能保持者保護法に基づいて校内に設置されているシェルターに大志は移動済みだ。最初は抵抗するそぶりを見せたが苺を同行させることを条件に呑んだ。相手が顔見知りだということも影響してはいるが未成年者のギフトホルダーに対する最大限の譲歩だった。


木野家も一般的には知られていないが二九〇〇年代に北極に派遣されていた海自の隊員の中に木野家の祖先がおり、第一世代のギフトホルダーになった。政府は隕石との因果関係を調査するが確定するまでには多くの時間を要する。ギフト研究では第一世代のギフトホルダーはあくまでも後天的な才能であったため成長率も低かったのではないかとされている。


中には特異系と呼ばれるギフトもありその中でも更に特殊なものに関しては木野家・倉橋家を含めた数家にしか日本での発現が確認されていないものもある。


「警戒レベルを四に移行するよう政府に連絡をとる。木野家の秘密を知るものが林檎ちゃんを誘拐した可能性もある。既に一般隊員になりすました白虎が警備に当たっているが施設内に立ち入ることを許可するのは基本的に特殊部隊員のみだ。今回の作戦コードは【エデン】でヤタガラスを主体とした部隊編成も既に済んでいる」


伝えることだけを簡潔に伝え自衛隊駐屯地に設置されている一部の将官のみしか使用が許可されていない。官邸直通電話を手に取り電話をかける。


この時の内閣総理大臣であった中曽根喜一なかそねきいちは後に語る沈黙の三日間は本当に地獄であったと。


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