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七十五話

――警視庁、管理官室――


要注意人物である白井達が羽田空港から入国したと知った公安一課は課員に命じて白井達の周辺調査を行っていた。知らせを受けた新田は良く知った人物である白井が生きている事に喜びはしたが、その表情は晴れない。


それもその筈である。突如として痕跡を消して日本から消えた人物がこの時期に日本に戻ってきたとなれば予知された事件に関与している可能性が高い。正義感溢れる男であった白井は現実に打ちのめされ変質してしまった可能性は否定できない。


重大事件を起こす前に逮捕しておきたい新田だったが、機密案件である予知について行動を起こすのであれば内閣の承認が必要になる。部下に監視をさせているとは言え元警察官である白井が尾行に気付かない訳がない。公安の準監視対象者リストに載っている白井の報告が遅れた事も気になる。個人的な事情から倉橋家と付き合う様になった。今晩あたり時間がなくても予知に関して重要な障害となりうる白井達を放置出来る訳がない為に報告に出向く必要があるだろう。


「人員を増員して監視対象者に気付かれない様に行動しろ。報告書を一時間以内に纏めて持ってきてくれ」


部下達は一礼して退室していった。部下の口頭での報告によると空港内に設置された顔認証システムによって検知されたが、入国の手続きをした審査官は問題がないとして入国を許可している。ベテランであり特別入国審査官が白井の様な男を簡単に入国させた事にまず疑問を抱いた。


人間の目を誤魔化しているのにも関わらず機械に対する対策が為されていない。どの空港にも配備されているホールコンピュータによる照会がなければ気付けなかったというのは問題だ。数年前の顔写真から現在の姿を見抜けというのは難しいが成人に対しては出来ないことではない。実際に人は見抜けなくても機械は異常を検知して通報した。全国に配備されているNシステムを使って尾行したとの事だが、全国の警察署に使用した事が通達されるシステムのため機密作戦に使用するには相応の理由がないと不可能な筈だった。


人的要因(ヒューマンエラー)をカバーするためにやむ終えなく起動したのだろうが拙速すぎる。警察庁・警視庁でも今回の作戦を知っている者は少ない。流石に県警の本部長クラス(主要都市だと警視監)だと開示された情報ではあるが新田の様に直接関係のある役職でなければ警視にも情報開示はされていない。


巡査→巡査部長→警部補→警部→警視と下から五番目の階級ではあるが、国家公務員試験一種・二種採用者(キャリア・準キャリア組)ならいざ知らず国家試験三種採用者であればどんなに早く出世したとしても四十代半ばで成れれば優秀であり、そこまで優秀ならそもそも一種か二種で採用されている筈なので警視という階級を持っているだけで相当の切れ者と言うことになる。


開示されていないからこそNシステムを使用したとも考えられるが主要都市に含まれる東京で起きた事から上司に指示を仰がずに行動したか階級は低いが判断能力に長けたものが緊急事態として決断した事になり、前者であれば無能、後者であれば能力はあるが上層部に嫌われている厄介者という可能性が高くなる。


部下の報告を待っている間に必要な事をしなくてはならない。滝本に連絡をとって倉橋外務大臣と話を出来る時間をとらなくてはならないのだ。白井が幼年学校時代の後輩とはいえ日本に害を成す可能性がある以上は公人としては逮捕しなくてはならない。中曽根総理大臣に近い閣僚の意見として源三の話と今回の総指揮を執る大河の話を聞かなくては警視庁の一職員でしかない自分の勝手な判断で事を進める事は出来ない。


職務に関わらない範囲であれば白井を助けてやりたいと考えている。自衛隊を批判する訳ではないが自分がもし白井と同じ立場であったとしたら後悔しないように行動をするはずだからだ。同期の明石もテロ事件後は悩んでいる風に感じた。


明石ほど出来る男がさせられる仕事ではなかったが、警察を辞めなかった事にはほっとしている自分がいた。友であり好敵手(ライバル)が明石が警察を去っていれば日本の損害となっていただろう。白井とその部下が辞めた事と隊に死傷者が出たことで白虎隊は一度解散の危機までに追い込まれた。SATなどノーマルによる特殊部隊はあったが警察という国民に一番近い警察にギフトホルダーの特殊部隊がないのは市民の安全を守る上で障害となる。


犯罪白書ではテロ事件後、低レベルギフトホルダーによる犯罪が増加した。大多数の警察官はノーマルでノーマル相手の検挙であれば問題なくその力を発揮するがギフトホルダーともなれば勝手が異なる。日本人は高い道徳観を持っているとされているが全ての日本人がそうだとは言えないし、短期在留する外国人も多い。精鋭を失って混乱している所に立ち直る時間を与えずにウロボロスの建国、いまでこそ落ち着いてはいるが一時期は日中の最中、堂々と略奪を行った犯罪者もいた。


非番だった高レベルホルダーによって私人逮捕されたが、全てがそうだった訳ではない。特定の企業が襲われたり、報道機関が襲われる事もあった。旭会の関与が疑われている議員の殺人未遂も同時期に起きた。日本政府としては旭会・ウロボロスに所属していても明確な犯罪行為が確認されない限りは憲法で信仰の自由を保障しているため手出しすることができなかった。国民支持率の高い中曽根ですら責任を取り辞職する寸前まで追い込まれた。


たった百年前に墜ちた隕石がここまで繁栄を甘受してきた人類を混乱させる物だと考えた者は居ただろうか。私はギフトホルダーとして生まれなかった方が良かったと思う事はあった。だが確実な才能があるのであれば安心できるのも事実だ。道が決められてしまっていると嘆く者はいるが、私は整備されていない道を手探りで歩くよりかは、決められた道を歩く方が楽だと思っている。


それはギフトホルダーだからこそ言える事で私がノーマルに生まれていればギフトホルダーを才能がある者として妬んだだろうか。白井がいなくなってから不毛な自問自答をすることが増えた気がする。どの様な形であっても白井に会えば答えが見つかる気がしている。


――――


「大臣。秘匿回線より入電中です」


「滝本くん。君は警護官だと言うのに秘書の様に使って済まないね」


「いえ、職務ですから気にならないで下さい」


一介のSPが警護対象の職務を手伝うなど異例の事だ。外務大臣にしか知らす事の出来ない情報も多く、要人を守る為に警察はSPを派遣しているがそれだけではない。一日中、護衛対象と行動を共にするSPは公然の諜報員みたいなものだ。議員の弱味を握る事で政治的な取引をする事も珍しい事ではないのだから。


源三は今でこそ外務大臣という立場に甘んじているが中曽根が総理大臣に再任された際には、官房長官を打診されていたし、やる気になっていたら総理大臣になっていても可笑しくはない。源三は単に倉橋家の権力が強くなり過ぎるのは国にとって危険だと判断したに過ぎない。日本には軍は自衛隊しかないが息子の大河は今では陸将だ。


倉橋家が力を持つことで忌むべき軍閥化が加速する危険性がある。ダブルホルダーの大河でさえそうなのだ。孫の大志はトリプルホルダーで母、楓の研究に協力してオーパーツとも言える超伝導コアの基礎理論の確立に貢献した。当時、七歳になったばかりの子供だというのにも関わらずだ。火星の地表に含まれる特殊鉱石を無重力下で分離し、精製する必要がある。


火星移住計画があるため、火星に訪れる機会が多い日本でも超伝導コアを量産できない理由はそこにある。コスト面以外でも問題はある。革新的な技術は繁栄をもたらすがそれと同時に災厄をふりまくからだ。医療技術が発達したことで人は死から遠ざかる事に成功した。人々は歓喜したことだろう。だが、余程の事がなければ生物は醜くても生きようとする物だから。人より優位に立ちたい。その気持ちを否定することはないが行き過ぎれば害悪でしかない。個人同士の闘争が喧嘩ならば集団同士であれば戦争だ。効率良く、殺傷する為に投石機が生まれ、剣が生まれ、銃が生まれた。


医療技術が発達した事によって兵が死ににくくなったのなら効率良く殺傷するための兵器を開発すれば良い。戦争が技術革新を促してきたのは歴史が証明している。平時の十年が戦時の一年に値する何て諺があるぐらいだ。平和的に利用出来るだけの技術の発展なら歓迎するが、原子力がそうであった様に超伝導コアも軍事転用が可能だ。アーマー・船舶・飛行機・宇宙船などで使用可能だ。イギリス艦隊が全滅に近い被害を受けたのも当初は核攻撃とされていたが放射線量の推移を科学的に調査したところ疑似超伝導コアシステムの応用と推定された。


一般的な艦隊は対核戦闘の備えはない。目視出来る範囲においては迎撃可能なシステムが構築されているが、艦隊の付近で迎撃すれば余波だけで相当の被害を被る。癌が死病ではなくなったが、放射線が人体に有害なのは変わりがないし、核分裂反応により生じる熱波に人体が耐えられるはずもないからだ。


日本が得た超伝導コアの構造物もたまたま発見したものであり独自開発した物でない。人目見ただけで解析出来るような代物ではないが、日本が発見したものが全てという確証はない。中東にも監視員を派遣している各国が超伝導コア搭載型のアーマー、それに準ずる物を発見したと報告は上がっていないが、核汚染がされていない事が確認されていないので衛星兵器を使用した可能性も否定出来ないが調査によって限りなく低いと判断されたのであった。


「今日は新田君が、訪問してくる事になっている。君が遭遇することとなった事件も無関係ではない」


滝本は当時、巡査であった時の事を思い出していた。パトカーが襲撃されるなど平和な日本ではあり得ないことだった。世界は危険で満ち溢れていたが自分の日常とは無関係だと無邪気に信じていた。信じていたというよりは信じ込もうとしていたというのが正しいのかもしれない。言い方は酷いが、戦争で多くの人が死ぬ事は確かに悲しい事で関心を惹かれることだが、それよりは自分のその日の食事や仕事の方が本人にとっては重要だったりする。


力があれば戦争を止める事が出来るかも知れないが多くの一般人には不可能だ。戦争孤児の為に募金するというだけでも現状を憂いて行動した方だと思う。誰だって他人より自分の事が可愛いのは仕方がない。滝本もそんな人間の一人だ。正義感もあり、力を持たない人を守る為に警察官になった。ノンキャリアとして警察官に配属された滝本は射撃や逮捕術に自信はあったが、頭は良いとは言えない。三流とは言えないが一流とも言えない普通大学を卒業した至って普通の人間だった。


応援が来るまで何とか生き残る事が出来たが運が良かっただけだ。警察を辞める事も考えたがそれも難しくなった。テロについて滝本が知ってしまった事は公安の準監視対象者になるには十分で源三が後ろ楯となり、倉橋と言う名が守ってくれなければ事故死と言う名の暗殺を行われていても不思議ではない。


「私は当時、何もできませんでした。先輩が負傷して動転し、ただ応援を待つだけでした。外務大臣に助けて頂けなければどうなっても可笑しくなかったはずです。気になされないで下さい」


「滝本君。君は警察官である前に一人の国民だ。我が倉橋家は代々、国の重役を担ってきた。君を助けたのは私の職務に過ぎないよ。大河は私にとって出来た息子であり、難しい時代に生きなくてはならない事が不憫に思えて仕方がない」


息子がギフトホルダー知ってしかもダブルホルダーであったことは倉橋家としては喜ばしいことかも知れないが、親としては複雑だった。名門倉橋の名に泥を塗らない様に不断の努力をしてきたが、それが良いことなのかは分からない。若者を守るのは老人の義務で自分達のつけを子や孫の世代に引き継ぐ訳にはいかない。それは政治家としても人としても敗北したも当然だ。源三は複雑な感情を抱きつつも職務に邁進していた。そこには数十年前の出来事を後悔している男の背中があった。

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