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七十四話

――羽田空港――


出入国管理局に在籍する千葉は警察に一時出向し、職務質問などのスキルを学んだベテランである。精神感応系のギフトホルダーである彼は嘘を見抜く事に関してはかなりの自信を持っていた。多くの人が利用する空港ということもあって千葉が担当出来る人間は限られている。テロ事件以降に改定された国民保護法の項目で日本国内においてテロもしくはそれに準ずる重大事件に関する特別措置法では、司法関係者の権限の拡大、国民を護る為に必ずではないが、訓練を積んだ警察官がランダムで航空機に搭乗する様になった。


国外からの入国者に関しては研修課程を修めた特別入国審査官であれば理由を問わずに入国拒否または、逮捕・拘留が可能となっていた。空港の責任者レベルと特別入国審査官に情報が周知徹底され、空港内の警備も普段より厳重なものになっていた。千葉が違和感に気付いたのは経験から来るものだろう。千葉だって自信があった訳ではないが不自然さを確かに感じたのだ。


パスポートを確認したが国籍は日本となっているが明らかに一般人とは雰囲気が異なる。多くの人を見てきたが千葉がギフトを発現してまで確認をとることはまずないと言って良い。職務に関してギフトを使用した場合、報告書の提出が義務付けられている。


担当省庁である国土交通省だけではなく法務省、警察庁に提出しなくてはならないため勘で発現して間違いでしたでは済まないこともある。特別入国審査官の資格を剥奪される可能性すらあるが厳戒態勢を通達された今、少しでも疑問に感じたのであればそれが十分な理由になる。


警報装置に手を伸ばそうとした瞬間に千葉は意識を奪われる事になる。千葉は気絶した訳ではなかったが、誰かが自分の身体を人形を動かすかの如く操っている。当然、そこに千葉の意思はない。


「お疲れ様です。入国手続きが終わりましたので彼方のゲートから入国してください。」


千葉の意思とは別に勝手に口が動いていた。千葉は知らないことだったが、いつの間にか精神攻撃を受けていたらしい。精神感応系のギフトホルダーは精神攻撃に耐性を持つが絶対ではない。空港内は設置型GIDによってギフトの発現が制限されるのにも関わらず発現できた事も謎だったが、千葉は既に今の出来事を忘れていた。


提出されたパスポートには白井慎二とされていたが特別入国審査官が通した身分証を気にする者はいなかった。


――――


白井は数年ぶりに日本を訪れていた。白井がアメリカで設立したPMCは米国国防総省の依頼をダミー会社を通じて請け負う程には繁盛していた。白井自身は警察を辞職したが、テロリストではないため、日本国内において指名手配はされていない。しかし公安は入国した事を知れば確実に監視対象となるだろう。


「隊長。トライデントが指定した通りにしたら入国出来ましたけど大丈夫なんですか」


「問題はないだろう。世界に名を轟かせる軍需会社の警備部門だ。政界とも太いパイプがあるんだろう。どうやってあの職員を誤魔化したかは知らない方が良いこともある忘れろ。」


白井が警察を辞めて海外で傭兵をする様になってから既に四年以上の年月が経っていた。白井はウロボロスの情報を得るために傭兵となったが、成果はあまり上がっていない。末端なら戦場にいたのかも知れないが組織の刺青を入れている者はいなかった。五大陸を囲む二匹の巨大な蛇。互いを喰らおうと尾にかじりついている刺青は正構成員でないと身体に入れる事は許されていないらしい。


戦場では狂気のもとで沢山の悪行が行われていた。そこにノーマルもギフトホルダーもなかった。全ての依頼主が金払いが良いとは限らず成功報酬を支払うのを渋る者もいた。そういう輩は自宅の警備にも金を払うのを嫌うため別荘に招待して少しもてなせば喜んで金を払った。


傭兵を数年やっていれば世界が綺麗事だけで動いていないことなど嫌でも理解させられた。今回の日本への帰国も噂ではアメリカ国防総省からの依頼だということだ。正規の米兵を動かすと日本との外交問題になる事を避けられない。だが日本に恩を売っておきたい。だから俺たちみたいな日本出身の傭兵を雇ったのだろう。


アメリカが本気になれば俺達の経歴など簡単に調べる事が出来るだろう。ギフトホルダーだというのにも関わらずアメリカへの移住許可が一ヵ月もしないでおりた事からも察する事が出来る。アメリカは元々、ギフトホルダーの移住を日本ほどではないが積極的に受け入れてきた。俺達がPMCを立ち上げの際に資金調達のため他のPMCに在籍していた。その時に軍属を使って正規軍に勧誘してきたぐらいだ。いきなり会社を立ち上げるリスクを考えて下積みとして数ヵ月、利用させて貰ったが、装備は良くても兵の質は良く無かったを記憶している。


今では日本製の銃器をメインアームにしている。AKシリーズ程ではないが頑丈で射撃精度も高い。アメリカで開かれる銃の見本市で高評価を得た銃だ。銃の所持に関して厳しい日本では警察官や自衛官でもない限りは所持していることを公には出来ないが、日本にも支部を置いているトライデントが何とかしてくれるだろう。それまでは高圧電流が流せる警棒ぐらいか所持できないが、それでも警察官に職質されれば厄介な事になるだろう。


羽田空港を出て一行は都内の観光をする積もりだ。時間はまだあるし、やらなくてはならないことがあるからだ。白井とその部下は人を殺傷した事がある者だけにしか出せない独特の雰囲気を纏っている。それが入国審査官に疑問を与える事になったが、予め指定されていた窓口で入国審査を受ければ問題ないと説明された。アメリカ国籍を取得していたが元々、日本国籍を持っていた為に日本国籍のパスポートを持っていても問題は無かった。パスポートにはギフトホルダーかノーマルかを記載する義務はないため不審に思われても日本国内で犯罪を犯していない白井達の入国拒否は出来ないのだが、公安にマークされると動き辛くなるため一時だけ在籍していたトライデントの好意に甘えたのだ。


トライデントを通じて受けた仕事は金払いが良い。渋るクライアントをもてなさなくて良いばかりではなく、仕事にかかった経費を負担してくれる。傭兵の場合、依頼主が現地までの交通費を出してくれることなどありえないし必要な武器は自分達で調達・運営するのが常識だ。日本の様な国では銃を所持しているだけで銃刀法違反で警察に逮捕される。


傭兵が日本で仕事をすること自体が滅多にないことだが、銃を手に入れようとしたら地下組織とのコネと金が必要になる。金なら幾つもの戦場を渡り歩いて潤沢にあるが、元警察官である白井達が犯罪者にコネを持っている訳がない。平和惚けした国だと思っていたが白井が思っていた以上に腑抜けていた。


人為的な地震によって日本は多くの国民が死傷した。直接的な被害では道庁のテロで白井は部下を何人も失っている。自衛隊の反応も悪くは無かったが現状かそれを許さなかった。今でも突入を強行した事は間違いではないと思っている。犠牲は出たが確かに救える命があった。ノーマルとギフトホルダーの対立は最早、他人事でなく現実の問題として世界に厄難を振り撒いている。


一人の人間が出来ることなど限られているそんなことはテロ事件が起きる前から知っている。油断した警察官が犯罪者に殺される事もある。警察官が容疑者に対しての発砲条件の内規が厳格であった昔に比べると個人の判断に委ねられる割合が大きくなっていることからも分かる。


白井は警部補の時に部下と同僚を失っている。密輸されたアサルトライフルによって市民を合わせて十名以上が亡くなった。反社会勢力(ヤクザ)同士の抗争だったとも言われているが上の指示によって突然、捜査が打ち切られた。何が理由でそうなったのか予想はできていても組織の駒でしかない白井に出来ることはなかった。その時から白井は特殊部隊に配属されるため神奈川県警本部から神奈川県警の警備課へ転属を願い出た。


実質的な左遷人事となるため県警幹部は白井を留意した。キャリアである白井がわざわざ警備課しかも機動隊に配属する必要はない。強化系のギフトを持っていても機動隊に配属することはまずない。それなら要人の周辺警護としてSP(セキュリティ ポリス)として本人さえ望めば警視庁に配属する事が可能なのだ。地域課にもギフトホルダーの警察官は必要だが普段の脅威度を考えれば高レベルギフトホルダーがその任に就くのは人員の無駄使いでしかなくあくまでも税金から給与が支払われている警察としては一個人の意思は尊重したいが、それを国民が許すかは別問題である。


苦悩した神奈川県警幹部は将来の特殊部隊【百虎】指揮官候補生の研修期間として一年の仮配属を認める事にした。本人に適性があれば推薦した自分達の評価も上がる。結果を出せないのであれば、警備の経験を積ませた上で改めて警視庁に推薦すれば良いだけだからだ。幸運なのか不運の事なのか、全国の警備部隊員の憧れとも言える。明石に見い出されて白井は才能を開花させた。


交換留学生として自衛隊に一年間、出向させる案も出たが上司である明石が許可しなかった為に実現しなかった。頭角を現した白井に対して好意的な者ばかりでなかった為に合同訓練と称して自衛隊でも最新鋭であるヤタガラスに三日間の出張をさせられたが何とかそのしごきに耐え出張から戻ってきた時には警察庁幹部は白虎隊への配属を認めた。


当時、大河と要は分隊長クラスであり、階級こそ一等特尉であったが同世代からみてもその実力は突出していた。自衛隊幹部から警察の合同部隊に選抜された時にはお守りは御免だと思っていたが年は若いが実力のある白井に対して訓練をつけていたのもこの二人だ。椎名はこの頃はまだ士官学校の訓練生であり、柳達もまだ特殊部隊員になれるような実績をあげていなかったためこの場にいなかった。居たとしたら憧れであっても決してヤタガラスに入隊しようなどという愚かな事など考えなかった筈だ。


部下に運転を任せて浅草などを散策する。渋谷や銀座といった人が多くいる場所に場所に行っても良かったが配属されていた過去を持つ部下がいるので危険な橋は渡れ無かった。浅草に行くのも危険だという部下も居たが戦場を歩く事の危険さに比べたら何の問題もないし浅草にはギフトホルダーも配属されているが幹部が初めて配属される場所として知られており、経験豊富なノーマルの警官はいても尻の青い新米ギフトホルダーしかいない。階級ばかり高くて偉そうにしている奴もいるが、俺達から見れば殻から自力で出ることも出来ない雛鳥も同然の実力しかない。


此処には仕事が始まるまでの休息でしかないし、関東一帯であれば数年くらいいなくても自分の庭の様に行動が出来るだろう。トライデント日本支部の者との接触もここで行う予定だ。緊急事態には切り捨てられる事もある傭兵だから依頼主を過度に信用する事は命取りだ。仕事道具さえ用意してもらえれば後は此方で仕事をするだけだ。


日本から連れてきた部下も依願退職する事はあっても殉職した者はいない。それがどれだけ幸運なことかは知っているつもりだし、自分も見知らぬ土地で死ぬのであれば故郷である日本で死にたい。傭兵に死ぬ場所を選ぶ権利などある訳がないが夢を見るくらいなら許されるだろう。


どういう風にして俺達の居場所を特定したのかは分からないが日本に滞在してから一日で俺達を尾行する者たちがいる。感覚では一つの組織だけではなく複数の組織が動いているみたいだ。職質されても身分証である運転免許は失効ぎりぎりで優良運転者(ゴールド)でなければとっくに失効していただろう。部下も似たような状況で警察が運営している運転センターや警察署に迂濶に近づけば拘束されるかも知れなかったので放置されていた。


俺達が元警官であり、機密情報を得る事の出来る立場にいたからこそ警察を避けていたが、世界で活躍する日本人傭兵は普通に日本での生活を送れるものが殆んどで多少の職業差別はあるものの一個人でしかない者に国家権力が行使される事例は少ない。


俺が辞める際には警備部長の机の上に辞表を置いて姿を消したが部下も同じ様にしたらしい。家族には伝言を残したがそれ以上は迷惑となるため何もしていない。追跡者を何時もの様に捕縛して尋問する事は可能だが、警察と敵対するのは避けたい。汚職まみれのどうしようもない警官がいるのも事実だが総じて日本の警察官は優秀な者が多いからだった。


溜め息をつきながらも追跡者を撒く事にする白井だった。


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