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七十一話

中国国家主席である黄は頭を悩ませていた。数年前に軍部の暴走によって行われた日本領海内においての敵対行動が政治だけではなく経済に深刻なダメージを与えたからである。最初は日本も中国との関係を壊したくなかったのか抗議はしても国際連合安全保障理事会において批難声明を出すことを決議しようとはしなかったのだ。中国が拒否権を持っているため可決される事はないが拒否権を発動せざるおえない状況に追い込むことでプレッシャーを与え出来たのにであった。


黄は言うまでもなく都市部に生まれ不自由のない生活を送ってきた。農村部のギフトホルダーによる反乱計画は我が党が一番に警戒すべき事ではあるが、人口の多い中国では昔に行われていた一人っ子政策によって戸籍を持たない者も存在しているため厄介だった。


全ての国民にギフト適性試験を受けさせたくても資金的・物理的に不可能である。更に国家を導いていく筈の政治家は腐敗し、多額の資金を掛けて買い取った隕石を闇市に流すことで私腹を肥やしていた者すらいた。農村部のギフトホルダーの多くが横流しされた隕石に対して適性を見せた者であり隕石の純度が低いとされているために大した才能(ギフト)を発現できる者はいないとされているがどんなギフトでも使い方、次第では強力なものになり得る。


中国政府としては全てのギフトホルダーを党の管理下に置きたいが人口の全てを掌握していないために実現は不可能である。富裕層に生まれた子息であれば相応の教育と訓練さえ受ければ強力なギフトを有する可能性は上がるが、模倣(コピー)することは得意でも独自の技術開発を苦手としている我が国では出来る事に限界が見え始めている。しかし都市部のギフトホルダーの方が優秀で党の権力者たちが集まっているため資金的にも軍事的にも優勢である。


だからといって放置しておけば無視できない問題となるのは火を見るより明らかであった。だが軍部に頼る事は難しい。反乱分子を鎮圧し、粛清したが長期に渡る日本敵視の思想教育から力で解決しようとする傾向が強くまた大国意識が抜けきらない者が多い。党の指導部も多くが過去の栄光にすがっているだけの老害であり、国家主席となるために己の力を使い排除するのに苦労したものだ。


人民解放軍のギフトホルダーは他国のギフトホルダーに比べると練度が低く一般隊員も同様だ。質より数でカバーしているため仕方がない事ではあるが、改革を望む者としては看過できない。日本に対して技術を盗むために多くの国民を派遣し、アメリカの戦闘機の設計図から盗み出した情報から最新戦闘機を純国産で製造することにも成功した。同じ中国人から見てもお世辞でも良い戦闘機が出来たとは言い辛い。エンジンの出力が足らず姿形を似せた劣化版としか言いようがなかった。


対して日本は戦闘機の分野においてはアメリカ・ロシアに劣っているとされているが、二足歩行型戦術兵器(アーマー)では世界一の技術力を持つ。原子力を使っている各国のアーマーに対して日本独自に開発された超伝導コアを用いたアーマーは動力が他の物に比べて優秀で機動力が高く、特殊装甲は戦車の主砲をものともしないのだ。実践経験の少ない自衛隊の為に信用に値する情報ではないが、純粋な戦力と言う意味であれば単独で常任理事国に対して戦争を起こしても戦線を崩壊させることなく維持が可能との事だ。


物量で対応するしか対策がない中国にとっても気になる情報だがセキュリティレベルが高く手も足も出ない。日本は国内向けにはギフトホルダーによる精鋭部隊がないと説明している。特権意識がある旭会を刺激しても良いことはないし、海に囲まれている日本は国土防衛の為に戦力を集中させるよりも分散させ指揮官としてノーマルの部隊を指揮させた方が効率が良いとされているからだ。


少数のギフトホルダーに対抗する作戦としては申し分はないが、大人数を相手にする場合にはノーマルの隊員が足を引っ張る形となってしまい、不要な犠牲を出してしまうこととなるからだった。精鋭には精鋭を。ギフトホルダーにはギフトホルダーをあてるのが常識でありギフトホルダーの歩兵に対してノーマルのアーマー乗りをあてる事は戦術的には間違ってはいないが、高価な兵器であるアーマーを破壊されるリスクを考えると割に合う物でなかった。


人民解放軍は数だけ見れば世界最大の軍であり軍自費も先進国の中では多い。基本的な戦術は数で圧倒することであり膨大な維持費と言う名のコストは掛かるが決して間違いと言うわけでもなかった。一人のギフトホルダーに対してGIDを所持した一個分隊で攻撃すれば相手が歩兵であり高レベルギフトを有していない限りは優位に立つことが可能だからだ。


人口が多い中国だから採れていた策だが、農村部の反乱という形で中国軍内も混乱しており、アジア諸国に対して尊大な態度をとることが不可能である事も加えて黄は国家主席として何らかの手を打たなくてはならない立場にあった。中国国内では未だ党の統制の為に検閲が行われており、インターネットでも党の許可があるものしか閲覧できない。


中国国籍を捨て新たに欧米で国籍を取得するものも多かったが、思想教育において仮想敵国とされている日本に旅行に行きそのまま国籍を得る者がいる程には日本も国籍取得国として人気だった。


中国国民というだけで観光ピザの取得が難しいという事も影響している。どの国に行っても他国の文化を受け入れず自分達の振る舞いを改め様としない中国人観光客に対して由緒あるホテルなどは幾らお金を落としてくれるお客様であっても中国人と言うだけで受け入れを拒否した歴史が物語っている。宿泊客の為に設置されたアメニティグッズを無断で持ち帰るのならまだ可愛い方だが備え付けの備品を宿泊料金を支払っているという理由だけで持ち帰ろうとすれば対応するスタッフが辟易して当然だ。


しかも整備された道だろうが建物の中だろうが平気で痰を吐く。全ての中国人がそうだとは誰も思ってはいないが一度ついてしまったイメージというのは払拭するのに時間が掛かり、自由に国家間を往き来できないというだけで中国人実業家たちからも不満の声が噴出している。


問題は多く解決には多くの時間が必要となるがアメリカと違い国内で人種差別がないだけましであり貧富の差によって対立する様にはなってしまったが、ノーマルかギフトホルダーかによって差別意識を持つ者は少ない。元々、大国意識の強い中国人だ。他の国、特にアジアの中での宗主国という立場を日本に奪われたと考えている中国人にとって優れた民族の中で更に優れたギフトホルダーが誕生する事は喜ばしい事であった。


日本の様にほぼ単一民族となっている中国にとって外国人は中国人以外を指す言葉だがアメリカは多民族国家で黒人もいれば白人もいて更に黄色人種もいる事から境界線はかなり曖昧な物になる。

黄は今後の方針として弾圧か融和の道を選ぶか選択しなくてはならない。党の指導者として国の指導者として決断しなければ何も始まらないのだ。国家指導者の決断次第では多くの命を失うこともあれば逆に救う事も出来る。


多くの報酬を得て権力を行使する者には当たり前の義務であるが、心身共にかかる負担は軽いものではない。時には健康上の理由で権力を手放さなければならない者もいるし中には過労からくる脳卒中や心筋梗塞によって急死する者がいるくらいには激務なのだ。


だが権力者にとって権力とは普段から振り回すものでなく、如何にして長くその権力を手中に収めているかが問題となっているのであって国家主席を裏からコントロールするだけの権力があるのであれば表向きだけ権力を握っている様に見せかけて傀儡(かいらい)として使い捨てにすれば良いだけの話だ。中国社会で逆らうことができないとされる三人の人物の内の一人が政界に対して強力な影響力を保持している。長年、政経界に多くの人材を派遣し決して表舞台に出ることはない。その権力は例え中国国内において殺人を犯したとしても中国警察が逮捕できないともされている。


民主主義国家であれば国会中の不逮捕特権や大使館に与えられる治外法権によって逮捕できない可能性はあるが必ず何らかの形で最終的には逮捕・勾留され裁判にかけられることになるだろう。共産主義など前時代的な遺物であると論じる学者もいるが、資本主義は資本主義でまた別の問題を抱えている。何事も一長一短である最たる例だ。日本でも未だに失踪者や自殺者が出ているがこの何人かが中国やウロボロスの手によって誘拐され虐殺や違法実験の被害者となっていると公安が捜査を行っているが、真相は謎のままであった。


黄は党員の投票によって国家主席の任に就いているが、それが影の権力者によるものなのかは判断ができない。金に不自由する事なくアメリカに留学した経験もある黄だったが、親族からの受けが良かった訳ではない。自己の才覚のみで今の立場にいることは確かだが最近は政策を実行しようとすると必ず邪魔が入る。国家警察によって厳重な警備がなされてはいるがアメリカには暗殺された大統領がいないわけでもないし中国国内においても有力者の自然死が頻発している。


毒物や銃創が司法解剖によって発見されなかったから自然死とされているが、中国国内においてかなりのシェアを持っていた会長が中国国外に拠点を移すと発表した直後の突然死や、思想犯として公安に監視されていたはずの記者や著名作家が相次いで死亡しているのだ。


黄にとっては何者からかのメッセージだとしか思えなかった。仮に自分が死んでも喜ぶ政敵はいても生活が楽になった国民くらいしか悲しみを感じないだろう。国民は国家指導者が亡くなったことよりも今の生活を守ることに精一杯であり直ぐに記憶から薄れていってしまうだろう。本来であれば農村部との融和を図るべきであり対立する事は愚かなことだろうが、融和を推し進めることで不興を買い、職を辞する事で済めば良いが命を奪われたとあっては元も子もないのだ。


理想を叶える為にはまず生きていなくてはならない。軍部を総動員して農村部の鎮圧作戦を立案する様に命令書を作成していく。選択肢は少ないかも知れないが可能な限りは逮捕する事を念を入れる。どちらにしても国民は無能な政治家と私を蔑視するだろう。他に手段があったのであれば此方から教えを乞いたいくらいだ。中国で内乱が本格化し、国内の商店は略奪の対象となり治安は悪化していく、自己の権益を守るため権力者は鎮圧作戦をより過激なものと変え農村部は銃弾が飛び交う戦場と化した。それでも中国政府は他国の軍隊の受け入れを拒否し、国境なき医師団の受け入れも当然の如く拒否した。


批判は国家主席である黄に集まり政治的な失策から国家主席と言う人生の成功者から転落する事になる。命を奪われる事はなかったが一族が経営していた事業は徐々に赤字化していく。中国国内の需要を失ったばかりか世界でもシェアを他社に奪われ、打開する案が浮かばなかったのだ。政治家としても起業家としても失敗した者を救う者などいるはずもない。他者が失敗すればするほど自分達が得られる利益が大きくなるのだから当たり前だった。


黄は正常な判断が出来なくなるくらいには追いつめられ決して取ってはならない手をとる事になる。救いの手を指しのべたのは政界の影の首領とされる男であり、黄を陥れる様に情報を制限し、支配した男だった。男の名を黄は知らない。しかし、行く先々での待遇を見ると大物であり、藁にもすがる気持ちで頼る他になかった。男は策が成功したと知ってほくそえんでいた。農村部のギフトホルダーに武器を提供し、一見すると貧富の問題からくる対立だと誤認させ都市部の同志であるギフトホルダーに鎮圧させる。


中国国内においては彼に逆らえる者は少ないが世界を統べるべく生まれた漢民族の正統後継者たる自分が一国の権力者におさまる器ではない。


ウロボロスが中国に蒔いた種は発芽し花を咲かせる。真っ赤な血を吸って育った花は妖しくも何処か人を惹き付ける魅力があったそうだが、中国が世界に与えた混乱は小さくなく経済も混乱することになる。この事件は後世に残る大事件となったが、今を生きる事に必死な者達からの記憶からは消える事になる。百万~三百万人が死亡したとされる【農都事変】は後の国際社会に多大な影響を与える事となった。


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