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六十八話

大志達、候補生達は最初の難関を迎えていた。毎日の訓練・座学は厳しいもので油断しようものなら即命に関わるのが嫌な所だ。


生徒同士ならまだ良い。格闘訓練にしても男女で性差による体力差はあっても同性間においては例年ならばそれほど実力差がないとされるし組み合わせにも一定の配慮がある。大志の相手は大体が教官か崇人、烈音かの何れだ。教官と候補生の間には実力差があるが、崇人と烈音であればそこまで実力に差はない。実戦部隊さながらの訓練によって鍛えられ烈音は椎名の推薦のもと大河が主催する訓練に参加した経験があるためだ。


始業時間であり講義開始前に権田を連れて要は候補生が待機する教室へと入った。


「注目。来る九月十四日に候補生全員でキャンプをすることになった。二泊三日で詳細は後日報告する。以上」


キャンプと聞いて遊びに行けるのかと少し興奮した様子の候補生。大志はというと最先任曹候補生として詳細を既に実継と共に聞いていたためにげんなりしていた。本当に楽しめるのは三日目の夜に士官学校に戻ってからのバーベキューのみだ。それまではキャンプはザバイバル訓練であり教官を敵と想定した山の中での戦闘訓練となる。成績が良ければバスで学校に戻る事も出来るが成績によっては走って学校まで戻る必要がある。消灯時間が決まっておりそれまでには戻れる様に調整はされているが遅く着くほど良い肉は食べられ最悪の場合、野菜しか残っていないという状況もあり得る。


キャンプとは言っても実技の授業であるし、それくらいの褒美があった方が候補生達がやる気を出すからである。しかし問題はある。まず超能力開発幼年学校が年少のギフトホルダーを教育する場であったのと同時に他国からギフトホルダーを護る為の施設であった事だ。すべてのギフトホルダーが戦えるとは限らない以上は護衛をつける必要がある。護衛は保護対象を護るために要の様に特権を持っているが言い方は悪いが国にとって重要度が低い者にまで護衛をつけるほど人員が余っている訳ではない。大志には特殊関係者として護衛がついていると建前上はなっている。現役国会議員を祖父に持ち父は現役の陸将だ。更に母は対ギフト研究については日本で重鎮であり、基礎理論を証明した人物だ。大志本人に至っては珍しいトリプルホルダーである。


国益を守る為に人員を割くのは当然であり義務だ。大志が幼年学校に無理矢理、入学させられたのもきちんとした設備と人員で護るためにであり、士官学校に入学した今では自衛隊が大志を護ってくれる。士官候補生なら危険な任務に就く事はまずないと言って良い。日本が有事に見舞われた際には正規隊員が足りなくなり予備自衛官と共に支援に回るのが精一杯であった。それも卒業間近な上級生から任務に就くため日本がウロボロスのテロの標的にあった際にも四年生以下の候補生は災害・防衛共に出動命令が下りる事は無かった。


となるとキャンプは士官学校の行事であると同時に可能性のある将来の国防を担う学生が普段の厳重な監視下から離れる事を意味している。開催時期・場所ともに非公開となっているが外国の諜報員が情報を得ないとも限らない。その為に卒業したばかりの新米からベテラン隊員までノーマル・ギフトホルダー問わずに周辺地域に展開される。ベテランには当然、特殊部隊員も含まれ、ヤタガラスもその一つだ。


――防衛省会議室――


自衛隊の陸空海の幕僚長、統合幕僚長、そして防衛大臣・防衛省事務次官とそうそうたるメンバーが会議室に集まっていた。他国の諜報員が日本に入国するのを水際で防ぐのは警察の仕事だが、警察の手に負えないテロリストを排除するのが彼等の仕事だからだ。日本はテロを未然に防いで来たという自負がある。確かに防げなかったものもあるが確度の低い情報に人員をいちいち動かす訳にいかず予知能力者が悪戯と判断した物が軽度の犯罪者によって行われた犯行だっただけだ。


被害規模や被害範囲が大きいほど予知は曖昧なものになるらしい。複数の人間が関わりそこに揺らぎが発生するかららしいが予知能力者は珍しい存在ではないが高レベルホルダーはそう多くはいないのでまだ研究は初期の段階にあると言える。ノーマルでも対応できるものなら比較的容易に出動命令が出せるが今回予知された内容が内容なだけに防衛省幹部による会議が開催されることになった。


予知を行ったギフトホルダーのレベルは国際基準で六。十分に検討する余地があると判断された。襲われると予知されたのはまだ幼さが残る少年少女だ。彼等・彼女等は特徴的な服装をしており自衛隊士官に所属するギフトホルダーの卵たちだ。襲撃側は武装し能力は不明だがギフトホルダーと思われる男の姿が確認された。


防衛省関係者は直に上長へ報告。情報分析官である高木によって統合幕僚本部に緊急暗号通信が速やかに行われた。


「情報分析官の報告によると確率変動率は三十パーセント。警察庁公安部にも同様の予知が出ており国民に被害が出ないように当日は避難誘導を行うそうです」


事務次官は簡潔に得られた情報を会議に参加するメンバーに報告を行っていく。防衛機密に関わるため日本政府でも極一部の者にしか開示出来ない情報だ。事務次官は淡々と説明を行っていたが上座にいる倉橋陸将の表情を見て内心の焦りを上手く隠せないでいる。猛獣の目の前に差し出された草食動物の気分である。倉橋陸将は普段は温厚な人物であるが他人に厳しく、更に自分に厳しいことで有名だった。彼を止められるのは直属の上官である陸上幕僚長と前防衛大臣の国枝くらいだ。


「陸自は周辺地域に隊員を配置。普段はノーマルの隊員も配置するが中核部隊を倉橋陸将率いるヤタガラスに全権を委任して候補生達を護衛します」


「空自は周辺基地に対してスクランブル待機、ステルス戦闘機による周辺空域の厳戒体制を維持します」


「我が海自は出来る事は少ないでしょう。日本の領海を護る我々にとっては専門外の事でもあります。ただ現時刻から日本領海に侵入する不審船に対しての警戒を強化します。」


どの経路を使って日本に入国するか分からない以上は入国管理局、警察との連携は欠かせないものになる。もし国家的な犯行であるのであれば外交官として入国し、秘密裏に事を進める可能性は誰にも否定できない。外交官特権を剥奪し国外追放処分にする事も不可能ではないが確固たる証拠がなく軽率に出来る事ではない。


当該国との関係は悪化し日本の国際的立場を危なくする。確実に起こるのであれば中止する事も検討する価値はあるが、恒例行事をその年だけ行わなかったとなれば他国の関心を惹く。日本に在留する外交官は言わば公認のスパイみたいなものだ。相互監視を行うことで国家間のパワーバランスを維持する。無くても良いがあった方が疑心暗鬼にならなくて済む。


「諸君の意見を聞いたが中止にするという意見はないのか」


前国枝防衛大臣とは違い、選挙で選ばれた彼は国防には詳しくない。自衛官の職務経験もなく内情に疎い。確かに政治家としての手腕はあるのだろう。しかし、政治と国防は別物である。現に大臣を補佐する事務次官は上司てある大臣に対して何言ってんだ。分からないなら大人しくしてろと表情には出さないが内心で罵倒中である。


経験豊富な幹部自衛官にとってはトップが誰であってもやることは変わらないが、理解があるのとないのでは雲泥の差がある。自衛隊の最高責任者は内閣総理大臣だが、実務を担っているのは彼等である事は言うまでもないことだろう。大臣と実働部隊である自衛隊との調整を行うのが事務次官の仕事とはいえ迂濶な発言をした大臣を補佐しなくてはならない立場であることは変わらない。


「大臣。予知というのは高レベルのギフトホルダーであっても外す事はあります。ギフトホルダーも人間であり間違える事もあります」


「事務次官。だからあらゆる可能性を検討するのがこの会議の目的ではないのかね。危険を避けることも方法のひとつだと言っているんだ」


不確定な情報で中止にすることの危険性を理解することができなかったらしい。突発的・計画的問わずに自衛隊は防衛行動に移らなくてはならないことがある。寧ろ事前に攻撃しますと教えてくれる敵など殆んどいないだろう。


その為に自衛官は日夜、訓練を行う。高価な兵器、自衛隊を運営するための防衛費はその為に国民の納めた税から予算が組まれて執行されている。その自衛隊が敵を目の前にして戦う力が有るのにも関わらず戦わないというのはどうだろう。戦争を肯定する訳ではないが、それは自分達の存在意義の否定に他ならないだろう。会議に参加した自衛官のうち何かに耐える様な表情が多いのは防衛大臣ほどの要職に就く人間がその程度の事も理解できない事に怒りを覚えているのだろう。


中曽根は総理大臣として今回のキャンプを強行するつもりでいた。候補生達は確かに国の未来でもある。だが近年はギフトホルダーに依存し過ぎてしまった各国の軍事バランスがウロボロスによって崩壊されかけている。


不満を持ったギフトホルダーはウロボロスが建国宣言をした国に亡命し、個人単位で国際指名手配をかけているが、相手も狡猾で簡単には尻尾を出さない。先進国の国民もテロリストとして亡命していると各国の諜報機関から報告が上がっている。


予知があったということは日本に敵対する者達が行動を起こすという事であり、日本政府としては炙り出す良い機会と言える。囮にされるものからしたら堪ったものではないが、政治とは個人の意見をいちいち聞いていたら何も出来ることが無くなるので当たり前の事だ。


最悪の場合は候補生および自衛官の死者を出す可能性を持つ作戦だ。ヤタガラスのみならずヤマタノオロチ隊を周辺待機させる必要もある。相手が日本にアーマーを持ち込めるとは限らないが最新式であるヤマトゼロ式は演習において従来のヤマトプロトワンに三対一でも勝てる程の性能を見せた。カタログスペックも防衛機密となり、公開していないし、心臓部である超伝導コアに至っては製造コストが莫大なものになるため日本でもまだ実戦配備されているのはヤマタノオロチ隊のみである。機体を含めると最新のステルス戦闘機が数機買えてしまうぐらいの金額になる。


ヤマトプロトワンが旧式になったことで国民向けに公開演習となったが最新式の戦車の主砲が直撃しても耐えれるだけの耐久力、携行している重火器は戦闘ヘリを蚊を払うかのように撃墜し、機動力は平地であれば難なく踏破できるだけでなく戦車の主砲を避けることも可能だ。重量があるため空中・水中戦を行う事は出来ないが戦力としては破格だ。テロリストが日本をテロの標的にするのであれば日本は最高のカウンターテロ部隊を用意するだけだ。陸自のギフトホルダーを統べる大河とアーマー運用部隊を率いる柊に任せるのであれば中曽根はただ責任をとれば良いだけだ。


二人が失敗をするのであれば日本としては成功する可能性が無かったと言うだけで誰が指揮官であったとしても結果は変わらないということになる。中曽根は総理大臣として決断をしなくてはならない。中曽根が出来ないというのなら国の行政の最高権力者である総理大臣としての意味がない。なら後進に席を譲り後は出来る者に任せるというのも一つの決断である。中曽根は統合幕僚長が立案し、各幕僚長が署名した作戦案に自衛隊の最高責任者として作戦許可の署名をした後は良くも悪くも結果を待つだけだ。中曽根は在任期間を無事に過ごしたいと思いつつもこの国難の時を指導者として導くことが出来る事を誇りに思っていた。そこには運命に抗おうとする一人の男の背中があった。


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