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六十五話

「起床」


臨検の為に入室してきた権田の声に反応して大志は飛び起きた。同室になった隆太からあらかじめ臨検がある事を知らされており、身体を休めていても精神は昂らせていた。ここで起きられなければ、臨検を担当する教官に起こされ罰則を受ける事になる。


「柳・倉橋候補生。臨検を行う」


権田は楽しそうにそう宣言する。臨検は将来確実に幹部となる候補生達に自覚を促す為に行われるが、規律を守らせる為に必要な事である。


「倉橋候補生。就寝時には机の上に物を置く事は認められていない。罰則開始」


「了解しました。教官殿」


いつ来るか分からない臨検のために普段から規則通りの生活をしていた大志であったが、机の上に置いてあったのは烈音に貸していたはずのノートだった。暫定的に隊の副官を務める事になった烈音だったが隊を纏めるだけの戦術眼がなかった。要は自衛隊士官学校に入学する事を希望する生徒に対して授業を行う事があったが、当然、退官した元自衛隊幹部が将来の自衛官幹部候補生に対して機密の為に教える事ができる事は少ない。毎年、入学する人数でさえ、防衛機密扱いになる。


入学するする生徒の数から正規軍人として働くギフトホルダーの数を推測する事が可能となるからだ。諸外国にとって大河が率いるヤタガラスに戦場で出会ったのであれば逃げ出せと言われているくらいには警戒されている。戦果もそうだが存在をアピールすることが敵国に対しての示威行動になるからだ。


同室である隆太も連帯責任で罰則を行う。罰則の腕立てには規定されたスピードがありそれに満たないと更に追加される。


「分隊に関する統制と戦術か。倉橋候補生、勉強熱心な事は評価するが自衛隊では規則が優先される。」


権田は確かにギフトホルダーが嫌いな面もあるが教官として自衛隊生活で得た経験を教え子である曹候補生に伝える事に関しては手を抜く事はない。


「罰則終了。最先任候補生としての自覚はあるようだな。明日の訓練も早い遅刻するなよ」


臨検が去った後には隆太が気まずそうにしていたが、消灯後の会話は禁止されており、破ろうものなら罰則が待っている。翌朝、聞かされた事なのだが烈音と同室の上級生が食堂に忘れてあったノートを発見して届けてくれたものらしい。気まずそうにしていたのも届けてくれた事を大志に伝え忘れていたからであった。


「大志。悪いな完全に伝え忘れていた」


「隆太くん。気にしてないよ。間が悪かっただけだよ」


大志は朝の訓練をするために軽装に着替える。実戦を経験した兵士ほど自己鍛練を欠かさないが日本最高峰のギフトホルダー集団ヤタガラスに鍛えられた大志はいざというときに身体が動くように普段から鍛練する事の大事さを知っていた。隆太も着替え始めており、隆太にとっては士官学校に入学する前からの習慣である。


大志は入念にストレッチを行う怪我を防ぐためには、柔軟性が欠かせず、少しでも怠ると肉離れなどの怪我を負うことになる。士官学校内では事前に申請さえ行えば教官などの指導員がいなくてもギフトを発現しても問題にならない。少しでも発現することに慣れておかなければ有事の際に最高のパフォーマンスを行う事ができないという考えで要を通して申請を行った。


いくら幼年学校でギフトを発現する機会があったとしても基本的に一年生に単独で発現する許可は降りる事はまずないと行って良い。大志に許可が降りたのは防衛幹部である父、大河の部隊の訓練に毎年参加し、まがりなりとも訓練に耐える事が出来ると判断されたからである。上級生達が訓練する様子がちらほらと見受けられ、大志は体力錬成の為に重りを着けて走るつもりだったので単独で行っている。重りの重さはバックに背負っている十キロのみだったが徐々に重くするつもりであり最終的には百キロ程まで増やす積もりであった。平均的な男性の体重を八十キロと仮定して食料や装備を含めてプラス二十キロで合計百キロとなる。指揮官候補である大志が実際の任務で民間人や部下の傷病者を運ぶ事はまずないと考えて良いが何があるのか分からないのが戦場であり備えておくに越したことはない。


まだそれほどの負荷をかけている訳ではないが、流石に身体強化を発現しない素の身体能力では最初のうちは余裕があるが徐々にきつくなってくる。三十分くらい走った後はウォームダウンの為にストレッチを行う。汗をかいたのでシャワーで軽く流してから朝食を摂る事にした。食堂に入ると知らない上級生から声をかけられた。


「倉橋候補生。少し時間はあるかな」


三年生である階級章を見て咄嗟に敬礼する。


「はい。食事を摂ろうとしたところですが食べながらで良ければ大丈夫です」


「敬礼はいい。君は下級生とは言え最先任だ。儀礼上は敬礼は不要だ。」


苦笑いをしながら食事を取って呼ばれた上級生と同じ席につく。


「話というのは佐竹候補生についてだ。同室で面倒を見ているんだが、何か困ったことはないか」


「といいますと」


「曲がりなりにも俺は二年間、士官候補生として生活をしてきた。まだ実戦経験はないが、なんとなく佐竹は危険思想を持っている様に感じる。」


石井と名乗った三年生は隆太と同学年であり、隆太が隊長を務める第一分隊の副官をしているらしい。日頃、同学年の同級生の部下に目を光らせており、同室になった佐竹を危険だと思ったらしい。


「佐竹候補生も防衛省による素行調査を通過しています。確かにプライドは高く能力に劣る者を見下す傾向がありますが、教官や自衛隊幹部たちが入校を認めたのであれば矯正が可能と判断されたのではないでしょうか」


「それは分かっているが、隆太と話してみると危険な奴だということがなんとなく分かる。隆太が倉橋候補生の事を気に入っているようで心配になったんだ。」


「配慮して頂いてありがとうございます。自分で何とかならないようであったら相談させて頂きます」


視線を感じて感じた方向を見てみると隆太は同期と楽しそうに会話していたが、石井が声をかけた事が気になっていたみたいだ。視線が合うとなんでもないと目で話しかけてくるあたり、隆太も気にしていたのだろう。食事を終えて教室に着く前に身だしなみの最終確認を行う。教科書などは昨日のうちから準備しており、午前中は義務教育である一般課程を午後には自衛官としての知識を得る為の専門課程となっている。


教室には既に要の姿があり、教室を一望できる後方に席を取っていた。一般課程は専門の教員免許を持った教師が教える事になっているが、副担人として教官が同じく授業に参加する。


「倉橋候補生です。失礼します。」


「入れ」


要から声をかけられて入室許可を得たことで一礼して入る。要は大河の元部下であり大志と公私に渡って付き合いがあるが、ここは士官学校であり要は教官だ。通常、退役した元自衛官であれば退役前の階級として扱われるが、要は特殊であり、自衛隊内では退役一等特尉として扱われる。


権田の様に現役自衛官であれば有事の際には通常の部隊に編入され任務に就くこともあるが要の場合は大志の専属護衛官としての側面が強い。自衛隊幹部としても確かな実績を持つ要を持て余しており、有事の際には候補生達の指揮を執らせる為に退役一等特尉として扱う事にしたのであった。


「倉橋候補生。まだ二十分前だ。早く着きすぎではないか」


「仙崎教官。自分は最先任曹候補生として部下を統率する義務があります」


大志が早く来たのは最先任として部下である同期達の服装を確認するためである。入学してから余り時間が経っていないため服装に不備がある候補生が多い。大志の服装は次先任である実継が確認し、分隊長に選ばれた候補生が部下の確認を行うため最終チェックを行えば良い。


「倉橋候補生。午前の授業が終わり次第、教官室に出頭しろ」


「復唱します。倉橋候補生は午前の授業が終わり次第、教官室に出頭いたします」


要は用が済んだ為に手で下がる様に指示する。十分前には、候補生達の着席する姿が見えるが佐竹だけは来る様子がない。佐竹が来たのは結局、授業開始五分前であり、不備を要に指摘され罰則を受ける事になった。一般課程の教師は文部科学省の管轄であり、授業を邪魔しないために授業終了後に行われたが、佐竹にやる気はなく、大志は連帯責任で罰則を多く受ける事になった。


要は自衛官として必要なことだったため大志が不満そうにしていても罰則を中止する事は決してないが、大志の隊に対する統制力がないというよりは佐竹のやる気に問題があると言えた。同じく幼年学校時代に問題があった烈音だが、要の指導のもとギフトホルダーとしても士官候補生としても平年の水準を大きく上回り、他の候補生も戦闘に向かない者もいるが、合格ラインは越えていた。


一般校であれば授業中に寝ている者、授業とは関係のないことをして時間を潰す者、真面目に授業を受ける者と様々な過ごし方があると思うが、金額的には少ないとは言え給与を貰っている候補生達は真面目に教師の話を聞いている。


自衛官として正規部隊の指揮下で任務に就けば危険手当てが支給される。額としては常識の範囲内に収められているが、ウロボロスが日本を標的にしたテロの際に活躍した候補生は金一封を受け取っている。正規に自衛官として活躍したのであれば昇進等の処置がとられたが身分が候補生であったが為の処置だ。テロリストと対等に戦えるだけの実力を持ち実際に活躍した候補生は卒業後の配属される部隊を考慮され、順調に昇進することになる。優秀な者を遊ばせておく事はない。日本が先進国で経済大国であったとしてもそこまで余裕がある訳ではないため実力に応じた経験を積ませる事は無駄を嫌う軍にとっては当たり前の事だ。


「佐竹候補生と倉橋候補生以外は一度、全員教室を出ろ」


教官として要は他の候補生に命じた。命令を受けた候補生達は要に敬礼してから教室の外で待機する。


「佐竹候補生。何故、呼ばれたのか分かるな」


「教官。自分が呼ばれた理由が分かりません」


口答えをした佐竹に対して要は罰則を命じる。


「倉橋候補生。呼ばれた理由は理解しているか」


「はい。授業は真面目に受けているようでしたが今日の様に授業ぎりぎりに来るなど規律面での問題行動が見られました」


「倉橋候補生。どの様に指導した」


「全隊員に対して上官として授業の十分前には着席して待機する様に指示を出しました。殆んどの隊員は指示に従いましたが今日の様に佐竹候補生は遅れてくる事があります」


この答えに要は大志にも罰則を命じる。命令に対して疑問を持つことなく大志は罰則を開始した。


「佐竹候補生。貴官が候補生でなければ命令違反で降格を視野に入れた懲戒会議にかけている所だ。一度目だから罰則で済ますが続くようであったら退校処分も検討する。自身の行いを反省しろ」


要は大志と彰に罰則終了を宣言して着席させる。廊下に一度出て他の候補生に入室するように促す。二時限目の授業が開始されたがどこか重苦しい雰囲気であり、候補生達は早く時間が過ぎる事を祈るばかりであった。


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